スポール・アロン=テルミラ・レーグルス男爵・ヤフェトは、ラクファカールにあるレトパーニュ大公爵家帝都城館に呼び出されていた。
「……以上により、一族の決定であなたをスポール一族から除名します。この後、あなたの後を継ぐものは、スポールの名前を変更してください。すでに、紋章院にもこの決定をつたえてあります。」この会議の議長であるペネージュは、うやうやしく伝えた。
「レトパーニュ大公爵閣下、どうしてですか?理由を教えてください。ここに、呼び出されて、いきなり、それを伝えられても納得できません。」スポールの宗家にくいさがるヤフェト
「理由?1番の理由はあなたがスポールの名を辱めたからよ。まず、一つ、アブリアルと恋愛したこと、そして、私はこっちの方が重大な理由だけど、それによって、アブリアルの長である皇帝に命の危機を与えたことよ。男爵。アブリアルを罵倒してからかうのは私達の義務みたいなものだけど、そのアブリアルを死なせてはその相手がいなくなるわ。ましてや皇帝陛下を死の直前まで追いこんだ大きな原因にあなたはなったのよ。」いつものように嫌味ったらしく言うペネージュ
「しかし、代々、わがレーグルス男爵家を継いできたものとしては、絶対納得できません。」なおもくいさがるヤフェト
「ふー、あなた馬鹿なの。私がこれまで、口を出さなかったのは、別にアブリアルと恋愛しても私はからかいのネタがあるという認識だけだったので、何もしなかったのよ。だから、これまで、密かにながらあなたは、陛下に会えたのよ。私がこの件に対して介入しなかったから。でも、今回の騒動を聞いて、あなたには、失望したわ。アブリアルをとめられない、ただ言うことをほいほい聞くスポールなんて、いらない。その結果、皇帝に命の危険を与えたスポールなんて、絶対いらないの。わかる?男爵。」蔑む様に言うペネージュ
「しかし、私にもスポールとしての誇りがあります。除名のことは、絶対認めません。こうなったら、帝国高等法院に今回のスポール一族の処分を不当であると訴えます。陛下の後ろ盾があれば、そこで私の勝ちは決まるでしょう。」
「結局、また陛下に頼るの?男爵閣下。そういうところが私は気に入らないの。いいわ。帝国高等法院で勝負しましょう。……そうだ。あなた、さっき、スポールとしての誇りといったわね。では、別の勝負をしましょうか?我がスポール一族の伝統にのっとった決闘を…」紅の唇を不敵にゆがませるペネージュ
「そうですか、無重力剣術ですね。それに勝ったら、今回の件、不問にするとうことですか。」自信をみなぎらせるヤフェト
「ええ、それだけではなく、今後、陛下と会うことに関して我がスポール一族は一切、文句をいいませんわ。でも、あなたが負けた場合、一族から除名だけでなく、陛下にあうことも禁じます。それと、私の気が晴れるまで地上世界に幽閉させていだきますわ。男爵閣下。その条件を飲みますか?それとも、高等法院で陛下の後ろ盾を借りて、みっともない醜態を裁判で現しますか?」意地悪く言うペネージュ
「いや、スポールの誇りにかけて、その決闘を行います。」覚悟を決めるヤフェト
「そう、わかったわ。では、お相手は私自らがしますわ。男爵閣下」最後は丁寧にかつ自信ありげに言い放つペネージュ
この勝負、場合によっては相手が死ぬまで続くこともあるが、今回は、どちらが先に出血するかで勝負する。勿論、怪我をした方が負けである。
「行くわよ」
「いつでも」
2人は睨み合い、射程内に入った瞬間、ペネージュは舞を踊る。スポール一族に伝わる由緒正しき舞踏の舞。その舞は、美しくも華麗でもあり、武術でもある舞。この舞を見切った者は誰もいない。
「その舞、見切った!」
ヤフェトはわずかな隙をついて、懐に飛び込み、剣を振った。
「まさか、…見切れるなんて」
「では、約束通りにさせていただきます」
「ええ、判ったわ。好きにして頂戴」
と、傷口に手を当てながら去っていくペネージュ。
ペネージュが医務室にいくと、レトパーニュ家の家宰がいた。
「どうやら、男爵閣下は、この決闘の意図を理解していなかったみたいですね。」傷口を手当てしながら言う家宰
「ええ、残念だわ。私達はスポール一族ということを理解していなかった。私がこの決闘の前に、右肩と肋骨の負傷を自分でさせて、それで決闘に望んでいるなんてまったく気付かなかったみたいですわ。もし、これに気付いて、決闘の中止を申しこんだから、一時的に除名するけど、すぐに一族復帰を考えていたのに、本当に残念だわ」苦痛に顔を歪めながら言うペネージュ
「そうですね。単に勝ち負けで判断するのは、アブリアルのやり方、スポールなら、そこに別の事実が隠されている。こんなことは、一族の常識です。レーグルス男爵閣下もスポール一族なら、このことに気付くべきでした。でも、約束は守るのでしょう。大公爵閣下。一応は……・」嬉しそうに言う家宰
「ええ、陛下に会うことに関しては、スポールの一族は誰も言わないでしょう。ただ、…・・私が約束したのは、その件と除名をしないということだけ。あとは、知らないわ。目に見える戦いだけが宮廷社会の中であるとは、限らないわ。さてと、スポールの誇りを真に理解していない男爵閣下にはお仕置きが必要ね。」紅の瞳を燃やすペネージュ
ヤフェトがペネージュとの決闘をした1週間後、彼の周りで異変が、起きていた。レーグルス男爵家の親戚がこぞって、彼との家との関係を断つというのが伝えられた。その家によって、交易をなしてきた同族のスポール一族の者からも仕事の断りも伝えられた。
しかし、それだけでなく、古くからレーグルス男爵家に仕えてきた家臣達も辞職届を次々と出し、やめていった。
これにより、事実上男爵家は機能しなくなってしまった。
スポール一族の噂では、レーグルス男爵閣下は、負傷中であるペネージュに気付かず決闘をそのまま行った無能者、あるいは、知っていながら戦ったという卑怯者という評判が立っていた。彼は一族で剣に関してはそれなり武勇を誇っていてかなりの達人者であり、正々堂々と試合を行う人格者としての評価だった。
でも、それもペネージュとの決闘の件で、まったく彼の評価は逆転してしまった。
ヤフェトは正式に除名は免れたが、事実上、一族から完全に孤立した状態に追いこまれていた
「私としたことが、スポール一族の決闘ということを理解していなかったということか。確かに、あのとき、レトパーニュ大公爵閣下の舞いに依然見たときより、切れがなかった。気付くべきだったのか?無理か。ラマージュとの恋愛が正式に一族に認められることばかり、気にして、決闘の真意をきづかなかった、私が愚かだったのだ」一人、男爵家の執務室で家宝の剣を見ながらつぶやいていた。
「お祖父様…。大丈夫ですか?かなり、顔の色がすぐらないですが?」ヤフェトをきづかうナシーカ
「い、いや。何でもない。ただ……ちょっと……」
レトパーニュ大公爵との決闘の事が悔いてしょうがないヤフェト。
「お祖父様は本当にスポールですか?もし前の決闘に悔いがあるのなら、スポールの流儀で返せばいいじゃない。一回の決闘で勝負が決まるのがスポールなの?そんなんだったら、私も除名するわ」
「つまり……、スポールをやめる……。ナシーカが?判った。もう一度決闘を申し込む」
と、意気込むヤフェト。
再び、決闘を申し込むヤフェトだったが、あっさりとペネージュは断った。
「男爵閣下、残念ながら断らせていただきますわ。前回の決闘であなたの勝ちは決まり、一族除名取り消しも陛下との会えることもかなったのに、何を望むのですか?そのうえ、また、あなたより、弱い私を勝って、何か利益を上げようなんて欲張りだと思いますわ。」わざとらしくおおげさに言うペネージュ
「しかし、この一族から断絶された状況をつくったのは、あなたではないでしょうか?、ぜひ、その状況を元に戻したいのです。」くいさがるヤフェト
「そんなこと私は知りませんわ。彼らが独自に判断したことであって、私がどうこうできることではないですわ。もし、状況を変えたいなら彼らに直接交渉するしかないんじゃなくって、男爵。(あまりにも直裁すぎる。私を相手に交渉しているのなら役不足だわ)」不満げに言うペネージュ
「しかし…(この手の交渉は地上世界で格闘技の修行ばかりしていかたから、あまり慣れていない。もっと、やっておくべきだったか)」言葉をつまらせるヤフェト
そこへ、ヤフェトの隣いたナシーカが割って入った。
「レトパーニュ大公爵閣下、お久しぶりです。スポール・アロン=テルミラ・レーグルス男爵公女・ナシーカです。お祖父様の話は、忘れてください。大公爵閣下。ところで、大公爵閣下、我が家と取引する気はないですか?もちろん、損はさせないつもりです。」ペネージュをまっすぐ見つめるナシーカ
「ふーん、男爵閣下よりあなたの方が話し相手にはなりそうね。それで、何を取引したいのですか?公女閣下。」興味深げにナシーカを眺めるペネージュ
「私との決闘を受けてもらいたいのです。それで、私が負けたら大公爵閣下の奴隷になります。ですが、私が勝ったら、私が男爵を継ぐまで、融資と大公爵家との交易優先権をいただきたいのです。」真剣な眼差しで見つめるナシーカ
「ナシーカ、何をいっているのだ?奴隷なんて…・・。そんなこと私は絶対認めないぞ。私のかわいい孫娘をそこまで貶める気はない。」ナシーカを止めるヤフェト
そこへ、ペネージュの母親、アセーヌも止める。
「確かに悪い話ではないわ。でもね、私の家で奴隷を雇うのは優雅ではないわ。そうね、これでいいかしら。我が家レトパーニュ大公爵家のおよそ8割はレーグルス男爵家との交易金。そこで私の提案が御座います。レーグルス男爵公女閣下が勝てば今までより低額でよろしい無くてもいいわ。しかも、それはこちらが仕掛けた卑怯だと言い、誤解を解きます。ただし、もしペネージュが勝てば、この事は無かった事にし、貴方の汚名は本物だと噂します。どうでしょう?」
「いいでしょう。お互いの誇りの為に、私は戦います」
と、ナシーカ。