ラフィールの修技館時代   作:いち領民

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ラフィールの修技館時代 第37話

一方、ペネージュとの決闘に向けて、シータと特訓するナシーカは、かなり苦労していた。

 

「男爵公女閣下、あなたの言い分だと、10万スカールほど損をしますわ。いくらなんでも、それは、譲歩できません。もう少し、融資を減らしたいですわ。」剣の舞いをしながら、交渉をするシータ

 

「でしたら、この商品の独占契約をあなたの家に譲ります。そうすれば、その分を補うくらいの利益はでます。」負け時と華麗に剣を振りかざすナシーカ

 

「そうですか、わかりました。ところで、公女閣下、最近、特に美しくなられましたね。誰か好きな人でもできたのですか?」

再び、剣を舞うシータ

 

 

「え…あ、しまった。」

 

結局、その発言で動揺して、あっさりと剣を叩き落されて、のど元につきつけられるナシーカ

 

「シータさん、卑怯です。交易の最中にそんな発言をすれば、動揺します。ただでさえ、剣技にも集中しなくては行けないのに。」息を切らせながら不満を言うナシーカ

 

「公女閣下、相手はレトパーニュ大公爵閣下ですよ。スポール中のスポール、この程度の心理戦は覚悟しておいたほうがいいです。交易交渉といっても、それ以外の話題がでないとは、限りません。もっと、柔軟に対応できるようにしてくださいね。では、一旦休憩をとりましょう。」苦言を言うシータ

 

 

その二人の特訓を見ながら、ヤフェトは自分の力量では、今回の決闘は厳しいと感じていた。ナシーカは、シータとのやりとりでかなり成長していて、交易の交渉ではすでに、ヤフェトを凌駕していた。ヤフェトも単なる剣の腕だけだったら、ナシーカを圧倒できたと思うけど、決闘ながら交渉をやるとなると、つい闘うことに集中して、相手を倒してまうだろうと実感した。

 

 

「(…・・ナシーカは、体だけではなく、心も成長したのか。私をある分野では超えるくらい。)」孫の成長を実感するヤフェト

 

「どうしました、お祖父様、私をじっと見て?」ヤフェトがあまりにも彼女をじっと見るので赤くなるナシーカ

「ああ、良くそこまで成長したな。それなら後を継がせてもいいぐらだ」

 

「えっ、お祖父様?」

 

「ははっ、死ぬつもりは無い。だから心配しなくていい」

とヤフェト。

 

 

そのころ二喬は優雅に食事を取りながら話をしていた。

「ところで小喬、思ったんだけどさぁ、“委員長”の遺伝子提供者はだれ?貴方もハーデスにしつこく追われていたものね」

 

「ええ、あの頃のハーデスは『まぁまぁ』、かな。私を守ってくれるのは助かったけど、ず~~~っと追いかけてくるのよ。今は改善されたけどね。ただ、力任せなのは変わってないわ。そうそう、昔と比べると学生寮も変わったわよね」

と、自分が訓練生だった頃の事を思い出す小喬。

 

「ええ、昔は全てが男女共用だったものね。おかげで私は大浴場に行くたびに下着がなくなっていたもの。今は男女別々になってそんな事が無くなったけどね」

と、大喬も過去の事を思い出す。

 

「で、その度に私が下着を貸してあげたのよね、大喬ちゃん」

と、話に割り込んでくる、女性がいた。髪は膝まであり、色は淡蒼色。透きとおるぐらいの美しい髪の色をしていた。虹彩は紫色をしていた。

 

「あら。クリミアさん、お久しぶり。幸せそうで何よりだわ」

と、クリミアと呼ばれた旧友を妹に挨拶する。

「えっと、誰?」

と、キョトンとしている小喬。

 

「まぁ、知らないのも無理は無いけど、命の恩人なのよ?出産直後の貴方を守った命の恩人。貴方から見れば乳母にあたるわ」

と説明する大喬。

 

 

1日はあっという間に過ぎ、二喬は自室へ戻った。

「私、先に寝るから」

大喬は枕元に置いてある、写真を見た。大喬そっくりな女性の足元に可愛い女の子が居る。4~6歳ぐらいといったところか。

 

「母さん、どうして……」

それだけ言うと、布団に身を預けた。

 

 

小喬は、風呂から上がった時、ドア越しに寝声が聞こえてきた。

「母……さん。どう…して、…死んじゃったの……?」

 

「姉さん……」

小喬は涙をこらえながら寝室の扉を開けた。

「姉さん、母さんはどんな人だったの?」

そう言うと、涙で一杯になった目蓋をゆっくりと開いた。

 

「そこに、永久不滅映像記憶が有るから、見れば…?ヒックっ」

「姉さん、また、母さんの事、夢、見てたの?」

 

「ええ。また、殺されるところだったわ。母さんの敵討ちに行って来るわ。もし、私が捕まったら、その時はお願い」

 

「嫌っ!今姉さんを失いたくないもの」

小喬は大喬の前に立ちふさがった。

 

「退きなさい」

「嫌よ。だって私以外に止める人はいないもの」

二人は互いに睨み合った。暫くの静寂の後大喬は口を開いた。

「何が何でも退かないというのなら、私は力ずくで貴方を倒す。そして敵討ちに行くわ。それでもいいの?」

「・・・・・・・・・・・私は・・・・・・絶対に負けない!絶対に姉さんを止めてみせる!」

「そう。じゃあ、いざ、勝負!」

大喬は扇子を取り出して構えた。それを見て小喬も自分の扇子を取り出した。

「のぞむところだわ!」

こうして、史上まれにみる姉妹喧嘩が幕を開けた。

大喬は一歩下がり、一気に踏み込む。一歩でも距離を稼ぎ、加速をつける。それに対し、小喬は扇子を開かずに一歩進む。

「なっ」

大喬は声をあげた。大喬が踏み込む前に小喬は大喬の目の前にまで進んでいたからだ。しかし、左手で攻撃を防ぎ、右手で反撃する。小喬は負けずと反対側の手で防いだ。

 

「母さん、やめて!」

2人の喧嘩は殺傷能力を持った武器を持っている。その喧嘩の終止符を打ったのは、委員長だった。

 

「母さん、よく考えてよ。どうして“協力”しようとしないの?どうして!?」

委員長にそう言われ、返す言葉が無くなった二喬。よく考えてみれば、大喬の母親は小喬の母親でもあるのだ。

 

「25代皇帝『ライラ』は、護衛用に母さん達を産んだのでしょう?どうして……姉妹で喧嘩を…」

泣きながら言う委員長を見て、2人は決意した。

 

 

37

その頃ラフィールは、自室の天井を眺めていた。

(もう、ナシーカとは逢えぬのであろか?)

 

暗くなった天井をしばらく眺めていたら、呼鈴がなり、誰かは判らなかったが、扉を開けた。そこに立っていたのは…ナシーカだった。何も言えずにいるラフィールにナシーカが、

「また、逢ったね。偉い人に無理矢理この部屋に居させてもらったの。そう言えば、古代地球人でいう『ホワイトデー』にこんなの貰っちゃった」

 

と、小包を小さな机の上に置いた。ナシーカは、ラフィールが泣くのを見るのを自然だと思ってしまうのはなぜか、自分でも判らなかったが、ラフィールに歩み寄り、空識覚に唇を触れさせた。

「遅れちゃって御免ね、ラフィールちゃん」

 その頃ナシーカの祖父であるヤフェトは馴染みの喫茶店にいた。机の上には注文したスルグーが殆ど飲まれていない状態で置かれていた。

 ヤフェトは自分の事と、ナシーカの事についてボンヤリと考えていた。

 

『いつの間にあんなに大きくなったんだろうなあ。ついこの間まで子供だと思っていたのに。気が付いたら私をある部分では越えてしまった。嬉しいが、寂しいなあ。それに比べて私ときたら、大侯爵閣下の本心を読む事ができずに、結果としてナシーカに迷惑をかけてしまった。世間では、私を無能者呼ばわりしているが、全くその通りだ。私は、無能だ』

 

 その時、一人の地上人の老人が店内に入ってきた。老人はヤフェトに気が付くと、

 

「おや、そこにいるのはスポール予備役軍匠提督閣下ではありませんか」

 

 ヤフェトは振り返り、声の主を確認すると、

 

「グランノート!久しぶりじゃないか」

 

 グランノートはヤフェトが列翼翔士だった頃の部下の一人である。年は既に100近いのだが、見た目とは裏腹に、健康診断でも全く異常が見つからず、まだまだ元気である。今はこのラクファカールで道場をひらき、毎日毎日若者を投げ飛ばして過ごしている。

 グランノートはヤフェトの向かいに座ると、

 

「ところで、なにかお悩みのようですな。私で良ければ聞かせてもらえますかな?」

「ああ、実はな……」

ヤフェトは自分が知っている事を全て話した。

 

「スポール予備役軍匠提督閣下らしくありませんね。確かに、重大な欠陥があろうと、それが閣下です。ご自分に自信を持ってください。あ、ついでで申し訳ありませんが、この記事見てください」

グランノートは、端末腕環の仮想窓を開き、一つの記事を見せた。

 

「凄いな。ぜ、全部……子爵殿下が…」

その記事にはこう書かれていた。

 

 『空識覚のないファリース子爵殿下が、何の支障も出さず、“いつもの”輪潜り』

 

「閣下は殿下ほど障害を負っていない筈です。自信と勇気があれば何でも出来ます。閣下、私は応援していますよ」

そう言って、自分の分のスルグーを注文した。

ヤフェトは心から言った。

 

「どういたしまして。さて、今度は私が閣下に質問したいのですが、よろしいですかな?」

 

「するのはいいよ。ただ、答えるかどうかは内容にもよるがね」

 

「じゃあしますがね、閣下 、貴方は40年くらい前に殿下、おっと、今は陛下でしたな、とお別れになったでしょう。少なくとも形式上は」

 

「・・・・・ああ」

ヤフェトは無表情を装った。

 

「その理由は何だったんです?ずっと仲睦まじくやっていたのに突然」

ヤフェトは暫く黙っていたが、やがてぽつりぽつりと話し始めた。

 

「アブリアルとスポールは一般的に仲が悪い。それは知っているな?」

 

「ええ」

 

「それで、陛下が帝国元帥になるために上皇会議に出席した時、皇帝はアブリアルの手本にならないといけないのだからあのスポールとはもうこれ以上付き合うな、と上皇方から言われたそうだ」

 

「それで別れたんですか?」

 

「別れたというより、別れさせられたといった感じだが、まあ、そうだな」

ヤフェトは暫く黙って天井を見上げていたが、やがて

 

「でも陛下と出会えた事は後悔していない。それに陛下も今では新しい想人と出会って仲良くやっているらしいし、私はその幸せそうにしている陛下を見るだけで幸せなんだから」

ヤフェトは自分が愛する人と一緒になって幸せになる事よりも愛する人が幸せそうにしているのを見る方が好きな性格だった。そのため他の人よりも嫉妬心が無い。

 

「全く、おめでたい人ですね、閣下は」

 

「悪かったね」

ヤフェトは冗談めかして言った。

「悪くはないですがね、…私は羨ましいですよ、嫉妬心が無いなんて」

 

「ずっと格闘に没頭していたからな。“嫉妬”て、言葉の意味のも分からないさ」

だが、ヤフェトの表情が悲しげな顔になっているのを見逃さなかった。

 

「まぁ、人生山あり谷ありだ。いい事もあれば悪い事もある。少しずつ学んでいけばいいさ。気晴らしと言ったら失礼だろうが、今、ファリース子爵殿下の名前を募集しているらしい」

 

「名前を?何のために」

ヤフェトは曇った気持ちを晴らそうと気遣ってくれている友人が嬉しかったが、気遣わせた自分を自己嫌悪でさらに自分を縛ってしまう。

 

「パリューヌ子爵殿下と名前が同じだと不便だからと私は聞きましたよ。と言っても最終採用はご本人らしい」

 

 

そのころ大喬は、“仕事”を終え、ファリース子爵殿下を尋ねていた。

「新聞、読んだわよ。妖精の指は健在だったのね、良かったわ。でも、無茶しないで下さいね。私は貴方を守らなければならない」

と、困った風に言う大喬。

 

「ああ、すまぬ。だが、お陰で船が飛ばせる事が判った。私には……」

 

「ファリース子爵殿下、陛下がお呼びです」

と、小喬。

 

 

「陛下はラフィール殿下が可愛くってしょうがないみたい。私も欲しいなぁ、子供」

大喬は上の空で呟く。

 

「頑張れ、道のりは険しいわよ、姉さん」

 

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