その後(本職の)教官達は技術科、造機科、光子科、警衛科と共に今回の事故の調査を行った。しかし有力な手がかりはなく、調査は長期化し、次第に訓練生の関心も薄れていった。そうして数ヶ月が過ぎた。
そんな或る日、ラフィールは前からずっと疑問に思っていた事をナシーカに尋ねた。
「そなた、湯浴みが嫌いなのか?」
「え、何故そう思うの?」
「そなたはいつも灌水浴室ばかり利用しているじゃないか。そなたが湯殿に行く所を私は見たことがないぞ」
修技館には百人は入れる大浴場が五カ所ある。寮にも各部屋に灌水浴室があるのだが、大部分の訓練生は大浴場の方を利用している。灌水浴室を利用するのは試験前日などの時間が無い時ぐらい、というのが訓練生の常識だった。
「いいえ、お風呂は大好きよ」
「ならば、なぜいつも灌水浴で済ませてしまうのだ?」
「それは・・・・・・・・・・」
ナシーカは答えることができずに俯いた。
「自分の身体を他人に見られる恥ずかしいのか?ならば私も一緒に付いて行こう。だから一度くらい一緒に湯船に入らないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はっきりするがよい、ナシーカ!」
「・・・・・・・分かった」
ナシーカは折れた。
二人は一番近くの大浴場に行った。着いてみるともう既にかなりの数の訓練生がいた。
「結構こんでいるな」
ラフィールは思わず言った。
「そうね。帰る?」
ナシーカは期待をこめて言った。
「いや。私は『迷った時は前に進め』と教えられて育ったんだ」
「そう・・・・・・・・・・」
二人は脱衣所に行った。ラフィールは軍衣を脱ぐとナシーカの方を振り向いた。
「ナシーカ、準備はでき・・・・・・・・」
ラフィールは準備はできたかと聞こうとしてはっとした。ラフィールの視線はナシーカの背中に釘付けになった。ナシーカの背中には右肩から左の腰の辺りにかけて真っ直ぐのびるケロイド状の傷跡があった。ナシーカはラフィールの様子に気づいた。
「あ、やっぱり目立つかな、これ」
ナシーカは恥ずかしそうな笑顔と共に答えた。
「そなた、それは一体どうしたのだ?」
「うん、昔いろいろあって・・・・・・」
「何があったのだ?」
「それは・・・・・・・・・・。ここでは誰かに聞かれちゃうかもしれないからまた後で教えてあげるね」
「そなたが湯殿に行きたがらなかったのはその傷のせいか?」
「・・・・・・・・うん」
「・・・・・・・・・・すまない。私はそなたの気持ちも考えずに・・・・・」
「いいの。気にしないで。それより早くはいりましょ」
「ああ、そうだな」
二人は浴室に入った。入浴は気持ちよかった。しかしラフィールはナシーカの背中の傷の事ばかり考えていた。
やがて二人は入浴を終えた。
「それじゃ、医務室にいこうか」
ナシーカは言った。
「何故だ?寮でも話しはできるではないか」
「寮じゃ誰かに聞かれちゃうかもしれない。あそこならたぶん大丈夫だから」
「分かった」
二人は医務室に行った。そこにはエリスがいた。
「エリスさん、ちょっといい?」
「おや、どうしたんだい、ナシーカ」
「二年前の事故のこと、覚えてる?」
「当たり前だよ。忘れる訳がない。それがどうかしたのかい?」
「その事をラフィールちゃんに話そうと思って」
エリスはナシーカの顔をしばらくの間じっと見た。
「いいのかい?ナシーカ」
ナシーカはこくりと頷いた。
「・・・・・・分かった。ちょっと待っとくれ」
エリスは出入り口の鍵を閉めた。
「いいよ、始めても。ああ、椅子には適当にすわっとくれ」
そこで二人は空いている椅子に座った。
「えっと・・・・・・・何から始めたらいいかな?」
「とりあえず、一年前の事件から始めたらいいんじゃないの?」
とエリス。
「うん。それじゃあ始めるね」
ナシーカはラフィールの方を向いて始めた。
「実は、私、修技館に入学するのはこれが二回目なの。一回目のときは自主退学したの」
ラフィールの目に戸惑いの色が浮かんだ。そんなことをする者は箸を使う猫よりも珍しい。
「何故だ?」
ラフィールは尋ねた。
「うん、それをこれから説明するね。あれは今から一年位前のことだったわ」