試験の当日、ラクファカールにある紋章院の秘密訓練施設の一角にラフィーアは、来ていた。
そのとき、ラマージュも娘に知られないように別室で、その模様をカメラで見ていた。
他の、ヤフェト、プラキア、ナシーカも皇帝とは違う部屋でその様子を眺めていた。
本当は、この手の試験は、極秘事項であったが、皇帝ラマージュとヘルマスターのハーデスの許可を得て、三人は見ることができた。
最初は、ハーデスと1対1の面接から始まった。
「アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・ファリース子爵・ラフィーア殿下、とりあえず、いくつかの質問をします。それに、正直に答えても嘘で答えてもかまいません。では、まず・・・・・・」
ハーデスは沈着冷静な面持ちで静かに聞いた。
「(嘘でも、正直でも・・・・・?そうか、私の他人を謀る能力を試すということか、わかった)」
ラフィーアは、ハーデスの言葉を聞いて、瞬時にそう判断した。
3時間の面接のやりとりをして後、静かにハーデスは最後の試験の課題を言った。
「30分の休憩の後に、『青の牙』の一人と、1対1の対戦してもらいます。一応、勝敗は相手が戦闘不能のになるか、降参を言えば、終わりですが、負けたからといって落ちるとは限りませんので、それを肝に命じておいてください。殿下。」
最後の殿下にハーデスは何か含む言い方で伝えた。
三十分後、ラフィーアは、武器である曲刀をもって試験会場である競技場の中央で立っていた。
そして、『青の牙』の対戦相手として、会場に現れたのは、ハーデスの娘、ユーリルだった。
「殿下、『青の牙』の志望動機、聞きましたわ。兄さんを狙っているということみたいね・・・・・だったら、私が対戦相手は適任ということね。かくいう私も兄さんを愛している。だから、この戦いに負けるわけにはいかないの。」
その金色の瞳には、静かな中にも闘志の炎が燃えあがっていた。
「そうか、望むところだ。私も、勝って、『青の牙』に入る。絶対にだ。」
ユーリルの言葉でさらに闘志を燃やすラフィーア
ハーデスの試合開始の合図と共にラフィーアは、愛刀の曲刀「ギガンテス」を振り上げて、ユーリルに突進した。
上、中、下段の得意の三連斬を試合開始と共に、炸裂させたのであった。これは、模擬戦の相手となった剣の名人であるヤフェトもうならせるほどの速さと鋭さをもった技であった。
そのラフィーアの渾身の技を一瞬にして繰り出した。
しかし、ユーリルはその刃先をわずか、0.5ダージュほどの差でかわすと、余裕の笑みをした。
「殿下、勝負あったわ。」
そういって、そっと構えを見せた。
「まだだ。」
ラフィーアは、自分の渾身の技があっさり、かわされたが勝負はまだ、あきらめていなかった。
「来る」とラフィーアが思った瞬間、ユーリルは、すでにラフィーアの曲刀を持っている腕をつかんでいた。
そして、ラフィーアが腕を取られたと思った瞬間には、ボキィという鈍い音と共に右腕が折られていた。
「うわー」と悲鳴をラフィーアが悲鳴を上げた瞬間、もう一つの腕をユーリルは、すでにつかんでいて、それを蹴り上げて、折ってしまった。
一瞬にして両腕を折られて、ラフィーアは地面に倒れて、あまりの痛みに転げまわっていた。
「痛い。いたーい」
「殿下、勝負はついています。もう辞めましょう。これ以上は、弱いものイジメ以外何者ではないですから」
ユーリルは、さきほどの一瞬の動作をした後でも呼吸一つ乱れていなかった。
だが、ラフィーアは、その言葉を聞いた瞬間、彼女の矜持と誇りが、痛みを抑えて、まだ、闘志を持ちつづけていた。そして、必死に立ちあがり、痛みに耐え、歯を食いしばりながら立ちあがった。
「まだだ、私は負けてはいない。」
その表情は気丈に振舞っていたが、大量の汗が出て、呼吸も乱れていて、骨折による発熱も表情から出ていた。
「父さん、いいのですか?あの姿は、戦闘不能ではないでしょう?」
判定員であるハーデスに尋ねるユーリル
「うーん、どうしよう・・・・・」
そういって、皇帝であるラマージュが見ているカメラの方にハーデスは、視線を向けた。
ハーデスは、目線でラマージュに試合続行の許可を求めたことにラマージュは気がついた。
「わが娘の思う通りにするがよい。例え負けても、あの子の好きなように最後までさせたいのだ。」
とラマージュは、ハーデスに端末腕環の通信文にいれた。
「ユーリル、試合続行だ。そのまま、続けろ」
ハーデスは、続行の旨を伝えた。
「そう、わかったわ。じゃあ、いきます。殿下。」
「ああ、くるがよい。」
ラフィーアがそう告げた瞬間、ユーリルは、再び、音もなく、一瞬で接近した。ラフィーアは、自分の最後の力を振り絞り渾身の蹴りを猛スピードで接近するユーリルにみまったのであった。
その一撃は、なんとあっさりとユーリルの顎をとらえたのであった。しかし、蹴りをうけたはずのユーリルは、まったくダメージを受けた様子はなく、冷たく言った。
「これで、満足ですか?殿下。さて、もう試合を終わりにします。私も優しいですね。」
そういうと、顎をとらえた足をもち、再び、手刀で叩くと完全に折った。そして、片足だけではなく、もう一方の足を折った。
結局、ラフィーアは、両手両足を骨折させられたのであった。
「さて、殿下、とどめです。」
そういって、おもむろに構えをすると、それを見たハーデスが青ざめた。
「まて、それは必要ないだろ」
しかし、ハーデスの制止も間に合わず、ラフィーアの腹に右拳目にもとまらぬ早業をで当てると、ラフィーアは、口から血を吐き出して、気絶した。
ハーデスは、すばやく、待機させていた救護隊を呼ぶと、ラフィーアを集中治療室まで運ばせた。
その状況を見たとき、ラマージュの顔は青ざめていた。
「ハーデス、ラフィーアは大丈夫なのか?」
「陛下、大丈夫です。内臓破裂と肋骨は折りましたが、急所ははずれています。しばらくは、再生槽送りですけど。」そういいながらも、ハーデスは、ユーリルを睨んでいた。
「ユーリル、なぜ、ムクウハを使った。あの時点でおまえの勝ちはきまっていたはずだ」
ハーデスは、怒りの表情を見せた。
「そうね。なら、さっさと、父さんが止めるべきだったのよ。あの時点で私を。こんな茶番劇につきわせるほど、私はお人よしではないことをしっているでしょう。だいたい、ダリシュ兄さんが目的という不純な動機で、青の牙に入ろうとする性根が気に入らないわ。」その視線を受けとめながらもユーリルは、言った。
「ようするに、気に入らないから、必要以上の攻撃を加えたということか。」
「あら、父さんが、もし、殿下が『青の牙』に対して思いをあきらめる気がなさそうだったら、徹底的にやりなさいといったじゃない。父さんが書いたシナリオを多少脚色しただけよ。大丈夫、ちゃんと、生きているでしょう。」
「わかった。とにかく、今回のことは、私がお前の気持ちを見ぬけなかったことが責任だ。もう、いい。訓練にもどれ」
「わかったわ。でも、この試験の意図もわからないなんて、やっぱり、無理ね。殿下には」
「ああ、そうだな。もっとも、私は最初から彼女を『青の牙』・・・・いや、紋章院の裏の組織には入れる気はないがな。」
そうハーデスが言葉を残して、試験は終わった。
,「可哀想に」
勝負の行方を見ていたナシーカが呟いた。
「ん」
ヤフェトは低い声で答えた。
「怒っているの?」
「まあ、多少は」
「そっか・・・そうよね」
その後暫く沈黙が続いた。それから不意にヤフェトは言った。
「でも、少しほっとした」
「え? 何で?」
「実を言うと、私はあの子の『青の牙』入隊は反対だった。あの子を、理由はどうあれ人殺しにしたく無かったから。一度人を殺めるだけの力を得た者は、次々と殺すようになる。そうならなかったとしても、嫌いだからとか、気にくわないからといった個人的な理由で平気で他人を傷つけるようになる。絶対ではないけれど、そういう人間がいるのも確かだ。私はそんな人間になりたくなかった。だから、滅多に格闘術の類は使わない様にしているがね。使うときも、なるだけ相手に怪我をさせないように注意している。もっとも、だから”あの時”私はラマージュの力になれなかったのかもしれないがね」
確かにそうね、とナシーカは思った。ヤフェトが争いを好まない質である事は長年一緒に暮らしていたナシーカが一番知っている。まれに勝負を挑む事があっても、それは大抵自分より格上の相手である。
ヤフェトは一瞬自嘲的な微笑をしたが、本当に一瞬の事だったのでナシーカは気付かなかった。
「じゃあ、どうして止めようとしなかったの?」
「あの子はもう子供では無いよ。自分の進むべき道くらい自分で決められるさ。自分のした事に対する責任も、な」
責任・・・か」
「そう、責任」
一週間後、再生槽からベッドへ移されて、意識をラフィーアは回復させた。
「ラフィーア、大丈夫か。病み上がりで悪いのだが、ハーデスが早速、試験の判定を伝えに来た」
ラマージュは横たわるラフィーアの手をとりながらいった。
「王女殿下、早速伝えます。残念ながら不合格です。」
ハーデスは、淡々と伝えた。
「そうか。理由は、あっさりと負けたことか。確かに無様な醜態を見せた。」
「いいえ、違います。負けを認めなかったことです。青の牙の基本精神は生き残るということです。どんな手段をとっても。つまり、勝てそうもない相手に無謀な戦いを挑むことこそ禁止しているのです。」
「な、なんだと、そんな・・・・・・・それでは、あっさりと降伏するのか。そなたたちは」
「ええ、生き残る可能性があれば、そっちを選べといいます。青の牙になる人物は貴重なのです。そう簡単に命を落としてもらっては、困ります。それに、もう一つ理由があります。」
「なんだ、その理由は・・・・・」
「待つがよい。それは、私から話す。青の牙、いや紋章院の裏仕事にアブリアルはなってはならないという不文律がある。私は、それを知っていたが、今回ラフィーアの気持ちを大事にした。」
ラマージュはせつなそうに言った。
「なぜです。母上、それに、ハーデス、アブリアルがなれないのは、どういうことだ。」
「簡単に言えば、その耳です。アブリアルの耳はあまりにも有名だ。そして、皇族方はそれを整形することを誇りや矜持を傷つけることとして絶対にしないです。地上で任務するには、普通ありえない耳をしている皇族方は、基本的な変装もできないのです。」
ハーデスは、その耳を指差しながら言った。
「母上、そんな・・・・・私はでは、何のためにこれまで辛い訓練をしてきたのですか」その瞳には涙がたまっていた。
「殿下、それに関して一言言わせていただきます。あなたがアブリアルを捨てる覚悟と能力があるなら特例をつくっても私は別によかったのですが、殿下にはその両方ともないみたいですね。」
「そうだ。この耳を整形することなどできぬ。私はアブリアルだからな。」
怒りの形相でラフィーアはハーデスをにらんだ。
ハーデスは言った。
「しかし、母上っ。何故です!?どうして…その事を…」
ラフィーアは、納得できないような口調で言う。
「まだ判らぬか……?そなたはよく似ているな。昔の自分に…」
ラマージュは話した。昔の自分、事実を理解できずに母の胸で泣いたあの夜のこと……
「青の牙の訓練はあのようなものではない。そなたが想像しているよりも遥かに辛く厳しい訓練がそなたを待っていたのだ。陸戦、無重力戦、どちらも最高基準でなくてはならぬ。そなたが無理にでもと言ったのでなんとかしようと私はしたのだが、それも無駄に終わったようだ」
「先ほどの話、詳しく話してくれぬか?母上」
自室に戻ったラマージュの元に歩み寄り、流れるように話されたラマージュの過去に興味を持ったラフィーア。
「ああ、私がそなたぐらいの歳の頃だ…」
,そのとき、テレビの映像に二人は目を奪われた。そこに写った者は―
「え、五日前いかりや〇助ごと、碇 長〇がお亡くなりになったのことで―」突然のニュースにマラージュは、はっとした。「そう、あの時はドリフターズの「8時だよ!全員集合!」というものがやっていてなぁ・・・。私は、ついつい笑ってしまった。」
あまりにも、よく分からず懐かしく80年代にやっていたテレビ番組の話をした。
(なんだ、母上は・・・。テレビ魔だったのでは・・?)と、怪訝に思うラフィーア。
「そして、私はドリフターズのこんとも見て思ったわ。゛これだわ!゛と・・・。そして、青の牙の訓練が始まった。」(すべては、ドリフターズのパクリだったのか・・・。)ラフィーアはぴくりと眉を動かした。そして、堂々と―
「まず。1つ!ウケをねらえ!」あまりのひょんな言葉に、ラフィーアは怪訝な顔をした。
「ウケを狙うことで、相手を笑わせそのすきに攻撃する・・。」「は・・・。」ラフィーアはもう、何もいえなかった。そして、さらに続く・・。
「もう2つ!-」
ラマージュが気付いた時、ラフィーアは退屈のあまり眠っていた。ラマージュはフッと笑って独り言を言う様に言った。
「そなたの悲しみを少しでも紛らわせたいと思って試してみたが、やはり私は面白い話をするのは下手だな」
ラマージュは部屋を後にした。