ラフィールの修技館時代   作:いち領民

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ラフィールの修技館時代 第6話

,「これが私が自主退学した理由とこの背中の傷の秘密よ」

ラフィールは衝撃を受けた。

「・・・・・・・・・・・すまない。私は・・・・・そなたにこれを尋ねるべきではなかった」

「いいの、気にしないで。昔のことだから」

「・・・・・・・・・・・・最後に一つよいか?」

「何?」

「レオとやらはその後どうなったのだ」

「レオは逮捕されたよ、当然。でも・・・・」

エリスがナシーカの代わりに答えた。

「でも?」

「あいつは刑務所から脱走したんだよ。行方は未だに分からない。どうやってあの刑務所の厳重な警備を突破したのかもね」

「そうか・・・・・・・・・・・」

暫くの間三人は沈黙した。それを破ったのはナシーカだった。

「さ、もう話は終わり。帰りましょ」

ナシーカは妙に明るい声で言った。

「・・・・・そうだな」

こうして二人は医務室を後にした。

,だが、いくらナシーカは平静を装っても表情に悲しみが出てしまう。

 

自室に戻り、一息つくと、ナシーカは声に出して泣いていた。

「どうして!どうして私だけ!ラムリス~っっっっ!!!!」

 折角忘れていた過去を穿り反したラフィールは、下唇を強くかみ締めた。これ以上…もしこれ以上ナシーカが泣き続けたらラフィール自身の知性を吹き飛ばされ自殺したくなってくる。

「泣きやむがよい、私はそなた程上手くないが、これくらいは見よう見ま真似で出来る」

ナシーカの頭環を外し、瞳と同色の空識器官に軽く接吻する。

「忘れろとは言わぬ。だが吹っ切らなければ永遠にこのままだぞ、死んだその者はそなたの一生懸命生きる姿を見れば喜ぶであろ。亡くなった者の分まで生きるのが残されたものの勤めであろ」

だが、ナシーカは自分を見失っていた。

「ラフィールちゃんに何が判るって言うの!」

ラフィールを突き飛ばし、白刃を首元へ持ってゆくナシーカ。

「やめるがよい!」

間一髪のところでナイフを奪い返し、

「そなたの過去を呼び起こしたのは私だ!そなたが死ぬ必要は…な‥‥……い」

言葉を言い終わる前に白刃を自分に突き立てた。刃渡り20㎝もある大きなナイフで、ラフィールは自分の膨らみかけたばかりの胸元へ突き刺した。白刃は小柄な体を貫通し、真横に居たナシーカの白く美しい肌が鮮血で染められる。

「ラフィールちゃん!」

今になって自分が過ちを犯した事に気が付いた。その時、ラフィールの台詞を思い出してた『行くかどうか迷った時は進めと教育された』

『迷わない。もう、今の私は2度と迷わない!』

もしナシーカがラフィールに出会わなかったのならば、こんな事はしなかっただろう。自分の栄誉を守る為に・‥…。

「どいて!邪魔よ。御願い、通して」

そう、ナシーカはナイフの刺さったラフィールを抱き、医務室へ全力疾走したのだ。もしラフィールと出会う事がなかったら、どうするか迷い、彼女を死なせてしまったのかもしれない。が、運が悪かった事と良かった事が同時に起きた。運が悪かったのが、まずラフィールの突き刺したナイフは肺だけに留まらず、その大きな刃は隣接する心臓をも傷つけたこと。しかもその傷は深く、もしかしたら肺よりも心臓の方を狙って刺したかもしれないこと。しかも運搬中をレトパーニュ大公爵公女に見られたこと。

 なにより運が良かったのが医務室が非常に近く、しかもその医務室には全ての医療機器が備わっていたこと。

『もしかしたら…ううん。絶対死なない、絶対死なせない!』

その運搬の光景を目にしたクラスメイトや、同僚の人はざわめき始めた。

「おい、今怪我してたの……、パリューニュ子爵殿下じゃないか!?(ひそひそ)」

「運んでいたのはスポール家だぜ(ひそひそ)」

その通った道筋には黒々と鮮血が川をつくってゆく。

しかし、医務室に着いてまず目を丸くしたのはエリスだった。

「早く!ラフィールちゃんが死んじゃう!」

その情報はすぐさま父親に伝えられた。

「まさかあの子がそんな事を…」

そして実家でくつろいでいたプラキアに、ドゥビュースが伝えた。

「何?私の可愛い殿下」

『それどころじゃない、ラフィールが再生槽に入った。今すぐ向かってくれ。そなたの方が先に着くであろう』

「判ったわ。すぐ行く」

船の持てる最高の速度を出し、修技館へ向かう。

「御願い、生きていて。私の可愛い殿下」

向かう途中、不安だけがプラキアを覆い尽くす。

,

再生槽の中にしっかり固定されたラフィールは、意識こそあったが危険な状態だった。

「ごめんね、ラフィールちゃん。私、どうしたら……」

自分の軍衣を脱ぎ、再生槽に貼り付ける。

「私は2回も入って他人に裸を見られても平気。だから、ラフィールちゃんに…」

丁度その時、扉が開いた。

「やぁ、また逢ったね」

「レオ、何しに来たの!?」

不適な笑みを浮かべながら歩み寄って来るレオ。

「君はどうも死なないからね。無理にでも君をもらいにきたよ」

その瞬間、ナシーカに寒気が走った。

,レオはナシーカに銃口を向け、ナシーカの方へゆっくりと歩み寄ってくる。あっという間にナシーカは部屋の隅に追い込まれた。

,「な、何をするつもり?」

「何度同じ言葉を言わせる気だ!」

下着姿のナシーカにさらに歩み寄り、レオの顔が眼前に迫る。

手を完全に押さえられ、非力なナシーカの力ではどうにもならない。唇が触れるか触れないかの所で、扉が開いた。

「部屋に一歩でも入ってみなよ、ナシーカを殺すよ、女としてね。別に命あるモノとして死んでもらっても面白くないからね」

「銃を降ろしなさい」

部屋へ入ってきたのはプラキアだった。しかし、王宮で見る目つきはなく、ただ女性の敵を完全に睨みつけていた。さらに手には同じく凝集光銃が握られていた。

「撃ちなよ、絶対に僕には当たらないから」

プラキアは0,1ウェスダージュ先の目標に慎重に狙いを定める。手ブレに注意しながら引き金を引く。凝集光は真っ直ぐ目標を貫くはずだった。わずか4ダージュ程手前でまるで血迷った戦闘機かの様に曲がった。

「そ、そんな……」

あまりにも信じられない光景に乱射するも、全て手前で目標を避けてしまう。

「ふふっ。思考結晶に詳しい僕なら奇跡も幻想も実現できる。簡単な装置で凝集光を曲げられる」

「まさか……脱獄しているとはね。貴方でしょ、事故死に見せかけ、私の目の前で男爵閣下を殺したのは。その後、私の実の母も殺したでしょう?」

レオは未だに笑みを消さない。

「まさかあの時逃げられた子供が成長して僕に牙を向いてくるとはねぇ。ナシーカに遺伝子を植え込まないとね。おっと、その前に君を殺さないとね。生きた証人がいては行動に支障が出る」

プラキアの凝集光はレオに当たらないが、レオの銃弾はプラキアに当たった。

 何故か火薬式の物らしく、爆音のような銃声の後、プラキアの下腹部からは多量に出血していた。

 

 

 

 

,それから2時間、ナシーカが何をされたかを知っているのはラフィールただ1人だった。尊敬し誇りにも思っている女性は傷つき倒れ、唯一名前で呼んでくれる友達は張られた軍衣で視野から消えていた。

「だれか来るがよい!」

しかし何故だろう、いつもは騒がしいぐらいの寮が静まり返っている。今は授業中で、不運にも寮にはだれ1人居ない。エリスも、事務室にいて、ラフィールの声はエリスの耳まで届かなかった。半ば泣きそうになったその瞬間、不意に聞きなれた声が聞こえた。

「プラキア!」

そう、王宮からすっとんできたクリューブ王だ。

「父上!ナシーカの検査を!」

クリューブ王は別の再生槽にプラキアを入れ、検査の為にエリスを呼び、この検査は事務室で行うらしい。

 

「後は私1人で十分ですから、娘さんに付き添ってやってください」

席をはずし、ラフィールの話し相手になるドゥビュース。

「まさかこんなかたちで逢う羽目になるとわな、我が子よ」

「私だって卒業するまで会いたくなかった!」

そう怒鳴ったあと、小さく

「すまぬ。許すが良い、迷惑をかけたな、父上」

と詫びる。事務室から戻ってきたエリスはどこか重たい空気に覆われており、その背中には、ナシーカがおんぶされていた。

「運が良かったわ。受精もしてなかったし、性病も無かった。後はこの子の心のケアをしなくっちゃ」

そのナシーカは目を半ば開けた状態になって、ただ涙を流し続けていた。

 

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