~~三日後~~
「ラフィールさん、おめでとう、退院よ。部屋でナシーカさんが首を長くして待っているわよ」
エリスはラフィールを見送った。
しかし、あの事件以来一度も話さなくなったし、目も合わせようとはしなかったナシーカ。
「やっと長い1日が終わったなナシーカ」
「………………」
ただ、ムスッと窓の外を見ていたナシーカ。
「頼むから……頼むからこっちを…少しは…向いてくれぬか…」
睨みつけるように振り返ったナシーカは目を丸くした。アブリアルだるラフィールが涙を流している。
「頼むから……」
頬を伝う涙が部屋を明るく照らす照明に反射していた。
「ら、ラフィールちゃん……」
ラフィールの方から抱きつく。
「ごめんね、ラフィールちゃん。寂しかったよね、御免ね」
ソッと体を離し、唇を触れさせる2人。
「御免ねラフィールちゃん」
『アブリアルでも…やっぱり悲しい時は泣いちゃうのね。まだ…幼いからかましれないけど』
レトパーニュ大公爵公女の陰謀どうりで2人の間に大きな溝が出来たのはほんの1日に過ぎなかった。
「明日は交通艇式業務試験日だ。お互い、頑張ろうか」
ラフィールはそう言って消灯し、深い眠りに付いた。
不意に深夜に目がさめた。
「私はどうやら自分の知らない事を知ろうとするようだ。いつも…迷惑ばかりかけて……許すが良い」
なかなか寝付けなず起きていたナシーカもやさしく返答する。
「ふふっ、いいのよ。過去の事は絶対に消えないもの。でも、こうやって誰かに話すと少しずつだけど肩の重荷が降りてゆくのだから、私はそんなラフィールちゃんが好き」
「有難う」
ラフィールはそう返事をしたが、良く耳をすますと、静かな寝息が聞こえてきた。ナシーカはラフィールと居ると安心できるのだ。
~~翌日~~
「筆記試験でやった事をやればいいのだな。簡単なものだ」
「ラフィールちゃんは相変わらず自信満々ね…私なんか不安で不安で仕方が無いのに…」
覚悟を決めて交通艇に乗り込む2人。
まさか危機第二派が来るとは知らずに…。
二人を乗せた交通艇が発進してからわずか二分後、待機中の連絡艇の一つに異常が発生した。それに最初に気が付いたのは教官たちだった。
「おい、三号連絡艇が発進しようとしているぞ。誰が乗っているんだ?今は試験中だぞ。試験終了まで発進を待ってもらえ」
交通艇や連絡艇、短艇などの小型艇の操縦の指導を担当している教官のエリオル・ウェフ=イグノール・ヒュームは後輩の教官であるセルシア・ウェフ=ホーロス・キールに言った。
「ちょっと待ってください。今通信回線を開きます。・・・・・・・・・・先輩!」
「どうした?」
「誰も乗っていません!勝手に動いています!!」
「何!制御できていないないのか!?」
「思考結晶が、何者かに乗っ取られています!こちらからは制御不能です!あ、今発進しました!!」
「なんてこった・・・・・・・・・・・。おい、発進した連絡艇はどっちに行った!?」
「え、えーっと・・・・・・」
「早くしろ!!!」
「あ、いました!試験中の交通艇に向かって全速力で突っ込んでいます!このままでは接触、いや衝突します!!」
「試験中の交通艇への通信回線を開け!」
「だめです、繋がりません!何者かに妨害されています!!」
「くそおっ、一体どうなっているんだ!!」
そのころ二人も接近してくる連絡艇に気が付いていた。
「何かしら?」
とナシーカ。
「分からぬ」
とラフィール。その時通信が入った。通信画面には・・・・・・レオが映っていた。
「やあ、元気?」
レオは戯けた調子で言った。
「な・・・・・・・何故?」
ナシーカは驚いた様に言った。
「貴様、一体何の様だ!?」
ラフィールは言った。
「今日は鬼ごっこを楽しもうと思ってね」
「悪いが、私もナシーカもその様な気分ではないぞ」
「付き合ってもらうよ。嫌でもね。今、君達が乗っている交通艇に連絡艇が接近しているだろ。これは、僕が思考結晶を乗っ取って動かしているのさ。思考結晶には君達を追いかけるように命令してある。君達は、これから逃げてもらうよ。連絡艇の燃料が切れるまで君達が逃げ切れれば君達の勝ち、逃げ切れずに衝突してしまったら僕の勝ちだ。連絡艇が全速力で衝突すれば、きっと交通艇くらい木っ端みじんだろうね」
「・・・・・・・私達を殺す気なのね、貴方は・・・・」
ナシーカはレオを睨み付けて言った。
「そうだよ。君達は僕の顔を知っているからね。消えてもらわなければ僕が困る。では、そろそろ僕は失礼させてもらうよ。まあ、せいぜいがんばってね、無駄だと思うけど」
不敵な笑い顔を残して通信は切れた。
「・・・・・・・・どうする?」
ナシーカはラフィールに尋ねた。
「逃げ切るしかないであろな・・・・・・」
「やっぱりそれしか無いよね。でもこの交通艇は・・・・・・」
「分かっている」
ラフィールはナシーカの言いたい事が分かった。二人の乗っている交通艇は連絡艇よりも速度が遅い。さらに積載できる燃料の量も連絡艇ほど多くない。つまりこのまま普通に逃げてもすぐに衝突してしまうのだ。
「そなた、何かいい手は思いつかないか?」
「私?うーん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一つだけ思いついたわ」
「何だ?」
「私が連絡艇に乗り移って思考結晶を破壊するの。そうすれば・・・・・・」
「それはいくら何でも危険すぎる!もし乗り移り損ねたらどうするのだ!?」
「分かってる。でもこれしか思いつかないの。それに・・・・・・」
「それに?」
「貴方から教えてもらったの。『迷った時は前へ進め』って」
「そうか・・・・・・・・・・・・分かった」
,機雷と同じ方法で避け続けるラフィール。いかに高性能な機雷といえど、ひきつけてから急旋回をかけるとそのGに着いてこれなくなり機雷ははるか彼方へ消える。ただ機雷と違うのは一度通り過ぎてもまた、反転してくるということ、さらに中途半端な旋回ではすぐに追いつかれてしまうということ。
「ラフィールちゃん、私の提案……………実行できない」
「何故だ!?」
「与圧服が無いの!何処にも…非常食は沢山有るけど……」
ラフィールは舌打ちした。本来ならば、船外へ行く機会など無い。しかし、普段から交通艇には積んでいない筈がない。という事は…レオの策略に違いなかった。
「ラフィールちゃんの操舵のウデに賭けて見るいい方法が思いついたわ。3時の方角に見える?小惑星帯」
ラフィールは目を大きく見開いた。
「まさか……」
「そう、そのまさかよ。私はラフィールちゃんを信じる。アソコなら、連絡艇が小惑星に衝突してしまう可能性が大きくなる。私達も一緒だけど」
教官達は驚いた。
「先輩、交通艇が……レーダー上からロストしました」
「後は…祈るしかない……」
「まさかチキンレースをやらないといけないとはね」
「同感だ。ナシーカ、しかっりと身体を座席に固定するがよい」
安全帯をしめるナシーカ。
隕石ギリギリの所で急旋回をかける。連絡艇は隕石に衝突し、爆発した。だが、爆風が通常ではありえない程だった。
「大丈夫だ、逃げ切れる」
間一髪で逃げ切ったが、目の前に迫る艦に驚く二人。
「じゅ、巡察艦…!?」
再び通信回線が開く。
「君たちは悪運が強いな…しょうがないから僕の手で直接殺してあげるよ」
「一体そんな物どうやって手に入れたの!?」
「手に入れたんじゃないよ、ナシーカ。丁度近くを通りがかった試験航行中の巡察艦を乗っ取っただけだよ。乗員は普段は武装していないからね。制圧するのは簡単だったよ」
「そなたは乗員をどうしたのだ?」
「一カ所に集めて監禁しているよ。反抗的な奴は殺したけどね。乗員の代わりは思考結晶にやらせているから全く問題は無いよ」
「なんて酷い事を・・・・・・・・」
「僕にとっては君が僕を愛してくれなかった事の方が酷かったんだよ、ナシーカ。それじゃあこれで本当にお別れだ」
巡察艦の艦首が交通艇の方を向いた。
「まずい!」
交通艇は慌てて巡察艦の艦首から逃れようとする。が、間に合わない。
「さよなら、お二人さん。電磁投射砲発射!!」
二人は目を閉じ、抱き合った。お互いの存在を感じていた方が安心できたからだ。もちろん電磁投射砲に対しては無力だが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
予想していた衝撃は来なかった。代わりに思考結晶が
『本艦は、爆散しました。本艦は、爆散しました』
と感情の全くこもっていない声で答えた。
「・・・・・・・・・・・・馬鹿な・・・・・・核融合弾が・・・・・・無い」
実はこの巡察艦は試験航行中で、演習用に設定されており核融合弾も機雷も装備していなかったのだ。反陽子砲、凝集光砲も演習用の物で、交通艇に対しても全く無力だった。
「ラフィールちゃん、今のうちよ!!」
ナシーカが叫んだ。
「分かった!!」
交通艇は全速力で小惑星帯へまた突入した。この中なら巡察艦の様な大型艦は入り込むことはできない。
「今回は失敗したけれど、僕は諦めないからね。いつか必ず君達を殺してみせる」
それを最後にレオからの通信は途絶えた。やがて、巡察艦から一機の連絡艇が発進した。そしてそれから僅か3分後、突然巡察艦は爆散した。
「な・・・・・・・・!!」
「あれで証拠を隠滅するつもりの様だな。乗員ごと船を爆散させて・・・・・・・・」
ラフィールの拳は怒りに震えていた。
「何という酷いことを・・・・・・・・」
ナシーカは顔を両手で覆った。暫くして教官達から通信が入った。
「アブリアル訓練生、スポール訓練生、応答しろ!!」
「こちらアブリアル訓練生」
「一体何があった?一旦帰還し、説明せよ!」
「試験はどうするのですか?」
「試験はまた後日行う。君達が落第する心配は無いから安心しろ」
「了解しました。アブリアル、スポール両訓練生、ただちに帰還します」
その後二人はこの出来事を報告した。事態を重くみた星界軍ではすぐに捜査班を組織してこの事件の調査を始めた。しかし証拠不足などで捜査は難航し、レオの行方も分からなかった。しかしともかく二人はこの危機第二派を何とか乗り越えた。
「以上で今日の授業を終了する。アブリアル訓練生とスポール訓練生はその場で待機。では解散!」
わらわらと他の訓練生が帰ったのを確認すると、いきなり本題に入った。
「後日訓練をする予定だったが、新型艦《ロース級》巡察艦の処女航海があり真空空間には出られない。その為、君たちをたった今23時27分をもって交通艇操舵許可証を与える。これがその免許だ」
「ありがたき名誉な事です。でもなぜ今なんですか?」
ナシーカが聞く。
「君達のコンビネーションは素晴らしい。君たちでなければあの交通艇と共に虚空に飛散していた、君たちは特別なのだろう」
「有難う御座います」
礼を言って退室する2人。
自室に戻った2人は、訓練期間が1週間しかない事にき気付き身体を休め、体力を温存をする。