「こんなところに芝生か」
海岸近くにある芝生。
そこに黒崎は寝ころんでいた。
本来なら艦娘の誰かが傍に付き添っているのだが首輪でその回数が減っていることを喜ぶべきか。
「それか、絶対に逃げられないという事に絶望すべきか…悩むところだな」
白雪と霞の襲来によって毎日突撃してくる艦娘の数が増えていた。
あの二人が今までの時間を埋めるように抱き付いてくることが原因だろう。
抱き付かれたことで嫌悪感が強くなる。
拒絶しようとしても近くに必ず長門か赤城が傍に控えていた。
長門の場合、鉄拳制裁が待っている。赤城は。
そこから先を思い出して黒崎は体を抱きしめる。
「芝生で日光浴でもしよう」
気分転換とでもいうように黒崎は横になる。
毛布とまではいかないが芝生はふわふわしていて気持ちよかった。
さらにいうと差し込む光がとても良い。
ぽかぽかした気分になってきた黒崎の瞼が段々と落ちていく。
止める人間もいないことからしばらくして昼寝を始める。
どのくらい時間が過ぎただろう。
冷たい風が吹いた気がして黒崎の意識が覚醒する。
「アぁ…やべ、寝すぎたか?」
既に日は傾き始めている。
「疲れていたか…ん?」
起こそうとしたところで違和感を覚えた。
体の右半分が痺れている。
といっても目に異常はない。強いて言うなら片腕と足が何かに捕まれて痺れているような。
「…誰だ、こいつ?」
黒崎の隣で幸せそうに寝ている少女がいた。
腰にまで届く黒髪はつやを放ち、柔らかそうな頬。
気持ちよさそうに眠っており、口元からだらだらと涎が出ている。
「艦娘なんだろうけれど…なんだ?」
今までみてきた艦娘と比べると酷く幼稚というか純真そうな印象を与える。
観察していると目を開いてふぁわぁーと欠伸をして体を伸ばす。
「…あ」
「………お目覚めか?」
「えっと~、誰です?」
「自己紹介をしていいなら黒崎廉太郎だ」
「黒崎廉太郎さん、うーん、どこかで聞いたような?」
頬に指をあてて考える様子を見せる艦娘。
「こっちが自己紹介をしたがそっちはなしか?
「あ~、ごめんなさい。阿賀野型一番艦の阿賀野っていいます」
「ふーん」
「もう少し違う反応をしても」
「きゃー、素敵ィっていえば納得するか?」
「うーん、少し違うかなぁ」
「冗談、だったんだが」
「え、そうだったの?」
首を傾げる阿賀野を見ていると自分のやっていることがバカらしく思えた。
「そろそろ夕食だ。戻ったほうがいいんじゃないか?」
「あ、そうだ~。戻ろうっと」
そういうと阿賀野は黒崎の手を引いて立ち上がる。
「おい、なんで俺の手を掴む?」
「え、黒崎さんも部屋に戻るよね?一緒に戻ろうよ~」
ニコニコと笑みを浮かべている彼女に企みなど見えない。
まぁ、仕方ないかと黒崎が立ち上がろうとしたところで。
「阿賀野姉!こんなところにいた!」
立ち上がった所でこちらへ急ぎ足でやってくる少女がいた。
阿賀野と同じ制服を纏っているが栗色の髪を左右に結って三つ編みにしている。
彼女は黒崎の姿を見つけると慌てて敬礼をする。
「く、黒崎さん!ごめんなさい」
「…俺、何か悪いことしたか?」
「い、いえ!ほら、阿賀野姉!私達が夕食の当番だから急がないと!」
「そうだったっけ?」
「急ぐよ!それじゃあ、黒崎さん、失礼します!」
ビシッと敬礼をして彼女は去っていく。
「阿賀野はともかく…」
あの艦娘は誰だったのだろう?
首を傾げながら黒崎は部屋に戻ることとした。
戻る途中、オレンジ色の制服を着た艦娘がぬいぐるみのようなものに手裏剣を投げていたような気がしたが気のせいだろう。
「おや、遅かったですね」
部屋に戻ると赤城が待っていた。
最悪だった。
ニコニコと笑みを浮かべている赤城と対峙するように椅子へ座る。
「ベッドへ腰かければよいじゃないですか」
「どこに座ろうと俺の勝手だろ」
「私が困ります」
「お前の都合など知るか」
「……お茶をいれますね」
湯呑などが設置されていた。
ポットからお湯を注ぐ。
「どうぞ」
赤城が湯呑を差し出す。
湯気を放つそれをみる。
「飲まないの?」
「喉が渇いていない」
「飲め」
赤城の目から光が消える。
このままだと熱い湯を無理やり飲まされる可能性があった。
仕方ない、と黒崎は湯呑のお茶を一口含む。
「これで、満足…か?」
「もっと飲んでください」
仕方なくお茶を飲んでいく。
何回か飲んだところで異変が起きる。
「な、体が」
――痺れる!
湯呑が床に落ちて派手な音を立てる。
倒れそうになるところで赤城に体を受け止められた。
見上げると赤城は笑っている。
「ようやく効きましたね。昔なら一回で済んだのに頑丈になりました」
「お前、何、を」
「私は我慢することが嫌い…それすら忘れたようですね」
倒れている黒崎を抱えてベッドへ運ぶ。
抵抗を試みるが痺れている体はいう事をきかない。
黒崎の服を脱がしにかかる。
「お前…」
「廉太郎は私のモノです。誰かに触れられるのも本来なら我慢ができない。ですが、そうしないと血で血を争うことになる。仲間で家族でそんなことはあってはならない。だから我慢しないと…でも、貴方は私達ノモノ、絶対に、渡さない」
何が赤城を急かすのかわからないが黒崎は伸びてくる手を払おうとする。
しかし、赤城によって押さえつけられる。
くーはーと荒い鼻息が首元で聞こえた。
感覚もマヒしているのか気持ち悪さすら感じない。
「明日、彼女達が来ます」
赤城は黒崎へ絶望を叩きつける。
動けない黒崎へ笑いながら囁く。
「そうなれば…わかりますよね?」
抗いたい。
その気持ちをわかっていて赤城は言っている。
「ですから、チャンスを上げます」
舐めていた舌を離して赤城は黒崎を見つめた。
「明後日までに…答えを出してください。貴方の、黒崎廉太郎がだれを選ぶのか…貴方は一番になる艦娘を、ふふふ、その伴侶を選んだとき、約束が果たされるんですよ?廉太郎」
「ふざ、けるな」
顔を背けようとするが赤城はそれを許さない。
黒崎の頬を両手で掴む。
艶のある唇がそっと黒崎の唇と重なった。
短い時間だが赤城は顔を少し離す。
「貴方が逃げることは許されない…わかっているはずです…どこへ逃げても私達は捕まえる。絶対に、絶対に!絶対に…」
ぺろりと黒崎の頬を舐める。
「貴方は私達のモノなんです。愛してしますよ?廉太郎。一生離しません」
その言葉を最後に黒崎の意識は闇の中へ消えた。