油断したら艦娘に拉致されました   作:断空我

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夜に急に浮かんだ作品。

なんだろ


LS-EX 惚れ薬の騒動(曙編)

「これは一体、どういう状況だ?」

 

 ユグドラシル鎮守府の会議室、そこで呉島貴虎は眉間に皺を寄せていた。

 

 傍には秘書艦を務めている不知火、全身を雁字搦めに拘束されている戦極凌馬。

 

 そして、

 

「曙、愛している、俺はキミを愛している」

 

「う、嬉しくなんかないわ。いえ、嬉しいわ。素敵」

 

 全身をキラキラ輝かせている駆逐艦曙、そして彼を抱きしめているこの鎮守府の提督である黒崎廉太郎。

 

 但し、廉太郎はどういうわけか曙を自身の膝の上にのせて優しくその頭を撫でている。

 

 一見、嫌そうな顔をしている曙だが頬は赤く、瞳はトロンと少し危ない空気を出していた。

 

「余談ですが、この光景は一時間前から続いています……魚雷を放ちたい気分です」

 

「一体、何があったんだ。説明をしてくれ」

 

「はい」

 

 不知火がぎょろりと戦極凌馬を一瞥する。

 

「といっても、不知火も詳しいことはわかりません。全てはこの小瓶を廉太郎が飲んでしまったことが原因なんです」

 

「……なんだ、この小瓶は?」

 

「惚れ薬、だそうです」

 

「すまない、耳が悪くなったのかもしれない。もう一度、教えてくれ」

 

「惚れ薬です」

 

「ばかばかしい、そんなものを、誰が」

 

 そこで貴虎は気づく。

 

 惚れ薬などというアホらしいものは作れる人物が目の前にいるということを。

 

「凌馬」

 

「ふごぐほほ」

 

「猿轡を外してくれ」

 

 不知火が外すと戦極凌馬が話す。

 

「やぁ、貴虎」

 

「この薬はお前が作ったのか」

 

「そうだ、飲んだ人物が最初に見た対象を好きになるという薬。ヘルヘイムの果実の誘惑性を参考にした」

 

「……なんでこんなものを」

 

「息抜きのつもりさ。新型ドライバーの開発が思う通りに行かないからね。それで」

 

「彼が飲んだところで遠征の報告で曙がやってきたというわけか?しかし、なんで」

 

「遊び心さ。まさか、こんな展開になるとは思っていなかったけれど」

 

 不知火の冷たい視線をモノとせず凌馬は語る。

 

 溜息を零して貴虎は尋ねた。

 

「この症状はいつ治る?」

 

 我慢をやめた曙が廉太郎を抱きしめて、嬉しそうに抱きしめ返す光景がはじまる。

 

「さぁ?」

 

 貴虎の問いに凌馬は肩をすくめた。

 

「試作品だからね。一時間後かもしれないし、明日かもしれないもしかしたら一生、あのまま」

 

 ズドンと砲弾が凌馬の少し離れた壁に突き刺さる。

 

 二人は固まって砲弾の飛んできた方を見る。

 

「一生?あのまま?そんなこと、不知火は、不知火たちが許せるわけがない」

 

 震える声で艤装を纏っている不知火。

 

 彼女の目に光がない。

 

「仕方ない、なんとかして解毒剤を作ろう。貴虎、この拘束を」

 

 ブチンと不知火が手で引きちぎる。

 

「急げ」

 

「……そうすることにしよう。私も自分の命が大事だ」

 

 

 不知火の言葉に凌馬は慌てて部屋を出ていく。

 

「呉島主任、本日の業務ですが」

 

「最低限を残して他は停止だな。廉太郎が動けない以上、どうしょうもない」

 

「明日には戻ってほしいものです。こんなもの、長く見たくない」

 

「気持ちはわかるが少し堪えてくれ」

 

 胃がきりきりと痛むのを感じながら貴虎は執務を続けようとして固まる。

 

「青葉、見ちゃいました」

 

 開いている扉の向こう。

 

 メモ帳とペンを片手に信じられない物をみる目で体を震わせている青葉の姿がある。

 

 猛烈に嫌な予感が貴虎の中で生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廉太郎が曙といちゃついているという話は瞬く間に鎮守府へ広まった。

 

 最初は噂として、だが、食堂で広がる光景が事実だと彼女達に知れ渡る。

 

「はい、あーん」

 

「うん、おいちい」

 

「そういってもらえると嬉しいわ」

 

 羞恥心という箍が外れた曙は周りの視線を気にせず、目の前の廉太郎といちゃついていた。

 

「あ、あの、提督」

 

 話を聞こうと一人の艦娘が近づいていく。

 

「あぁ、ごめん、曙と話をしているからまた今度で、あぁ、曙、可愛いなぁ」

 

「もう~、褒めても何も出ないわよぉ」

 

 互いの顔を見て微笑み合う二人の姿を見て話しかけた艦娘はその場に崩れ落ちる。

 

「そんな、あれが事実なんて」

 

「不幸ね、山城」

 

「あり得ないわ、沈めたいわ。姉さま」

 

「…………」

 

「翔鶴姉?ちょっと?翔鶴姉~~~~~~~~~~~~~!」

 

「にゃっ、北上と大井っちがとんでもないにゃ」

 

「言葉にできないおそろしいクマ」

 

「オレ、体が寒くなってきた」

 

「ねぇ、大井っち」

 

「北上さん、魚雷は何発までかしら?」

 

「最低でも五発は許されるんじゃないかなぁ」

 

 ぶつぶつと広がる言葉は自然と物騒なものになっていく。

 

 それを眺めながら赤城は隣にいる武蔵へ訊ねる。

 

「武蔵さん、貴方は怒らないんですか?」

 

「何を怒る必要がある?話によれば廉太郎は薬によっておかしくなっているだけだ、本当の心をつかんだというわけじゃない」

 

「だから?」

 

「薬なんかでショックを受けている連中など対して敵とみないということさ。そう」

 

――恋敵はな。

 

「成る程」

 

「そういうお前はどうなんだ?」

 

「私ですか?」

 

「お前もこの武蔵同様、廉太郎に心を救われた者の一人だ。私から見てお前は十分に恋敵、そんな奴がどういう心境なのかとな」

 

「そうですね、気にはなります。ですが、武蔵と同じであまり驚きませんね」

 

「……そうか」

 

 心の中で武蔵は呟く。

 

――お前も十分な脅威だよ。

 

 結局のところ、夜になってまで廉太郎と曙のいちゃつきは止まらなかった。

 

 その光景に顔を真っ青にして医務室へ運び込まれる艦娘が続出、仕事は完全停止してしまい、貴虎も熱を出した。

 

 状況を露と知らず曙と廉太郎は布団の中にいた。

 

「今日は楽しかったな。曙」

 

「そうね~、廉太郎とこんなに話したのは久しぶりだったわ」

 

「そうか?」

 

「そうよ、提督になって、森の探索とかで話をする時間がなかったもの」

 

「そっか、それはすまなかったな」

 

「ううん、気にしないで」

 

 微笑みながら曙と廉太郎は眠りにつく。

 

 しかし、すぐに曙は目を覚ます。

 

 隣で廉太郎がうめいていることに気付いた。

 

「廉太郎?」

 

 震えるように、何かに縋るような声を出して廉太郎がうめいていた。

 

「頼む…………俺を、俺を、一人にしないでくれ」

 

 曙は知らない。

 

 廉太郎は別世界の記憶を宿している。

 

 その時の、孤独だったころの自分と今の自分を比較して恐怖するのだ。

 

 もし、あの時のように戻ったら。

 

 あの時のように彼女達が狂って自分に襲い掛ったら。

 

 もしかしたらと考えたら廉太郎は怖くなったのだ。

 

 昔と比較すれば自分は弱くなっている。

 

 だからこそ、廉太郎は縋ってしまう。

 

 自分の事を受け入れてくれる相手を求めてしまっていた。

 

 無自覚に。

 

 その姿を見て、気づいて曙は小さく微笑む。

 

 両手を伸ばして廉太郎の頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫、大丈夫、愛しい人、貴方の事は私が守ってあげるわ」

 

 

 

 

――クソ提督……大好きな廉太郎。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、なぜかズタボロになっていた戦極凌馬の手によって解毒剤ができあがって、廉太郎が元に戻った。

 

 これで元通りになったわけなのだが、実際は少し違いがある。

 

「おはよう。曙」

 

「おはよう!廉太郎♪」

 

 キラキラと笑顔を浮かべて曙が抱き付く。

 

 その姿に周りの艦娘達は戦慄する。

 

「どうやら、武蔵の読みは外れたようね」

 

「驚きだ。何をどうすればあんな心の開き方をするのか」

 

 離れた所で赤城と武蔵は会話をしている。

 

 曙は嬉しそうに廉太郎と話をしており、廉太郎もまんざらではない表情をしていた。

 

「とにかく、仕事が再開してくれて一安心だ」

 

 離れた所で貴虎は小さく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試作品のデータは十分にそろった。これならば、性能は期待できるね」

 

 自室のラボで戦極凌馬は怪しく微笑む。

 

 彼の後ろには惚れ薬と書かれたラベルの試験薬品が大量に並んでいる。

 

「楽しみだよ。どんな結果になるやら」

 

 

 離れた所で戦極妖精も微笑んでいた。

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