悪役転生&技術チート&未来知識、かぐわしいまでの地雷感。
しかし主人公は須郷ではない、すごーさんだ(優れているとは言わない)
2014年、4月。高校に入学したばかりの僕は……端的に言って、腐っていた。
僕は昔から、何をするにつけてもデジャヴ、既知感が付いてまわった。学ぶ内容、話す会話、運動や人との関わりも。熟練している訳でもないのに新鮮味はなく身が入らない、熱中できない。
既知感に助けられてか勉強はそこそこ得意だ。それでも親が決めた高校は都内有数の進学校で、人気も高ければ倍率も高い。必死になって合格して……合格したことを知った父はただ一言。
「順調だな」
そう言って出社した。
別にベタ褒めして欲しかった訳じゃない。けれど、僕の人生をまるで工程や手順のように語られるのは、嫌だった。これならば彰三さんの方がまだマシだ。喜んではくれたから。
まぁ彼も彼で頭痛の種なのだけれど。
「伸之君、この子をよろしく頼むよ」
そう言って六歳の女児を許嫁にされたときは目が点になった。いくら家同士の付き合いが深いからといって、一回り違う男女を婚約者にするのは時代錯誤が過ぎると思う。
六歳児が婚約者、不満を出せば家族からは白い目で見られるし、喜んでみせれば他人からは白い目で見られるし……そもそも僕はロリコンじゃないのに。
将来的には僕が婿に入る形となり、彰三さんの会社を継ぐのだろう……少なくとも彼らは企図している筈だ。彼女が成人するまでは手など出せないし、他の女性によそ見をするなど言語道断、結婚する頃には僕は三十歳だ。
魔法使いを越えて妖精さん、いや妖精王にでもなれというのか?
「僕は妖精王オベイロンだ! なんて……ばっかみてぇ」
学校帰りに乗り込んだ電車、扉脇の三角スペースに背中を預けて一息。独り言が聞こえたのか目を向けてきた学生……対面の三角スペースにいた相手を睨み付けて、舌打ち。見れば分かる、彼は僕よりも下だ。さっと目をそらした姿を見て、少し溜飲が下がる。
誰に当たるべきものでもない鬱憤は、行き場を持たないが故に、等しく全員に向かう。誰彼構わず攻撃性を向け威嚇して、やがて小利口になり自分より弱い相手を狙ってこき下ろすようになる。
親しい相手など出来る筈もなく、孤高を気取って周囲を見下して、そんな自分を見下げ果てる。
だからこれは天啓だったのだろう。
見るともなしに視線を向けていた向かいのドアの上、彼のニュースが、電車内のディスプレイに流れる。その瞳、感情も熱も映さない眼差しを、
「
十八歳にして資産数億のゲームプログラマー、大学入学と同時にアーガス社の技術開発部入りした、文字通りの天才。ハリボテのメッキ野郎ではどうしたって届かない頂点にいる青年。
自身を支えるちっぽけなプライドを粉砕されて嫉妬で胸を焦がすか、或いは無気力に生きていくなんて未来もあっただろう。だがデジャヴを感じていた僕に落ち込んでいる暇はなかった。
「茅場……晶彦? かやひこ? もしかしてこの世界って」
浮かび上がる原作知識の数々。そう、僕は茅場晶彦を知っている。だってこの世界は。
「ソードアート・オンライン?」
記憶のソレとそっくりなのだから。
いやはや、それにしても。
「僕が
つい溢れるボヤき。それに反応してか、ビクついた目を向けてくる先ほどの学生……すまない、だが今はそれどころじゃないんだ。
今までの十五年間で上書きされてしまったのか
確か須郷の初登場は2025年だった筈なので、十年以上先の話な訳だ。ドアのガラスに映る顔を見ても、原作の面影はあまりない。撫で肩の黒髪短髪、覇気の薄く、体つきも薄い少年だ。
原作の須郷はソードアート・オンライン……SAOをクリアしたプレイヤーから三百人を拉致して実験台とし、成果はレクトごと外国に売り払おうとした狂人。アスナやキリトに対する振る舞いに一視聴者としてはおぞ気が走ったものだ。
しかし今のまま生きていけば自分が
「一回り下の子を許嫁にされて浮気も禁止、学生時代から期待のプレッシャー半端なくて、行き着く先が相手の会社を継ぐためって……そりゃあグレるわ」
我が事ながら……いや、我が事ゆえにか。肯定するつもりはないが、納得してしまう。
レクトの関係で進学した理工学部には四年生の茅場がいて、常に先を行かれて、
正直、須郷伸之が小物で小悪党だったからこそ原作は
まぁそんな未来、来ないんですけどね。
ムショ暮らしなんてしたくないし、茅場と比較され続けるなんて御免だ。アスナの成人を待って妖精王になるのも嫌だし、何より彼女はキリトがさらっていく。
なので未来を変えるため、とりあえず。
「何か運動する癖を付けないと……なぁ」
学生鞄すら肩がきしむ重さに感じるというのは問題外だった。
すごーさんの年齢はアスナと9歳差?らしい(未確認情報)