強くないのにニューゲーム   作:夜鳥

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赤鼻のトナカイ

 ユージーンに対して同盟の約束をしたことにされてしまったキリト。しかし彼は流しの影妖精(スプリガン)、もちろん水妖精(ウンディーネ)を動かすことなどできないし、領主へのツテもない。

 

「それでわたしに、ね。というかこっちでも武器破壊(アームブラスト)ってキリトくん……相変わらずだなぁ」

 

 央都アルンのこじゃれた持ち家にて、アスナは送られてきたメッセージに頭を悩ませていた。

 

 一般プレイヤーとしてのアスナは水妖精を選択している。SAOから引き継いだ剣技とセンスを持つ彼女は直接戦闘に向かない水妖精の中にあって最強の呼び名も高い一人、つまり有名だった。

 

 だがアスナのALO生活は水妖精領に重点を置いていない。あちらこちらに出向いては剣を取りクエストを満喫しているので……領主や幹部といった種族運営の中枢に繋ぎがなかったのである。

 

「一応、顔と名前は知られているだろうから話くらいは聞いてもらえるだろうけど……」

 

 領主達を説得しきれるかといえばNOだ。水妖精の特色は高度な回復魔法でありパーティーでは引っ張りだこなのだが、直接的な戦闘にどうしても向かない部分がある。初対面の相手とクエストに同行し、報酬分配の段階で揉めて一方的に狩られるという事例もそこそこにあったのだ。

 

 そしてグランドクエストとなる世界樹の中はPKが可能とあってデスペナも惜しく、自分の身を自分達で守りきれない水妖精としては……罠にはめられる危険まで含めて及び腰なのだった。

 

 

    ★    ★    ★

 

 

 リーファ・クラインと共に修理クエストを開始したキリト、彼らが訪れたのは風妖精(シルフ)領にあるリズベットの店だ。工匠妖精(レプラコーン)の彼女が風妖精領に店を開いた理由について本人は「活動場所を移して客を減らしたくないから」と述べていた……本当の理由は見え見えだったのだが。

 

「それであたしの所に持ち込んだって訳ね……結局コレは魔剣じゃなかったってこと?」

「ボスドロップの強い武器っていうSAOの意味合いなら魔剣じゃないな。ALOでは知らないけど」

「んー、スキルレベルは大丈夫だけど、って、ハァッ? 何よこの要求素材!」

 

 リズベットの店へと折れたグラムを持ち込んだキリト一行、彼女ならば修復できるだろうという見込みは、半分だけ合っていた。キリトはリズベットの反応に嫌な予感を覚える。

 

「まさか、直せない、とか?」

「素材さえあれば可能よ! その素材が希少すぎて市場に出回らないのよ」

「マジか……ちなみに直近の取引価格は?」

「鍛え直しに必要な量を換算すると……この、くらい?」

 

 ゲッ、と全員が絶句するほどのユルド貨が必要だった。さもありなん、グランドクエストの報酬であるため種族規模で供出することを前提としていたのだから。全員が財布を空にすれば届かなくもない目標金額だったが、そもそも市場にないのでは話にならない。どこで採れるのかについてさえも、土妖精(ノーム)のトッププレイヤーが囲い込んでいるのか情報の手がかりすらない。

 

「エギルは……商人ロールだから顔は広いだろうけど、採掘メインじゃないしなぁ」

「そこまで希少なら採掘スキルもカンストが求められるんじゃねェのか?」

「サクヤ達にも聞いてみるけど、あんまり色よい返事は来ないだろうし」

「一応、あたしの店のお得意さんに土妖精はいるけど、果たして協力してくれるかどうか──」

「なになに、何の話? アタシも混ぜて!」

 

 誰だお前は、と皆に向けられた視線を物ともせず輪に入り込む女性プレイヤー。リズベット製の大剣を背負った……露出が多く紫色をベースにした彼女は、一部で有名人となっていた。

 

「お嬢さん、自分クラインって言いまして、二十三歳独身現在恋人募集ちゅウボァッ!?」

「すまない、いつもの発作なんだ……えっと、俺はキリトだ。君の名前は?」

「あははっ、二人とも面白いねー、仲いいの? あ、アタシはストレアだよ!」

 

 よろしくーと手を握られ、自由さに目を白黒させるキリト。そこにリズベットが割って入る。

 

「ちょうど噂をしてたのよ。ストレア、この鉱石持ってない? 言い値で買うわよ」

 

 提示された素材名を見て首を(かし)げるストレア。駄目かと落ち込んだ空気が流れかけたその時。

 

「これなら沢山持ってるよ? 言い値で全部を買ってくれるなんてリズベット優しい!」

「え?」

「流石に普通のお店に(おろ)したら迷惑かなって困ってたんだけど、必要なら問題ないよね」

 

 ドサッと……いやゴシャッと大音をたててカウンターを埋め尽くした鉱石の山。

 

「えっと、直近の取引価格で計算すると」

「やめたげてよお!」

 

 初対面のリーファにすら止められる程の惨状。素材自体は古代級武器(エンシェントウェポン)製作に有用なのだが、リズベットの店で払いきれるユルドを全額出しても足りない返済計画が発生しそうなのであった。

 

 ──じゃあクエストに同行させてくれるならいいよ!

 

 そんなストレアの提案をリズベットがキリトに飲ませた後、砕けたグラムの破片は無事に鍛え直される。元々が両手剣だったグラムは、所有者のリーファが片手剣スキルを上げていたため完成形を片手剣に変更して仕上げられた。

 

 ──あたしからすると魔剣とは呼びづらいけど、位置付けは間違いなく魔剣クラスね。

 

 新生グラムをほいと渡されたリーファはその性能に(しば)し呆然、慌てて返しに行こうとする彼女をキリト達は体を張って食い止めるはめに。クエストのキーアイテムがなくては先に進めない。

 

 ──オレっちが一杯喰わされた、てカ? にゃハハハ、それでこそSAOプレイヤーだヨ。さて次の目的地は竜の巣穴、ミッドガルドのどこかだけどALOはアルヴヘイム、別世界になるミズガルズは存在しなイ……ただ怪しい場所が一つ、世界樹の地下には謎の空洞があるんダ。

 

「それで、この先が?」

 

 急いで飛んできたシリカと合流し、央都アルンに集まったキリト達。会談場所から一緒のリーファ、クラインに加えストレアとシリカも入った五名は凄まじく前衛に片寄った編成だった。

 

「リーダーを務めることになったキリトだ、よろしく。それで誰か後衛ができる人は……」

「い、一応あたしとピナは後衛でも……短剣が届かなくなっちゃいますけど」

「あたしも詠唱は得意だけど、折角グラムが手に入ったからなぁ」

 

 シリカとリーファは持ち味を殺してまで後衛を担うべきか、キリトは悩む。かつてクリスタライト・インゴットを得るために相手取った竜は、図体も大きくブレスも強力だった。早々に遅れを取るつもりはないが、何せ敵の実力が未知数である。仲間の武器を眺め、嘆息するキリト。

 

「クラインは刀、ストレアは大剣……ものの見事にSAOだな」

「お前だって片手剣じゃねェか。まぁ最初は前後に別れてるくらいがいいだろ」

 

 楽勝だったら合流すればいいじゃねェか、とクラインの言うことにも一理あった。結論は未知の敵だから一応二人は後方に控えていてくれ、というものになり──世界樹から伸びた根の一つ、空洞から続く地下道へと一行は足を踏み入れ──抜けた先は何もない広大な荒野だった。

 

 ここがミズガルズ、と言われても本当に何もないエリアだった。本格的なアップデート前に空間だけを確保しておいた場所に、ミスで行けてしまったような感想を覚えたキリト。

 

 だがふと空が暗くなったことに気付いて上を見て────

 

「みんな逃げろッ!」

「っ、Oss(オース) sér(シャール) lind(リンド) ásynja(アシーニャ)──」

 

 はるか上空より降り立つ竜、陽光を遮る程の巨体が散開しきる前の一行に襲い掛かった。

 

 上方より落下してくるボスモンスターは、かつてSAOの第75層で苦い思い出を与えてくれたザ・スカル・リーパーをキリト達に思い起こさせた。目の前のドラゴン、ファフニールはそれに劣らない威容と、言語にし辛い殺意のようなものを感じさせる。まるで本当に、生きているかのように。

 

 毒々しい赤の鱗に覆われた、西洋竜の瞳はキリトを捉えていた。スゥ、と息を吸い込む動きはブレスかハウリングの前兆動作、慌てて飛び去った正面には予想通りに火炎が放射され──首を振って横薙ぎにブレスを吐き散らす。

 

「── burt(バート) eimi(エイミ) og(オーグ) sverð(スヴェルド)!」

 

 各々が自分のことだけで精一杯な中、最も冷静に詠唱を成したのはリーファだ。迫る炎熱への障壁となる防御魔法を全員に掛け──対象人数の多さ故にマナが枯渇しながら──HPの全損を防ぐ。

 

「ピナもお願い──Oss(オース) fylla(フィッラ) heill(ヘイル) austr(アウストル)!」

 

 シリカの全体回復魔法、そしてピナのブレス効果によりHPを緑にまで戻すメンバー達。

 

 幸いにして後衛が二人とも無傷だったため態勢は立て直せる。SAO時代のボス戦を思わせる凶悪さにキリト達は得物を構え、斬りかかっていった。

 

 

    ★    ★    ★

 

 

 いいアイデアはないか、と頼られたシノンだが彼女とて猫妖精(ケットシー)、アスナ以上に手立てなど持っていない。アスナの家に近かったため寄りはしたが、出されたお茶を片手に首を振る。

 

「グランドクエストに高位回復魔法の使える水妖精(ウンディーネ)は必須だろうけど……アスナにアテは?」

「一応知り合いは何人かいるけど、PK上等な子なんてまずいないし……」

「そんなもの水妖精プレイヤー多しといえどアナタくらいでしょう」

 

 そんなことはないだろう、と反論するアスナ。風の噂では多種族で構成されたギルドの活躍と、その一員に水妖精がいると聞いていた。領地に乗り込んでは決闘を積み重ねる闇妖精(インプ)の噂は、聞かなかったことにしたかった。あまりにも心当たりがありすぎたのだ。

 

「まぁ水妖精は最悪数人だけでも連れて行けばいいでしょう。それより私達の準備よ」

「わたしは一応、済ませてあるけれど。詩乃のんは違うの?」

「大丈夫、だと思ってたんだけどね……実は軽く世界樹の中に踏み込んでみたんだけど」

 

 何やってるのよ、とのツッコミをスルーして、内部の様子を語るシノン。PK含めた人の出入りがないタイミングを見計らい、単身で世界樹の中へと偵察行をした時のことだ。

 

 曰く、一体一体はそこまで強くない。とはいえそこらのモンスターよりは強いが、ALOを一年プレイした剣士なり術師なりであれば充分に勝てる相手だ。一対一であれば。

 

 だが百や二百となるとどうか。鎧袖一触とはいかなくなる。実力者でもパーティーを組む。

 

 では千や二千となるとどうか。ギルドでも追い付かない。領主が動員を掛けるレベルだ。

 

 では万を超えたなら…………古代級武器(エンシェントウェポン)を揃えた種族が幾つ必要になる?

 

「流石に、冗談よね?」

「冗談ならどれだけ良かったか。あの軍団(レギオン)はぼっちプレイヤーを殺しに掛かっている」

「あ、MMOの醍醐味はパーティープレイだって前に説いたことが」

「アンタのせいかアスナぁ!」

「だ、だってそうでしょう? しかもこんな形に繋がるなんて思わないわよ!」

 

 ゼイゼイと荒げた息を整え、二人とも着座。シノンの偵察情報が正しければ種族が一つ二つ(まと)まったところで通用しないだろう。それこそ何かしらの方法でPKなりデスペナなりを防止して、参加者の募集を無差別に掛けるくらいしか攻略の手立てが見付からない。

 

「何か情報はないの? SAO時代の情報屋は何か掴んでたりしない?」

「彼女は……さっきメールしたんだけど、なんでかテンションがおかしくて」

 

 ──重視していなかった情報を精査する必要が出たんダ。伝説級武器(レジェンダリィウェポン)はただの武器じゃなイ。

 

 グラムはユージーンが火妖精領のグランドクエストで手に入れたものだ。各種族に一つずつ、種族限定のグランドクエストをクリアして手に入る武具が、伝説級武器と呼ばれる。

 

 だがその性能は、SAO経験者からすると脅威という程ではなかった。何例か情報がある内で一番使い勝手が良いと思われるグラムすら「だって避ければ済むじゃないか」と考えたのだ。

 

 無論ゲーマーの性としてレアアイテムは欲しい。だが二年のSAO経験がALOにおいて馴染んでくるにつれて加速度的に増していく攻略速度を鑑みると、剣がすり抜ける位なんだとなるのだ。それよりも火力や剣速、鋭さや頑丈さが欲しいと。お陰で工匠妖精(レプラコーン)は引っ張りだこだ。

 

 だがグラムにその先があったとなると、他の伝説級武器にもそれぞれ追加クエストが存在し、強化先も存在するということになる。それらがどこまで強力かは未知数だが、ワールドにあるもの全てを動員せずとも攻略できるようなグランドクエストを世界樹に設定するとは思えなかった。

 

「とはいえ私達は各武器の状況を掴んでない…………ちょっと待ってアスナ、水妖精の分は?」

「ええっと、実は、インベントリに」

 

 それを早く言いなさいと急かされ実体化(ジェネレート)させるアスナ。出てきたのは細剣、名前はフロッティ、突き刺すものという意味だ。だが多少頑丈なだけで、特に使い勝手が良いという訳ではない。

 

「恐らくこの剣にも追加クエストが存在する筈。私の方でも調べておく」

「うん、わたしもアルゴ達に当たってみる」

 

 やるべきことが見つかって、シノンを見送り自分も家を出て──アスナは気付く。

 

水妖精(ウンディーネ)を動かす方法が見付かってないじゃない!?」

 

 引き留める間もなくシノンは立ち去ってしまい、アスナは仕方なくそのまま外へ。街の空気に触れれば或いは考えも浮かぶかも、と央都の散策を始めるも中々考えはまとまらない。

 

「キリトくんに溜め込んだお金やアイテムを吐き出してもらえばいいんじゃないかなぁ」

 

 八方ふさがりな状況に思わずボヤいた独り言。すれ違うプレイヤーが肩をはねさせて飛び退いたことに少し傷つき、立ち去ろうとした所でその相手が前に回り込んで来た。

 

「あ、あのっ……もしかして、アスナさんですか?」

「あなたは? どこかで会ったことがあるかしら」

「直接の面識は、ないです……あの、キリトのことなんです」

 

 (すが)るような目で訴えてくる水妖精──目元の泣きぼくろが特徴的な少女──に、アスナは見覚えがない。しかしキリトを知っているとなると現実での関係者か、ALOからの友人か、或いは。

 

「SAOで、少しだけ一緒にいたことが、あるんです」

 

 ソードアート・オンラインで行動を共にしていたSAO経験者か、だ。

 

 

    ★    ★    ★

 

 

 サチ達は現実に生還することはできた、けれど日常に帰還することができなかった。アインクラッドでの時間と体験を、仲間の誰もがもて余してしまったのだ。

 

 デスゲームの中で数ヶ月を過ごした全員が死んで、目が覚めた時には数時間しか経過していなかった。まるで夢だったのかと思うような内容は、しかしあまりにもリアルな情動と質感をもって刻まれている。

 

 和気相々としたパソコン研究会、ただの高校生であった自分が、たった一日にして随分昔のことに思われた。腫れ物に触るようにしてSAO時代を語り、目を合わせないようにして言葉を交わす。あの世界に囚われた意味は、ネガティブなものしかないのだと、全てがそう言っているようで。

 

 サチは嫌だった。ではどんな意味があったのかといえば解らない、のだけれど。

 

 キリトにも、あの世界に囚われた意味などないと疲れた顔で言われた、けれど意味のないものだと思いたくなかった。あの世界に行って、臆病な自分が無理をして街を出て、実力を超えて階層を上がり、キリトと出会って想いを交わして、そこに意味がなかったなんて……許せない。

 

 そう、サチは(ひとえ)に許せないのだ。

 

 自分と一緒にいることがキリトにとって必要なのかもしれないと感じたことがすごく嬉しかったのは、それほどまでに意味を見失っていたからだ。自分のような臆病者でもこの場所にいる意味はあると言ってくれた言葉は、きっと気休めでしかなかっただろうけれど、それでもよかった。

 

 キリトのためになれるのなら、それで充分だった。その彼が、助けを求めている。

 

「キリトに、何かあったんですか」

「えっと、あなたの名前は?」

「あぁ、ごめんなさい。サチといいます、SAOでもALOでも」

 

 あの世界に囚われたことに、意味なんてないのだろう。

 自分が生きて死んでいくことに、意味なんてないかもしれない。

 けれどキリトと出会えたことにまで意味がないと言われるのは、許せない。

 

 意味のないものに価値はないのか。価値のないものに意味はないのか。

 弱くて価値のない自分と、一緒にいるとキリトが望んでくれたことに意味はないのか?

 意味とは何だ、価値とは何だ、誰が決める、誰が決めたものなら納得ができるというのだ?

 

「教えてください、アスナさん」

 

 喉を掻きむしりたくなるような渇きと、抜け落ちたものを何とか埋めようとする足掻き。研究会の仲間が仮想世界に戻ることを避けている中、サチは急かされるようにしてログインした。

 

 それはサチに勇気があったからではない。(むし)ろ現実から逃げるようにやって来たのだ。ギスギスした現実、欠けたピースを欲する飢餓感、彼といた頃に戻りたいという願いが彼女の背を押した。

 

 そうして見つけた、キリトの生きている証を。

 

「そう、ですか。キリトはアインクラッドに戻るために……」

「あなたはどうなの? 必ずしもあの世界には、行きたい訳じゃなさそうだけど」

「複雑です。囚われたままの自分と、今のままでいい自分がいて。まるで仮想と現実に私が引き裂かれて減ってしまったみたいに……でも、キリトはそう、望んでいるのなら」

「あなたは、それでいいの?」

「まずはそこから始めないと、ちゃんとあの世界を、ソードアート・オンラインを終わらせないといけないんです。私もキリトも、きっと皆が」

 

 そう語る少女、サチは決して、確固たる自分を持っている訳ではない。何が何でも生き残るという強い意志を持っている訳でも、己の望みを絶対に叶えるという固い決意がある訳でもなかった。

 

 けれど彼女は大切な人のために立ち上がる力があった。それは恋慕かもしれないし、友愛かもしれない。或いは焦燥、それとも憂慮だったか。綺麗だろうが汚かろうが何でもよかったのだ。

 

「アスナさん、私に任せて」

「え?」

「私と同じような人は多いから。事情を話せばきっと、協力してくれる人もいます」

 

 SAO経験者には意外と水妖精が多い。ある程度戦闘を経験しているのに、というべきか、だからこそ、というべきか。回復の魔法があの時にあれば、そう痛感したプレイヤーは多かったのだ。

 

 サチもまた同じだった……戦いは怖いけれど何かしらの役に立ちたい。弱さとズルさと意地がせめぎあう、そんな彼女にとって回復魔法の使い手(エキスパート)である水妖精は天の采配に感じられたのである。

 

 そして知ったキリトの苦境。今さら合わせる顔はなくて、本当はもう一度会いたくて、口実も勇気もなく未だ会えていないけれど、そんな自分だって何か、彼のためになれるのなら。

 

 少女は立ち上がる…………覚悟完了した乙女は強いのである。


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