オーバーロードと魔法少女   作:あすぱるてーむ

8 / 12
ごくごく普通の村娘であったネムは、陽光聖典の罠に飛び込むガゼフ率いる王国戦士達を救う為、共に死地へと飛び込むのでした。
『ネム劇場』
始まります。


※今回は原作にない魔法やスキルを多数出します。ご都合過ぎると思われるかもしれませんがご了承ください。


黄昏の戦い 中編

見渡す限り草原が広がる。

草原を疾駆する王国の戦士達とそれを取り囲む人影。陽光聖典は既に300メートル圏内に配置を完了していた。

ネムは、そろそろ戦闘が始まる頃合だと判断し、騎乗しながら立て続けに3つの魔法を使用する。

 

<発見探知(ディテクト・ロケート)>

<探知対策(カウンター・ディテクト)>

<魔法効果範囲拡大(ワイデンマジック)()爆裂(エクスプロージョン)>

 

相手を油断させる為にあえて探知対策を行っていなかったが、これ以上の情報は与える必要は無いだろうと探知対策から行う。

ガゼフの眼前にいる魔法詠唱者(マジック・キャスター)がガゼフに向かって魔法を放つ。

突如、ガゼフとネムが乗る馬が恐慌状態に陥り暴れだした。

「しまった。馬か!」

相手の狙いを読み違えたガゼフは、馬を制御しようと手綱を操るが、疾駆していた馬はバランスを崩し転倒する。

転倒に巻き込まれないよう、素早く飛び降りると地面を転がり受身を取る。

「しまっ」

ネムを失念していたガゼフは慌てて周囲を見回しネムを探す。

ネムは馬から飛び降りると見事なバランス感覚で何事も無かったように地面に着地していた。

「戦士長!」

後ろから落馬を見ていた部下達は速度を緩め下馬すると、ガゼフとネムを中心に円形の布陣を取る。

バラバラに点在していた法衣を着た者達は、先程よりも倍の人数で更に外側を取り囲んでいた。

此方はガゼフとその部下の戦士22名。

対する敵は信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)45人と召喚された天使45体。人数の差は歴然である。

 

ネムは、この状況――陽光聖典の包囲が完了していること――を知ると、楽しげに微笑んだ。

先程の探知阻害魔法に続いて、次の魔法を唱える。

 

<感応妨害(テレパシー・ジャミング)>

<次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)>

 

通信阻害と転移魔法阻害は完了した。完全封鎖だ。この程度の相手ならこれで十分だろうと判断する。

 

 

スレイン法国の六色聖典の一つ「陽光聖典」の隊長、ニグン・グリッド・ルーインは満面の笑みを浮かべる。

王国戦士長ガゼフ・ストロノーフを罠にかけ、亡き者とする為の檻の構築。それがついに実を結んだのだ。

 

「天使でストロノーフを攻撃せよ」

 

頭上高く浮遊する天使達は、上空から戦士達の布陣を超えて飛来し、ガセフへと攻撃を開始する。

ガゼフを護る為に部下の戦士が天使を追い、布陣が乱れる。

「奴等を好きにさせるな。適当に相手をせよ。ただし、数は割くなよ」

既に誰が相手をするのか決まっていたように10体の天使が周囲に布陣する戦士達へと襲い掛かる。

「俺に構うな! 目の前の敵を全力で迎撃せよ」

ガゼフは目の前に飛来してきた天使の一撃をかわすと胴を横薙ぎに剣を振るう。

剣は天使の体の深くまで切り込むが両断には至らず、徐々に外へと押し出されていく。

「うおおおおっ」

力任せに振り抜き、天使を地面に叩きつける。

天使は地面にバウンドして再び空中で静止する。腹部に付いた傷跡からは光の粒子が血液の代わりのように噴出し、凄まじい速さで塞がっていく。

「……面倒だな」

天使などのモンスターの中には、魔法などの魔力を帯びた剣でなければダメージを軽減または無効化するものがいる。目の前の天使は前者、通常の剣ではまともに戦うことが出来ない厄介な相手だということだ。

布陣を組んだ部下達の戦闘も膠着している。天使単体に対して戦士2人で互角。3人でやや優勢。しかし、戦士側から致命傷を与えることが出来ずにいるため、いずれは天使達によって倒されるだろう。

 

続け様にガセフに向けて天使が襲い掛かる。今度は複数による同時攻撃だ。

「ならば、武技、<戦気梱封>」

ガゼフの持つ剣が微光のオーラに包まれる。

天使が持つ炎の剣を軽々と避けると、先程と同じ様に剣を振るった。

今度は易々と胴体を両断し、天使は光の粒のなって消失した。

「おお、やるじゃないか」

ネムは楽しそうに声を上げる。

ガゼフは敵指揮官のニグンを睨む。ニグンは周りに15名ほどの精鋭らしき者達で守りを固めており、ガゼフとニグンの間を30体ほどの天使が割り込む。

「うおおおっ!」

ガセフはニグンに向けて疾走する。

同時に襲い掛かってきた天使の数は全部で6体。

ガゼフは複数の武技を同時に発動させ、肉体は限界を超えて悲鳴を上げる。武技の同時発動という離れ技によってのみ可能となる武技を発動する。

「秘技!<六光連斬>!」

一振りにして6つの軌跡を描く斬撃が6体の天使を一撃で両断する。

6体もの天使を同時に消滅させた剣技を目の当たりにし、陽光聖典に動揺が広がる。

「見事だな……だが、それだけだ。次の天使を召喚せよ」

ニグンの指示に冷静さを取り戻し、先程の戦闘で天使を失った魔法詠唱者(マジック・キャスター)が再び天使を召喚した。

ガゼフの戦いぶりを楽しそうに観察していたネムは、召喚される天使を見て我に返る。

「いけないいけない。しかし六光連斬か。カッコいいじゃないか」

ガゼフに隠れて目立たないよう次の魔法を唱える。

 

<魔法三重化(トリプレットマジック)()上位魔法封印(グレーターマジックシール)>

 

目の前に3つの魔法陣が浮かび上がる。

 

<集団標的(マス・ターゲティング)魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)()魔法の矢(マジック・アロー)>

 

魔法陣の1つが輝きを増す。

 

ガゼフが再び動く。狙いは陽光聖典の指揮官だ。

目の前に道を塞ぐように天使が飛び掛ってくる。

再び<六光連斬>を発動させ、4体の天使を光の粒へと変えた。

 

<集団標的(マス・ターゲティング)魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)()魔法の矢(マジック・アロー)>

 

ネムが魔法を唱えると、2つ目の魔法陣の輝きを増した。

 

ガゼフの背後より2体の天使が炎の剣を突き立てんと襲い掛かる。

先程使用した武技<六光連斬>により酷使された体は、天使の攻撃に反応できず硬直する。

「武技!<即応反射>!<流水加速>!」

武技により硬直した体を無理やり動かす。そして、二度目に発動した<流水加速>により通常では実現不可能な速度で天使の炎の剣を掻い潜り一撃で敵天使1体を倒し、続けてもう1体も斬り捨てた。

 

<集団標的(マス・ターゲティング)魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)()魔法の矢(マジック・アロー)>

 

3つ目の魔法陣の輝きを増し他と同時に、魔法陣が姿を消した。

三重化した何時でも開放できる魔法陣に、複数を標的とした強化した攻撃魔法の封じ込めを完了させる。

ネムは、すたすたとガセフに向かって歩いて行く。

 

「無駄だ、ストロノーフ。次の天使の召喚だ。魔法を叩き込め。攻撃をストロノーフに集中させよ」

ニグンの指示で新たな天使が召喚される。

何時までも数が減らない敵陣営に対し、此方は確実に消耗し数を減らしていく。

ガゼフは歯噛みして敵の攻撃にすぐさま対応できるよう身構える。そして、踏み出そうとして動きを止めた。いや、動けなかったと言う方が正しい。

ネムが、ガゼフが持つ剣の刀身を指で摘んだのだ。

 

「<上位武器魔化(グレーター・マジック・ウェポン)>」

 

剣を覆っていた微細な光が魔法の輝きに塗り潰される。

「なんだ、あの子供は? 何故この場所にいる」

ガゼフの影に隠れて気付かなかったのか、ニグンは突然現れたように見えた少女に驚く。だが、問題なのは子供一人増えたことではない。重要なのは少女が魔法を使ったという事実である。

「馬鹿な娘だ。このような場所に来なければ死なずにすんだものを。おい、あの娘を殺せ」

「<魔法抵抗力強化(スペル・レジスタンス)>」

ネムは構わずガゼフに抵抗力上昇系魔法を唱える。天使の強さが問題にならない以上、物理防御力より魔法抵抗力を上げた方が得策だと考えてのことだ。

「な、あぶない」

ガゼフが叫ぶのと同時に左右から天使がネムを襲う。

危ういところで、ネムはバックステップで3メートルほど後方に跳躍し攻撃を回避する。

「ストロノーフ様が教えてくれなければやられる所でした。ありがとうございます」

「あ、いや、無事で何よりだ」

 

ニグンからは何があったのか見えなかったが、ガゼフが何らかの手段で娘を助けたのだろうと判断する。

よく見れば貧しい村娘が着る安っぽい服を着ている。特に装備もしていない。熟練の戦士や魔術師ほど高位の装備を身に着けるものだ。つまり、ちょっとばかり魔法が使える小娘なのだろう。

ニグンは舌打ちする。ガゼフの剣や体を包む魔法の加護は、ガゼフを倒すことを数段困難にしたからだ。

「娘よ。私の邪魔をした罪は重いぞ。まずは貴様を殺し、ストロノーフを殺した後、お前の家族も、村の人間も全て殺す。お前がいけないのだぞ。しゃしゃり出て来るからだ」

「え、ごめんなさい。ほんの出来心なんです。許してください」

「無理だな。抵抗無くその首を差し出せ。せめてもの情けに苦痛無く殺してやる。かかれ。ストロノーフの足止めも忘れるな」

ネムに対して2体、ガゼフには4体の天使が向かった。ガセフは最も接近した天使を武技を使わず斬り付ける。剣は何の抵抗も無く天使の体を切り裂き、容易く両断した。

「これはすごい」

破顔したガセフは次の天使を倒すべく剣を掲げ――

 

「無理かぁ、それは残念だ。<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>」

 

ネムの眼前に二メートルを超える漆黒の大剣(グレート・ソード)が出現した。

ネムは、自身の三倍ほどある大剣を片手で掴むと、跳躍して一気に天使との距離をつめる。

凄まじい速度で繰り出された二発の連撃は、ネムに迫っていた二体の天使をほぼ同時に消滅させた。

砂埃を上げながら地面に着地し、勢いが弱まり立ち止まる。大剣を持たない左手を腰に当て、大剣をぐるんと回して前方に突き出す。

 

「さしずめ<二光連斬>ってところかな。どうでした?ストロノーフ様」

「あ、いや、うん、見事でしたなネム殿」

ガセフは迫る天使を見もせずに剣を振るい一撃で切り倒す。もはや何を見ても驚かないつもりでいたが、剣技でさえ部下を超えることを知って驚愕し、おもわず敬語で話してしまう。

「さて、ストロノーフ様。そろそろ決着をつけましょう。天使は私に任せてストロノーフ様は真っ直ぐ指揮官に向かってください。必ず隙が出来る(・・・・・)のでそこを狙ってください」

ネムの言葉で冷静さを取り戻す。

「ネム殿のことだ。何か考えがあるのだろう。ならば俺は前だけを見て突き進むのみ」

力強く頷くと敵指揮官を真っ直ぐに見据えやや前傾姿勢をとる。

その背中を見ながらネムは思う。この作戦の如何によってはガゼフの身に危険が及ぶかもしれない。果たして思い通りに事が運ぶだろうか。あの時は信頼する仲間達がいたが、今は一人で全てを行わなければならないのだから。

 

 

     ・    ・    ・

 

 

モモンガ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、ぷちっと萌えの4人は、砂漠を走りながら作戦を確認していた。

「……という事で、何か質問はありますか」

ぷちっと萌えの説明を聞き終え、3人は肯定の頷きをする。

「全て事がうまく進んだら私が隙を作るので皆さんは最大攻撃をぶち込んでください」

「はーい」「おっけーです」「分かりました」

「では始めましょう。地形的にあの辺りが良さそうですね」

砂漠の窪んだ場所を指差す。

4人は指差した場所に雪崩れ込むように駆け込んだ。

周りにぽつぽつと人影が現れる。

深さは無いが自分達より数が多い人数に見下ろされるのは余り気分の良いものではない。

「あ、あの2人ですよ」

ペロロンチーノが指差す。そこには、黒と白の双子と見間違うほど似通ったエルフの少女が立っていた。

純銀の全身鎧(フル・プレート)に巨大な円錐状の槍(ランス)を持った銀色の髪をストレートに腰まで伸ばした聖騎士の娘と、漆黒の全身鎧(フル・プレート)片手斧(ハンド・アックス)と巨大な棘つき盾(スパイクト・シールド)を持った金髪を内側にカールさせ胸まで伸ばした暗黒騎士の娘だ。

「な、やばいだろ。最近見た中で間違いなく十本に入る」

「……確かにやばいな。お前の頭が」

「……ペロロンチーノさんはほんと、ブレないですね」

「……仕方ありませんね。あの二人は作戦通り後回しです」

「名前は、ディンプラちゃんにニルギリちゃんか。今度メッセージ送るねー」

少女達の方から「何あの鳥キモイ」「氏ねばいいのに」と可愛い声が聞こえる。

ペロロンチーノさんは俄然燃えたようで「フフフ、後のお仕置きタイムが楽しみだぜ」と呟いていた。

「さて、そろそろ来ますよ。ぶくぶく茶釜さん頼りです。お願いします」

「あいよ。全方位防御姿勢(オール・ガード・シールド・スタンス)

不動の姿勢を取る事で周囲にいる味方全員の防御力を大幅に上げる特殊技術(スキル)を使用する。

「そして、要塞防御陣(フォートレス・サークル)どやぁ」

ぶくぶく茶釜を中心に半透明のボール型障壁が直径十メートルの範囲で展開する。

と同時に周囲から一斉攻撃が始まった。

全方位から撃ち出されるあらゆる属性のダメージが大幅に減少される。

しかも魔法陣の内側にいる味方全員のHP回復のおまけ付きだ。

「おおっさすがぶくぶく茶釜さん。本当に頼りになります」

「えへへ、照れちゃう」

「おい、姉よ動かないでくれ」

「くっ」

「ならば俺も贖罪の薔薇の園(アトネメント・ローズガーデン)

サークル内に無数の薔薇が咲き誇る。この薔薇は一定の確率でダメージを肩代わりする効果があるのだ。

敵の攻撃を雨霰と受けている状況なのだ。次々と薔薇が散ってその数を減らしていく。

その甲斐もあり僅かな間であるがフォートレス・サークルの回復量がダメージを上回った。

「おお、ナイスです。ぷにっと萌えさん」

「でも流石にこのままじゃ不味いか……」

周囲を護る障壁の耀きに薄い部分が見え始める。フォートレス・サークルに終わりが近づいていた。

「ああん、壊れる。壊れちゃううっ」

甘ったるい可愛らしい声で悶えるぶくぶく茶釜。

「まじで止めてくれ姉よ……」

「でも、そろそろです。ペロロンチーノさん、モモンガさん、お願いします」

二人がぷにっと萌えから受けた指示は、簡潔明瞭であった。

 

――ペロロンチーノさんは上空から派手な攻撃をお願いします。

――モモンガさんは、大変に地味な魔法なんですが、地表からお願いします。

 

である。

やがて強力な特殊技術(スキル)や魔法の単発の嵐が過ぎ去り、冷却時間(クールタイム)の短い攻撃へと切り替わる。

「今です!」

ペロロンチーノが瞬時に上空高く舞い上がる。

相手は不意を突かれて瞬時に行動できず、ペロロンチーノを目線で追う。

 

「星降る空より降り注ぎ、全ての少女をあまねく照らす至高の星星の輝きを見るが良い! 必殺必中! 星屑革命(スターダスト・レボリューション)!!」

 

ペロロンチーノから繰り出される幾百の光の流星が眩く輝く軌跡を描いて地面へと降り注ぐ。

その場にいる全てのプレイヤーがその光景を魅入っていた。そして、無属性のダメージの嵐に晒される。

ペロロンチーノの特殊技術(スキル)発動とほぼ同時に、モモンガも魔法を唱える。

 

「<魔法三重(トリプレット)魔法抵抗難度強化(ペネトレートマジック)()次元の落とし穴(ディメンション・ファール)>」

 

三つの魔法陣が、モモンガ達を取り囲むプレイヤーの足元に描かれる。魔法陣が捉えた人数は全部で8名。

次元の落とし穴(ディメンション・ファール)の効果は絶大である。移動阻害対策、即死効果対策では対処できない為、抵抗(レジスト)に失敗したものは必ず効果の影響を受ける。それは、地面に落とし穴を作り出す魔法であった。しかも、極悪であることに次元の落とし穴(ディメンション・ファール)は時間制限による解除がなく、自力での脱出か、死亡を選択する――落ちた先の閉鎖空間内では「死亡して拠点に戻る」アイコンが表示される――以外に脱出の方法がないのだ。

もちろん、欠点もある。魔法陣が発現してから効果が発生するまで約二秒の発動までの時間(タイムラグ)があり、その間に魔法陣から退いた場合は効果を一切受けないのである。ゆえに、これまでに引っ掛かった者は殆どいなかった。

 

――そして、魔法が発動する。

 

魔法陣が描かれていた範囲にぽっかりと穴が開いた。

抵抗(レジスト)に成功した者は2人。6人の姿が次元の穴に吸い込まれて消えていった。

何故こんなことになったのか? 全員が空を見上げていたからである。

加えて、窪地を戦闘場所に選んだことで相手が密集せざるを得なかった事も、最大の効果を上げることが出来た理由である。

全てはぷにっと萌えの描いたシナリオ通りである。

 

回復役の信仰系魔法詠唱者(マジック・キャスター)が2人とも消えたのは実に幸運であった。

もちろんこれは(プレイヤー)(VS)(プレイヤー)。転移阻害は基本中の基本である。

 

これで4人対4人、同数となった。

 

ここで、ぷにっと萌えが動いた。

 

彼は、手に持つ神級の杖を構え――

 

 

     ・    ・    ・

 

 

「何が……起こったのだ?」

2体の天使が、少女が振り回す大剣(グレート・ソード)によって瞬く間に消滅させられた。

その現実が受け入れられずに側近の部下に尋ねる。

「天使が……消滅させられたようです」

そんなことは分かっている。何故、そのようなことになったのかを聞いているのだ。そもそも、少女は何処からあの大剣を取り出したというのだ。使えない奴め。

部下を罵倒する言葉を飲み込み考える。

ここに来て漸く、あの少女が油断してはならない相手であることに気付く。

ニグンは知っているのだ。見た目と強さが必ずしもイコールではない存在がいることを。

「まさか……神人?いや、まだ決断するには早い」

天使ごときを屠ったからといってそれが何だというのか。

その程度のことなら、ここにいる部下でも出来ることだ。

だが、もし、『英雄』の領域まで足を踏み込んだ者だとしたら……。

法衣の上から懐にしまっている水晶の感触を確かめる。

「こいつの出番が来るのかもしれないな」

ニグンはほくそ笑む。この水晶がある限り我々に敗北はありえない。それほどの自信を持っていた。

「何かおっしゃいましたか?」

「何でもない。それよりもほら、動くようだぞ」

ガゼフが前傾姿勢を取る。中央を強行突破して突撃する腹積もりのようだ。

「ふん。いまだ理解できんとは愚かな。天使をガセフに向けると同時に魔法を叩き込め」

 

ガゼフは剣を構えて走り出した。

天使達がガセフに襲い掛かる。それと同時に、陽光聖典の部隊員が魔法を放ち始めた。

天使は任せろとネム殿が言った。ならばと魔法に全神経を集中する。

いくらかの魔法の打撃を受けるものの、その殆どが抵抗に成功して掻き消えた。

それが魔法抵抗力強化(スペル・レジスタンス)によるものだと知り感謝する。

 

「そろそろかな」

 

ネムはオーケストラの指揮者が指揮棒(タクト)を構えるように両手を上げた。

 

開放(リリース)!そして、<殺戮の雲(クラウド・キル)>」

 

そして指揮棒(タクト)を振るように左腕を振り下ろす。

ネムの背後に3つの魔法陣が姿を現す。その魔法陣に封印された魔法が同時に開放された。

複数の天使に向け、最強化した魔法の矢(マジック・アロー)が一つの魔法陣から30発、合計90発もの光弾が白い軌跡を描いて撃ち出される。

空を埋め尽くす光弾は、日が落ち始めて暗くなった空を切り取るように鮮やかな光の線を描いた。

絶対必中の無属性攻撃の魔法の矢は、次々と天使に被弾し、天使は3発と耐え切れず四散した。

 

(まぁ、この程度か。やはり、あの時の美しい光景に比べれば見劣りしますね。ねぇ、ペロロンチーノさん)

 

ネムは続け様に右腕を横に振り、ダンスを踊るようにくるりと一回転する。

 

突如、一塊の雲が発生した。黄緑色の蒸気の塊は、地面を這うように移動して陽光聖典の隊員の足元まで迫ると(アギト)を開いた獣のように大きく膨れ上がり飲み込んだ。黄緑色の雲塊は地表面を沿いながら隊員達を右端から順に舐めるように移動する。雲塊の蒸気に触れた者は致死の猛毒に晒され悶え苦しみながら次々と倒れていく。それは、ネムの動きを追従するようにぐるりと一周する。そして正面に対峙する隊員のみを残し霧散して掻き消えた。

 

敵も味方も足を止め、その光景を信じられないといった表情で見ている。

 

(今だ! ぷにっと萌えさんのように上手く出来れば良いけど)

 

ネムは、空のある一点を指差し、驚愕の表情を浮かべて尻餅をついた。

 

「ぅぁああああ、うわああああああ!!」

 

そして、絶叫を上げた。

見事に、この場にいる()()が指差す方向に目を向ける。

だが、指し示す方向を見ても空が広がるだけである。そこには何も無かった。

 

「ああ! 今のが()か!」

 

最初に我に返ったのはガゼフであった。




予想を超えるネムの攻撃になすすべもなく追い詰められた陽光聖典は、ついに、彼等が持つ最大の切り札を発動するのでした。

次回『ずっとネムのターン』
お楽しみに。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。