そこのたなのリンゴとってリンゴ   作:鳧三

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探究心と知識欲は保護者丸様の看板でもあるのではと思ってます
後書きの部分に一応幼女の立ち絵と表情3種、置いてみました。もしよければご覧になってください


何だこの幼女は

開口一番

 

「どうしたのよそれ」

 

ですよね、と苦笑いを浮かべる自分をこの隠れ家の主である大蛇丸様が訝しげに見つめてくる。髪に隠れていない左目から送られる視線は懐疑のそれで。

 

「拾ったんですよ」

「どこで」

 

すぐそこの林で、と笑いとともに返せば「それ迷子じゃないの」と手元の薬品を揺らしながらため息をつかれた。

あまり興味を示していない様子。

このままでは、担がれながらも目を覚まさないこの子はただの被検体という体で終わることだろう。

しかしそれは、今自分が肩に抱えている子が"普通"であったのなら、という話で。

 

「とりあえず、そこの台お借りしてもいいですか」

「……いいわよ」

 

大蛇丸様なら僕が意味もなく"普通"の人間を持ち帰るなどとは思ってないだろうし事実、本人は薬品を弄っていた手を止めて、こちらの様子をじっと見守っている様子である。

乱雑かつ整然とされたこの部屋。

薬品だの何かの一部(だったもの)だの、これまでの研究資料や成果をまとめたものが仄暗い明かりの中で混沌としている。

その中央には一つの実験台が鎮座しており、まるで芝居の舞台のように、上から一際明るい光が実験台の赤黒い染みを冷たく照らしていた。

もう慣れたものだが、この"研究室"に充満する薬品独特の臭いは外とはまるで違う。

鼻の奥を刺し、脳髄を揺らすような、そんな臭い。異界にでもいるような、そんな感覚。

常人なら気付けどころか不快さに吐き気すら催すかもしれない。

なのに

 

僕の肩ですやすやと眠り続けるこの白い"何か"は一向に目を覚ます気配が無い。

そもそも担がれた時点で何かしらの反応があるのではと思いはしたが、その考えは見事に外れたのだった。

何もかもに疑問はつきないわけだがとりあえず、この子を担いできた理由なるものを大蛇丸様に見せるべく、見かけ相応に軽いそれを台に横たえる。

ふわりと広がった白髪が実験台に広がれば、それに隠れていた幼い寝顔と共に"例のもの"が自分たちの前に姿を見せる。

 

その時、なるほどね、と微かな愉悦と狂気を含んだ笑い声が小さく耳に入り、自分の口の端も思わず上がっていくのを感じた。

 

 

■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■

 

 

それは言うなれば「驚き」であり「興奮」であり、さらに言うなれば「探究心」だった。

 

「人間?」

「さあ」

 

僕には何とも、というカブトの表情は"期待"の二文字が浮かんでいる。

それもそのはず、実験のために煌々と照らしている光で、更に白さを際立たせる目の前の少女の髪の毛の間から本来人間であれば生えるはずもないようなものが当たり前のように、いや、当たり前に突出していた。

髪飾りなどには到底見えない。

見たところ木の枝に近い。そのものと言っても過言ではないくらいに。

 

「本物ですよ 木の枝です」

「……いつの間に読心術を会得したのかしら」

「大蛇丸様の表情から見て取れただけですよ」

「それならカブトも口角下げないとワクワクしてるのがひと目でわかるわよ」

 

つまりはそれ程自分たちはこの状況に感化されていたということだろう。愉快そうに笑いを浮かべるカブトを一瞥しつつ、そう思った。

嘆くことではない。むしろ今目の前にあるものが何と喜ばしいことか。

来るは高揚。

自分の中の探究心が目の前の"何か"に手を伸ばしたいと叫んでいる。

知りたい。試したい。そして己に完全な知識を。完全なる自分を。

 

その茶色に指を滑らせると、木肌独特のざらつきと滑らかさが皮膚を介して神経を伝う。

落ち葉の中に埋もれる折れ枝のような冷たさなどはなく、真っ直ぐと伸びゆく若木に触れた時のような、生きている、という温かさ。

人間の体温のような生々しい温かさではない、仄かな"生"の温度。

なんと謎の多いことか。

これからの研究に繋がるのであれば大きな利益となろう。もし研究するにも値しないものであったとしても、ただの被検体として薬品たちに溺れるだけの個体となるだけなのだから損は無い。

 

さて、まずはとカブトに顔を向けると、カブトもこちらに向き直る。様々なシュミレーションをしているのか、先程とは一変、真面目な表情が目に映った。

 

「どうしようかしらね」

「そうですね、手始めはどうしましょうか」

「おお、どうするんじゃ」

「まずはこの枝を少し削って成分でも研究してみたいわね」

「これはただの枝だけどの」

「そうなんですか、じゃあどうやってそれが生えているのか解ぼ…………え?」

「え?」

「おっ?」

「……え?」

 

うわ、という二文字のあとにそのまま続く音がカブトの口から叫び出て部屋と鼓膜を揺らした。

 

 

■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■

 

 

「じろじろ見るでない……儂は見世物ではないぞ」

 

ふんす、と鼻を鳴らす目の前の少女。

いつの間に目を醒ましていたのかは分からないが、大蛇丸様と自分との会話にナチュラルに入ってきた時には素で驚いてしまった。普段の自分らしからぬ失態である。

 

「カブトが取り乱すなんて珍しいわね」

 

逆に何故そんなに落ち着いてるんですか大蛇丸様

はあ、と呼吸が整うのを確かめてから驚きの根源に視線を戻す。

よっこいせ、と手も使わずに上体を起こした少女は、実験台の上からこちらをじっと見つめてくる。

大蛇丸様はその様子を観察するように見つめ続けるのみで、何か動くことは無いらしい。

 

訝しげに細められている少女の瞳は鮮やかな深緑で、光の角度によっては若草色にも映った。

まるでその色は成長した若々しい木に生い茂る葉の色のようで。

 

「それで何じゃいお主ら、こんな所に連れてきおって……」

「……君が何者か知りたくてね。君がこの施設の近くに眠っていたのを見つけて、興味が湧いたんだ」

 

今明らかに面倒そうな表情をされた。

幼い容姿に加え、先程からの年寄り口調、更にはこの状況に恐怖心も感じさせないどころか眉間に皺まで寄らせている。

まるで悪徳業者に訪問されたときの主婦の表情だ。

何だこの幼女

そんな外見年齢不相応の対応に大蛇丸様がクツクツと笑いを洩らす。

 

「さっき、あなたは"ただの枝"って言っていたけれど、あなたは人間なのかしら?」

「では逆に問うが、当たり前のように頭に枝が生える奴が人間かの?」

 

つまりそれが答……「というかお主も完全な人間ではなかろ」え?

 

目の前の少女は軽く身を乗り出し、大蛇丸様をじっと見つめながらそう口にした。

そして今度はこちらにふいっと向けば「お主はまだ普通か」と道端に転がっている小石を見るような目で一瞥したあと、また大蛇丸様に視線を戻す。

 

「まあそれも含めての、お主ら一体誰じゃ?」

 

探るような目つき。

こんな幼子なのに、彼女の背後から滲み出る不穏な空気は見た目に釣り合わない。

まるで数百年…いやもっと長く長く生きてきた仙人のような雰囲気。

有無を言わさない空気がそこにあった。

 

「私はね、大蛇丸。そしてこっちがカブト。薬師カブトよ。」

 

大蛇丸様は軽く少女の問いに答えたあと、こう言葉を続ける。

 

「なぜ、あなたは私が"完全な人間ではない"って思ったのかしら……?そしてあなたも何者か教えてくれる?」

 

正に蛇が獲物を前にした時のような目つき。

この目の前に人間でもいたのなら、あまりの恐怖に身体が竦んでいることだろう。

だがやはり、この少女はそんな威圧感に臆するどころか不意にニッと笑みを浮かべるのだ。

その表情はまるで、悪戯が成功したときの幼子のような表情そのもの。

 

「知りたいか?のうのう、知りたいのか?大蛇丸とやらにカブトやら」

 

面白くなってきた、彼女の表情を言い表すのならその一言に尽きる。

なんだ、外見年齢相応の反応もするのかと頭の端で若干の安心すら覚えた。

当の本人は、実験台の上に伸ばした足をぱたぱたと揺らしながら、ずいっと自分たちに顔を近づけて一層笑みを深くする。

長すぎる袖丈で隠れた手で実験台の縁を掴みつつ、これから友人でも驚かすのかというほどにワクワクとしたその表情を浮かべ、言うぞ?言ってしまうぞ?と謎の煽りを投げかけてきている。

まあ、どちらにせよ僕達がこの子の正体を知りたいのは事実であるからにして

 

「知りたいから、教えてくれるかい?」

 

そう声をかけてこちらも苦笑すれば、目の前の少女は得意げな表情を浮かべて

 

「しょうがないのう若人たちよ……まずは儂のことから明かそうか」

 

しょうがないと言いつつも、至極嬉しそうに見えるのは気の所為だろうか。

それに、聞いて驚くな!とテンション高めな前置きと共に立ち上がり、実験台の上で謎のポーズを決めると、彼女は声高らかに告げた。

 

「儂はの!"樹"なのじゃ!」

 




一応立ち絵及び表情3種
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