そこのたなのリンゴとってリンゴ   作:鳧三

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この物語の大蛇丸様の対応が結構優しくなってる気がしますがどうなんでしょう。
使えるものや弟子に対しては誠意と優しさを向ける人だと勝手に解釈しています。

今回は中忍試験から数週間前くらいの時間軸で「シンキングタイム」を主体に。


中忍試験前編
恨み恨まれ恨むとき


 

「枝付き、そこの試験管とってくれるかしら」

「おうおう、これかの」

 

あれから数日の時が経った。

私たちと交渉してきた謎の少女は今、自分の探りたい情報のために、私たちと共に行動している。

名前を聞いていなかったため、これから呼ぶには不便だろうとあの日に名前を尋ねてはみたものの、本人は少し首を捻った後

『お主らのような"自身"を表すような呼び名は本来持っておらぬな』

と少し困った表情を浮かべていた。

それはもともと彼女自身が"樹"という概念だからだろうか。詳しいことは未だに分からないが、名前が無いのはこれから不便なので当人に何と呼べばいいのかを聞いてみたところ、数秒首を傾げたのちに自分の枝を柔く撫でて『"枝付き"で良いぞ』と満足げに頷いた。

 

その日から、彼女を呼ぶ時は「枝付き」と呼んでいる。

 

そして枝付きは、こうやってよく助手のようなことをしながら私たちの実験に目を輝かせるのが日課となった。

数千年も生きていると自称しているが、全てのことを知っている訳では無いらしい。

しかしごくたまに、私が太古の忍術や技術を参考にした術の研究書を覗いては『惜しいのう』だの『今もこの術は健在なんじゃの』と呟いているあたり、本当に大昔のことについては知識があるようだった。

その度に『どこが惜しいの』と聞いてみると、無言で箇所を教えはするものの具体的な部分は話さない。本人曰く『言ってしまったら、大蛇丸の持ち前の探究心を貶すような気分になるからの』と頬づえをつきながら首を振っていた。

本心ではどう思ってそう言っているのかはわからない。

 

『そもそも儂の方など元は"そっち"にあまり知識が無い』

 

そっち、とは本人曰く忍術や幻術、仙術のことらしい。

全て受け売りじゃ、と話す彼女はいくら数千の時を生きようと知ることに興味が湧かなかったそうで、私にはそれが理解し難かった。

 

「ねえ枝付き」

 

私の混ぜる薬品の中身を熱心に見つめる白い頭に向かって声をかけてみる。

んー?と話半分といった反応が返ってくるがそのまま問いを投げかける。

 

「今まで数千年も生きてきたのに、何故全てを知ろうとしなかったの」

 

ふい、と徐にこちらを見上げる顔は眉根を寄せたもので、いつかのあの"一瞬の表情"と同じそれだった。

あの時は私の目から視線を離さなかったが、今回は何故かすっと視線を外して私の手元の試験管に戻す。

少しの沈黙の中、透明だった試験管の中身が黒く濁り始める。

 

「儂が実質この姿で動くことができたのは、かれこれ十数年程前のことじゃ……まあ数千年もこの地上を動き回れたのなら、大蛇丸の言う通り"何でも"知ることも、色々なことを改めることもできたであろうにな」

 

枝付きはそう呟くように答えると、試験管の中で揺れる黒い濁りを見つめながらククッと自虐的な笑みを浮かべる。

つまりはその数十年、彼女はほぼ動くことを許されないままでいたというわけか。

言い換えれば、枝付きに数千年の思い出などという明るさの蓄積などはなく、数千年もの間彼女が積み重ねてきたものは、内に秘めた歯痒い恨みとブランクだけだったということだろう。

まるでこの試験管の底に沈んでいく黒い濁りのように。

 

「"恨み"というものは恐ろしい そして同時に驚くべきものでもある―――丁度儂のようにの」

 

そしてまた自分の枝へと手を伸ばして、何かを堪えるように口を引き結ぶ。

 

「……お主にも心当たりは無いかの?"恨み"で自分というものが変わっていったような、そんな出来事が」

 

その言葉に、かつての自分を思い出せは「無い」とは言えなかった。しかし「有る」という言葉も口から出ることは無かった。

両親の死、三代目火影の顔、波風ミナトの顔……そしてこの先起こすつもりである「木ノ葉崩し」のこと……それらが次々に頭を過ぎっていく。

無言で手を止めた私に対して枝付きはぽつり「すまんな」と私に声をかけて目を伏せた。

 

「いいのよ、恨みで人が変わるのは世の常」

 

フッと薄く笑みを浮かべながら再び試験管を揺らせば、沈殿した黒いものが再び浮き上がる。

そして試験管の中身が黒く染まった。

枝付きはそれをじっと見つめるだけだった。

 

 

■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■

 

 

 

この数日間でわかった「枝付き」という少女について少しまとめてみようと思う。

まず齢は数十年を超えているが外見は10歳児程でしかないこと。

明確な「名前」を持っていなかったこと。(本人曰く"概念を表す名前"であればあるらしいが教える素振りもない)

そして自身は人間ではなく"樹"であること。(付喪神という可能性?)

どうやら不老不死であること。

傷はどんなものでもその日のうちに修復すること。(人間では致命傷のものだとしても回復する)

食事や水分の補給は無くても生きられるということ。(食べることは可能)

日光に当たるのが好きであること。(自称"樹"ゆえかもしれないが、食事や水分同様、必須ということではないらしい)

"世界の真の始まり"というものを知っていること。

チャクラを練ることはできないが、その代わりに相手のチャクラや術が発動するためのチャクラなどを「吸収」することができるということ。(冥遁に近いのかもしれないが、チャクラを使えないということから別の性質のものではないだろうか)

素手を頑なに出そうとしないこと。

相手のチャクラの性質を感じ取ることができるということ。

とある人物を心底恨んでいること。

そして、僕達に協力を乞いてきた情報が、その人物についてだということ。

そしてその人物というのが

 

「大筒木カグヤ」という人物であること

 

何となく彼女の正体が見えてきた気がする。

しかし、その仮説だと矛盾が色々と生まれてくるため、一概に正解とは言えない。

今は木ノ葉崩しのために準備をしている中ではあるが、その間にこうして枝付きについて整理しているのは、推理ゲームのようで面白いからというのもある。

 

かつて大蛇丸様が忍術の研究のためと、太古の昔のチャクラや忍術、その起源などを調べた文書を見せてもらったことがある。

一説によれば、ある所に「神樹」というものがあり、その樹に実を結ぶ「チャクラの実」というものを巡って人々が争い続けた。

しかしその人々の中で、ある1人がそのチャクラの実を食べることでチャクラを操り、強大な力を得て、人々を治めたらしい。

 

そしてそのチャクラの実を食べた1人が「大筒木カグヤ」であるということも知った。

そしてそのカグヤが産み落とした二人の子供、名をハゴロモとハムラと言ったか、特にハゴロモの方は忍の祖と言われた「六道仙人」であるということも書かれていた。

そしてチャクラの実を奪ってしまったカグヤを恨んだ神樹が化けて十尾となったが、息子のハゴロモとハムラが封印をして大団円だという話だった。

しかし、本当に千年は昔の話……もはや神話に近いものであるのに、なぜ今更になってこの「大筒木カグヤ」を枝付きは探しているのか。

この話を聞かせて、もうこの世界にはいないのかもしれないよと言ってみたが、彼女はその物語を聞いた時点で『何じゃその話、ふざけすぎであろうが』とかなり立腹していた。

彼女曰く『嘘っぱちな上に神樹が全て悪いみたいではないか』と。

 

『悪いのは全てあの一族のうちのカグヤじゃ……おのれカグヤ』

 

許すまじ、と恨めしそうに顔を歪めてそう吐き捨てた彼女の殺気は、その場の空気すら押しつぶすようなくらいに重く禍々しいものだった。

こちらの魂すら潰せるのではと錯覚してしまうほどに。

しかしその言葉には彼女が何であるかを推測させるに十分ではあった。しかし推測に過ぎない。矛盾も有り余っている。

しかし、その『嘘っぱち』という言葉が矛盾の鍵なのかもしれない。

 

 

……そんなことを思い出し考えながら木ノ葉の里の中を調査していれば、いつの間にか日も暮れてきていた。

 

あと2週間もたてば、中忍試験が始まる。

つまりは「木ノ葉崩し」の前段階が始まるのだ。

その間は自分も中忍試験に混ざって動くため、しばらくは情報収集に当たれないだろう。

枝付きには我慢してもらうしかないだろうが、それよりもその間、彼女をどこに置いておくべきだろうか。

……まあいいや、帰ったら大蛇丸様と話し合おう

 

そうぼんやりと疲れた頭で考えつつ、僕は印を結んで姿を消したのだった。

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