そういうことです
「……どうしたのそれ」
朝一番、大蛇丸様のその言葉で今日は始まった。
珍しく驚いた表情をしている大蛇丸様が指さす先、そこには寝起きたばかりで眠そうに目を瞬かせている枝付きがいて。
髪色白、目の色緑、背丈はそのまま、枝も生えている。実もなっている。
なんだいつも通りじゃないか……
「っていつも通りじゃないよどうしたんだいその実」
「実?」
「その枝になってるやつだよ……リンゴ?」
くぁ、と欠伸を零しながら彼女が触っている自身の枝の先、そこには昨日まではなかったものが一つくっついていた。
形容するならリンゴ。
というかリンゴそのものだ。
しかしサイズが明らかに小さすぎる。
さくらんぼの果実ほどしか大きさがないのだ。
一瞬作り物かと思ったが、あまりにも自然に枝についていて違和感を感じることができない。
大蛇丸様と同じようにただ驚くことしかできないまま、枝付きの袖先が件の果実に行き着いたのを見ると「それだよ」としか言えない。
これで「これ、お洒落じゃよ」などと言われたら色々な意味で悩む。止めさせるべきか悩む。
「ああ、これか」
眠気でぼんやりとした表情のままうんうんと頷く枝付き
掴んでいる手の内で枝から実が取れていないあたり、本当に実がなっているらしい。
やっぱり樹だから実もなるのかなどと思っていた時、ブチリ、と何かが千切れる音がした。
「大蛇丸、かえす」
てくてくと大蛇丸様に歩いていく枝付きの枝には、もう果実が無くなっていた。
どうやら自分で引き千切ったらしい。
その一部始終を見ていた大蛇丸様の前に立つと、そのリンゴのような極小の果実を彼の手に置いて「すまんの」と付け加え、そのままUターンして部屋を出ていこうとする。
「えっ、いやちょっと待ちなさい枝付き」
「えっ」
どことなくやりきったという感じに達成感のある表情をした枝付きを大蛇丸様が止める。
振り返った彼女は頭に「?」を大量に生産しながら「どうしたんじゃ」と問いを返した。
いやいや、さも日常的に当たり前のことをしたような、人から借りたものを返した後のような雰囲気を出さないで欲しい。
そんな枝付きに大蛇丸様が渡された実を翳しながら首を傾げる。
「これ、何の実なの」
「え、お主のチャクラ」
「えっ?」
思わず僕が聞き返した。
「だから大蛇丸のチャクラ」
この間吸ってしもうたやつな、と少し申し訳なさそうにしているのはいいが、こちら二人がそっちの道についていけていないのをまずは理解して欲しい。
とりあえずどういうことだよ。
そういうわけで、朝から三人でテーブルを囲み事情聴取を開いている。
「数日前、大蛇丸が儂を口寄せの蛇で縛った時があったじゃろ」
「いきなり口寄せが解除されたあれね」
うむ、と一つ頷いて、手元の湯呑のお茶をズズっと啜る枝付きから感じる老齢さにも慣れてきた、気がする。
ふう、と湯呑を置いてまた話を再開する枝付きによれば
「あの時、口寄せ解除のために大蛇丸のチャクラを吸ってしもうたからの」
「ここに集めて実にして返した」
ここ、と自分の枝を指し示して言葉を並べる。
ちなみに賞味期限は1ヶ月だから気をつけての、だそうだ。
最後に彼女は大蛇丸様と僕に向かって、ニコッといい笑顔とともに親指を立てる。
「あれじゃ、『きゃっちあんどりりーす』ってやつじゃな!」
「そんな釣った魚を海に返すような言い方はやめなさい」
呆れ気味にそう言ってはみたものの、この議論の本来の目的が全然果たされていない。
「そもそもなんでチャクラを返したの?吸収したらそのまま自分に使えばいい気がするけど」
指先で「チャクラの実(?)」を転がしながら問いかける大蛇丸様は「これ食べられるのかしら」と最後にぼそっと呟いていた。僕も興味はあるが流石に食べるのは気が進まない。
実で遊ぶ大蛇丸様を見ながら頬づえをつく枝付きはそうじゃなあ、と一言置いて
「お主ら人類に広まっているチャクラと儂のチャクラは正反対だからの、水と油のようなものじゃ」
「使おうにも使えぬし、第一儂自身がチャクラを練ることが不可能なんじゃ」
どういうわけかは知らんがの、と肩を竦めてみせる。
「本来なら普通に大蛇丸にチャクラを返すことも可能であったが……これで儂が樹だという裏付けが強くなるかもしれんと思うてな」
そしてそのまま背筋を伸ばすようにうーんと伸びをすると、ニヤリとした笑顔を浮かべて
ま、ちょっとしたドッキリじゃよ、と最後に付け足した。
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「神樹、ねえ」
「今はその可能性が一番高いと思いますよ」
日光にあたりに行ってくると枝付きが席を外したあと、私はカブトの見解を黙って聞いていた。
確かに、あの伝説の"神樹"であれば、あの子が「大筒木カグヤ」を恨む理由も、あの頭の枝もわかる気がする。
でも
「神樹なんて封印されたはずじゃなかった?」
「そこなんですよ問題は」
術の研究にと色々と調べた際に「チャクラの実」の伝説を目にすることがあった。
しかしカブトも言うように、神樹は六道仙人こと大筒木ハゴロモとその弟ハムラに封印されたはずだ。
なぜ今更になって復活をしたのか、どうやって復活したのか、辻褄と理由が見つからない。
「その伝説について枝付きに話した時、彼女はそのことを"嘘っぱち"と言っていました。そのことを考えるとつまり」
「……その起源の伝説が偽りで、あの子が必死に探している『大筒木カグヤ』がその原因かもしれない、そういうことね」
はい、と頷くカブトはテーブルの中央に転がる「チャクラの実」を見つめている。
リンゴのなりそこないのような小ささであるそれをもう一度手に取って眺めてみる。
「禁断の実」
その言葉が頭を過ぎる
「……私のことを"知識欲の強い人間"だと理解しているのに、自分のことを"樹"だと信じて欲しいからってこうも目の前で『チャクラの実』なんて作る?」
「一度チャクラの実を取られているのに、もしそれで恨んでいるのだとしたら、人間の私たちにこの実を見せるのはハイリスクだわ」
だって、そのチャクラの実欲しさに争いが起こって、最後には自分はチャクラの実を盗られているというのに。
「そんなものを見せて、私たちがチャクラの実を奪い取るかもしれないという発想を神樹がしないなんて思えない」
チャクラの大元なのだから、馬鹿ではないはずだ。樹だから一概に言うことはできないであろうが。
「それに、先程までのやり取り……」
ふと、カブトが顔を上げる。
眼鏡の奥の瞳は蝋燭の光で見えはしないが、唸るようにそう言ったカブトの頭の中はきっと今さまざまな情報が飛び交っているのだろう。
「何か引っかかるんですよ」
「そうね、例えば」
「『人類に広まっているチャクラと自分のチャクラは正反対』」
相容れないと、彼女はそう言った。
この言葉も何を意味するのかはまだわからない。
謎は深まるばかりだ。
しかし同時に面白いとも思う。
目的が果たされたのなら特殊な献体も手に入るのだから、情報収集と推理くらい早く済ませてしまおう。だが、
「……まあ、その前にこの話は『木ノ葉崩し』が終わってからまた詳しく話しましょう」
「そうですね、まずは中忍試験ですし」
そう、もうすぐ中忍試験が始まる。
そのためにも準備を進めていかなければならない。
そして"うちはのひよっこ"の体も手に入れなければならない案件である。
それもこれも自分の忍術のため。
しくじったりなどしない。
……三代目よ、その老いぼれた身体でせいぜい苦しむがいいわ
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朝焼け。
目を焼くような光を若草色の瞳に映し、"枝付き"はいた。
その顔は何かを思い詰めたような、何かを心に決めたような、そんな表情で
小さく彼女の唇が開く。
「まってて、十尾」
ごめんね、と
誰かに言い聞かせるようなその言葉は、朝霧と共に消えていった。