そこのたなのリンゴとってリンゴ   作:鳧三

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君麻呂君の狂信者ぶりをもっと書きたいというのもこの物語の目的でもあったりなかったり


もしかして毒リンゴ

ざわり、と風に揺れるその音は声。

決して届かない声。

 

やめて、やめて

それを奪わないで

それは人が手にしてはならないもの

それは、だいじな―――

 

 

■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■

 

 

「君はしばらく休んでいた方がいい」

「ですが」

「そんな身体では無理だ。今のままでは大蛇丸様の足でまといにしかならないよ」

 

君麻呂君、とベッドに横たわる彼の名前を呼べば、明らかに血の気の失せた青白い顔が歪み、小さく「わかりました」と返事が返ってくる。

長くはないな、最近彼を見るたびにそう思うようになってきた。

不治の病を患う彼は、数日前からとうとう血を吐くようになった。僕が調合した薬で進行自体は遅らせているものの、息を引き取る日はそう遠くはないだろう。

いざ何かがあった時に使えなければ意味がないと、今は体力を温存させてはいるが、彼の体力は穴の空いた風船のように、どんなに休ませても綻びから抜けていってしまう。

そんな状況だった。

あと数日で中忍試験が始まる。

僕自身が彼の容態を診られない日々が数日間は続くということだ。

困った。大いに困った。

大蛇丸様が"うちはの彼"を求めたあたり、もう君麻呂君の体に興味は無いようだが、僕も医療忍者の端くれ。必要最低限のことはしていきたい。

薬のストックはある。問題は食事や生活のことだ。

音の五人衆に頼んでも、あまり関係性が良好ではない彼らとこの病人のことを考えると「無理じゃないか」と思えてくる。

音忍も今回の中忍試験に連れていくわけだし、割ける人員が殆どいない。

残りの人員をあてたとしても、君麻呂君が大蛇丸様を求めて脱出を図ろうとしたときに足止めにすらならないであろう、そんな奴ばかりだった。

 

どうしたものか

 

「カブトーーどこじゃー」

 

部屋の外から聞こえてきた声にはっと意識を戻される。

どうやら枝付きが僕のことを呼んでいるようだった。

 

「あの声は……?」

「ああ、君麻呂君はまだ会っていなかったね」

 

未だ謎だらけの彼女を病人に会わせるべきではないと思っていたから、まだ彼のことは隠していた。

なぜなら彼はあの「かぐや一族」

大筒木カグヤに関係があるのではないかと勘ぐっていたため、カグヤをこれでもかと怨嗟している彼女を迂闊に近づけて彼に何かがあったら一大事というわけだ。

彼の世話係には一番不適切だと言っていいだろう。

 

君はまだ会わない方がいいよ、と彼に苦笑を浮かべ「今行くから待ってて」と廊下にいるであろう枝付きに呼びかけておく。

もう一度君麻呂君に向き直り、側の台に丸薬を置いておく。

 

「じゃあ、安静にしているんだよ「カブトここか」って枝付き!?」

 

 

くいっと僕の袖が引っ張られると共に聞こえた声に振り向くと、僕の驚きようにきょとんとしている枝付きがいた。

気配すら感じなかった。

そもそも感じ取れるチャクラがこの子にない。

当初から思っていたことだが感知できるチャクラが存在していない。彼女の言うところの「相容れないチャクラ」同士だからだろうか。わからない。

 

「カブト、カブト、頼まれてた薬草全部すり潰し終わったぞ」

「あっ、ああ、ありがとう枝付き、よし早く行かないとね」

 

とりあえずこの部屋から枝付きを出さなければ。幸い僕の身体で彼のことは見えなかったようだったことだし。

そう思った僕の手は枝付きの肩を掴んでUターンさせようとして空ぶった。

 

「お主、」

 

いつの間にそこに行った

しまった、と思った時にはもう遅い。

音もなく気配もなくベッドの横に立っている枝付きの背中がそこにあった。

表情はこちらから見えない。

 

「カグヤのような気配があるからここらを彷徨ってはいたが……」

「……誰だ」

 

枝付きの姿を瞳に映した君麻呂君が身構える。

初めて見る顔、そして先程の一瞬の動きにただならぬ雰囲気を感じたのか、屍骨脈を使おうとしているため慌てて枝付きの肩を後ろに引っ張って距離を置かせた。

 

「待て待て二人とも、君麻呂君は病人なんだからやり合うのはやめてくれ」

 

その言葉をかけて初めて枝付きがこちらを見上げる。その表情はいつも通りのもので、何か事を起こすような雰囲気は感じられなかった。

 

「……?何もやり合うつもりはないぞ?此奴はカグヤではないであろう」

 

カグヤのチャクラをかなり濃く感じ取れるし見かけもなかなかに似ておるがの、と肩を竦めると君麻呂君に顔を向けて

 

「さしずめカグヤの子孫か 初めましてかの」

「……だから誰なんだ」

 

警戒感たっぷりといった様子で威嚇する君麻呂君は例えるなら野良猫だ。

そんな野良猫に遠慮なく近づく枝付きはさしずめ近所の子供といったところか。

あ、これ戦闘とか起きないな

どうやら自分が思い描いていた惨状は杞憂に終わるらしい。

 

「儂はの……"樹"なのじゃ!」

 

初めて僕らとあった時と同じ、弾んだ声でそう言えば、君麻呂君の顔が疑問を浮かべた表情に変わる。は、という疑問形の言葉と一緒に。

 

「しかし今は"枝付き"と呼んでもらっておるからの、宜しくな君麻呂とやら」

 

構えられている君麻呂君の手をガシッと掴むと握手のつもりなのかブンブンと上下に振り始める。

対する君麻呂君はぽかんと呆気にとられた様子だった。

僕も呆気にとられていた。

 

 

■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■

 

 

突然目の前に現れた少女はこう言った。

自分は"樹"だと。

増血剤を飲んだことでやっと回り始めた頭を使って考える。

 

「カグヤ……」

 

今は亡き自分の一族。いや、その意味合いで彼女……枝付きは言ったわけではないだろう。

カグヤの子孫かと、そう言っていた。

あの一族での殆どを牢で過ごした僕には自分の一族がどのような系譜なのか、どんな一族なのかあまりよく知らない。

ただ、大蛇丸様が欲しがるような血統であるということ。それだけはわかる。

そう、それだけでいい。

大蛇丸様の力となれるならそれで……

 

「ゲホッ、っぐ…ッ」

 

こみ上げるような息苦しさとともに吐き出した咳に息が詰まる。

痙攣するように震える脇腹が悲鳴を上げ、泥でも詰められているのかというほどに機能をしない肺が重い。

長くはない。そう思う。

この病が無ければ、大蛇丸様は僕を"器"としてくださったことだろう。

たとえ"器"となれずとも、大蛇丸様の盾にも武器にもなれたことだろう。

この身体に生まれたことを喜ぶ反面、心の底から恨めしくもある。

 

口元を押さえる掌と喉奥にぬるりとした鉄の味を感じながら、僕はため息をついた。

 

 

■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■

 

 

「かぐや一族、のう」

 

カブトの肩を叩きながら納得したような表情で頷く枝付き。

どうやら君麻呂と顔を合わせてしまったらしいが、カブトの話に拠れば何事も無かったようだった。

今は彼の来歴について簡単に説明し終わったところだ。

 

「ところでなんでカブトの肩叩きしてるの」

「え、大蛇丸も凝ってるのか?蛇って肩凝らなそうじゃけど……」

「論点が見事にズレてるわ」

 

え?と首を傾げる枝付きがトントンと肩を叩いているカブトは「あーそこ、やっぱり結構凝ってるな僕」なんて気持ちよさそうに目を細めている。

歳と外見とを差し引いて、その様子はさしずめ「孫に肩叩きをしてもらっている祖父」のような構図だった。

 

「枝付き、すっかりカブトに懐いてるわね」

「いや、カブトの肩が日頃の研究やら何やらでなかなかに凝り固まってるっぽくての、チャクラの流れが悪くなったら中忍試験とやらで攣ったりするかもしれんと思うて」

 

ま、カブトほどの実力なら攣っても問題なさそうじゃけどの、医療忍者だし

と話す彼女にカブトが苦笑する。

 

「大蛇丸もカブトもその他数名もいなくなるから儂は大人しくしておるよ」

「その間脱走でもされたら困るわね」

 

困るというより消さなければならなくなる。

私のため息に「あー無理無理」という言葉が首を横に振るモーションと共に返ってくる。

 

「大蛇丸たちの調べた文書やら文献やら、調べ終わってないものが山ほどあるんじゃ」

 

カブトの肩から手を離した枝付きがストンと椅子に腰を下ろす。

難しい表情を浮かべながら考えを巡らせている彼女にカブトが、あ、そうだと思い出したように顔を向ける。

 

「君麻呂君のことなんだけど」

「んん?」

 

視線だけをカブトに向けてテーブルに頬づえをつく枝付き。

そんな枝付きを一瞥した見据えるカブトは咳払いを一つして

 

「大蛇丸様、僕達が不在の間、枝付きに君麻呂君を看てもらっていてはどうでしょう」

「なるほどね、枝付きも気になってるんでしょう?君麻呂のこと」

 

先程から悩むような表情をしていた原因は君麻呂のことについてであろうと思っていた。

そして案の定、枝付きはうむ、と頷きを返してくる。

そして頬づえを解くと、こちらに顔を向けて私の名前を呼んだ。

 

「しかし君麻呂とやら、長いこと無いのであろう」

「そうよ、だから彼の代わりを今回のついでに手に入れてくるの」

 

不屍転生か、と頷いた枝付きの表情は何かを考え込んでいる様子で、それがどうしたのと問いかければ、ううむと小さい唸りが返ってくる。

少しの沈黙。

 

「……ならもう君麻呂は要らぬのか」

「……もしかして酷い扱いだとか非難するのかしら」

 

枝付きも善に酔うような人格だったのかと軽く失望したと同時に驚いた矢先、いや、という遮りが来る。

 

「……君麻呂のことを儂に譲ってはくれんか」

 

私とカブトは息を飲んだ。

 

「もしかして、あのかぐや一族だから?」

「まあ、の。なに、殺しはせん」

「いや、まあ看病してほしいとは言ったけれど……一体何するつもりなんだい」

 

カブトのその問いにうん、と頷いた彼女は私から視線を離し壁の蝋燭を見つめながらこう返した。

 

「試したいことが出来た」

 

真っ直ぐに見つめるその瞳はしかし蝋燭ではないどこかを、何かを映している。

それはあの"一瞬"の色ではない何か。

それが何なのかは読むことが出来なかった。

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