オーバーロードSS 『ナザリック狂詩曲』    作:kairaku

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『ナザリック狂詩曲』 その2

ナザリック地下大墳墓 第九階層

 

 

その日マーレはデミウルゴスに呼ばれていた。

 

指定された場所である第九階層のバーカウンターに予定された時間より早く着いたマーレはキノコ頭の副料理長に挨拶するとバーカウンターの奥の椅子に座る。

 

副料理長はニッコリ――彼の顔ではそういうことになっている表情を見せると慣れた手つきでグラスにリンゴジュースを注ぐ。

マーレは礼を言うとリンゴジュースをちびちびと飲みながらデミウルゴスを待つ。

 

今回のデミウルゴスの呼び出しには事前に姉(アウラ)には秘密でと伝えられていた。

何やら重大そうな話で正直不安だ。デミウルゴスの話だからナザリックにとって重要な話なのかも知れない。

 

またアインズ様に捧げる有益な計画を立案したのだろうか。

もしそうなら自分はそれに従い一生懸命頑張るだけだ。

 

自分の存在はただ至高の御方の為にある。そこに何の疑念も無い。

バーの雰囲気に誘われてかそんな物思いにふけるマーレ。

 

しばらくして約束の時間ピッタリにデミウルゴスが現れた。

 

「やぁマーレ、待たせてすまないね」

 

「い、いえ平気です」

 

デミウルゴスはマーレの横の席に座り、副料理長に目線で合図する。

副料理長も心得えおりスナップを利かせシャカシャカとシェイカーを振るう。

やがて軽快な音が収まり、グラスに鮮やかな真紅のカクテルが注がれる。

 

「それじゃまずは乾杯しましょうかマーレ」

 

「え、えっと、何にでしょう?」

 

「そうだね。コキュートスと飲む時もそうなんだが……至高の御方々に」

 

「――はい! 至高の御方々に!」

 

軽く音を鳴らし互いにグラスを飲む。

紅いカクテルを上品に傾けて飲むデミウルゴスは様になっていて大変格好いい。

副料理長も満足気である。

 

「仕事はどうかなマーレ?」

 

「は、はい。基本は第六階層の守護ですが、たまに姉に頼まれて外の要塞造りを手伝ってます。あとはアインズ様の御命令で重要な伝言を伝えたり誰かを手伝ったり……」

 

マーレは仕事を思い出すうちに嬉しさを押さえられないといった感じで口元を緩ませ思い出にふけ、ハッとする。

 

「す、すみません。僕がアインズ様にご報告する度に、アインズ様が優しく声をかけて下さるのが嬉しくて……それを思い出して……」

 

うんうんとよく分かるといった様子でマーレの話を聞くデミウルゴス。

 

「私もアインズ様にお会いするたびにアインズ様の器の大きさを実感するよ。私などの身を案じて、お慈悲ある言葉をかけて下さったり、私の仕事において何かと都合させて頂けたり……」

 

デミウルゴスとマーレは互いを見ると自らの最高の主人に向け乾杯する。

グラスの飲み物はこれ以上ないほど美味しく感じた。

 

しばらくアインズ関連の雑談、ほとんどがアインズを褒め称えたものが続いたが、一息ついた時マーレが口を開いた。

 

「あ、あの、それでお話というのは?」

 

「んん、まぁ正直なところそれほど重大な話ってわけではないんだ。呼び出しておいてなんだがね。……アウラの様子は最近どうだい?」

 

はぁと伺うようにデミウルゴスを見るマーレ。デミウルゴスにしては歯切れが悪い言い回しだ。

 

「お、おねえちゃんですか?……最近特に変わった感じは……ありません」

 

デミウルゴスは「そうか」と呟くと何やら考えこんでいる。しばしの沈黙にマーレが不安を覚える。

 

デミウルゴスが何度かグラスに口を付けると重々しく口を開いた。

 

「……今メイド達の間である噂が流行っていてね――『アインズ様がアウラに告白した』というものだ」

 

「え、えぇーー!!??」

 

普段のマーレからしてみればかなりの大きな声を上げ驚愕の表情を見せる。

 

「ほ、ほんとなんですか!?」

 

「それを確かめる意味を込めて君に聞いてみたのだがね。メイド達の話を聞くに真実みたいなんだ」

 

マーレは開いた口が塞がらない。姉がアインズ様に告白された。

それはつまり姉はアインズ様のお嫁さんになるってこと?

いや違うそうと決まったわけじゃない。告白されたってことは好きって言われたってこと。愛してるってアインズ様に言われて――

 

「――――羨ましい」

 

「えっ?」

 

「い、いえ! しかしそれはその……大変なことなんじゃ……」

 

不安そうに尋ねるマーレに対し、デミウルゴスは少し意地悪気な顔をして大袈裟に肩をすくめる。

 

「いーや。話を色々聞いてみて察するに――アインズ様のアウラに対しての告白というのはあくまでただの慈愛の御言葉。子供に対する大人の愛情でしょうね」

 

デミウルゴスの言葉の意味を慎重に考えて、デミウルゴスのおどけた態度を考えて……。

ようやく冗談だと気付く。

 

ふにゃふにゃとカウンターにうつぶせるマーレ。ホッとしたような残念のような複雑な気持ちを溜め息で出す。

 

「ハッハッハッ、驚かせてすまないね!」

 

「び、びっくりしました……」

 

小さなドッキリを成功させ悪魔らしく上機嫌なデミウルゴスだったがそれもしばらくの間で

眼鏡に手を触れると表情を変えるように眼鏡を直す。

 

「噂の内容自体は他愛無いものです。よく聞けば冗談のたぐいと分かりますし、アインズ様とアウラの微笑ましい話です。……だが噂を聞いた中には本気に捉える者もいるかも知れません」

 

マーレの頭に約二名の守護者が現れマーレの頭の中で盛大に暴れる。

デミウルゴスも同じ想像をしているのか頭痛を抑えるように頭に手を当てる。

 

「だ、大丈夫でしょうか?」

 

「まだ何も動きがないから二人はまだ知らないのだろう。特にアルベドに知られてないのは幸いだ。正直放っておきたいところだが、最近の統括殿の行動を見ると……忠誠心と能力は疑わないのだが」

 

デミウルゴスは不満を飲み込むようにグラスを傾ける。

 

「とりあえず噂をこれ以上広めないようにメイド達にやんわり言っておいた、変に口止めして噂に『尾ひれ』がついてはたまらいないのでね。厳禁にはしてないからいずれアルベドやシャルティアの耳にも入るだろう。なのでこちらから先に手を打つ」

 

「て、手を打つ?」

 

「コキュートスには既に了解を取ってある。あまり乗り気じゃないがね。マーレにも協力して欲しい」

 

デミウルゴスの策だ、悪いことにはならないだろう。マーレは頷き了解した。

 

 

こうしてナザリック内で起こる狂詩曲は静かに始まった。

 

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