あの大地はかつて、大きな揺れの大火によって焼かれた。
「ははっ、そいつはまた大層な願望だ」
あの大地はかつて、数々の英雄の足跡を残した。
「おっさんはそう笑うけどな、私は割とマジだぜ?」
あの大地はかつて、その悪しき伝統を壊された。
「なるほどな。だが嬢ちゃん、あんたロックスターにでもなったら、そのセリフで一稼ぎでもできるんじゃないか?」
それで良かったのだ。私はそれで全てがうまくいくと思っていた。
「私は金にも名声にも興味は無い。言い続けるぜ」
しかしかくも、人類は愚かである。それを大きく確信するには、六十年という年月はあまりに長すぎるのだ。
「私は…」
愚かさを正すには、人間以上の、大きな力が必要だ。私は、その大きな力を自ら作ることを決めた。神には頼らない。人間だった私が彼等を断罪することにこそ、意味がある。
「…私は、」
いざとなれば、この星など軽々と粉砕できるほどの大きな力を作るのだ。作った力のやり所に困らないように。そう、私の願望は、
「人類を掃除する」
***
母が死んだのは、もう何年も前のことだ。
大好きな母だった。綺麗で、強くて、優しくて、娘の私を全力で愛してくれた母だった。
そんな母は、訳の分からないまま死んでしまった。私には事故なのかも他殺なのかも、はたまた自殺なのかも全く知らされなかった。
棺の中に母の遺体は無かった。決して弱みを見せないのが彼女だったので、最期までみっともない姿を私達に見せたくなかったのかと考えれば、少し寂しさが和らいだ。
しかし医者が言うにはこの感覚は「寂しい」なんてものではなく、もっと深刻な精神疾患らしい。私は高校へ通えなくなった。勿論高校に仲の良い友人はいたけれども、母の死が学校中に知れ渡ってからは、皆私と接するのを酷く遠慮した。
どうやらそういった疎外感が「寂しい」感覚を精神疾患にまで悪化させたらしく、私は人とコミュニケーションを取るのが億劫になった。毎日薬を飲んで、精神科病院に通院する以外は部屋に引きこもるだけの生活。
何せここは大きな地方都市、冬木だ。ここ一帯はまだ古めかしい地域だが、外に出れば人に出くわさない時はない。確かにこういった治療に際して田舎に引っ越せればよかったものだが、如何せん父が冬木にオフィスを構える企業に勤めている。同じショックを受けながら私の生活を支えてくれている父だ、背に腹は替えられない。
こうして部屋に篭ってモニターばかり眺める生活も楽なものだが、この先は不安なままだ。いつまでもこんな生活が続くわけがなく、私の心の病とやらは少しずつしか回復していない。
こんな金食い虫にまで成り下がって、私が生きる価値はあるのだろうか。そう考えたことも何度もあった。しかし私まで死ねば、父は絶対に私のように心を病む。死ぬ。そういった義務感で、何とか生への希望を繋いでいる、そんな状態だ。
毎晩思うのだ、母が死んでさえいなかったら、生きてさえいれば。思っても詮無きことではあるが、しかしこういった願いなくしては、自分の今の境遇に説明がつかなくなる。説明がつかなくなるのは怖い。その境遇の不遇さに絶望してしまう。
しかし私は一方で、実は母は生きているのではないかという憶測をたまに思いつく。母の遺体など見たこともなく、死因も知らされていない。何処か遠くへ行っただけなのだ。そう思うようにしながら、初めは学校に通った。しかし現実は、どんどん私に重い枷を付けていく。
今日もまた、一日を無為に終えようとしている。あとは感情を鎮める薬と、睡眠薬を飲んで眠るだけ。美容院などいけないから、伸ばしっぱなしの直毛は腰にまで達していた。ここまでくると手入れが面倒だ。今度自分でバッサリ切ってしまうか。
部屋を出、台所で水を汲み、錠剤を体に流し込む。覚束ない足取りのまま、部屋に戻った。床にへたりこみ、ベッドに背をつけて、虚空に向けて呟く。
「お母さん、生きてないかなあ」
何とも理不尽な願い。願うことくらいは許してくれないだろうか。訳も分からず母親を奪われる理不尽さを体験したのだから、これくらいは。
「…お母さん、生きててよ」
思わず口に出る。母が生き返るなら、こんな状態でも何でもできる気がした。それくらい、私の人生の中で母の存在は大きかったのだ。
私のこの声を、誰かが掬ってくれたら。救ってくれたら。否、こんなか細い声など、どんな器が掬えよう。
「その願い、本当に叶えたい?」
初めまして、遠色といいます。
ハーメルン様の利用は初めてで右も左もどの次元にいるのかも定かではありませんが、どうかこの私めとこの駄文を宜しくお願いします。ごっつ緊張してるので優しくしてくださいぃ