ほとけには さくらのはなを たてまつれ   作:gomez

7 / 8
<注意>原作ネタバレ、独自設定、独自解釈を含みます。ご注意ください。


6話:動かない大図書館

 ハーブティーとビスケットで美鈴とささやかなパーティをした翌日の昼過ぎ。

 神様も私達のティータイムを歓迎しているかのように、昨日とはうってかわって今日はからりとした天気になった。窓から差し込む日差しはやや強く、少し早めの夏の到来を感じさせる。

 

(本当にすごくいい天気)

 

 

 懐中時計を確認すると予定よりも1時間近く早く起きてしまったらしい。

 よっぽどお茶会が楽しみだったのか、眠気は全くなく既に思考はお茶会でお嬢様に何を話そうかとの話題探しにシフトしている。

 

 

「ん………んぅー」

 

 と言いつつ私は低血圧のため寝起きに強い方ではなく、むしろ弱いほうだ。さっさとベッドから抜けだして準備を進めなければいけない。

 ベットから抜け出してグイーっと体を伸ばしつつ、姿見で寝起きの自分とご対面。

 いつものように冴えない仏頂面に、好き勝手あっちこっちに飛び跳ねた髪の毛の私がそこに突っ立っている。花がらのパジャマに大きなウサギの抱きまくらを持った出で立ちはとてもじゃないが「瀟洒」とはかけ離れている。

 

 いそいそと着替えを始めるが、着替えはメイド服ではなく半袖短パンのスポーティーなもので、寝起きのしまらない顔と気持ちを引き締めるため、屋敷の住人や妖精メイドが活動を始める前にジョギングに出かける私の日課のための服装だ。

 新調したスニーカーに足を通せば幾分頭も冴えてきたようで、自然と外に向かう足取りも早くなってくる。

 

 

「さて、今日も一日がんばりますか!」

 

 門を出て東に走れば、ものの5分で霧の湖のほとりにたどりつく。

 そこから湖を時計回りにグルリと1周回るのがいつものジョギングコースになっている。調子がいい日だと30分を切る程度の距離があるそのジョギングコースを今日も軽快に走る。

 

 太陽が西に傾きはじめ、そろそろ夕焼けになろうとしているこのオレンジ一色の世界を駆けるのは、昔パチュリー様に読んでもらったおとぎ話の一節にそっくりだ。

 

 

タッタッタッタッ

 

 

 一定の間隔で地面を蹴る音と、無心になろうとすればするほど頭にはとめどなくその物語のあらすじが浮かんでは消える。

 

(ウサギを追いかけて不思議の国に迷い込んだアリス。しゃべる動物に卵の伯爵やトランプ、不思議の国でいろんな出来事があって。。。)

 

 

タッタッタッタッ

 

 

(物語の最後がこんな西日が眩しい場面だったわね。玉座の前で馬鹿げた裁判が行われるの)

 

 子供向けのおとぎ話のひとつに過ぎない不思議の国のアリスを、子供の時の私はたいそう気に入ったらしく何度も何度もパチュリー様に読んで聞かせてもらった。あまりに私がその物語を気に入るものだから、何歳の誕生日か忘れたけれど、パチュリー様からプレゼントとして本を貰ったくらいだ。

 

 さすがにここ数年は本を開くことすらしていないけれど、内容はほとんど暗記してしまったようで無意識のうちにこうやってアリスの世界に没頭してしまうことが多い。

 パチュリー様は、私の境遇が主人公のアリスに似ているから気に入ったんじゃないかと言っていたが、それはきっと違う。

 

 私の知っている言葉ではその違いを正確に言い表せないけれど、私がアリスの物語を夢想するときは自分の境遇と重ねあわせている訳じゃなくて、この物語を読むことで感じる得体の知れない奇妙な違和感を確かめているんだと、きっとそう思っている。

 

タッタッタッタッ

 

 

 このアリスを夢想する思考のジョギングは、霧の湖に住み着いた氷精の登場で幕を下ろす。

 子供っぽい少し舌っ足らずで私を呼ぶ大きな声。

 

 

「咲夜! 今日もアタイにご飯をもってきたのか!?」

 

 

 底抜けに明るい笑顔で飛んでくるのがその氷精。名前はチルノというらしい。

 氷の妖精と書いて氷精。字のごとく冷気を操ることができる妖精で、本人曰く『最強』らしいのだけれど、あながち妖精という種族のなかでは本当に最強と言ってもいいのかもしれない。

 というのもチルノは他の妖精と比べると破格の力を持っていて、この広い霧の湖の一面を真夏に氷漬けにするくらいの妖力がある。

 ただ、力の制御ができていないらしく夏でも冬でもチルノの体からは冷気が駄々漏れで、近くにいるだけで結構寒い。ジョギング後で温まった状態でないと風邪でもひいてしまうんじゃないだろうか。

 そんな最強の氷精と私は2年ほど前にひょんなことから交流ができた。

 

 

「違うわ。 いつも言ってるでしょう? このクラッカーはランニングの補給食なのよ」

「? でもいつもアタイにくれるじゃない? 今日はくれないの?」

 

 なぜかチルノは私のことをご飯届け係とでも思っているらしく、毎日この時間になると私がジョギングに持ってきた補給食をねだりにやってくる。

 チルノのこの泣きそうな顔は私の小さな母性を激しく刺激するらしく、私はこの氷精のおねだりを断れたことが無い。まぁ、最初から断るつもりもないんだけれど。

 

「そんな顔しないでもコレはあげるわよ。 私が言いたいのは紅魔館にくればこんなクラッカーじゃなくてちゃんとした食事を用意してあげるってことよ」

「アタイはこっちがいい!」

「はいはい。 そう言うと思って多めに持ってきてるわ」

「咲夜ありがとう!」

 

 小さなランチョンマットを広げて二人でクラッカーを食べるまでがジョギングの一部となっている。

 チルノは淡い青のショートカットに白と青のワンピースを着ていて、7歳程度の容姿をしている。腕白な妹がいるとこんな感じかもしれないな、と少しニヤけながらチルノの話を聞く時間を私は結構楽しみにしていたりする。

 

 

「…それでね、大ちゃんったら凄いんだから! かくれんぼでアタイが隠れてもスグ見つけちゃうんだよ!」

「大ちゃんは凄いのね。 一回あってみたいな」

「うん! 大ちゃんは凄い! でも大ちゃんは咲夜に会えないよ?」

「なんで?」

「えへへ。 アタイにも分かんない!」

 

 

 時折チルノの話には『大ちゃん』『ルーミア』などの友達の名前が出てくるのだけれど、私はそのチルノの友達にあったことが1回もない。

 今回みたいに1回あって話してみたいと言っても、会えない、とチルノは言う。この大きな霧の湖に一人で住んでいるチルノが寂しさのあまり作りだした架空の友達なのかもしれない。

 心配になってパチュリー様に相談したこともあったけれど、子供のときは誰だってそういう架空の友達を作って1人遊びをやるものなんだそうで、私があまりムキになって突っ込まないであげるのは淑女の優しさってやつだ。

 

「そうなのね。 大ちゃんに会えるようになったら教えてね?」

「うん! 分かった!」

 

 

 多めに用意した残りのクラッカーをチルノに渡してから紅魔館に戻る道中、何度か振り返って見るとチルノは私の姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けてくれていた。

 

(ほんと、妹っていうより可愛いペットみたい)

 

 緩んだ顔を隠すようにコホンとひとつ咳払いをして足早に紅魔館に戻った。

 今では、日課のジョギングは寝起きのリフレッシュじゃなくて、チルノから力いっぱいの元気をもらうという意味のほうが大きいのかもしれない。

 

 

 

 私室は美鈴の部屋と違って15畳ほどと広く、さらに自室には備え付けのトイレやシャワー室まで完備されている。豪奢で細かな彫刻がされた家具たちのなかで、ベッドに横たわる大きなウサギの抱きまくらが少しミスマッチかもしれない。

 

 この部屋はレミリアお嬢様が私がメイド長になったご褒美にと譲り受けたものの一つだ。メイドにはもったいないほどの見事な装飾を凝らした家具に広すぎる部屋に対して、最初は気後れして断ったものだがレミリアお嬢様はそんな私の態度に二重の意味でお怒りをぶつけられた。

 

 

──この部屋が豪奢だと言ったか?

──はい。 私にはもったいないほどの立派なお部屋です。

──ここがメイド長の部屋だ。 その身に余る部屋なら、身の丈をこの部屋に合わせろ。

──……はい。

 

──それに、この部屋は私からの褒美だ。 私からの褒美を受け取らないという選択肢はお前にない。 そうだな?

──……失礼しました。 ご褒美ありがたく頂戴いたします。

──そうだ。 それでいい。

 

 

 あの時は怖かった。それこそ視線だけでくびり殺されてしまうのではないかというほどの凍てついた空気は今でも思い出すだけで背筋が寒くなる。

 お嬢様は激情家でよく笑うし、よく怒る。

 特に臣下の者達が下を向いたり、自身を卑下するような態度を取ったときは、それこそ烈火のごとく怒る。

 

 それだけ大事にして頂いているということなのだろうが、やっぱり怖いものは怖い。あの時、レミリアお嬢様からお叱りをくらった後の私は褒美に頂いた部屋の掃除をするため、と嘘をついて半日ほど布団にくるまって震えていた気がする。

 

 ぐるっと部屋を見回してみて、やっぱりこの部屋は私には不釣り合いに豪奢だと感じる。立派なメイド長に成長したとして、私がこの部屋の主に相応しい人間だと誇れるようになる日はくるんだろうか。

 

 

「はぁ」

 

 小さくため息をついて備え付けのシャワー室で汗を流す。

 シャワー室は3畳程度の広さでジャグジー付き。お風呂は1日に2回、夜はゆったりとジャグジーで、朝はササッとシャワーで済ませることが多い。

 特にこの春から夏はハーブが大量に収穫できるため、ジャグジーにハーブを浮かべたり、シャンプーや石鹸にハーブを使ったりとお風呂好きには楽しい季節なのだ。

 

 少し熱めのシャワーで軽く汗を流して、ハーブで作ったボディーオイルを手に取る。これはオレンジの皮とラベンダー、それをオリーブオイルとグリセリン、水で引き伸ばしたもので保湿効果があるだけでなく柑橘系のいい香りがするボディーオイル兼香水だ。

 

 美鈴に作り方を教えてもらったそれを全身に塗ってメイド服に腕を通して姿見を確認するといつもの仏頂面にメイド服を完璧に着こなした私が映っている。

 大丈夫、もう頭も体も仕事モードだ。

 

(まずはビスケットを焼かないといけないわね)

 

 

 私室を出てキッチンに向かうには廊下を東に真っ直ぐ歩いて5分ほどかかるだろうか。途中で出勤してきたメイド妖精に仕事の指示を出していると、廊下をいったりきたりウロウロしている美鈴を見つけた。

 なんだかソワソワして落ち着きがない様子だ。

 

 

「美鈴?」

「はぅあ!! 咲夜さん!?」

 

 予想以上に驚いた声をだすのでこっちまで驚いてしまった。

 

「急に大声ださないでよ。……で、こんなとこでなにやってるの?」

「いや、あのですね……」

 

 

 ニヘーっと笑って頭をかくのは美鈴の照れ隠しの癖だ。

 

「笑わないでくださいよ?」

「うん。 笑わない」

「その、緊張してですね、……何回もお手洗いに行きたくなるんで、お手洗いの前にいたほうが効率がいいかなぁー。なんて」

「……ぷ」

 

 どれだけ緊張していたのか、言われてみれば美鈴ウロウロしていた場所はお手洗いの前の廊下だ。

 

「あ! 笑わないっていったのに!」

「ふふ。 ごめんなさい。 でも、美鈴ったらおかしいんだもの……ふふ。……アハハ!もうだめ!」

「もうー! 忘れてください! 忘れてくださいー!」

 

 

 顔を真っ赤にしてポカポカと私の肩をこづいてくる。思い切り力を抜いてくれているからまったく痛くないけれど結構必死になっているらしく、少し涙目になっているのがまた面白い。

 

「アハハ。 お茶会での面白い話題ができてしまったわね」

「それは許してくださいよ~咲夜さ~ん」

 

 美鈴の情けない声を聞いて私の笑い声はさらに声音を増すのだった。

 

 もちろんお茶会でお手洗いの話題なんて相応しくないため話すつもりもなかったけれど、彼女の反応が想像以上に面白かったので少しからかってしまった。

 

 

「ふふふ。 笑った笑った」

「もうー。 笑わないって言ったじゃないですかぁ」

「でも、もう緊張感は取れたでしょう?」

 

 私の言葉に少しきょとんとして、なぜか美鈴は自分のほっぺや腰をペタペタを触りだした。

 

「……あ、ほんとだ。 咲夜さん凄いです!」

「それじゃ、お礼にビスケットの準備とテーブルメイクをお願いできるかしら?」

「はい! もちろん手伝いますよ」

 

 きっと美鈴となら準備も手早く終わるだろう。なんと言ったって私の家事全般の先生は美鈴なんだから。

 

 

「そうだ美鈴?」

「はい?」

「お手洗いにいったんなら手はちゃんと洗ってね?」

「ちゃんと洗ってますって〜! その話題は忘れてくださいよ咲夜さ〜ん」

 

 予想通りの美鈴の反応にもうひと笑いしてから私と美鈴はキッチンに向かうのであった。

 

 

 

 日は妖怪の山に沈みゆき、空は真っ赤に染まる。

 バルコニーに備え付けられた日光避けのパラソルの下には木のテーブルと椅子が4脚。

 慌ただしくお茶会の準備を進める私と美鈴から長い長い影法師が足から伸び、まるで影が自分の意志で動いているかのようにぐにょんぐにょんと動き回る。

 

 

 ようやっとテーブルメイクが終わった頃に、妖精メイドがレミリア様とパチュリー様を案内してやってきた。

 

 お嬢様は寝起きに強いらしく、私のように眠気眼でぼーっとされているところなど見たことはない。

 パチュリー様に至っては眠る必要がないらしく、食事の時間以外はほとんど本を読んで過ごされているそうだ。といっても、本当は食事の必要すらないらしいのだけれど、レミリアお嬢様とのご歓談のために食事の席に出席されているらしい。

 

 

「メイドちょー。 お嬢様と魔女様をお連れしましたー」

「ご苦労様。 よくできたわね」

「えへへ。 ありがとメイドちょー」

「お礼をするときはカーテシーをしましょうね。 プリーツが美しく見えるように少し持ち上げて、こうするのよ」

 

 お手本とばかりに妖精メイドにみせるようにカーテシーをみせると、彼女はポカンと呆けたように口をあけてからキラキラとした笑顔になった。

 

「それキレイ!」

「あなたもこれくらいスグできるようになるわ。 鏡をみて練習してみなさい」

「はーい!!」

 

 妖精メイド達はチルノと同じくらいの7歳程度の容姿をしており、やっぱり7歳程度の知識しかもっていない。要するに、難しいことは出来ないのだけれど、簡単なことならできるし何より褒められるとグングン成長していく。

 今の子もほんの少し前は言葉を話すことすらできなかったというのに、今では意思疎通に困らない程度に話をするところまで成長している。なぜ妖精メイドたちがこんなに頑張って仕事に性を出しているのかというと、自分で言うのも恥ずかしいが私に認められたいからだそうだ。

 

 

──今日はメイドちょーと目が合っちゃった!

──私なんてメイド長に掃除きれいにできたねって褒めてもらったよ!

──私はちゃんと挨拶できたねって言ってもらった!

──私だってこのあいだ・・・

 

 

 と、なぜか私は妖精メイドたちから絶大な信頼をうけている。本人たちは私に聞かれないように話をしているつもりなのだろうが、やっぱり7歳程度の知識しかないので声のボリュームが非常に大きかったり、そもそも本人のいる前で話したりするため私は結構恥ずかしい思いをしながら十六夜咲夜に褒められたという妖精たちの自慢話を四六時中聞かされている。

 

 

「相変わらず人気みたいだな」

「ペットがなついているようなものです」

 

 私に声をかけつつレミリア様は椅子の前へと移動される。同じくパチュリー様も椅子の前へと移動されたので、私がお嬢様の椅子を、美鈴がパチュリー様の椅子をひいてエスコートする。

 

「クク。 人気のメイド長のお茶はさぞ美味しいんだろうな。 楽しみにしてるぞ」

「……レミィ。 その言い方は咲夜が困る」

 

 パチュリー様からの助け舟にも素知らぬ顔でお嬢様が着席される。今日はいつも以上に機嫌が良いようで、パチュリー様からの言葉に対して何か言い返すどころか少し鼻歌混じりで私や美鈴を眺められている。

 

 そんなレミリアお嬢様の様子に一安心して、私と美鈴はお茶の準備を勧めていく。

 温めたカップに、温めたティーポット。茶葉を入れたティーポットに熱湯を注ぎ込んで数分蒸らす。

 紅茶の淹れ方には結構自信があるので、ここからは美鈴でなく私の仕事だ。

 

 

…トプトプトプ

 

 

 ポットからティーカップに注がれたアッサムからは勢い良く白い湯気が立ち上がる。

 ベストドロップと呼ばれる最後の一滴まで注ぎ込んで参加者にお茶を配るとお嬢様は受け取ったティーカップをくゆらしながら、紅茶の香りを楽しんでから賛辞の視線を私に向けて微笑んだ。

 

「……いい香りだ。 またお茶を淹れるのがうまくなったな、咲夜」

「ありがとうございます」

 

 賞賛の言葉に笑顔で答えると、美鈴も自分のことのように喜んでくれていた。私の視線に気づくとウインクを返してくる。

 

 

「ではお茶会を始めよう」

 

 レミリアお嬢様の一声でお茶会は意外なほどあっけなく始まった。

 あんなに悩んでいたお茶会での話題については不思議なほどに次から次へと話したいことが浮かんでくるため、気づけば私が一人でずっと話してしまっていた。

 

 

 

「それで今日だってチルノが言うんですよ。 大ちゃんは咲夜に会えないって」

「ははは。 やっぱり妄想の友達には会いたくても会えませんからね」

「パチュリー様、妖精と言えどもそろそろ一人遊びさせるのはどうかと思うんですが放っておくべきでしょうか?」

 

 先ほどから会話に入ってこなかったパチュリー様に話題を振ると、なぜか反応がなかった。

 パチュリー様を伺うと何故かうつむき加減で苦虫を噛み潰したような顔をしていらっしゃる。

 

 

「パチュリー様?」

 

 パチュリー様は答えず、代わりにレミリアお嬢様がパチュリー様の肩を2回、3回と軽く叩いて説明する。

 

「今日は私の親友から話がある」

「パチュリー様からですか?」

「ああ、そうだ」

 

 レミリアお嬢様は美鈴からの質問に答えつつ、隣に座るパチュリー様に視線を向ける。

 レミリアお嬢様のいたずらっ子のような笑顔から覗く犬歯が夕日を反射してキラリと輝いた。

 

「頼むぞ親友」

「面倒事は自分でやってほしい」

「まぁそう怒るな」

 

 ようやっと声を出したパチュリー様はなぜか沈鬱とした雰囲気で、やや怒気を含んだ声音でレミリア様に言い返している。

 

「なんで私が。……ホント、気が重い」

「諦めろ。 これがお前の運命だ」

「レミィ。 このツケは大きい」

「分かってるさ」

 

 よっぽどパチュリー様としては話したくない話題なんだろうが、それでもレミリアお嬢様の表情は何かを確信しているかのようにどこか挑発的な笑顔を浮かべたままだ。

 

 

「……はぁ」

 

 持病の喘息のためかパチュリー様の呼吸は非常に浅く吐き出したため息も小さい。

 パチュリー様の言葉と態度から本当に話したくない話題なのだということが理解できるだけにティーカップを握る手に自然と力がこもる。爪が手のひらに食い込んで軽く血が滲んでいるかもしれない。

 

 

「……咲夜、美鈴。 話したくないけど話す。 聞いて」

 

 パチュリー様から話されることが今後の私の人生、いや幻想郷の運命を変える出来事になるとはこの時の私は知る由もなかった。




次回『咲夜の世界』
「咲夜。 怒らないで聞いて。 ここはあなたの現実ではない。 アリスの迷い込んだ、いわば不思議の国」
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