こちらも他と連動させていかないと
戦闘をどう書いていくか、試行錯誤中です
パシフィックという名前通り、今日の太平洋は、とても静かでした。時に凶暴なまでの荒くれ者になる波も、今はすんなりと艦首で割れていきます。
外洋に出、オートナビゲーションに切り替えた私は、艦橋トップの見張り所から眼下の飛行甲板と海面を見つめていました。
私たち第七方面艦隊は、大きく二つに分かれて航行を続けています。前路哨戒を行う警戒艦隊に、私は含まれていました。
上空を見上げれば、太くゴツゴツとした印象を受ける機体が、艦隊の周囲を飛んでいます。私から発艦した対潜哨戒用の“アベンジャー”です。後方の輸送船団には、“ワスプ”の方から哨戒機が出ていました。
とは言っても、今のところこれといって動きはありません。哨戒機や駆逐艦から「潜水艦発見」の報が来ることもなく、艦隊は悠々と太平洋を進んでいました。
のどかなものです。前から吹く風に、短くした髪が揺れます。きつい潮の香りも、それほど気になりませんでした。
「お。やっぱりここにいたか」
そんな私の後ろから、男性の声が聞こえてきました。ブルです。
第七方面艦隊の秘書艦である私を、彼は旗艦に指定していました。ですから作戦時は、いつも私に乗り込んでいます。
最初の頃―――ブルも私も、まだまだ新米だった頃は、随分と緊張したものです。元々の私は、それほど他人との接触を好む方でもありませんでしたし、というか、どちらかと言えば人見知りでしたから。
今でも、旗艦という重役に対して緊張はありますが、それを心地の良い、自らを高めるものと肯定的に受け止めることができるようにはなりました。
「いい風ですね」
「そうだな。海も荒れてないし、絶好の航海日和だ」
ブルも弛緩した様子で呟いて、大きく伸びをしました。その拍子に、鍛えられた体のラインがはっきりします。少し恥ずかしくなって、私は目を逸らすように海を見続けました。
「こうしてると、さ。サンディエゴの頃を思い出す」
私の横に並んで、艦橋のふちに手を着くブルが、感慨深げに呟きます。その横顔をちらりと見て、私も頷きました。
「懐かしいですね」
「懐かしいな」
本当に、懐かしい。もう一年と・・・半年ほどでしょうか。
私とブルとの出会いは、アメリカ艦隊太平洋側最大の集結地であるサンディエゴでのことです。当時のブルは、ニミッツ中将指揮下の参謀で、ようやく一艦隊を任されるようになった中佐、そして私は、建造されたばかりの人見知りな航空母艦娘でした。
「ま、色々あったな」
ブルが苦笑します。
「その一言で片付けないでください」
本当に色々あったんですから。唇を尖らせた私に、ブルの苦笑は益々大きくなりました。
ブルに出会って。たったそれだけのことでも、私はこんなに・・・。
その先を想うことは、今の私には憚られました。
「それで、これからどうするんですか?」
「どうもこうもないな」
私の質問に対する答えは、断言するようですが具体性は伴っていません。
「俺たちは、船団をオーストラリアへ送り届けて、それからポートモレスビーへ行く。それを邪魔するものは、排除するだけさ」
艦首を見つめるブルの目が細められます。若さと、それゆえの無鉄砲さを持つブルは、それでもそれをやり通すだけの決意と覚悟を持っています。
―――大丈夫ですよ。ブルは、私が守りますから。
とは、面と向かって言うことはできません。それは、ブルの覚悟に対して失礼な気がしますし、第一私が恥ずかしいです。臆病で恥ずかしがりの私には、いまだそれを言えるだけの勇気も度胸もありませんでした。
その代り、と言っては何ですが。
「・・・そろそろ、お茶にしましょうか」
私は努めて穏やかな声で、ブルをお茶に誘うのです。お茶と言っても、大抵はコーヒーですけど。
「そうすっか。あ、パンケーキな」
「お昼ご飯まだだからダメです」
「ケチー」
ブルは頬を膨らませて文句を言います。それがおかしくて、私はクスリと笑いました。
艦橋に、至福の一時が流れました。
◇
赤道を超えた艦隊の夕食は、ささやかながら豪華なものになりました。船が赤道を超えるときに開催される赤道祭にあやかったものです。“エンタープライズ”内でも豪華な食事が振る舞われ、シェフを務める妖精さんが腕によりをかけたご飯が並びました。
私も手伝いましたが、まだまだですね。簡単な料理を手伝うのがやっとでした。
食事の片付けも終えると、すでに外は真っ暗な状態です。邪魔になる光源が何もない海では、夜になると星がよく見えました。
艦橋に上がってもよかったのですが、何となく、私の足は甲板へと向かいました。広々と開放的なここの方が、星を見るにはうってつけのような気がします。艦載機は格納庫に降ろされていて、右舷側にそびえる艦橋以外は、景色を遮るものはありません。
風が流れています。艦首から艦尾へ。食事を終えてぽかぽかとした体には、その涼しさが心地よい。なびく髪を抑えながら、私は甲板を前へ前へと歩いていきます。
“エンタープライズ”の前には、丈高い艦橋が特徴的な艦影があります。航行灯を灯しているために辛うじて輪郭の見える程度ですが、波を切り裂いていく威容は頼もしいの一言に尽きました。
巡洋戦艦“コンステレーション”。第七艦隊に所属する、唯一の戦艦です。
基となったのは、“レキシントン”級巡洋戦艦の二番艦だそうですが、実際には建造されていない艦です。いまだに、なぜ彼女の建造ができたのか、それは全くわかってません。
私が、唯一建造に関わった艦なのですけど・・・。
うーん、それは関係ないですよね。
甲板前部に辿り着いた私は、そこで腰を下ろして、膝を抱えて座り込みます。何も持たずに来てしまったので、風に吹かれるまま、手持無沙汰に“コンステレーション”を見つめていました。
墨汁を流し込んだような海。心地良く揺れる艦体。そこに身を任せるのは、この上ない幸せです。
しばらくそうしていると、背後からコツコツとこちらへ歩み寄る足音。この艦にいるのはブルだけですから、私は特に振り向くことなく、そのまま彼が来るのを待っていました。
ピトッ
ヒヤッ
「ひゃうっ!?」
突然首筋を襲った冷たさに、私は肩を飛び跳ねさせて驚きました。それに遅れて、ブルの笑い声が夜空に響きます。
「ハッハッハ、可愛い反応をありがとう」
か、可愛いとかっ!そういうの、急に言わないでください、もうっ!
頬を熱くしても、この暗さならそうそうばれることはないでしょうか。
「も、もう!ビックリさせないでください」
「すまんすまん」
私の抗議にも、ブルは特に悪びれる様子もなく、隣に腰掛けました。その右手から、ジンジャーエールのビンが差し出されます。最近のブルのお気に入りです。
さっきの冷たい感覚は、これだったんですね。
「どうだ。飲むか?」
「はい。いただきます」
差し出されたビンを受け取ると、冷えたグラスも出てきます。今の雰囲気なら、ビンから直接というのはあまり風情がありませんからね。そういう細やかなところに気付くのが、普段は豪快なブルの性格でした。
ポケットから栓抜きを取り出すと、手早くビンの蓋が開けられます。
シュポッ
気持ちのいい音と共に、中の炭酸がシュワシュワと涼やかな音色を奏でます。
グラスに注いで、乾杯。控えめにカツンとなった音が、夜風の海には似合っていました。
「やっぱり、酒よりこっちだな」
一杯目を一息で飲み干してしまったブルが、すぐに二杯目を注ぎました。私はそれを見守りながら、ゆっくりとグラスを傾けます。冷たいのどごしが、食後の喉を通り抜けます。
「美味しい、ですね」
「コーラもいいけど、すっきり飲みたいならこっちだろ」
どこか誇らしげに言ったブルは、半分ほどになった二杯目を脇に置いて、体重を後ろに傾けました。鍛えられた腕が、それをしっかりと支えています。幸せそうな溜息を吐くブルの目は、上空一杯に輝いている満天の星空に向けられていました。
「星がきれいだな」
「パナマだと、眩しくて見えませんでしたからね」
「こいつは、海に生きるものだけの特権だからな」
ブルの満足そうな横顔を見ています。
「・・・なら、もっとたくさんの人に、見てもらいたいですね」
その言葉が自然に出てきて、自分でも驚きました。
ブルが目を見開いて、それから微笑みました。そこにあるのは、提督として私たちを見守る微笑みとは、少し違うような気がしました。双眸に浮かぶ光が、いつもより大きいような、そんなわずかな違い。
「そうだな。エミリーの言う通りだ」
それから。
フワリ
どういうわけか、ブルの手が私の頭に乗りました。そしてゆっくりと、私の髪を撫でるようにして手が動きます。優しい仕種に、嬉しさと戸惑いと恥ずかしさがない交ぜになって、私は固まっているしかできませんでした。
「・・・き、急にどうしたんですか?」
「なんていうか・・・ありがとう」
なんのことかは、さっぱりわかりませんでした。
最後の撫で方は、髪をクシャッとするような、少々乱暴な撫で方でした。それからブルは、グラスの残り半分を一気にあおります。
「うまいっ」
乱れた髪を手櫛で整えた私は、ブルと同じように残ったジンジャーエールを飲み干します。痛いぐらいの爽快感が舌と喉を走り抜けました。
私も二杯目を注ぎます。
「あ、そういえばおつまみ持ってきたんだった」
ブルが思い出したように、ポケットから小さな袋を取り出しました。薄くスライスされた何枚かのサラミ。そして、
「・・・あの、何で柿ピー・・・?」
日本のお酒の友でした。
なんでですか!?なんですか、その変な組み合わせ!?
「なんでって、俺が好きだからだけど?」
「それは知ってますけど」
よりにもよってジンジャーエールと合わせますか、普通?
ブルがこのおつまみ(かどうかはかなり怪しいですけど)を好きなのは、私たちの師匠ともいえる方が大好物としていたのを、つまみ食いしたのがきっかけだそうです。
―――「日本に酒の友は数あれど。私はこれが一番好きなんだ」
課業終わりにそう言ってお酒を飲んでいた彼―――マスターは、それはそれは楽しそうに笑っていたものです。
ポリポリと柿の種に手を伸ばす、私とブル。ジンジャーエールとのミスマッチな感じはすごいですが、食べだすと止まらなくなるのも確かです。
星の見守る海の上。更けていく海風の中で、しばらくの安らぎが私たちを包んでいました。
エンタープライズは、なんというか・・・
艦これの法則に当てはめると、羽黒とか神通とかの方向性になりそう
次回もお楽しみに
投稿がかなり変則的になりそうですけど・・・