Eの海   作:瑞穂国

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おかしい・・・この話は、ブルとエミリーのほのぼの系小説になるはずだったのに・・・

いつの間にかガチな話になってきてる・・・


未知との遭遇

警戒態勢を厳に敷く偵察艦隊。その中央にいる私の甲板から、偵察用の“ドーントレス”が飛び立ちます。計十二機。トラック沖の深海棲艦の動きを探るべく、定めた方向へと飛んで行きました。

 

全機の発艦を見送った後、私は艦橋に戻ります。今回の作戦を発案したブルは、広げた海図とにらめっこをしていました。

 

「提督、発艦終わりましたよ」

 

「おう、お疲れ」

 

顔を上げたブルが微笑みました。その表情に自然と頬が緩んでしまうのですが、いけないいけない、今は戦闘行動中です。今にも下がろうとする目尻を、必死に引き締めました。

 

「あとはひたすら待つだけか」

 

海図に書き込みを終えたブルが、肩を揉み解しながら呟きます。

 

「暇だ」

 

そうなんですよね・・・。

 

索敵は、基本的に目標発見の情報を待ち続けるしかないので、その間手持無沙汰になってしまうんです。もちろん、周囲への警戒を怠ることはできませんが、基本的に私がドリフトするだけで戦闘状態を作ることのできる“エンタープライズ”では、艦橋から離れていなければ特に問題ありません。

 

確かに手持無沙汰です。

 

「とりあえず、ドリフトして、オートナビゲーションの設定をしておきます」

 

「おう、頼んだ」

 

艦橋のほぼ中央に配置された私の艤装を背負い、ドリフトを開始します。数多の記憶が流れ込み、やがて艦橋内が光に満ちていきました。

 

「ドリフト完了。全システム正常です。続いて、オートナビゲーションの設定に入ります」

 

艦隊は、しばらく前進を続けるつもりですから、それまではこのオートナビゲーションで艦のコントロールをお願いしておきます。

 

オートナビゲーションの設定が終わり、再び艤装を取り外した私は、やはり海図とにらめっこを続けているブルの隣に向かいます。

 

通信室配備の妖精さんが艦橋にチョコチョコとやってきたのは、そんな時でした。入電内容を記しているらしい紙片を持った妖精さんは、どこか不思議そうな様子で、私にその紙片を渡します。

 

暗号、ではないみたいですね。打電されたものというよりは、たまたま拾ったものということでしょうか。

 

紙片の端を確認すると、捉えた電波の周波数帯が書かれています。それは、世界の海軍が非常時の連絡用としている、共通バンドでした。

 

この周辺海域で発信されたものでしょうか・・・?

 

「発信場所は、どの辺ですか?」

 

私の問いかけに、妖精さんは首を振ります。さすがにそこまでは特定できなかったみたいです。ただ、大まかな方向はわかったみたいでした。

 

「ありがとう。引き続き、警戒をお願いしますね」

 

コクコクと頷いた妖精さんは、またチョコチョコと歩いていきました。

 

さて、この電文どうしましょう・・・。内容もよく意味が解りませんし・・・。

 

うーん・・・。とりあえず、ブルに渡してみましょうか。明らかに「何だった?」という目でこちらを見ていますし。

 

「通信室が、電文を傍受したみたいです」

 

「電文・・・?」

 

私が差し出した紙片を受け取ったブルは、受信バンドを確認しました。

 

「海軍の共通バンドか」

 

「そうなんですけど・・・妙、ですよね」

 

「確かに、妙だな」

 

そうなんです。妙なんです。

 

『話がしたい』

 

電文は日本語でしたが、そういう意味になります。ですが、最初の発信から三十秒ほどした後は、ぷっつりと途絶えてしまっているんです。話がしたいと言っていたのに、何かを話すわけでもなく。

 

「どういう意味があるんでしょうか」

 

ただただ首を傾げる私と違って、ブルは真剣そのものの表情で紙片とにらめっこを続けています。何か、あったでしょうか。

 

「エミリー、この電文が発信された方向に向かってる索敵機は、六号機だったな?」

 

「はい。定時報告までは三十分ほどです」

 

それからブルは、さらに考え込むような表情になります。何か意図があるみたいですが・・・。

 

「索敵機の行動半径は、どう指示した?」

 

「いつも通りに二百五十海里を指示しました。トラック沖百海里は、日本海軍と深海棲艦の戦闘に巻き込まれる可能性があるので、特に厳重に注意するように、とも付け加えてます」

 

現在位置からそれだけの索敵線を形成すれば、トラック環礁の南方を十二分にカバーできます。

 

「・・・かかるか?」

 

「かかる、と思います」

 

少なくとも、深海棲艦の動きを捉えることは可能なはずです。

 

私の言葉に、ブルはコクリと頷いて、こう言いました。

 

「何が捉えられるかは未知数だ。けど、もしかしたら俺たちは、戦争の転換点となりうるものを見つけることができるかもしれないな」

 

 

 

十二機の“ドーントレス”が、順番に帰投してきます。一機ずつ飛行甲板へのアプローチに入り、着艦フックを制動索に引っかけては、甲板の前の方で停止します。十二機の回収に、それほど時間はかかりませんでした。

 

索敵機による成果はゼロ。十二機の“ドーントレス”は、結局何も発見することができずに帰艦しました。

 

でも・・・でも、それっておかしいんです。絶対に変なんです。

 

エレベーターに乗せられて格納庫へと降りていく“ドーントレス”を見守っていた私は、艦橋の中で海図と睨み合い、頭を掻きむしっているブルに目を向けます。索敵機が成果なしに終わっても、ブルの頭はフル回転しているみたいです。

 

猛将と言われるブルですが、その実は緻密で几帳面です。あらゆる思考を尽くした後、多少強引な手を使ってでも目的を成し遂げる。海軍内では“強引な手”の部分が強調されがちですけど、その裏に綿密な考察がなされた目的があることを、私たちは知っています。他には、ブルの同期で、第五方面艦隊の提督を務めているスプルーアンス大佐も。

 

・・・えっと、まあそうは言っても、明らかに適当な時もありますけど。

 

でも、こうして真剣に考えているブルを見るのは、好きです。何と言うか、「ああ、ブルが私の提督でよかった」と、そう思います。それに、キリッと締まった目元がかっこいいです。

 

「どうしたエミリー?そんなに俺のこと見つめて」

 

・・・はっ!?やだ、私そんなに見つめてましたか!?

 

顔に血液が集中してくるのを感じて、私は首を傾げているブルから目を逸らしました。

 

つい、見惚れてしまっていました。作戦行動中なのに、締まりがないですね、私・・・。

 

こほん。

 

「何かありましたか?」

 

海図の方を見ながら話題の転換を図ります。若干不思議そうな表情をした後、ブルは説明を始めます。

 

「共通バンドでの発信があった場所。その方位に何かがいたのは間違いない。なのに、索敵機は何も見つけることができなかった。これは何を意味するんだ」

 

海図には、実施された索敵線が引かれ、「目標発見できず」を示す×が書かれています。それが十二本。トラック環礁南方海域をほとんど探したことになります。

 

「十二機もの索敵機を、明らかに近くで戦闘が行われているであろう海域に送ったのに、ただの一隻も船を発見できなかった。深海棲艦も含めてだ。これは一体、何を意味するんだ」

 

ブルの言う通りです。おかしいんです。何か意味があるとしか、思えません。

 

索敵機が何も捉えることができなかった理由としては、いたはずの電波の発信者が優秀な対空レーダーを装備していて、索敵機を早期に発見し、見つからないように回避した可能性が考えられます。

 

そうした理由は何でしょうか?もちろん、索敵機に見つかりたくなかったからだと思うんですけど・・・。

 

何かが、私とブルの思考を引っかけます。

 

索敵機を撃墜する、という選択肢はなかったのでしょうか。

 

「あの海域にいた何者かが深海棲艦だった場合。こちらの索敵を回避したと判断すれば、逆にあちら側が索敵機を送り出してくるはずだ。だが、レーダーには未だに何も反応がない。こちらに空母がいることを知っているのに、索敵機を追わせないとすれば、深海棲艦の行動ロジックから逸脱している」

 

ブルは海図台を睨んで続けます。

 

「それに、こちらの索敵機が接近していることを知ったなら、戦闘機で撃墜すれば済む話しだ」

 

なのに、それをしなかった。どうしてなんでしょうか。

 

「我々の航空機を撃墜する必要がなかった。いや、落としたくなかった、ってことか・・・?」

 

「それじゃあ、味方ってことですか?でも、だったらなぜ、私たちの目から逃れる必要があったんですか?」

 

「わからん。何か、余程の密命を帯びた部隊なのか・・・」

 

考えようとするだけ、考えがこんがらがっていくだけです。

 

「・・・さて、次の網をどこに張るか」

 

「・・・どこに張りましょうか」

 

悩みどころです。

 

何者かを探すつもりなら、どこに新しい索敵線を形成するべきでしょうか。二人で海図を睨み、考え込んでしまいます。

 

「・・・転針しよう」

 

「転針ですか!?」

 

もう一度索敵機を出さないんですか!?

 

「このまま出しても、もう一度避けられるだけだ。だったら、確実に捉えることのできる位置に、網を張ろう」

 

「・・・なんだか、潜水艦みたいですね」

 

「近いかもしれないな」

 

ブルが不敵に笑っていました。

 

「当てはあるんですか?」

 

「ここだ」

 

海図を指差して、ブルが言います。ニューギニア島、その北部海域です。どうしてそこに当てがあるんでしょうか?

 

「探している相手が、何らかの密命を帯びた部隊であった場合。隠密行動を続けたままパラオ沖を離脱するために取れる航路は二つ。ハワイ方面へ抜けるか、ニューギニアの二百五十から三百五十海里を進むかだ」

 

なるほど・・・。前者は取れませんね。ハワイ方面は、深海棲艦が完全に制海権を握ってますから。そもそも、そちらに行かれたら、私たちが追いかけることはできません。

 

「通るとしたら明日だ。明日、ここに索敵機を飛ばす。絶対に外すことのない間隔で」

 

「・・・わかりました」

 

艦隊全艦に、転針を指示します。“ドーントレス”から逃れた何者かを探し、見つけるために、私たちは網を張るニューギニア沖を目指しました。

 

 

予定していた索敵線を、“ドーントレス”各機が構成していました。報告を上げてきたのは、その内の七号機、次いで六号機でした。

 

『艦影見ゆ』

 

「見つけたか!」

 

してやったり。そんな、ちょっと悪い表情で、ブルが笑いました。こんな表情をすることもあるんですね。少し新鮮で・・・刺激的です。

 

「七号機に伝えろ!余すところなく撮れ!奴らの秘密の断片を、持ち帰れるだけ持ち帰るんだ!」

 

索敵機各機には、写真撮影用のカメラが持たされていました。

 

ブルからの伝言を七号機に伝えます。『任せとけ』と、頼もしい返答が、“ドーントレス”の妖精さんから送られてきました。

 

「・・・何が写っているんでしょうか」

 

遠い艦影を思い描いて、ポツリと呟きます。海図に何かを書き込んでいたブルは、どこか確信めいた口調で、こう断言しました。

 

「わからん。だが、間違いなく、この世界を変える何かが写っているはずだ」

 

写真は、いつの時代も、世界を変え得る。ブルがそう言っているようでした。

 




次回はいつになるやら・・・

一応、ポートモレスビーに到着予定です

・・・落ち着いてグアムさん、作者頑張るから!どうかご慈悲を!
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