セシリア・ダイアリー   作:若谷鶏之助

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PageEX:「ゴールデン・タイム」

 五月三日、出勤中の車内にて。天気は快晴。

 

 

 五月に入り、高緯度に位置するここイギリスでも春らしい暖かさが訪れ始めた。春の心地よい陽気包まれるように、わたくしはチェルシーが淹れてくれた紅茶を堪能しながら、のんびりと朝食後のひとときを満喫していた。依然イギリスの国家代表IS操縦者として、またオルコット家当主としての職務は多く、多忙な毎日ではあるけれど、充実した日々でもあった。今日のような朝に鋭気を十分に養えた一日はお仕事も捗るというもの、なるべく早くお仕事を片付けて、家族と過ごす時間を増やしたい。

 お仕事に行くまで何をしようかしらなんて考えていると、「おかあさま!」とわたくしを呼ぶ愛らしい声が。

 なあに、と振り返ると、わたくしそっくりの金髪の女の子がきらきらと目を輝かせてわたくしを見上げていた。

 

「ねえねえおかあさま! ゴールデンウィーク、ってなに?」

 

 ニュースで聞いたのでしょうか。今年五歳になる愛娘が、そうわたくしに尋ねた。

 ゴールデンウィーク……そういえば、日本では今ちょうどその時期ですわね。いざなにかと聞かれると少し説明が難しいけれど。

 ゴールデンウィークというのは、お休みのことよと説明をすると、娘は首をかしげた。

 

「そう、お休み。何日かお仕事をお休みするの。家族でお出かけしたり、買い物をしたり。vacationよ、わかる?」

「わあ! ばけーしょん!」

 

 得心がいったようで、娘はうんうんと頷いた。子供にものを教えるということは存外とても難しいもので、好奇心旺盛な子供の質問攻めに遭って答えに困るというのはよくあること。今回は、上手くいきましたけれど新しい言葉を覚えたのが嬉しいのか、ばけーしょん、ばけーしょん、と繰り返してはしゃいだ。娘の無邪気な仕草に胸を打たれたわたくしは、小さな頭に手を伸ばして、優しく頭を撫でた。それが嬉しかったのか、娘はわたくしの方を見上げては、満面の笑顔を見せたのでした。

 ああ、可愛いですわ! うちの子ったらなんて可愛いのかしら。我が子は目に入れても痛くないほど可愛いもの、と聞いていましたけれど、それは本当なのだと知ったのは、この子が産まれてからでした。

 娘の愛らしさにときめいたわたくしだけど、娘の後ろに隠れていた息子が、羨ましそうに姉を見ていたのをわたくしは見逃さなかった。大人しい子だけれど、息子が人一倍甘えたがりだということは、母親であるわたくしは誰よりも知っている。この子のことだから、姉がなでなでされているのが羨ましかったのね。

 

「ほら、あなたもいらっしゃい」

 

 息子を呼んであげると、おずおずとわたくしの方に寄ってきて、父親そっくりの黒い髪の毛をわたくしに向けた。娘と同じように頭を撫でてあげると、同じように息子は嬉しそうににこーっとわたくしに笑いかけてくれるのでした。

 ああ、もう、本当に。なんて可愛いのかしら、うちの子供たちは! この子たちのためなら、わたくしはきっと何だってできるでしょう。本当を言うとこの子たちとずっと触れ合っていたいのだけど、残念なことに今日のお仕事の時間が迫っていた。

 そろそろ時間ですわね、とチェルシーを呼んで仕事に出かけようとしたときだった。娘が立ち上がったわたくしの服のすそを掴んで、何か言いたげに見上げていた。どうしたのと尋ねると、娘が戸惑った様子でわたくしの足元まで駆けてきた。

 様子がおかしいですわね、何故でしょう。いつも通りの時間なのですけれど。

 

「おかあさま。おしごと?」

 

 娘が尋ねた。ええ、と答えると、娘は悲しげに続ける。

 

「お、おかあさまには、ゴールデンウィーク、ないの?」

「ええ、あれは日本のお休みだから、イギリスに住むわたくしたちにはないの」

「……じゃ、じゃあ、おかあさまといっしょにおでかけ、できないの……?」

 

 娘は蒼い大きな瞳に涙を湛えて言った。息子も同じように、姉そっくりの瞳でわたくしを見上げていた。

 今にも泣き出してしまいそうな二人を目の当たりにしたわたくしは、がつんと殴られるような衝撃を受けた。子供たちのいじらしい姿に胸を打たれたのではなく、子供の気持ちを慮ってあげられなかったわたくし自身の情けなさによろける思いでした。

 つまるところ、娘がゴールデンウィークについて聞いてきたのは、わたくしと一緒に過ごす時間が欲しかったからのようでした。それに気付けなかったことにショックを隠せない。

 どうしたものかと悩んでいると、セシリア、とわたくしを呼ぶ声が。時間になってもなかなか出発しないわたくしを案じてか、子供たちのお父様が執務室から降りてきたようでした。

 

「どうしたんだ?」

「ええ、それが……」

 

 事の次第をざっくりと説明すると、彼はああ、と苦笑いした。思い当たる節があるのかもしれませんわね、子供たちの不満をどこかで聞いたりしていたのかしら。

 子供たちのお父様であり、わたくしの夫である彼。結婚してからはオルコット家の職務の一部を肩代わりするような形で、主に屋敷でお仕事をしてくれているから、必然的に子育てに関しては彼に頼っている部分も大きいわたくしでした。

 大好きな優しいお父様が登場すると、子供たちはわっとお父様のところへ駆け寄って、足にぎゅっと抱き着いた。夫はぐずる子供たちを撫でてあげながら、

 

「セシリアだって忙しいんだ、分かってあげてくれ。な?」

 

 と、ぐずる二人を宥めるけれど、子供たちが納得した気配はない。普段は聞き分けのいい子供たちの珍しいワガママに、彼も困っているようだった。

 どうしようかとわたくしにアイコンタクトする彼に、心配いりませんわと小さく首を振った。忙しいのにごめんな、と小さく謝った彼だけれど、彼は何も悪くなかった。むしろ、今回は明らかにわたくしのせい。夫が見てくれているから、子供たちのことは大丈夫だろうとどこか高をくくっていた。母親に甘えたい子供心を忘れてしまっていたのはわたくしの方。愛する我が子二人に寂しい思いをさせて、何が母親でしょう。母親失格ですわ。

 ――ええ、決めましたわ。子供たちに寂しい思いをさせた分は、必ず埋め合わせをすると。

 そう決意したわたくしは、父親にくっついていた子供たちを呼んだ。ぐずぐずになった姉弟の顔を撫でたあと、ぎゅっと二人の小さな体を抱きしめた。

 

「ごめんなさいね。いつも寂しい思いをさせて」

 

 子供たちはうんうんと首を振った。たまらなくなって力いっぱい抱きしめると、息子が「おかあさま、くるしい」と小さく言った。それから少しだけ腕の力を緩めたわたくしは、二人の顔を見つめた。

 

「約束するわ。来週を、わたくしたちのゴールデンウィークにしましょう」

「ほ、ほんとう……!?」

「ええ、本当よ。お父様と四人で、どこかへ出かけましょう」

 

 約束よ、と念押しで言うと、姉弟は心底嬉しそうにはしゃいだ。やっぱり、我が子には泣き顔よりも笑顔でいて欲しい。そう思うのは、きっとわたくしだけではないはず。

 子供たちにつられてわたくしも笑顔になったら、幼い姉弟二人は、見合ってから二人で小指をわたくしに差し出した。どうしたの、と聞くと、約束だからと言う。

 ……なるほど、これは日本の指切りね。お父様に教えてもらったのかしら。IS学園で初めて教えてもらったとき、針千本飲ますというフレーズのインパクトがとても大きかったことを覚えている。

 二人の小指に右と左の小指を繋ぐと、娘のたどたどしい口上が続く。

 

「ゆーびきーりげんまーんうそついたらはりせんぼんのーますっ」

 

 それに合わせて左右の指が振られて、指切ったで離す。先ほどまでの泣き顔が一転、嬉しそうな子供たちの笑顔を見るだけで、今日も明日も頑張れる気がしますわ。

 さて、そろそろ時間、と立ち上がって旦那様に子供たちのことを頼み、チェルシーに出発するように指示を出す。出発が遅くなってしまったから、急ぎませんと。

 ……ああ、そういえば忘れ物をしていましたわね。

 あなた、なんていつもは使わない呼び方をして。子供たちを連れて二階に上がろうとする夫を呼び止めて、振り向いた彼にそっとキスをした。

 

「忘れ物、しましたの」

 

 毎朝屋敷を出るときにする、わたくしたち夫婦のルーティン。子供たちの前だから、少し顔を赤らむけれど。彼もびっくりしたような反応をしていたけれど、すぐにそうだなと穏やかに笑った。

 

「ふふ、では行ってきますわ」

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 夫に見送られて、わたくしは今日も仕事へ向かった。チェルシーが車を準備してくれていたので、車に乗り込むとすぐに発車して職場へと向かうことができた。

 今日帰ったあとは満足に日記も書けないでしょうから、今のうちに日記を書いておくことにする。忙しさにかまけて子供たちに寂しい思いをさせた戒めとしても、今日のことは書き残しておかなければいけませんものね。

 さあ、これからはいつも以上に大変なお仕事になる。けれど、子供たちのために頑張りますわ。

 

 

 

 五月四日、お仕事から帰宅後のオルコット邸にて。天気はどんより、あまり気乗りしませんでしたわ。

 

 

 時刻はもう十一時。彼が作ってくれたホットココアを二人で飲みながら、会話を交わす。子供たちは来週をとても楽しみにしてくれているようで、終始ご機嫌のようでした。何よりですわ。

 今日は来週をお休みにするため、その分のお仕事を片付けるべく早く出勤したために、子供たちの顔を見ないで仕事をすることになってしまった。お陰であまり元気が出ませんでしたが、屋敷に帰って、二人体を寄せ合って寝ている姉弟のあどけない寝顔を見ただけで、疲れなんて丸ごとどこかへ行ってしまった。

 彼と他愛のない話をしながら、就寝するまで夫婦水入らずの時間を過ごしたわたくしは、寝る前にこそこそっと日記を書いていました。飽きないな、なんて彼は苦笑するけれど、もう何年も続けている日課だから、生活の一部になっているんですもの。

 子供たちの寝顔をもう一度見に行って、「おやすみなさい」と一言囁いてから頬にキスをした。忙しくてなかなか遊んであげられないし、寂しい思いもさせてしまっているけれど、子供たちへの愛情は決して揺るがない。この子たちがいるから、わたくしは頑張れる。この子たちを守るため、そしてこの子たち未来をより良いものにするため、日々仕事に励んでいるのですから。

 自分の部屋に戻ってベッドに入った。彼も寝るそうなので、夫婦二人で就寝。明日もお仕事、頑張りませんと。

 

 

 

 五月一〇日、イギリス郊外のオルコット邸にて。天気は快晴、最高ですわね。

 

 来る今日五月一〇日、約束通り、わたくしは三日間のお休みをいただいたわたくしは、夫と娘と息子、そしてチェルシーや数人の使用人とともにロンドンの市内へ繰り出していた。

 今回の三連休は子供たちの要望を全面的に反映することにしました。初日の今日はお出かけとということで、使用人が運転する車に運転してもらって、市街を散策する予定となっていた。今朝、チェルシーはお邪魔ですからと遠慮する姿勢だったけれど、それを聞いた子供たちがチェルシーやお世話さんも一緒がいいと言うので、それならばと同行することとなった。そのときの嬉しそうなチェルシーの顔、わたくしはばっちりと捉えていましたわ。

 そんなわけで、今日はオルコット家一同でお出かけ。とりあえず、午後から映画のチケットを押えてあるので、それまではお買い物という形。

 午前中は自分の服はほどほどに、娘と息子の服を選んだ。小さい子はすぐ背が大きくなるから、新しい服を買ってもすぐ着れなくなってしまうけれど、たまにはこうしていいものを選んであげたい。子供たちにお洒落させたい親心も、無きにしも非ず。どんな服がいいかと息子に聞いてみたら、青色の服を指差した。

 

「これがいいの?」

「……うん。おかあさまのあいえすと、おなじいろ」

 

 という息子の一言で見事ハートを射抜かれたわたくし。親馬鹿? あら、誉め言葉ですわね。

 お昼はグルメな夫がおすすめする大衆食堂へ。高級レストランは、子供連れだと入りにくいですものね。舌鼓を打つ夫のうんちくはほどほどに聞きつつ、口いっぱいに頬張って食べる子供たちをしっかりと堪能した。

 映画はハリウッドのヒーローもの。ヒーローものに関して詳しいIS学園時代の友人からおすすめと聞いていたので、それを選んだのですが、息子以上に娘がとても喜んでいたのが印象的だった。よほど楽しかったのか、映画から出るなり、映画のヒーローの技である必殺パンチをお父様の鳩尾に決めた娘。人を殴ってはいけません、とお腹をさする夫を尻目に注意をしておいた。

 お休みを取ることができたはいいものの、国家代表IS操縦者であるわたくしは、緊急時はそちらの任務を優先しなければならない。ただ、そうでないときは必ず子供たちの母親であるセシリア・オルコットでいることを心がけた。

 母親らしく時に叱ったりしながらも、愛する子供たちの成長を感じながら、その笑顔を脳裏に焼きつけたわたくしでした。

 そうそう、今日一番印象に残っていたのが、帰り道に疲れて眠ってしまった子供たちを見つめて言った夫の一言。

 

「……今日はセシリアに子供たちを取られて悔しかったな」

 

 と、真面目な顔をして言う夫に、わたくしとチェルシーは笑いを堪え切れなかった。

 わたくしも大概親馬鹿な自覚はありますけれど、彼はそれ以上だったようで。くすくす笑いながらも、いい夫に恵まれましたわ、とわたくしはジョークを飛ばしたのでした。

 

 

 

 

 

 五月十一日、イギリス内某ホテルの一室にて。天気は快晴、最高の一日になりましたわ。

 

 連休二日目、わたくしは夫と娘と息子、四人で国内にある遊園地に遊びに来ていた。少し遠出になるため、今日は遊園地を満喫して明日帰る二日間の日程とした。なお、今回に限ってはチェルシーを始め屋敷の使用人の皆には休暇という形で職務から離れてもらっているので、今回は正真正銘の一家四人でのお出かけです。

 開園前に現地についたわたくしたちは、開園と同時に流れる人の波に乗ってゲートへと進んだ。娘がわたくしの手を引いて、早く早くと急かした。

 わたくしの立場もあって一応VIP対応ということになっているけれど、平日で空いているためか特にVIP対応である必要性は感じられない。

 

「みておかあさま、ふんすいすごいの!」

「もう、引っ張らないの」

 

 朝早く出たために眠そうにしていた姿はどこへやら、危うくはぐれそうになるくらい前のめりな娘にぐいぐい手を引かれて、チケットを受付のスタッフに手渡した。息子はと言うと、わたくしたちの後ろで目を輝かせてお父様に手を引かれていた。お転婆な姉と違って引っ込み思案な息子だけれど、初めて来る遊園地にはわくわくのよう。

 娘が産まれて育児や仕事に追われているうちに息子を授かったものだから、子供を連れて遊園地に来たのは今回は初めてのことでした。そんなわけで、三日間のプランを立てるにあたって、まず一番最初に決まったのが今日の遊園地行きで、子供たちからの強い要望あってのチョイスでした。

 どこに行こうか、と夫が言うので、無難にメリーゴーランドあたりかしらなんて思っていたのだけれど、娘のリクエストはというと。

 

「じぇっとこーすたー! じぇっとこーすたーのりたい!」

 

 と、いかにも娘らしいものだった。

 勿論小さい子供は大人用のジェットコースターには乗れないので、子供でも乗れる小さなジェットコースターのエリアに行くことに。

 聞きなれない単語に怖がる息子。怖いなら俺が一緒に外で見ているから、と夫が言ったけれど、娘が一緒に行こうと誘い、息子が頷いたので、結局四人で乗ることとなった。

 息子は姉によく懐いているから、大好きな姉の誘いは断れなかったのだろうけれど、正直なところ息子が怖がらないか不安だったわたくしと夫。乗った結果はと言うと、案の定と言いますか、初めて乗るジェットコースターの恐怖で息子は号泣してしまったのでした。一方娘は大はしゃぎしていました。この子将来大物になるかもしれませんわね。

 泣いてしまった息子でしたが、ソフトクリームを買ってあげるとすぐ泣き止んでくれたのでまあ良しとしましょう。

 その後メリーゴーランドに乗って、園内のレストランで昼食、それから名物のパレードを観たわたくしたち。パレードのピエロがわたくしたちの目の前を通るたび、子供たちがはしゃいだ。

 パレードを堪能した後、夫が行きたい場所があると言うので、案内してもらうことに。どこに行くのかと思っていたら、観覧車でした。

 

「高いところは嫌か?」

 

 彼が聞くと、子供たちは首を振った。むしろ、初めて乗る観覧車に興味津々のようでした。なら良かった、と彼はわたくしたちを連れて観覧車へと乗り込んだ。

 娘は最初から楽しそうでしたが、息子はゴンドラが揺れると怖がってわたくしに抱き着いていた。そんな息子も次第に慣れたのか、外の景色を見るようになった。やがて頂上付近になると、絶景――夕暮れ時のオレンジに染まったイギリスの大地が、ゴンドラから一面に広がっていた。

 わあ、とガラスに顔を近づけ、目を輝かせる子供たち。夫は二人の間に入ると、しゃがんで二人の肩を抱いた。彼が「綺麗だろう?」と子供たちに問い掛けると、うんと二人は頷いた。

 

「これが、お前たちのお母様が護っているものだよ」

 

 彼が諭すように言うと、子供たちが座席に座っていたわたくしの方を振り返った。

 

「おかあさまが?」

「そう。お前たちのお母様は、毎日この景色を護るために戦ってる。勿論広いし、いろんな人がいるから、それを護るということは、簡単なことじゃないんだ」

 

 なるべく、子供にも分かるように言葉を紡いでいく彼。優しく語り掛けながらも、子供たちに寄り添って、ゆっくりと。

 

「寂しいときもあるかもしれない。でも、分かってあげて欲しい。お前たちのお母様のお仕事はそれだけ大変なんだと。そして、そんな大変なお仕事をしているお母様はすごい人なんだと」

 

 彼がここに来たいと言っていた理由が分かった気がした。きっと、子供たちにこの話を聞かせるために……。

 

「この世界と、そしてお前たちを守るために。お母様はそのために戦ってるんだと、分かってあげて欲しい」

 

 彼はそう締めくくった。

 子供たちは彼の言葉に聞き入っていた。子供たちがその言葉の意味を正確に理解しているか、わたくしには分からないけれど。

 

「おとうさま。わたしね、おかあさまがすごいひとだって、しってるよ。だって、あいえすにのったおかあさま、とってもつよいもん!」

 

 と、娘が。

 

「……てれびにうつってるとき、ぼくぜったいみてるよ」

 

 そう息子が続ける。それだけでも十分だと言うのに。

 

「おかあさまのこと、だいすきだから」

 

 そんな風に二人がにっこり笑って言ってくれたものだから、視界が潤んでしまった。ぼろぼろ泣くわたくしを心配したのか、子供たちが心配そうな声を上げた。

 わたくしはいいえ、と一言だけ発して、二人の前に駆け寄ってぎゅっと抱きしめた。

 

「いいの。嬉し涙だから、それでいいの」

 

 いつも構ってあげられなくてごめんなさい。いつも元気をくれてありがとう。あなたたちの母親になれてよかった。万感の思いを込め、幼い子供たちをめいっぱいに抱きしめた。そして、この子たちにもう二度と寂しい思いはさせないと、この子たちを生涯守り抜くのだと、英国貴族としての誇りと愛機《蒼い雫》にかけて誓った。

 彼が優しく見守ってくれる中、わたくしはゴンドラが地上に着くまで、ずっと愛しい我が子を抱きしめていたのでした。

 

 

 

 

 日が落ちる遊園地の帰り道、使用人の方々やチェルシーへのお土産をぶらさげながら、一家四人手を繋いで歩いた。真ん中で娘と息子が手を繋いで、息子の手をわたくしが、娘の手を夫が握って。一日歩いて疲れただろうに、子供たちはご機嫌だった。

 愛する子供たちの先には、生涯の伴侶がいてくれる。穏やかな笑顔を浮かべる彼と目が合って、わたくしも笑顔になった。

 ――そう、こんな家族の姿を見て、羨ましく思っていたわたくし。その在りし日のわたくしが欲しかったものは、わたくしのすぐ傍にあった。

 夫と、娘と、息子。家族の笑顔があれば、わたくしは何だってできる。世界を護ることだってできる。愛の力は無限大なんて言ったりもするけれど、それは本当のことだと、わたくしは思った。

 

 ――さあ、明日は何をしましょうか。わたくしの最高の時間(ゴールデン・タイム)は、明日も続く。

 願わくば、明日もその明日も、ずっと幸せで在れますように。

 

 

 




以上、(ひと月遅れの)ゴールデンウィーク編でした。いかがでしたでしょうか。
こちらは一年ぶりの更新となってしまいましたが、突発的にネタが降りてきたので、書いた次第でございます。
今後も不定期ですが書いていきますので、気長にお待ちいただければと思います。

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