最優の魔法使いめぐみん! 作:ダンまち×このすば
13歳の誕生日。紅魔族の里にある小さな学校を飛び級で卒業した優等生は迷宮都市オラリオまで旅立った。馬車に身体を揺らされながらめぐみんは思い出す。
飛び級で学校を卒業しためぐみんは旅路までの必要経費を稼ぐため、アルバイトをするはずだった。紅魔族の里は上級魔法が扱えて当たり前の世界だ。
中にはテレポーターが紅魔族の集落から水の都アルカンレティアまでひとっ飛びで転移させてくれるが、30万エリスとバカ高い。
それでもめぐみんは欠け無しのお金で、紅魔族の里に立ち寄った商人の馬車に同行させて貰った。馬車での旅路は転移と違って危険も付き纏ったが、魅力的な費用の前には安全性など蚊帳の外。
商人の旅先はアルカンレティアまでだったので、そこについたら別の馬車に乗り換える必要があった。幸いにも紅魔族の里で稼いだ貯金にはまだ余裕があったので温泉に入って疲れを癒やし、一泊二日で観光して回った。
オラリオでは通貨がエリスからヴァリスに変わるので、先にアクセルの街で換金してから旅立った。オラリオに着く頃には資金が底をつきそうだったが、めぐみんは「構うもんか!」と生活に余裕のあるやり繰りをしていく。
オラリオに到着すれば名のあるファミリアに所属してダンジョン攻略していけば、食事をする分には困らないだろう。
そもそも、めぐみんが迷宮都市オラリオまで遠出してきた理由は当面の資金稼ぎと魔導を極めるためである。めぐみんは紅魔族の間で禁忌とされる爆裂魔法を習得し、それを隠して卒業したのだ。
「話が脱線してしまいましたが、概ねこんな感じです。ベルさんはこんな話聞いてもつまらないでしょう?」
「そ、そんなことないですよ! 僕なんてずっと田舎暮しでめぐみんさんの生活が楽しそうで羨ましいです!」
「そうですか? これで私も田舎暮しを自負してきたので新鮮な気持ちですが」
道中で知り合った少年ベル・クラネルと他愛ない世間話ついでに近況を聞かせてみたが、尊敬の眼差しを向けられた。
解せぬ。彼の旅先もめぐみんと同じ迷宮都市オラリオ。今の彼らは同じファミリアに入ろうね、と言えるほど良好な関係を築き上げていた。
「そういえば、まだ聞いていませんでしたが、もしよければベルさんの目的も聞かせて貰えますか? オラリオに行って何を成したいのか」
「構いませんが、大したことはありませんよ? ……ただ、出会いを求めているだけですので……」
「……出会い?」
ベル・クラネルの話では彼の育て祖父が登場し、大切に育てられたそうな。曰く、男なら冒険をして女の子との出会いを求めなくてはならないなど。
本音を言えばめぐみんも人のことを言えないが、どう見ても不純に満ち溢れていた。ただ、知り合って間もないが、ベル・クラネル本人が真剣に出会いを求める姿勢を示しているので一概に否定的な反応も出来ない。
「……本音を言えば僕も英雄譚に登場する人達のようになってみたいというのもありますね」
「なるほど、ならば私は魔王でも目指しましょうか」
「ええっ!?」
ベル・クラネルとめぐみんが談笑に耽っていると馬車の動きが止まる。馬車の外に目を向けると壁に覆われた門が視界に映る。
『嬢ちゃん、坊主、オラリオに到着したぞ!』
―――――
迷宮都市オラリオに到着したベルとめぐみんは商人にお礼を言うと宿を手配して一息つく。当面の目標は新たに加入するファミリアの探索。
期待に胸を膨らませながら飛び跳ねるベルを尻目にめぐみんは早速、最有力候補のロキ・ファミリアを訪ねに行った。
結論から言うと、どのファミリアもベルやめぐみんを受け入れてはくれなかった。途方に暮れる二人が頭を垂れながら歩いていると一人の少女、神ヘスティアと出会うのだった。
「これで契約は完了だよ。ステイタスは兎も角、君は魔法使いで良いのかな?」
「はい! ありがとうございます!」
ヘスティアに連れられて廃墟の教会に辿り着いたベルとめぐみんはヘスティアのファミリアに加わる事を了承した。
いつものめぐみんなら「私に見合うファミリアが~」と愚痴を垂れる所だったが、あれだけ面接を繰り返しても採用されず、酷いものは門前払いまで食らう始末。
素直にヘスティアに下るのも無理はない。そもそも、旅の途中でベルと同じファミリアに所属したいと常々思っていたことなので、ある程度信用関係を築いたベルと組めるのは大きなメリットでもあった。
ヘスティアから渡された紙を確認しながら横目で契約中のベルを見ていた。自分もあのように契約していたんだなぁ、と他人事のように感じながら再び視線を紙に戻す。
めぐみん Lv.1
力:I0 耐久:I0 器用:I0 敏捷:I0 魔力:I0
《魔法》
【
《スキル》
【】
記載されたステイタスに違和感を覚える。初級魔法や爆裂魔法などについては、訳あってめぐみんも理解している。
「神ヘスティア、私の魔法スロットが1つ空欄なのですが?」
「ああ、まだ発現していないんだろうね。神の恩恵を受けた眷属でも最大3つ、最低でも1つは魔法が芽生える可能性が生まれる。魔法は1つ使えれば一般的、2つ以上使えれば引っ張りだこだよ。最初から2つ、3つ目の魔法スロットまで約束された君は間違いなく優秀な魔法使いだってことだね」
「あっ、いえ、そうではなく、爆裂魔法や初級魔法は私の一族が伝えてきた魔法で、知識と素質があれば、紅魔族の里で作られている特別な魔導書を使用することで会得できます。私が疑問視しているのは、肝心のテレポートが見当たらないことについてです!」
そう言い放ちながらヘスティアの前から姿を消す。一秒遅れて再び元の場所に転移しながら格好良い決めポーズで登場する。
「ヘスティア様、魔法欄のテレポートを勝手に消さないで下さい!」
「あっ、ああ、済まないね。君の魔法は他ではお目にかかれないものだったから、他の神に気づかれると厄介だから念を込めて消しちゃっただけなんだ」
「知らず効果を発揮するスキルなら兎も角、これで無知を理由に使える魔法に悩み続けていたら、真実を知った私は怒るだけじゃすまなかったですよ?」
「うぅ……ごめんよ……」
神様を窘めるのもおかしな話だが、ヘスティアの言葉に悪意が感じられず、純粋にめぐみんを心配する意思が伝わってくるので警告程度で留めた。
テレポートは知られるだけで身の危険を招く魔法なのだ。ダンジョンを一瞬で行き来するなど、他のファミリアが知ったら戦争を吹っ掛けられても文句は言えない。
これはめぐみん個人の問題ではなく、ファミリア全体を天秤にかけて隠し通そうとしたのかも知れない。
その思いが伝わってくるからこそ、浅い信頼関係の自分たちにとって安易な裏切りが致命的な亀裂を生むことをヘスティアに警告という手段で再認識させたのだ。
ただヘスティアには申し訳ないが、魔法の習得は遺伝や教えが一般的だ。恩恵依存なら自己実現や魔導書に頼ることも少なくない。
普通に考えれば魔法が3つも発現していることに疑問を抱き、本人が事情を認知している可能性を考慮すべきだろう。
項垂れるヘスティアを余所に契約の終わったベルに意識を向ける。ベルもめぐみんのテレポートに驚いていたのか口をパクパクさせていた。
「ふふふっ、これでベルも分かりましたか? 私の凄さが! 紅魔族随一の天才、めぐみんの辞書に不可能なんて言葉はありません!」
「うん! 凄いですよめぐみんさん! これからの冒険も心強いです!」
「そうだろう、そうだろう、ところでいい加減、めぐみんさんはやめよう、めぐみんでいいのです(少し気恥ずかしいです)」
―――――
『――時よ止まれ、お前は美しい!』
「めぐみんさん、何やってるんですか?」
「……決め台詞考え中」
正式にヘスティア・ファミリアへ入ってから数日、ベルとめぐみんはダンジョンで雑談を交わしていた。というのも、一人ならまだしも二人のパーティというだけで多少の余裕は生まれるものだ。
ベル・クラネルが前衛、めぐみんが後方支援することでバランスも悪くない組み合わせをしている。めぐみんは昨夜ヘスティアから受け取ったステイタスの紙に目を通す。
めぐみん Lv.1
力:I0→I2 耐久:I0→I1 器用:I0→I19 敏捷:I0→I13 魔力:I0→I28
《魔法》
【
【テレポート】
・一度視認した場所を登録して転移することが出来る。
・登録回数残り1回(一度登録した転移先を変更することは出来ない)
《スキル》
【】
合計上昇値63。たった数日でここまでの成長が見込めるというだけでも儲け物。どこへ行ってもやっぱり、めぐみんは天才だったのだ!
そう自分に言い聞かせながらモンスターを屠っていく。といってもやってることは牽制、始末はベルに任せている。
どっちかといえば二人だと魔石回収が捗るという面の方がパーティの有用性が高いかも知れない。そんな風に思いながら魔石回収を終わらせて再び雑談に耽る。
「やっぱり加護のあるなしでは魔法使いとしての幅も広がっていきますね」
「そうなんですか?」
「まあ、紅魔族のように魔法を戦闘特化にしている魔法使いこそ少数派。本来は自分の魔法を磨き上げるために副業として冒険者やってる魔法使いが一般的ですからね」
「……なるほど」
「まあ私も紅魔族の中でも変わり者。他の魔法使いたちと一緒で自分の魔法を極めるための冒険者ですけどね」
そう、彼女の目的は魔導を極め、爆裂魔法を磨き上げること。冒険者は資金調達の副業であって、魔法を極めるための副産物でしかない。
「変わり者といえば、私の里にも誰とも馴染めない変わった子がいたような……」
「めぐみんさん! 敵がやってきました!」
「うむ! 我が魔法の餌食となるがいい! ――『クリエイト・アース!』、『ウインドブレス!』」
クリエイト・アースで良質な土を手元から出現させると敵に目掛けて吹き飛ばす。空気中を漂う砂をウインドブレスで風ごと操って敵の視覚を奪っていく。
視覚を頼りにしているモンスターはそれだけで目潰しされた激痛から方向感覚を狂わされる。今にも飛び出そうとするベルに制止の合図を出し、再び魔法を紡ぐ。
「私のターンはまだ終了してませんよ! さらに速攻魔法! 『クリエイト・ウォーター!』、『フリーズ!』」
追い打ちをかけるが如く、モンスターに向けて放ったクリエイト・ウォーターは見事に敵やその地面を濡らし、フリーズによって地面を伝って敵の足場を凍らせる。
「ベル! 今です!」
「はい!」
―――――
「めぐみんさんの支援があるだけで効率も大きく変わっていきますね」
「私は紅魔族随一の魔法使い。当然といえば当然かと」
さも得意げに自慢しているが、彼女の使用可能な魔法は爆裂魔法と初級魔法。そしてテレポートだけである。こんなものが紅魔族の限界だと言われれば、それこそ彼らにとっては心外である。
実際にめぐみんは何一つ嘘は言っていない。知識面や魔力量では他の紅魔族を一線引くほどの実力を持ち、その気になれば中級魔法や上級魔法だって習得可能だろう。
それでも彼女はそのポテンシャルの大半を爆裂魔法に費やし、肝心の爆裂魔法はダンジョン攻略では役立たず。仮に使用すれば天井が崩れ去る可能性だってあるのだ。
「さて、今回はこのくらいにしてそろそろ地上に戻りましょうか?」
「そうですね。僕一人だとこれだけの魔石を抱えて戦闘は勿論、持ち帰ることだって出来なかったでしょうし、今日は神様を精一杯、驚かせましょう!」
先程の戦闘で倒したモンスターが落とした魔石を拾い終えた二人は寄り添いながら、めぐみんのテレポートでダンジョンから離脱しようとした。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
それは獣の雄叫びの如くダンジョン内を震わせた。それはLv1の駆け出しが相手にして勝てるような相手ではない。
それはミノタウロスとも、初見殺しとも呼ばれる人型をした牛頭の怪物。
「なんで5階層にミノタウロスが!?」
「わ、我が相手に不足なし! いざ尋常に――!」
「何言ってるんですか! 早く逃げましょう! 殺されちゃいますよ!!」
腕を引っ張るベルを前に自尊心が、恐怖が何よりも勝った。熱くなった頭が一瞬で冴え、自分達が転移中だったことを思い出させる。
直ぐ様、テレポートを使用して転移先に登録している1階層の周辺へ自分達を飛ばした。だからこそ、彼らはミノタウロスの脅威から逃れられた。
だからこそ、彼らは剣姫の勇姿を拝めなかった。だからこそ、ここで彼らの物語は幕を開けた。
「たっ、助かったぁー!」
「わ、私の力を持ってすればミノタウロス程度どうってことないです! ただどうして5階層にミノタウロスが……?」
声を震わせながら強がるめぐみんと生きていることを実感するベル・クラネル。両者とも疲弊しきっているため、1階層を抜け出すと換金もせずに廃墟寸前の教会に帰宅して探索報告をしながら疲れを落とした。
ヘスティアは「災難だったね」と咎めることもなく、労いの言葉を掛けてくれながらステイタスを更新していく。
「今日は随分と早かったね。腰巾着の大きさから見ると大収穫のようにも思えるけど」
「これぞ大冒険の証ッ! これがエリートって奴の逃れられない宿命という奴です!」
「急いで帰ってきたので換金しそびれちゃったんですよ。後で僕の方から換金しておきますね」
2016.2.12:スキル欄・魔法欄を改変しました。