最優の魔法使いめぐみん!   作:ダンまち×このすば

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世界と現実と憧景 - D

【アイズ・ヴァレンシュタイン視点】

 

 生暖かな空気と焦げ臭い香りが漂う。幻想的な火花が肌を焼き尽くす。逃げ惑う群衆の網目を潜り抜けながら、ダイダロス通りを疾走する。

 アイズは事態救命のため、ダイダロス通りを目指していたが、同時に目の前を走り去る少女の動向も探っていた。

 何度も呼びかけても応答せず、見た目こそ魔法使いに見えるが、前衛のアイズが魔法使いに追いつけないでいる。

 高Lvの冒険者か? 又は敏捷の高い魔法剣士か? 疑問は山ほど浮かぶが憶測の域を出ない。現場に近づくほど熱気と激臭がアイズを襲う。

 

「……めぐみん!? しっかりして!」

 

 アイズの前を走っていた少女は突然声を荒げると目の色を変えて倒れていた少女を抱き上げる。その少女も魔法使いと同じ格好をしていたが、それを気にするほど余裕を保てなかった。

 アイズの目に飛び込んできた光景が目に焼き尽くされる。アイズの後を追ってきたティオナもその光景を目にして息を呑む。

 地面を根こそぎ削った傷痕。何者も抗えない理不尽な暴力。どんな魔法を使えば20Mも及ぶ地面を焦土に変えられるのだろうか?

 神の力。頭に浮かんだ一文字が否定出来ないほど。目の前の現実は人間を腐らせる。クレーターを黙って眺めていたアイズが我に返る。

 

「……誰かいるの?」

 

 白髪の少年が倒れていた。満身創痍の肉体は死んでいるのかと見間違えそうになる。死体ならダンジョンで山ほど見てきた。

 街にいながらダンジョンと同じ空気が漂う。冒険者達の安息地帯。覚束ない足取りで少年に駆け寄るアイズは彼がまだ息を引き取っていないことが伺える。

 

「アイズ……! その子、生存者!?」

 

 ティオナも我に返ったのだろう。それでも、今すぐ治療を行わないと命に関わる。応急手当を施したアイズは、少年を抱きかかえるとティオナを連れて現場から立ち去る。

 魔法使いの少女も気になったが、アイズ達が焦土に意識を向けていた隙に見えなくなっていた。倒れた少女を連れ去っていったのなら放心状態のアイズでもすぐ気づく。

 爆心地に目もくれず、アイズが目を離した数秒間、物音一つ立てず立ち去った。これが今のアイズに考えられる手段だったが、そんな芸当が人間に可能なのだろうか?

 ダイダロス通りを抜けたアイズとティオナは宿屋に少年を寝かせると雑貨屋でポーションを買い漁り、口移して無理やり飲ませた。

 少年は咳き込みながら喉に詰まったポーションを吐き出して意識を取り戻す。朦朧とした意識で泣きじゃくる少年を慰めるように抱きしめた。

 

 ―――――

 

【ベル・クラネル視点】

 

 意識を取り戻したベルは、あの惨劇から生き残った実感が身に沁みて涙を流した。見知らぬ金髪の少女がベルを抱きしめるように慰めてくれた。

 彼女の優しさに触れ合うほど止めどなく涙がこみ上げてくる。落ち着きを取り戻し、彼女の抱擁から逃れると『……ぁ』と寂しそうな声を少女が漏らした。

 冷静に頭を働かせるとめぐみんやヘスティアの様子が気になった。辺りを見渡すと生活感ある個室に思えたが、めぐみんとヘスティアの姿は見当たらなかった。

 

「えっと、ここはどこですか?」

「おはよう、白兎くん。ここは東メインストリートの宿屋だよ?」

 

 ベルの疑問に答えてくれた少女は褐色のアマゾネス。部屋の隅で椅子に座る彼女の視線から監視、品定めする気配を感じる。

 

「その辺で買った回復薬(ポーション)飲ませたけど、まだ傷も満足に癒えてないし暫くは安静にしてなよ?」

「はいっ! ポーション!? す、すいません!」

「別に怒ってるわけじゃないよ。君が謝る必要は何処にもない。これは私達が勝手にやったことで、君も被害者なら仕方がなかった」

 

 被害者。思わせぶりな台詞に身体を震わせる。彼女が語る被害者とは怪物祭事件か、爆裂魔法に関してか。冒険者2人、退路は1つ。

 

「代わりに聞きたいことがあるんだけど、教えてもらえないかな?」

「はっ、はい! なんでしょう?」

 

 尋ねられただけで身構えてしまう。この状況で逃げ切れる自信はないが、ファミリアの信頼を売る様な真似だけはしたくない。

 

「君の名前、まだ名乗ってなかったね。私はティオナ、ロキ・ファミリアのティオナ・ヒリュテ」

「ロ、ロキ・ファミリア!? まさか、こちらの方も?」

「……アイズ・ヴァレンシュタイン」

 

 喉から飛び出そうとした悲鳴を飲み込む。フレイヤ・ファミリアと並ぶ二大勢力の一つ。頭に浮かぶ逃走の二文字が消え去った。

 

「……ベル・クラネルです」

 

 自分でも恐ろしいと感じるほど透き通った音色で告げる。嘘は彼女たちの主神に見破られる。この場にいないだけで他の仲間が呼びに行ってる可能性も否定出来ないのだ。

 ロキ・ファミリアの本拠へ直接運ばれなかった疑問も浮かんだが、気にする余裕はない。大方、重傷だったベルを大至急運び出すには彼女たちの本拠は遠かったのだろう。

 回復薬(ポーション)をその辺で買って宿屋に連れ入った時点で予想は立てられる。憶測の域を出ないが、外れたところで困るわけでもない。

 ベルがここまで冷静になれたのも自分が追い詰められていると自覚できたから。そして自分と仲間を守るためには足りない頭を働かせるしかない。

 

「僕の仲間たち……めぐみんさんと神、ヘスティア様を知りませんか?」

「……残念だけど君の主神に心当たりはないかな。君が倒れていた現場には誰も残っていなかった。ここまで運び込んでから外の様子も確認してないからね」

 

 嘘は言ってないだろう。真実も語っていないが、彼女は言葉を選びすぎてベルでも気づいてしまう。状況確認と評して情報交換を行ったが、ティオナもベルもお互いに信用しきれず言いたくない情報は隠し通した。

 

 ―――――

 

【ティオナ・ヒリュテ視点】

 

「意図的に情報隠してるよね? 命の恩人なんだから少しは口を滑らせてもいいと思うんだけどなぁ」

「……知らない」

 

 ベル・クラネルを開放したティオナとアイズは遠慮がちな少年に宿屋の支払いは済ませたと告げてその場を後にした。

 黄昏の館まで帰宅途中。ティオナが不機嫌そうに愚痴る。アイズもティオナとベルが親しく会話するほど不機嫌になっていき、困ったときは少年に助け舟を寄越してしまうほど。

 素直そうな少年に思えたが、仲間に関する質問をすると顔色を変えて受け答えに応じてくれなくなる。身元の確認と事件の概要は把握したけど、今回の事件に彼が真っ当な被害者である保証はなくなった。

 

「レフィーアを救ってくれた魔法使いちゃんも白兎くんの仲間なのかな?」

「……?」

 

 窮地に陥ったレフィーアに救いの手を差し伸べた魔法使いの少女もめぐみんと呼ばれる少女を気遣っていた。彼女たちの格好を見ても無関係とは思えない。

 アイズも魔法使いの少女には思うところがあるようだが、今は白兎くんにご執心のようだ。思い返せば、アイズは少年を見つけてから仕切りに気遣っていた。

 手際の良さから初対面と知らされるまで面識がある者と思い込むほど。尋問中に威嚇してきたときは本当に初対面なのか疑ったが。

 

『言いたくないなら、言わなくていい』

 

 尋問中にアイズがベルに投げかけた言葉だ。それに気を良くしたベルが本当に言いたくないことを言わなくなったときは目も当てられなかった。

 

「……ティオナ、先に帰って」

「アイズ?」

 

 東のメインストリートまで踵を返して向かおうとしていた。どこまで心配性なのだ。ダンジョン一筋だったアイズとは思えない行動の数々に驚愕の表情を歪ませる。

 一人は残っていた方が良いと思えるので引き留めようとはしない。今のアイズは頑固で意地っ張りだ。ティオナまで引き返せば、あの少年にいらぬ気遣いをさせてしまうかも知れない。

 二人とも宿屋に戻ってしまうと黄昏の館に今回の報告をする者がいなくなってしまう。一人で帰宅したティオナは双子の姉ティオネと主神ロキに経過報告を済ませたが、その日に限ってアイズが帰ってくることはなかった。

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