魔法少女リリカルなのは Sunlight   作:朱槍

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注意:何十年も戦士として戦い続け責任ある立場を全うしたカズキを想像して書いた
   為キャラが崩壊しています。


臨時教官編
第6話 井の中の蛙


~Ginga side~

 

「はっはっはっ……。」

 

私は家に続く道を走り続ける。

この調子なら後2分もあれば家に着くだろう。

 

「はぁ…はぁ…。」

 

後ろを振り返る。

すると妹のスバルが私の後を必死に追っていた。

私はそんなスバルを嗜める。

 

「スバル、無理せず自分のペースで走りなさい。」

 

「だ、大丈夫だよ。」

 

全然大丈夫そうには見えないんだけど…

訓練校で基礎訓練を受けてる私に対して。

つい数日前まで普通の生活をしていたスバルが同じペースで走るのは無茶だと思うんだけどな…。

そうこうしてたらもう自宅間近だった。

玄関を通り庭に進入する。

庭に入ると其処に腕を組んでる人がいた。

その人に報告をする。

 

「先生、ウォーミングアップ10km完了しました。」

 

私達の先生【ガーディアン・ブラボー】に。

 

~Ginga side end~

 

~Kazuki side~

 

「先生、ウォーミングアップ10km完了しました。」

 

青紫色の髪を束ねた少女ギンガがオレの所に報告にくる。

遅れてスバルが転がり込む様に入ってきた。

 

「10km……終わり……まし……た。」

 

おいおい、大丈夫か?

オレはスポーツドリンクとタオルを手に取り二人に渡す。

 

「ありがとうございます。」

 

「ありがとう……。」

 

ギンガはドリンクを飲みながら汗を拭く。

対してスバルはドリンクを一口飲むとそのままタオルを顔に掛けて倒れ込む。

ギンガは余裕そうだがスバルは案の定バテバテの様だ。

とりあえずスバルには注意しとくか……。

これを言うのも何度目かな……。

 

「スバル、何度も言うが自分のペースで走れと言ってるだろ。

 そんなんじゃトレーニングに参加出来ないだろう。」

 

「だって、どうしても先頭のギン姉に釣られちゃうんだもん……。」

 

「相手のペースに呑まれず自身の呼吸を保つ。

 これも大事な事だぞ?」

 

「うぅ…ごめんなさい……。」

 

「よろしい。

 それじゃあ、5分休憩入れてトレーニング開始だ。」

 

「「はい!」」

 

オレが指示を出すと二人ともしっかりと返事をした。

さて、何故オレが彼女達のトレーニングの監督をしているのか。

時は数日前に遡る。

 

~Kazuki side end~

 

5日前 陸士108部隊 隊舎

 

「協力してもらうにも少し時間が掛かる。

 ちょうど、一週間後に101から110部隊までの合同演習がある。

 その時までゆっくりしてくれ。」

 

ゲンヤはカズキにそう言った。

 

「わかった。

 しかし一週間か……。

 随分と暇だな。」

 

辿り着いた場所は異世界。

活動開始までの一週間の時間をどう使おうか悩んでいた。

 

「なんだったら、観光でも行ってきたらどうだ?

 うちから誰か一人付けてやるぞ。」

 

「観光か……。

 良いかもしれないな。

 お願いできるか?」

 

カズキはゲンヤの提案に乗ることにした。

すると一人の青年が前に出る。

 

「それなら、自分が案内します。」

 

【ロニ・マックスウェル】。

あの空港の事件以来カズキに憧れの様な感情を抱いている青年だ。

 

「そうか。

 それじゃあ頼むぞ。」

 

「了解ッス!

 で、早速ですけど何処か行きたい場所ってありますか?」

 

ロニはゲンヤに返事をするとカズキに希望を訊ねた。

 

「そうだな。

 暫く滞在する事になりそうだし日用品を揃えたいな。

 観光はそれから頼めるか?」

 

「わかりました。

 それじゃあ、行きますか。

 あ、ブラボーさんその後よかったら少し訓練に付き合ってくれませんか?」

 

「別に構わないよ。」

 

するとその話を聞いていたギンガが話に入ってきた。

 

「あの、ブラボーさん!ロニさん!

 その訓練私も参加して良いですか!?」

 

「えっ、そりゃあ良いけどいいのかい?

 折角、遊びに来たのに訓練で時間瞑っしゃって?」

 

「構いません。

 それに、私は今強くなれるだけ強くなりたいんです。

 今度こそ自分の力で大事な物を護る為に。」

 

ギンガはカズキを真っ直ぐ見てそう告げた。

 

「……わかった。

 この一週間、キミをみっちり鍛えてやろう。

 覚悟しろよ?

 ロニも構わないか?」

 

「良いですよ。

 ここは将来の後輩に讓としますよ。

 それにオレ達も一週間後にはみっちり鍛えてもらえますし。」

 

「よろしくお願いします!ブラボー先生!!」

 

回想終了

 

そんな事があってカズキはロニとギンガを4日間鍛え。

昨日の夕方にナカジマ家に姉妹を連れ帰宅したのだ。

明日には此処を出って108部隊に向かう事になっている。

ちなみにスバルは特訓開始3日目に自分から参加させて欲しいと言ってきた。

そんな事を思い出してるともう休息開始からとっくに5分を過ぎている事に気付いた。

 

「よし、もう十分休憩したろ。

 トレーニングに移るぞ。」

 

「「はい!」」

 

カズキはリュックサックを2個持ってくる。

それをそれぞれギンガとスバルに渡す。

もちろん中身の重さはギンガの方が重くなってる。

 

「それを背負ってギンガは20km。

 スバルは15km。

 頑張って走ってこい。」

 

「はい!」

 

「はい……。」

 

ギンガの返事に対照的な返事をスバルはした。

 

「どうしたスバル?」

 

「ん~、またランニングかと思うと少し気持ちが……。」

 

「はは。

 その気持ちは解るけどそれは仕方ないよ。

 ギンガもスバルも近接戦闘が主体だからどうしたってスタミナは重視されるからね。

 それとも特訓辞めるか?」

 

「いや!!!」

 

「なら頑張れ。

 高町さんみたいな魔導師になるんだろ?」

 

「うん!

 いってきます!!」

 

スバルは元気良く返事をして庭を飛び出しって行った。

 

「スバル!

 そんな急いだらまたへばっちゃうよ!!

 それじゃ、先生。

 私も行ってきます。」

 

「おう、頑張れよ。」

 

弟子達を見送りカズキは青い雲一つ無い空を見上げる。

 

(まさか、オレがまた誰かの師になるなんてな……。)

 

カズキは嘗ての戦士長だった頃の記憶を思い起こす。

大切だった弟子達を。

救えなかった弟子(息子)を。

裏切った弟子(碓氷)を。

 

「碓氷…オマエは今何処で何をやっているんだ?」

 

カズキはポツリと呟いた。

その問いに応える者はいなかった。

 

翌日

 

「それじゃあ、先生。

 部隊の方頑張って来てください。

 あと、父にもよろしくお願いします。」

 

「ブラボーいってらっしゃい!」

 

「ああ、行ってくるよ。

 自主練しっかりするんだぞ?」

 

スバルの頭を撫でてカズキは玄関を出る。

彼は陸士108部隊に飛んだ。

 

~Roni side~

 

オレ、ロニ・マックスウェルには魔導師としての才能がない。

管理局に入った当初の魔力ランクはD-。

入ってから10年間努力を続けたが結局魔力ランクはC。

魔導師ランクは陸戦B+。

階級は三等陸曹。

使える魔法も【魔力刃の生成】【肉体強化】【簡単な治癒魔法】と所謂替えの効く局員だ。

こんなことじゃいつまで経ってもオレの【目的】を果たすことが出来ない。

同僚や後輩に追い越され続け焦りを抱える中、あの人は突然現れた。

ガーディアン・ブラボー。

彼は燃え盛る空港でオレ達の前に突如現れた。

そして彼はゲンヤさんの娘さん達を含め空港に取り残された人々を救ってみせた。

魔法を一切使わずに。

その後も信じられない人間技を披露してみせた。

オレは彼に訊ねた。

 

「どうしたら、アナタの様に強くなれるんですか?」

 

彼はこう答えた。

 

「護りたいもの目指したいもの。

 それを胸に抱いてただ一向に修練を続けた。」

 

「どれだけ頑張っても結果が出ないかもしれないのにですか?」

 

「……。

 確かに努力すれば報われる。

 そんな言葉は挫折を知らない人間の言葉だよ。」

 

「……。」

 

「だがな。

 この言葉を否定する奴は努力することを諦めた人間だよ。」

 

「!?」

 

「だから、キミにはこの言葉を送ろう。

 【努力の結果に限界は存在しない】!

 今出てる結果が努力の結果なのか?

 そんなものは自分が諦めない限りいくらでも変化する。

 今やっている努力で結果が出ないなら別の努力をしてみせろ。

 考えることと努力を止めない限り変化は止まらないよ。

 人間にはゲームの様にステータスゲージなんて存在しないんだから。」

 

衝撃的だった。

心の何処かで勝手に限界を決めている自分がいた。

だがこの人の言葉でわかった。

そんなものは只の逃げだ。

努力する事に置いて行かれる事に結果が出ない事に。

ありとあらえる事に逃げ出していただけだ。

オレは再び強くなる事を決意した。

魔法で強くなれないなら別の所で強くなってやると。

そしてオレはこう思った。

この人の下で強くなりたいと。

そして、ついにその願いは今日現実となる。

俺が前を向くと其処にはあの人が立っていた。

 

~Roni side end~

 

合同演習当日

 

大演習場に設置されている時計が午前10:00を報せた。

すでに隊員達は整列して上官の到着を待っていた。

そして、隊舎から各隊の部隊長とカズキが出てくる。

101から110まで計10部隊。

整列している実働部隊隊員数は約800人。

その人数の前にカズキ達は立つ。

すると、隊員の一人が一歩前に出る。

 

「全員、部隊長達に敬礼!!」

 

ザッ!!

 

整列している隊員達が一斉に敬礼をする。

その後、ゲンヤが今日の予定の話をする。

だが、殆どの隊員はゲンヤの隣にいる変人(カズキ)を気にしている様だ。

やがて、ゲンヤはカズキの紹介を始めた。

 

「今回の合同演習に特別に指導してくれる事になった民間協力者ガーディアン・ブラボーだ。」

 

「ガーディアン・ブラボーだ。

 今回はオレが指導する事になったので皆よろしく。」

 

「ブラボーには今度新設する特殊部隊の教導官をしてもらう事になってる。」

 

隊員達は突然の事に騒ぎ始める。

合同練習を仕切る謎の民間協力者。

しかも、その民間協力者が教導するという新設部隊の設立。

隊員達からすれば急展開にも程がある。

 

「さて、あんまり長々と自己紹介しても時間が勿体無いし。

 さっさと合同演習を始めようか。」

 

『よろしくお願いします!!』

 

戸惑っていた隊員達だが部隊長達が何も言わない以上従うしかなかった。

だが、次にカズキが放った指示は隊員達がまったく想像していなかったものだった。

 

「それじゃ、まず全員で隊舎周り10週。

 それが終わったら二グループに分かれて前半組みは隊舎周20週。

 後半組みは自分のデバイスの素振りを前半組みが終わるまでやり続けるように。」

 

『はぁ!??』

 

ロニを含む108部隊以外の隊員達の驚愕した声が重なった。

カズキの言った訓練内容は明らかに魔導師のそれもミッド式の魔導師の訓練から逸脱していた。

隊舎は一週約2.5km。

つまりウォーミングアップで25km。

訓練で50km走れと言っているのだ。

更にデバイスの素振りなどミッド式の魔導師は訓練校時代以来まともにやった事がない。

さすがに隊員達は不満を口にし始めた。

その内の隊長格の一人がカズキに質問し始めた。

 

「あの、ブラボー教官。」

 

「ん?

 どうした?」

 

「折角の合同訓練ですのに模擬戦とかはなさらないのですか?」

 

「模擬戦はするよ。

 でも、その前に基礎訓練はしないと。」

 

「それは解りますがデバイスの素振りなんてミッド式の魔導師は訓練校ぐらいでしかやりませんよ?」

 

「だからどうした?

 ミッド式だからって肉弾戦の訓練を疎かにしてもいいとでも?

 それより、文句ばっか言ってると模擬戦する時間もなくなるぞ。」

 

「……。

 あの失礼ですが教官は教導経験の方は?」

 

「そんなこと知ってどうするんだい?」

 

「教官の様な教導方法を聞いたことがないものですから。」

 

「……ない。」

 

「はい……?

 すみませんもう一度お願いできますか?」

 

隊員が驚いた顔でもう一度カズキに尋ねる。

 

「少なくとも魔導師の育成経験は一度もないよ。」

 

「魔導師ランクは!?」

 

「さぁ。

 そもそも、オレ次元漂流者らしいし。

 魔法が使えるかも解らないよ。

 ただ、魔法が使えなくたって基礎訓練は出来るだろ?」

 

カズキの言葉を聞くと隊員は呆れた顔をして隊員達の方を向く。

 

「各部隊、チームに別れていつも通りに模擬戦するぞ。」

 

なんと隊員はカズキの指示を無視して勝手に訓練をやり始めたのだ。

 

「どういうつもりだ?」

 

「それはこっちのセリフだ。

 何で魔法使えねぇヤツがオレ達の教官やってんだよ。」

 

隊員はさっきまでの態度と打って変わって高圧的な態度でカズキと話す。

 

「それが何か問題でもあるのか?」

 

「大有りだよ。

 いいか?

 オレ達は魔導師だ。

 魔法が使えねぇヤツがどうやって教えるって言うんだよ?」

 

「魔法が使えなくても基礎くらいは…」

 

「アンタから教わるような基礎はねぇし役に立たねぇよ。

 全く、ナカジマ三佐も何考えてるんだか。

 結局、魔法使えねぇ上の人間は現場の魔導師の事なんざ理解してねぇじゃねぇか。」

 

普通、上官やその上官が態々呼んだ相手にこんな態度を取れば一発で修正もの。

しかし、他の部隊長達も同じ考えなのか何も言わない。

ゲンヤも黙ったまま腕を組んで此方を見ているだけ。

カズキは隊員達や部隊長達の態度、ゲンヤの様子を見て呟いた。

 

「なるほど。

 ゲンヤがオレに合同訓練からの参加を頼んだ理由が解った。」

 

さっきまで話していた隊員を押し退けて隊員達の前に出る。

 

「何すんだよ!」

 

「訓練内容を変更する。

 全員模擬戦を始めるぞ。」

 

「はぁ!?」

 

「だから模擬戦。

 したいんだろ?」

 

「ああそうかい。

 だったらアンタは端っこで黙って大人しくしてろよ。

 どうせ何も出来ないんだから。」

 

「何言ってるんだ。

 オレも参加するんだよ。」

 

『はぁ!!??』

 

カズキの言葉に全隊員が耳を疑った。

魔法が使えない人間が管理局の前線魔導師に戦いを挑む。

この世界の人間には正気の沙汰に思えなかった。

一人の隊員が隊長に念話を飛ばす。

 

(どうするんですか隊長?)

 

(どうすると言ってもな……。

 適当に三人くらい選んで相手させよう。)

 

(いいんですか?)

 

(あの様子だと何処かの魔導師にまぐれで勝ったんだろうよ。

 適当に痛め付けて天狗になってる鼻っ柱を叩き折ればいいさ。)

 

隊員は数人選んでカズキの前に出す。

しかし、カズキは隊員達に向かってとんでもない事を言い出した。

 

「何やってるんだ?

 加減なんていらない。

 全員で一斉に挑め。」

 

『ああっ!??』

 

この一言に殆どの隊員がキレた。

他の隊からも念話が届く。

 

(おいどうすんだよ?)

 

(決まってる。

 二度とバカな事言えねえ様に徹底的に潰してやる。)

 

(大丈夫なのか?)

 

(知るかよ。

 大体向こうから言い出したんだ。

 オレ達は従ってやるだけだよ。)

 

(了解。

 全員、教官殿を囲んで差し上げろ。)

 

全員がカズキを囲もうと動き出す。

その時、ロニが手を挙げる。

 

「あの~!

 ブラボー教官!!」

 

「なんだ?」

 

「我々、108部隊は教官の訓練に参加するので走りに行ってもいいですか?」

 

「おい!ロニ何を勝手に…」

 

「いいぞ。」

 

「ありがとうございます!

 それじゃあ、隊長も皆も早く行こう!!」

 

「おい、ロニ引っ張るな~!!」

 

ロニは隊長と皆を連れて走りに行ってしまった。

 

(108部隊のヤツらどうしたんだ?)

 

(さぁな。

 大方、自分ところの部隊長が連れてきた相手をボコるのは気が引けたんだろうよ。)

 

そうこうしているとカズキの包囲が完了した。

左右上空と360度の逃げ場なしの包囲網が完成した。

 

「確認するが……いいんだな?」

 

「何処からでも。」

 

「全員一斉掃射!!!

 このバカに格の違いを教えてやれ!!!!」

 

カズキに向けて数えるのも馬鹿らしい程の魔力弾が放たれた。

 

 

 

 

 

隊舎周りを走る108部隊一同

 

「おい、ロニ何で止めなかったんだ?」

 

先程強引に引き摺られてった隊長がロニに訊ねる。

ロニは前を向いて走りながら答える。

 

「そりゃあ、無駄に労力使いたくありませんしね。」

 

「お前にしては随分冷たいな。

 ここ一週間ずっとブラボーさんって慕ってたのに。」

 

隊長は意外そうな顔をして言った。

 

「隊長何か勘違いしてるみたいですね。

 あのまま、彼処にいたら潰されてたのは間違いなくオレらですよ。」

 

しかし、ロニはそんなことを言い出したのだ。

 

「いや流石にそれはないだろ。

 オレ達が抜けたって700人以上は居るんだぜ?

 ブラボーさんの強さは知ってるけどよ……。」

 

「あの人の強さを知ってる?

 隊長それはありえませんよ。

 あの人は自分の強さなんてオレ達の前で欠片も見せてないですよ。」

 

「何だと!?」

 

「そもそも、あの人に勝つのは今のオレ達じゃどれだけ集まっても無理ですよ。

 あの人相手に出来るのは負けないために全力で戦闘を避けること。

 あの人は強さや格が違うなんて話じゃない。

 【次元】が違い過ぎます。」

 

「その言い方だとオマエは少しは知ってるのか?」

 

「ええ。

 と言っても欠片というか破片程度ですが。」

 

 

 

 

 

大演習場

 

数え切れないほどの魔力弾が直撃し埃を巻き上げる。

カズキがいた中央部分は霧の様になっていて見えなかった。

やがて霧が晴れ始める。

そして霧が完全に晴れた時この場にいる全ての人間が驚愕した。

 

「う……ウソだろ。」

 

「どうした?

 これが全力か?」

 

ガーディアン・ブラボーは何事もなかった様に佇んでいた。

その光景に部隊長達も慌て出す。

 

「一体どうなっている!?」

 

「レアスキルか何かの力が働いたのか!?」

 

「サーチャーの映像をスローで回せ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

部隊長の一人がサポートに来ていた局員に指示を出す。

そして送られた映像を見て驚愕した。

 

「ば、バカな…こんな事が有り得るのか!??」

 

 

 

 

 

「異常なまでの空間認識能力。」

 

 

 

 

 

映像のカズキは全ての魔力弾を躱してみせたのだ。

 

「ど、どうなってやがる!??」

 

「あんな数の魔力弾をどうやって!??」

 

隊員達が慌てる中カズキは確認するように言う。

 

「これで終わりか?

 じゃあ、今度はこっちから行くぞ。」

 

次の瞬間、カズキの姿がぶれた。

同時に先程まで言い争っていた隊長格の隊員の懐に潜り込んでいた。

 

「え?」

 

 

 

 

 

「一瞬で相手の懐に侵入する脚力。」

 

 

 

 

 

放たれる腹部へのアッパー。

大空を舞う隊員。

隊舎の一室の窓ガラスをぶち破り。

そのまま医務室のベットにデリバリー。

 

 

 

 

 

「全てを弾き吹き飛ばし粉砕する打撃力。」

 

 

 

 

 

「せ、CG(センターガード)は直ちに射撃準備!!

 FA(フロントアタッカー)とGW(ガードウィング)は足止めを!!!

 FB(フルバック)は前線の援護を!!!」

 

『りょ、了解!!』

 

正気に戻った隊長格の指示で隊員達も動き出す。

 

「漸く、やる気になったか。

 だが……。」

 

「でぇぇぇぇい!!!!」

 

「もらったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

隊員達が一斉に攻撃を仕掛ける。

だが…。

 

「そんな指揮系統も立て直せてない状態で。

 おまけに焦った様な攻撃が通じるとでも思ってるのか?」

 

カズキは隊員達の攻撃を全て防いでみせた。

 

 

 

 

 

「鋼鉄さえ握り砕く握力。」

 

 

 

 

 

そして隊員達の魔力刃やデバイスを握り潰す。

そのまま目にも止まらぬ速さで次々と足止めの魔導師を無力化していく。

 

「FA・GWは下がれ!!

 CG全員一斉掃射!!!

 上空の魔導師はよく狙え!!

 幾ら何でも上空への攻撃手段はないはずだ!!!」

 

左右上空と全方位から魔力弾が再び発射される。

攻撃も砲撃が含まれていて前回の比ではない。

そしてカズキのいる場所に着弾した。

 

「さすがにこれで…」

 

「これで……何だ?」

 

「えっ?」

 

 

 

 

 

「高層ビルの屋上に簡単に飛び上がる驚異的な跳躍力。」

 

 

 

 

 

カズキは上空に飛び上がり攻撃を回避していた。

 

「そんな、空を飛べるなんて!??」

 

「ただのジャンプだ。」

 

「嘘だっ!!!!」

 

その言葉を最後に隊員の意識は刈り取られる。

次々と撃墜されていく魔導師達。

最後に残ったのは後方支援のFBだけだった。

一応、彼らは戦闘中に何もしなかった訳ではない。

前衛部隊の攻撃力の強化。

攻撃の当たる瞬間の防御魔法。

バインドの設置。

もっとも全てが無に還ったが。

強化された攻撃を弾き返すは砕くは。

障壁を問答無用でぶち抜くは。

バインドは何事もないように引きちぎるは。

動きが速過ぎて捕捉が出来ないはのイかれっぷり。

FBは慌てて逃げ出そうとする。

しかし…

 

「何処に行く?

 まだ模擬戦は終了してないぞ。」

 

いつの間にかカズキは後ろに回り込んでいた。

 

『qあwせdrftgyふじこlp』

 

残った隊員達の声にならない声が大演習場に響き渡った。

 

 

 

 

 

「そして、訓練時の容赦のなさ。

 こんなところですかね。

 もうあの人はアレです。

 存在がバグか何かですよ。」

 

『うわぁ……。』

 

ロニの話を聞いた108部隊の隊員達はドン引きしていた。

 

数十分後

 

ウォーミングアップを終えた108部隊が大演習場に戻ってきた。

 

「108部隊ウォーミングアップ完了…って何じゃこりゃぁぁぁ!???」

 

そこに広がるは屍とかした約700人の隊員達。

そして中央に佇む銀色の戦士。

ちなみにゲンヤを除く部隊長は余りの出来事にフリーズ状態。

ゲンヤは隊員達の体たらくに頭を抱えていた。

 

「終わったか。

 しかし、高々ウォーミングアップで疲れてる奴もいるな。

 ダラシがない。

 お前らそれでも戦闘員か?」

 

『も、申し訳ありません……。』

 

息も絶え絶えの何人かの隊員を見てカズキは思う。

 

(どうも魔導師というのは魔法に頼り過ぎて基本を蔑ろにするヤツが多いみたいだな……。)

 

カズキはゲンヤの方を向く。

 

「ゲンヤ。

 これじゃあ、合同訓練は出来そうもない。

 悪いがオレはこれで上がらせてもらう。」

 

「おう、了解だ。

 ありがとな。」

 

ゲンヤに報告を終えて隊員達に振り返る。

 

「ウォーミングアップ程度で息を切らす様じゃオレの訓練をこなすのは不可能だ。

 オレの訓練はこれで終了。

 後は各自部隊長の指示を待て。」

 

『……。』

 

隊員達は悔しさで唇を噛む。

自分達がどれだけ魔法無しだと非力な存在かを思い知らされた。

 

「だがチャンスはある。

 もし変わりたいと思うのなら二ヵ月後に出来る特殊部隊に来い。」

 

「特殊…部隊?」

 

「そうだ。

 その名も。

 特殊訓練部隊WS。

 もしその気があるなら少しは鍛え直して覚悟を決めておくんだな。」

 

カズキはそれだけ言ってその場を立ち去る。

ゲンヤが近づいてきて話しかけてくる。

 

「お疲れさん。」

 

「酷いですね。

 あれで陸戦部隊を名乗るとは呆れて何も言えない。」

 

「恥ずかしい限りだよ。」

 

「けど、何人か鍛えがいのありそうなのを見つけたよ。」

 

「何だ。

 ただ一方的に潰してた訳じゃないのか。」

 

「これでも人材育成の経験はある。

 みすみす成長の芽を潰す様なマネはしないよ。」

 

「そうか。

 しかし部隊の名前だが。

 随分大きく出たな。」

 

「?

 何のこと?」

 

「ダブルエスって名前だよ。

 俺の部隊ならSSランク相当にしてやれるってか。」

 

カズキはゲンヤの言葉を聞いて納得した様な顔をする。

そして不敵に笑った。

 

「ゲンヤ違うよ。

 WSはそんな意味じゃないよ。」

 

「何?」

 

「WSは只の略称。

 本当の正式名は【特殊訓練部隊WeedSpirit】。」

 

 

 

 

 

雑草魂さ。




[次回予告]
遂に稼働する特殊部隊
そこにはオレ達の想像を超えた地獄があった
次回魔法少女リリカルなのは Sunlight【雑草達の意地】

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