「……まあ、アンジェラの件は仕方がないとして、それよりもアルハレム様のクエストはどうなったのでしょうか?」
頭では理解できても感情では「処刑」という言葉に抵抗を感じるアルハレムが苦い表情を浮かべていると、リリアがわざと少し大きめの声を出して強引に話題を変えた。ローレンもサキュバスの魔女が己の主を思う気持ちに気づいたので彼女の言葉に耳を傾けることにした。
「私達はアンジェラを捕まえて、彼女に操られていたシーレの街の女性達を解放しました。しかしアルハレム様のクエストブックはクエストを達成したことになっていません。これは一体どういうことなんでしょうか?」
「ああ、それはクエストブックが決めた達成条件になっていないからじゃないかな? 確かに僕達はアンジェラからシーレの街の住人達を解放したけど、双方ともにまだ同じ街にいるわけだし、万が一にもアンジェラが逃げ出すという可能性があるからね。多分王都からの応援が来るか、シーレの街の住人達が街に無事戻って初めてクエストが達成されるんじゃ……ん?」
ローレンがリリアに説明していた時、窓の外から大勢の人達の歓声が聞こえてきた。
アルハレムとローレンが窓から外を見てみると、数十人の馬に乗った騎士の一団が宿場町に到着したところで、シーレの街の住人がそれを歓迎していた。
「どうやら王都からの応援が来たみたいですね」
「そうだね。……でもあの旗は?」
アルハレムに返事するローレンは一団の先頭を行く数名の騎士が掲げる旗に、王家の紋章の他にもう一つ別の紋章が印されていることに気づいた。
「あの紋章はライザック兄様の紋章。……僕達の牽制に来たのかな?」
「ライザック皇子って、ローレン皇子のご兄弟ですよね? 牽制ってどういうことですか?」
「そう。ライザック・ファスタ・ギルシュ。ギルシュの第一皇子で僕の兄様。それで牽制っていうのは……アルハレム君? 勇者が次期国王を決める会議に出席できる権利を持っていることは知っているよね?」
ローレンに訊ねられてアルハレムは、以前母親のアストライアから勇者が次期国王を決定する会議に参加できると言われたことを思い出す。
「ええ、それは知っていますけど?」
「ライザック兄様は第一位王位継承者なんだけど野心家で次期国王を狙っているからね。自分と同じ王位継承権を持っていて勇者である僕を邪魔者扱いしているのさ。ここに来たのは父上からの命令だけでなく、僕への牽制とアルハレム君、君の品定めもあるんだろうね」
「俺の?」
アルハレムが自分を指差して聞くとローレンが頷く。
「そうさ。ライザック兄様の目から見てアルハレム君が有望だと思ったら、ライザック兄様は君を自分の派閥に取り入れようとするだろうね。新たな勇者である君がいれば次期国王を決定する会議で優位に立てるからね」
「そうですか……。俺が勇者で次期国王を決める会議に出席……ですか」
ローレンに説明されてもやはり実感がわかずアルハレムが呟く。その時、
パッラララー♪ パララ♪ パララ♪ パッラッラー♪
アルハレムのクエストブックからクエスト達成を知らせる軽快なファンファーレが聞こえてきた。
「この音楽は……!」
「クエストが達成されたんだ! ようやく、ようやく達成できた!」
クエストブックから聞こえてきたファンファーレに、アルハレムよりもローレンの方が過剰に反応をした。
「? ローレン皇子?」
「何をしているだい、アルハレム君? 早くクエストブックを開いてくれ!」
「え? ええ、分かりました……うわっ!?」
興奮した様子のローレンの勢いに押されてアルハレムがクエストブックを開くと、クエストブックから目を開いてはいられないほどの強い光が放たれた。
「な、何だこの光は……!?」
「ああ……! 来る。女神イアス様が降臨される……!」
アルハレムの疑問にローレンの恍惚とした声が答える。そしてそのすぐ後に、
「はーい♪ クエスト十回達成、おめでとーございまーす♪」
と、自分を祝ってくれる小さな女の子の声をアルハレムは聞いた。