魔物使いのハンドレッドクエスト   作:兵庫人

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第二十五話

「……すまないな。みっともないところを見せた」

 

 ひとしきり叫んだライブは、アルハレム達の視線に気づくと我にかえってばつの悪そうな顔をした。

 

「いいよ。もう慣れているし、リリアとレイアにもライブがどんな人間なのか説明する手間が省けた。それよりそろそろ本題に入ってもいいか?」

 

「本題? ……そういえば確か俺に用事があるんだったな。まあ、用事を聞くのはいいんだが、その前にアル? お前、今まで何をしていたんだ? いきなり姿をくらませたっていうし、マスタノート家からもお前を見かけたら連絡をくれっていう手紙だって来たんだぞ?」

 

「分かっている。その事も含めて全部話すよ。まずはこれを見てくれ」

 

 アルハレムは全て説明すると言うと荷物袋からクエストブックを取り出してライブに見せる。

 

「? アル、この本は?」

 

「ライブ、お前も名前くらい聞いたことがあるだろ? ……クエストブックだ」

 

「クエストブックだと!?」

 

 世界で百冊しか存在せず、記された全ての試練を達成すればどんな願いでも一つだけ叶えられると言われている女神イアスが創造した伝説の書物。それが目の前にあり、しかも子供の頃からの友人がその所有者であるという事実にライブは驚きを禁じ得なかった。

 

「……それは本物なのか? 一体何処で手にいれたんだ?」

 

 目を限界まで見開きクエストブックを見るライブの質問にアルハレムは頷く。

 

「今から少し前、いつの間にか俺の部屋の机に置かれていたんだ。最初は誰かのイタズラだと思っていたんだが、あの時の俺は期待半分冗談半分の気持ちで旅の仕度をしてクエストブックを開いて……そしたらまさかの本物だったってわけだ」

 

 クエストブックを初めて開き、冒険者となった時のことをアルハレムは今でもしっかりと思い出せる。

 

 ある日の夜。剣の訓練を終えて自室に戻った時に机に見知らぬ本が置かれているのを見つけ、それがクエストブックだと気づいた時は心臓の鼓動が一気に加速した気がした。

 

 伝説の書物であるクエストブックがこんな簡単に手に入るはずがなく、誰かのイタズラだと告げる理性。

 

 もしこのクエストブックが本物ならば、自分の求める力が手に入るのではないかと囁く願望。

 

 理性と願望との葛藤で体が震えた。

 

 最終的に理性に勝った願望に突き動かされて旅支度を整えてクエストブックを開くと、次の瞬間には自室ではなく無数の扉しかない不思議な空間の中にいた。

 

 不思議な空間にある無数の扉には全て神殿の壁画のような絵が描かれていて、たまたま目にはいった一人の旅人が魔物を連れて旅をしている絵が描かれた扉を開くと、視界が真っ白になるのと同時に「魔物使い」の知識が頭に流れ込んできた。

 

 そして再び視界が戻ると、今度は自室でも扉しかない空間でもなく、来たこともない森の中に一人でいてそこから冒険者としての旅が始まったのだった。

 

「クエストブックの伝説は知ってるだろ、ライブ?  クエストブックは冒険者となった所有者に一つの力を与えた後に見知らぬ土地に飛ばし、そこから百の試練が始まる。俺は魔物使いの力を与えられて冒険者となった後、隣国エルージョの森に飛ばされたんだ」

 

「……なるほどな。アルが誰の人目にもつかずに姿を消したのはそういう訳か。そして魔物使いの力で仲間にしたのがそこにいるリリアさんとレイアさんということか」

 

 ライブはアルハレムの話に納得したように頷くと、冒険者となっていた友人の左右に位置どる二人の魔女に見る。

 

「ええ、そのとおりです♪ そういえば自己紹介がまだでしたね。私はアルハレム様の僕となったサキュバスのリリアで、こちらにいるのがラミアのレイアといいます。どうかお見知り置きを♪」

 

「………」

 

「ええ、こちらこそお願いします。……なあ、アル」

 

 自己紹介をするリリアとレイアにライブは笑みを浮かべて挨拶を返すと、意味ありげな視線をアルハレムにと向けた。

 

「……何だよ、ライブ?」

 

「上手くやったじゃないか、アル? リリアさんとレイアさん、こんな美人な魔女を二人も仲間にするだなんて。……だけどこれがアルの家族が知ったらどうなるのかな?」

 

「うぐっ!?」

 

 ライブの言葉にアルハレムの顔が一気に真っ青となる。今まで考えないようにしていたが、マスタノート家に戻ってリリアとレイアのことが知られればアルハレムの家族、特に妹がどんな反応をするのか……考えるだけで体に震えが来る。

 

 アルハレムは恐怖を振り払うように話題を強引に変えることにした。

 

「と、とにかく! 俺がマスタノート家からいなくなったのは今話した通りだ。それでここに来た用事なんだが……ライブ、最近この辺りで何か事件が起こっていないか?」

 

「アル? それはどういうことだ?」

 

「これを見てくれ」

 

 アルハレムはクエストブックを開くと、あるページに記された文章をライブに見せた。

 

【クエストそのろく。

 じけんがおこってこまっているおともだちをたすけること。

 ぼうけんしゃは、こまっているひとをたすけるのがしごとですからねー。

 それじゃー、あとにじゅうにちのあいだにガンバってください♪】

 

「この辺りで俺の友人といったらライブ、お前しかいない。……何か最近、お前の周りで変わったことはなかったか」

 

 アルハレムの言葉に思い当たるところがあるのかライブは少し考えてから口を開いた。

 

「……一つだけある。実は数日前から共同墓地で墓荒らしが起こっているんだ」

 

「墓荒らし?」

 

「そうだ。毎晩決まって最近死んだ死者の墓が荒らされて、遺体の腕や足が切り取られている。そして荒らされた墓には魔物の毛皮や牙といった、売ればそれなりの金になる部位が置かれているそうだ」

 

「何だそれは? 随分奇妙な墓荒らしだな」

 

 ライブの言葉にアルハレムが首をかしげる。

 

「俺も同感だ。そんな奇妙な墓荒らしがこの数日間、連続で起こっているんだ」

 

「それで? 墓荒らしについて何か分かったことはないのか?」

 

「それが全く。……ただ二日前に被害が出ている共同墓地の近くで不審な人影を見たという報告がある。報告によるとその人影は若い女性で、髪を頭の両端で縛っていたそうだ」

 

「「………!?」」

 

 髪を頭の両端で縛った若い女性。

 

 ライブの口から聞かされた不振な人影の情報に、アルハレムとリリアの脳裏で一人の戦乙女の顔が浮かび上がった。

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