魔物使いのハンドレッドクエスト   作:小狗丸

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第二百六十五話

「結構集まっているな」

 

「そうですね」

 

 祭りの会場の様子を見たアルハレムが呟き、その呟きにリリアが頷く。今、会場には百人近い招待客が集まっており、成鍛寺の僧侶達の案内を受けていた。

 

「メイがこれを見たらまた緊張するんじゃないか? それで彼女や他の皆は今どうしているんだ?」

 

「はい。メイさんは成鍛寺の本堂で準備をしていて、ツクモとヒスイがその手伝いをしています。他の皆は山全体を見て獣や魔物が現れないか見回りをしています」

 

「そうか。……それにしても」

 

 リリアの報告にアルハレムは一つ頷いてみせてからもう一度会場の様子を見て眉を潜めた。

 

「アルハレム様? どうかしましたか?」

 

「リリアも気づいているだろ? 来ていないんだよ、彼らが」

 

「……ああ、エルフの方々ですか」

 

 アルハレムの態度に疑問を抱いたリリアだったが、魔物使いの青年の言葉を聞くと納得して、同時に苦い表情にとなる。

 

 この祭りには族長も含めた大勢のエルフも招待したのだが、アルハレムの言う通り会場にはエルフの姿が一人も見当たらなかった。

 

「やっぱりエルフも方々はこの祭りに参加したくないみたいですね」

 

 リリアが表情に僅かに不快感をにじませながら言う。

 

 メイが二百年以上封印された原因は成鍛寺の開祖の兄と、それに相手を服従させる神術を授けたエルフにある。たがらこそメイの復活を祝うこの祭りにその神術を授けたエルフと同族のエルフ達を招待することが、メイが辛い過去から決別するきっかけになるとアルハレムとコシュは考えたのだが、エルフ達にはその事実を認めたくない者が少なからずいたのだ。

 

 事実、以前アルハレム達はエルフ族に祭りの招待状を届けに行った時に、リンを初めとする数名のエルフ達に追い返されそうになった。この時のリン達がアルハレム達、正確にはメイを見る目には強い嫌悪と恐れの色が見えた。

 

「自分達の事をこの世で最も美しいとか優れているとか言っているエルフの方々は同族の罪を認めたくないんですよ。二百年以上昔の間違いを『メイさんごと』無かったことにしたくて仕方がないですって、彼らは」

 

 リン達に追い返されそうになった時の事を思い出したリリアが更に不機嫌な表情となって物騒な考えを刺のある言い方で言う。そしてその意見に殆ど同感なアルハレムだったが、それでも苦笑を浮かべながらサキュバスの魔女をなだめようとする。

 

「リリア、あんまり怒るなよ。お前だって全てのエルフがリンみたいなエルフじゃないって知っているだろ? サン殿だって今日の祭りには他のエルフを連れて参加するって言ってくれたんだからさ」

 

 アルハレム達を追い返そうとするリン達を止めたのはリンの父親でありエルフ族の族長であるサンだった。サンは娘達の非礼を深く謝罪すると祭りに参加する事を約束してくれて、その時の彼と彼の側近達の態度は他者の気持ちを尊重してくれる礼儀正しいものであった。

 

 リリアもサン達には悪い印象を懐いていなかった様で、不機嫌だった表情をやや軟化させる。

 

「それはそうですけど……」

 

「まあ、祭りにはまだ時間もあるしもう少し待とうか」

 

「ええ、そうですね。……はっ!」

 

 アルハレムの言葉に従ってもう少しの間この場でエルフを待つ事にしたリリアだったが、突然何かを思いついて目を見開く。

 

「……ねぇ、アルハレム様♪」

 

「……何だよ、リリア?」

 

 先程までの不機嫌そうな顔から一転、甘える様な表情になって近づいて来るリリアに対し、今までの経験上今の状態になった彼女は必ず「何か」をしでかす事を知っているアルハレムは自然と警戒の目となる。そんな魔物使いの青年にサキュバスの魔女は笑顔を浮かべて言う。

 

「そんな警戒する様な目で見ないでくださいよ♪ 私はただ、喉が渇いたから飲み物を飲みに行きたいなと思っただけですよ♪」

 

 リリアの口から出たのは予想外にもまともな要求だったので、アルハレムは肩すかしを食らった様な気分になりながら警戒を解いた。

 

「何だ……。それだったら何か飲み物を貰ってくるからリリアはここで待って……」

 

「いえいえ♪ 私が飲みたい飲み物は『コレ』です♪」

 

 アルハレムの言葉を遮って言うリリアの左手が触れたのはアルハレムの股間だった。

 

「なっ!?」

 

 反射的にリリアから距離を取ろうとするアルハレムだったが、サキュバスの魔女は余った右手で魔物使いの青年の片腕を掴み、同時に両足で魔物使いの青年の片足を挟んで逃さないようにしていた。

 

 この時にリリアの柔らかな体の感触が伝わり甘い体臭が漂ってくるのだが、アルハレムにそれを楽しむ余裕なんてなく、今の彼の胸の内はただ警戒心をあっさりと解除した自分を叱りつけてやりたい気分でいっぱいだった。

 

「ねぇ、アルハレム様? ほんのちょっと、ちょっとだけでいいですので一緒にあの草むらまで来てくれませんか?」

 

「ちょっと待て!?」

 

 アルハレムを引きずって草むらまで連れて行こうとするリリア。ここにきてこのサキュバスの魔女が飲みたい「飲み物」が何か分かった魔物使いの青年は必死に抵抗しようとする。

 

「待てって、リリア!? お前、何を考えているんだ!? 俺達がここを離れる訳にはいかないだろうが!」

 

「私はいつもアルハレム様とナニをする事を考えています。安心してください。伊達に常日頃からアルハレム様と肌を重ねていませんからアルハレム様の弱いところはしっかりと理解しています。十分……いえ、五分もあれば二回は『飲めます』から大丈夫です♪」

 

「その台詞のどこに安心したらいいんだ!?」

 

 どうやらリリアはすでに軽くではあるが発情状態になっているようで、輝力で自身の身体能力強化してアルハレムを引きずっていく。このまま魔物使いの青年がサキュバスの魔女に(性的に)喰われてしまうかと思われたその時。

 

「はははっ。君達は相変わらず仲が良いようだ」

 

 と、一人の男の声がアルハレムとリリアの耳に聞こえてきた。


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