ハリー・ポッターと闇の少女 作:夜空
「ルーミア、貴女はホグワーツを知っていますか?」
「ホグワーツ?」
「貴女はホグワーツ魔法魔術学校に入学する資格があります」
「へーそーなのかー。じゃ、行く行くー」
「そ、そうですか。私はミネルバ・マクゴナガル。ホグワーツの副校長です。学校でも何かあったら私に話してくれると嬉しいです」
「いいよー。教科書とか何処で買うの?」
「今すぐ行けますがどうしますか?」
「行きたい!」
先程から、ミネルバ・マクゴナガル——ホグワーツの副校長と話しているのは、11歳になったばかりの少女、ルーミアである。
髪は黄色のボブ、そして赤い目で、白いブラウスに黒いロングワンピース、左側頭部に赤いリボン——本人はお札だと主張しているが——が特徴。少々天然なところがありそうな子だ。
保護者が存在せず、『ロンドンの特殊孤児院』という色褪せた看板がかかった孤児院で暮らす彼女は、来客マクゴナガルと共に自室で話していた。
自室といっても同年代の女子4、5人との相部屋であり、客が来たからと友人達が部屋を出たから2人きりなだけである。
生活状況は過酷で、院長の秘書が、少ないお金と大きくなった子供達のバイト代を上手くやり繰りして何とか今日生きていけている状況だ。
ルーミアも小学校を卒業したため、この夏休みは荷物運びのアルバイトに時間を費やしている。
話がひと段落ついた為マクゴナガルは立ち上がり、どのような交通手段が良いか問う。
「飛んで行く?」
ルーミアの言葉にマクゴナガルは首を傾げた。
「ちょっと待って——貴女は飛べるのですか?」
「もちろん」
ルーミアは答え、孤児院の自分の部屋の中でふよふよ浮いてみせた。
「先生も飛ぼうよ!」
マクゴナガルの手を掴み、孤児院の出口まで引っ張って行く。そして、院長に「出かけてくるねー」と声を掛けると空高く飛んで行ってしまった。
マクゴナガルは姿眩ましを応用し、ルーミアのいる上空へと向かう。しかし、空中に留まっているには姿眩ましを連続で使用し続けなくてはいけないので、魔力の消費が激しい。
それを悟ったルーミアは、マクゴナガルの手を掴むと自分の力だけで目的地を目指した。
自分を掴むルーミアをふと見上げ、あることに気付いたマクゴナガルはルーミアに問う。
「ルーミア、何故貴女の頭上にはふわふわと黒い雲のような物が浮いているのですか?」
マクゴナガルの言う通り、ルーミアの頭上にはちょうど直射日光を避けるように闇が現れている。
ルーミアは特に気にせずに答えた。
「私ね、日光があるところでは飛べないの。あとね、真っ暗の方が力も強くなるんだ。だから、闇を出してるの。院長や孤児院の友達は『闇を操る程度の能力』って呼んでるよ」
「そうですか……貴女の能力のこと、いつか話してもらえますか?」
「いいよー」
目的地を発見したルーミアは、どんどん高度を下げていく。
ルーミアは辺りを見回し、漏れ鍋を見つけると駆け寄っていった。
ルーミアが歩いたところに一瞬闇が残っていたが、近くの清掃員が「ルーミアちゃんは仕方ないなぁ」と呆れながら箒で払っていた。
その光景に戸惑いつつ、マクゴナガルも漏れ鍋に入って行く。
中に入ると、ルーミアが店の主人トムと話していた。
「ここはダイアゴン横丁の入り口なんだ」
「そーなのかー。じゃあ、トムさんはダイアゴン横丁を守る門番さんなんだね!」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ、ルーミア」
ルーミアはトムから視線を離し、近くにいた少年を見た。
マクゴナガルもそちらを見ると、ホグワーツの森番ハグリッドと魔法界で有名なハリー・ポッターが話していた。
ルーミアはふわふわとそちらに近づいて行き、2人に声を掛けた。
「やっほーハグリッド。肉食ナメクジの駆除剤買いにきたの?」
「おお、ルーミア!1年ぶりだな。今回は俺の買い物じゃなくて、ハリー・ポッターっちゅう子の買い物を手伝いに来たんだ。ほれ、ハリー、ルーミアだ。挨拶せい」
「えっと、僕、ハリー・ポッター。ホグワーツに今年入学するんだ」
「私ルーミア。よろしくー」
ハグリッドの髭で遊び始めたルーミアにため息をつき、マクゴナガルは補足した。
「この子もホグワーツの新入生です。ポッター、仲良くしてやってください。ちなみに私はミネルバ・マクゴナガル。ホグワーツの副校長です」
「は、はい、先生」
ハリーはぎこちなく返事をし、ルーミアを見る。
「これから買い物なの?」
「うん。ハリーも一緒に行こうよ」
「いいの?」
ハリーの顔がパッと輝いた。
ルーミアもニコニコしている。
「出発だー!」
ルーミアがハリーの手を引っ張って漏れ鍋の裏口に走って行く。
マクゴナガルとハグリッドは一瞬固まったあと、慌てたように追い掛けて行った。
マクゴナガルの先導で、ハリーのお金を下ろしに銀行へ向かう。
ルーミアは地下に金庫があると知り、ワクワクしながら入り口を覗いている。
グリンゴッツ銀行のトロッコが苦手なハグリッドを上に残し、3人はゴブリンのグリップフックに案内されてトロッコに乗り込んだ。
激しいトロッコの揺れにルーミアが歓声を上げ、ハリーが驚いてトロッコから落ちそうになったりしたが、一同は無事ハリーの金庫についた。
ルーミアとハリーが手分けしてハリーの財布に金貨を詰め込み、再びトロッコに乗ってマクゴナガルが用があるという金庫に向かう。
マクゴナガルはそこからひとつの小さな包みを取り出し、「このことは極秘にするように」と2人に念を押した。
3人はハグリッドに合流し、グリンゴッツから出て制服を買いに行った。
「マクゴナガル先生、制服って買わなきゃ駄目なの?」
「そうですか、どうかしたのですか?」
「闇が生地じゃないと、私の能力使えないんだよねー」
ルーミアは、自分の服が能力で作られた闇の産物であり、これが無いと上手く能力が操れないと説明する。
しばらく悩んだマクゴナガルは、ルーミアの服が地味であるためそのままで良いと許可を出し、しかし出来るなら『闇』でホグワーツの制服を作るように言った。
店の前につくと、大人達は外で待ち、子供2人は店に入った。
「ごめんくださーい、マダム・マルキンいるー?」
「はいはい私なら何時でも居ますよ。お嬢ちゃん、制服買いにきたの?」
「私ルーミア。私は自分で制服作れるから大丈夫だけど、ハリーの制服買いにきたの」
「あらそうなの。ルーミアちゃん、女の子の制服の見本はそこよ。ハリーの採寸が終わるまで見て待っててちょうだい」
「はーい」
ルーミアは制服の見本を見に行き、1人になって不安になったハリーは踏み台に乗せられた。
もうひとつあった踏み台にいた少年はハリーに声を掛ける。
「君がハリー・ポッターかい?」
「ああ、そうだよ」
「で、あそこでふわふわ飛んでいる子は——?」
「ルーミア。僕と同い年で、今年ホグワーツに入学するんだ」
「僕はドラコ・マルフォイ。純血だ。しかし——」
マルフォイと名乗った少年は、顎に手を当てて何かを考え始める。
しばらくして沈黙に耐えられなくなったハリーは、マルフォイに尋ねた。
「どうかしたの?」
「いや、父上からルーミアという少女の話を聞いたことがあってね。思い出していただけだ。じゃあ、僕はもう行くよ。ホグワーツで会おう」
マルフォイは気取って「たぶんね」と言ってから店を出て行った。
ちょうどルーミアが、闇で作った自分の制服を見てもらおうと走って来た。
「マダム・マルキン見て!制服出来た!」
マダム・マルキンがルーミアの周りを歩いて確かめる。
「完璧だわ。この店に用は無くても、また来てちょうだい」
「わかった!」
「ハリー、採寸は終わりましたよ」
その言葉にハリーはホッとしながら踏み台を降り、店を出た。
いくつもの店を周り、ようやく最後の店、オリバンダーの店についた。
ルーミアは杖が買えることに興奮しているのか、その手足から闇が漏れ出ている。
「たのもぅー!オリバンダーさん、杖買いに来たよ!」
「わかっとるよ。杖腕を差し出してくだされ」
ルーミアは素直に右手を差し出し、勝手に色々な長さを測り出した巻尺を眺めた。
「ルーミア殿、何かリクエストはあるかね?」
「闇みたいに真っ黒なのが良い!」
「闇みたいに真っ黒、となぁ。そんな杖が奥にひとつあった。取ってこよう」
オリバンダーは杖を取りに行き、数分後に戻って来た。
埃を被った箱を丁寧に開け、杖を取り出す。
ルーミアはそれを受け取った。
「素材は闇の樹、芯は吸血鬼の爪じゃ。振ってみなされ」
言われる前にルーミアは杖を振っていた。
辺りが闇に包まれる。
マクゴナガルやオリバンダーが杖を取り出しルーモスと唱えても、オリバンダーが蠟燭を持って来て火をつけても明るくならなかった。
闇の中、オリバンダーが呟く。
「ルーミア殿は、強力な魔力を持っている……。何より、闇に特性があるようじゃ」
「だって私、『闇を操る程度の能力』持ってるもん」
ルーミアが闇を消し去って言った。
けろっとした様子にマクゴナガルはため息をつく。
続けてハリーの杖選びが始まった。
ルーミアが巻尺とちょっかいを掛け合っているうちに杖選びは終わったようで、マクゴナガルが店を出るよう促す。
4人は店を出て漏れ鍋に向かった。
9月1日。
ルーミアは普通の人から見たら小さめな、しかし本人にとってはピッタリのサイズのリュックサックを背負っていた。
リュックサックの中は闇の様になっていて、そこにはその見た目からは考えられないほどの量の荷物が入っていた。
外見は、紺色の生地に1本赤いラインが控えめに入っている。
そして、ブラウスに黒のロングワンピース。
キングスクロス駅で、学校に行くような格好をしながら顔は遠足に行くようなウキウキした顔。そのチグハグな少女に周りは皆戸惑う。
ルーミアはそんなことは気にせず、両手を大きく広げ、辺りを闇に包んだ。
そして、手探りで1本の柱に触れ、中に入った。
9と4分の3番線に停車していたホグワーツ特急に乗り、日当たりの悪そうなコンパートメントに入る。
ルーミアはそこで横になり、眠り始めた。
ルーミアが目を覚ますと、コンパートメントの中にはもう1人の少女が居た。
栗色のふさふさの髪に、ちょっと長めの前歯を持つ少女。なにやら難しそうな本を読んでいる。
その少女はルーミアの視線に気付いたのか、本から顔を上げた。
「あら、起きたのね。私はハーマイオニー・グレンジャー。ホグワーツの新入生よ。他が空いてなかったし貴女が寝てたから勝手に入っちゃったけど、お邪魔だったかしら」
「私ルーミア。よろしくねー」
ルーミアはそれだけ言うと、リュックサックの中をゴソゴソとかき分け、お菓子を取り出した。
カエルチョコレートを口に入れ、カボチャジュースを飲む。
リュックサックから追加を取り出すと、ハーマイオニーにも差し出した。
「食べる?」
「え、ええ……。ありがとう」
しばらくコンパートメントには、ルーミアがお菓子のゴミをビニール袋にまとめる音だけが響いた。
ちょうど沈黙を遮るように、アナウンスが流れる。
「ルーミア、ついたみたいよ。降りましょう」
「うん」
ルーミアとハーマイオニーは列車を降り、人混みに流された。2人はすぐ離れてしまう。
ハーマイオニーは慌てたが、ルーミアは全く気にしていない様子だ。すぐに赤毛の双子に声を掛けた。
「ねえ何持ってるの?」
「「ん?ああ、糞爆弾だよ」」
「そーなのかー。面白そうー」
「俺はフレッド・ウィーズリー、こっちは双子のジョージ」
「君の名前は?」
「ルーミア」
「俺達はグリフィンドールの3年生だ」
「よろしくな」
「うん、よろしく」
ルーミアはフレッドとジョージから湖への行き方を教えてもらい、そちらへ向かった。
「あれ?誰も居ないなぁ。もしかしたら置いて行かれちゃったのかな」
もしかしなくても置いて行かれたのである。
出発の時、ハリーやハーマイオニーが最後まで捜し続けていたが、ハグリッドに時間だと言われ渋々諦めたのはルーミアには知る由も無い。
「仕方ない、飛んでくか」
辺りはすっかり闇に包まれている為、ルーミアはそのまま飛び上がった。
月光を頼りにホグワーツ城に向かってふよふよ飛んで行く。
ルーミアには全く急ぐ気が無い。何故なら組分けの儀式の存在すら知らないのだから。
ルーミアは能天気に進んで行った。
その頃、ホグワーツ城は大騒ぎだった。
何しろ、新入生がひとり居ないと言うのだ。
ハリー・ポッターとハーマイオニー・グレンジャーがマクゴナガルに個々に進言しに行き、マクゴナガルもルーミアのマイペースぶりが心配になってダンブルドアに相談したのが騒ぎの始まりである。
流石のダンブルドアも新1年生の事が心配になったのか、先生をホグズミード駅に送り出した。
ハリーとハーマイオニーは団結し、ルーミアの特徴、性格などを挙げて協力している。
また、双子のフレッドとジョージも自分達が最後の目撃者だと名乗り出て聞き取り調査に協力的な姿勢を見せた。
そこで、我らが良心ミネルバ・マクゴナガルは重大な事を思い出した。
「そういえば、ルーミアは空が飛べます。湖を飛んで来ているのでは無いでしょうか?」
そこからは速かった。
伝書鳩ならぬ伝書フクロウを飛ばし、様子を確認させるとルーミアは湖を飛んで渡っていた。
しばらくすると、大広間の窓からも満月をバックに飛んでいるルーミアの姿が見れた。
ルーミアが大広間に向かって外からふわふわと近づいていくと、マクゴナガルはルーミアを手招きし、窓を開けて迎え入れた。
ルーミアは自分の服に意識を集中させ、普段着からホグワーツの制服へと変える。
そして、大広間の前まで連れて行かれ、組分け帽子をかぶせられた。
「稀な才能の持ち主だな」
「そう?」
「お前はどの寮に入りたいか?」
「楽しい寮が良い」
「お前が楽しく過ごせる寮は——グリフィンドール!」
組分け帽子はあっさりと宣言した。
ルーミアは走ってグリフィンドールのテーブルにつく。
マクゴナガルは組分けの儀式の終わりを宣言し、組分け帽子を片付けた。
宴会が始まり、ダンブルドア校長の話もあるがルーミアは全て聞き流し、就寝と言われると監督生について寮へ向かった。
ハーマイオニーと同じ部屋に入り、ベッドに寝転ぶと、ルーミアはすぐに寝てしまった。