眠りに落ちたハリーが目覚めたのは、みんながまだ部屋に帰る前だった。ベッドのカーテンを開けてみても、まだ誰も帰ってきた形跡がない。何時間も暗闇の中に入ったような気がしたが、意外にも時間がたっていなかったらしい。
「グリン。ごめんね。閉じ込めるみたいになっちゃって。君に外の世界を見せてあげる。」
ハリーはトランクからグリンを出し、カーテンを閉め語りかけた。
「ハリーはん・・・それはだめや・・・。」
グリンなら「ホントに!?」と喜ぶと思っていたので、この反応は予想外だ。
「あの家にいたときみたいにさ、ポケットの中なら君とだっていられる。」
「ハリーはん。ワイは望んでここにいるんやで?もし、あのとき拾われてなくて、今ここにいなかったら捕まっとるかもしれんのに。」
申し訳なさそうにしゃべるグリンに、ハリーは少し違和感を覚える。
「ちょっとぐらい大丈夫さ。君がそんな心配性だったなんて全く意外だよ。」
「ハリーはん。危ないパイプは通るべからずやで。」
「う~ん・・・。休日くらいならいいでしょ?」
グリンが探るようにハリーを見る。
「ハリーはん。何があったんや?」
「やっぱり君は騙せないね。」
苦笑いしてことの顛末を説明する。
「ひどい話や・・・。」
「グリン。君も何か隠してないかい?」
「隠そうにも隠せるものがないでハリーはん。」
「ふ~ん。・・・で、休日くらいなら大丈夫だろ?」
グリンは縦長の瞳孔を横にそらして
「う~ん・・・ま、考えとくわ。」
と、自らトランクの中へと帰っていった。
ハリーは、相棒の嘘を追及しないことにした。
ドラコが帰ってきた。
「ハリー?寝ていたのか?大広間にいなかったからどこに行ったのかと思っていたよ。」
後ろから、金髪キツネ目のリカードだ。
「これからゴブストーンのトーナメントやるんだけど、ハリーもやるでしょ?」
「ごめん。もうひと眠りするよ。おやすみ。」
「そうか・・・おやすみ。」
「まじかよ~。ま、しっかり疲れ取れよ!おやすみ!」
ドラコたちは、ゴブストーンのセットを取ると、談話室へと戻っていった。
このまま自分の考えを突き通せば、このスリザリンの仲間を失うことになるだろう。
でも、心に残る罪悪感と嫌悪感はぬぐえない。マグル差別はハリーが今までダドリー達にやられてきことと変わりないからだ。
両親がいないというだけで、影でいろいろ言われ、のけものにされ、少しぶつかっただけでバイ菌であるかのように、過剰に反応される。
ドラコ達がマグル生まれの子に触れた時の嫌そうな反応がそれだ。
家とも呼びたくない家の中では、バーノンおじさんやペチュニアおばさんに時々、汚らわしいものでも見るかのような視線をぶつけられた。
ドラコ達がマグル生まれの子を見るときの目がそれだ。
僕が失うのはスリザリンの仲間だけではないかもしれない。
僕が友達だと思っているロンや、友達になりたいと思っている人たちは、僕のことをヴォルデモート2世だと思っている。マグル生まれの子も例外ではないはずだ。ハリーは手で顔を覆う。
「フフッ」
思わず笑い声が漏れた。僕が闇の帝王?勝手に決めつけて勝手に怖がって・・・全くバカバカしい。無意識にハリーは額の傷跡を撫でた。心の底ではそう思われても仕方がないと思ってるんじゃないのか・・・?ヴォルデモートは両親を殺した。ただそばにいたから僕を殺そうとしたのか・・・?たまたま僕を殺し損ねたのか・・・?実は初めから僕狙いだったのか・・・?なぜ・・・?本当の僕は一体・・・?
ベッドに仰向けになり
「リディクラス」と自嘲気味に唱えた。
ハーマイオニーだけは唯一噂を信じていないのだろう。まあ、そういう話に興味なさそうだもんな・・・。もしハリーと一緒にいるところを見られたらハーマイオニーも避けられるのだろうか・・・?
ハリーはハッとした。僕は・・・。プライマリースクールの低学年の頃を思い出す。みんなの輪に入れないハリーに優しく話しかけてくれた子は、次の日ダドリーズと他の取り巻きのターゲットにされた。
思い出したことを後悔しながら唇を噛む。
僕のせいで・・・。自暴自棄な気持ちに襲われる。
何もないベッドの天井を見上げながらゆっくりと決断した。
横に寝返りを打ちトランクを見る。「グリン。君がいてくれてよかったよ。」ハリーポッターは空腹を誤魔化すように固く目を閉じた。
次の日の朝食どき、事件は起きた。ドラコ達と大広間に向かったハリーは、
「落ちこぼれのロングボトムのところに珍しくフクロウ便がきてるぞ。」
ドラコのこの言葉に緊張が増す。
「ドラコ。かまうなよ。」
できるだけ平静を装って発した声は少し震えている気がした。ネビル・ロングボトムは魔法薬学の出来が悪く、常にスネイプ先生の標的にされる。そのためよくドラコ達のイタズラにあう。その度にハリーはよくないと言うのだが、ドラコ達は「分かったよ。」と言ってまた同じことをする。
少しドラコは迷ったようだが・・・。
「まあ来いよハリー。ちょっと見てくるだけさ。」
「ふぁ~。お腹空いたから先に席行っとくね。」
あくびをし、キツネ目をさらに細くしながらリカードはスリザリンの席へと歩く。
「僕も。」続けてマルサスもリカードに続いた。
ドラコは怪訝な顔で二人を見て
「ノリが悪いやつらだ。来るだろハリー?」
「う~ん。」
乗り気でないが、ドラコの好奇心は止めれそうにない。
「「オォレも行く。」」
先に朝食を食べ終えていたクラッブとゴイルも合流した。
ネビルの席が近くになるにつれ、胃がキリキリし始める。
「『思い出し玉』だあ!僕、うっかりしてるからばあちゃんが送ってくれたんだ!ギュッと握って赤くなったら何かを忘れてるんだけど・・・見てて。こういう風にギュッと握ってっと・・・あれえぇ・・・。」
思い出し玉が真っ赤に光りだした。
「・・・なんだろう・・・何を忘れてるんだろう・・・あっ!」
通りかかりざまにドラコが思い出し玉をひったくった。
はじけるように横にいたロンともう一人のグリフィンドール生が立ち上がった。(確かシェーマス・フィネガンだったかな)
パシッ!
今度はハリーがドラコから思い出し玉をひったくる。
ハリーに気づくと、ネビル・ロングボトムは委縮した。
と、ここでマクゴナガル先生がスッと現れた。問題ごとに対するアンテナが一番鋭いのがこのマクゴナガル先生だ。
「どうしたんですか?」
ドラコは苦々しげに、「見てただけですよ。」と言ってクラッブとゴイルを従えて戻っていく。
ハリーは思い出し玉をネビル・ロングボトムのテーブルに置き、先生に一礼してドラコに続いた。
思い出し玉は赤く光っていた。
前からハーマイオニーが、グリフィンドールの席に向かって歩いてきている。
「おはよ。ハーマイオニー。」
ハーマイオニーは訝しげに、ドラコ達といるハリーを見ながら、「おはよ。」と返す。
「また後で飛行訓練のときにね。」
ハーマイオニーは「ええ。」と少しぶっきらぼうに言って通り過ぎていった。
ドラコがびっくりしたように振り返ってハリーを見る。
ドラコは周囲を気にして声のトーンを落として
「連中とあまり仲良くしない方がいい。」と言った。
努めてニッコリとして
「ハーマイオニーは僕の友達さ。」と返す。ハリーは自分の顔が引きつっているように感じた。
飛行訓練は、初めての授業だ。グリフィンドール生と合同だ。
みな箒の前にきっちり並び、担当のフーチ先生の指示を仰ぐ。
「箒の上に手をかざして!」
「そして『上がれ!』と言って」
みんな一斉に「上がれ」と叫んだ。
ハリーの箒はスパッと手に収まったが、飛び上がった箒は少なかった。
それから箒にまたがり、フーチ先生が順番に柄の持ち方や、またがり方を指導していった。
「それでは2メートルぐらい浮上して飛行の姿勢を保ったらすぐに降りてきてください。笛を吹いてからですよ。1・・・2の・・・」
「うわああああああああああ!!!」
ネビルが笛を待たず急浮上した。
「戻ってきなさい!!!!!」
先生の怒鳴り声もネビルの耳には届かない。
「コラ!早く!」
先生の大声むなしく、ネビルはフラフラ揺れながらどんどん上昇していき・・・そして・・・
ネビルが恐怖心からガッチリ掴んでいた手を振り払うかのように、箒が上下に激しくゆすり始めた。
「ッ!!!!!!!!!!!!」
ネビルが箒から落ちてくる。ドスン!!!ポキッ!!!
箒はユラユラと禁じられた森の方へと消えていった。
「手首が折れてるわ。」
フーチ先生はつぶやいた。
「私はこの子を医務室へと連れていきます。その間誰も動かないように。箒に触れるなんてもってのほかですよ。さもないクディッチをする前にこのホグワーツを去ってもらいますから。」
ネビルは号泣し嗚咽を漏らしながら、先生に肩を支えられながら、歩いて行った。
先生が去ったあとドラコは大笑いし始めた。
「あいつの顔見たか?ビービー泣いてやがった」
他のスリザリン生もはやし立てた。
マルサスは雰囲気に合わせながらもハリーを危惧し、目をはずさない。
ハリーは自然とスリザリン生を観察していた。
リカードは珍しく無表情だ。
「やめてよ、マルフォイ」グリフィンドールのパーバティ・パチルがとがめた。
「へー、ロングボトムを擁護するの?あいつが授業をめちゃめちゃにしたのに?」
ドラコはおやおやという風に言った。
「パーバティ。まさかあなたが、チビデブどんくさ泣き虫に気があるなんてね♪」
パンジー・パーキンソンが冷やかす。
「これを見ろよ!」
ドラコは少し背の高い草むらの中から何かを取り出した。
「あいつのばあさんが送ってきたバカ玉だ」
それを高々とみんなにアピールする。太陽に反射してキラリと輝いた。
「それを渡して。」
みな、お喋りを止め二人に注目した。ハリーはドラコへとゆっくりと近づいていく。ドラコは嬉々とした表情で玉を渡そうとする。
「ハリー!」
マルサスはハリーの進路を阻むように向かい合うが、マルサスが制止しようとするのを落ち着いて押しのけて、ハリーは歩を進める。ハリーは手を伸ばして、静かに言葉を続ける。
「それは君のじゃない。」
ドラコの目が衝撃に見開かれた。ハリーの意図をようやく理解したようだ。困惑の表情を浮かべている。
「ハリー?」
「それを渡して。」
「君がこんな玉に興味があったなんてね。意外だよ。それとも、まさかとは思うけど僕に文句があるのかい?」
スリザリン生がざわざわとし始める。
しばらくの沈黙。そして真っすぐにドラコの目を見据えたままハリーは言い放った。
「ドラコ。君は僕の友達だ。だけど君のそういうところが大嫌いだ。君は間違ってる。」
何人かがハッと息をのむ声が聞こえた気がした。ドラコの表情が固まる。が、ドラコの顔から力がスッと抜け
「へえ。僕も君のそのヒーロー面が嫌いだ。ハリー。」
いつもの調子で毒づいた。ドラコの嫌悪のベクトルがグググッとこちらを向くのを感じた。