スノーフレークⅡ   作:テオ_ドラ

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001.「大丈夫」

暗闇の宇宙空間。

本来ならば満天の星々の光が照らし、

広すぎる世界の中でも孤独を感じないという。

 

けれど今はどこを見回しても……

どれだけ目を凝らしたしても……

星々の輝きを見出すことはできなかった。

 

「……」

 

代わりにそこにあるのは

赤い……まるで血のような薄気味悪い光。

ゆらりゆらり揺れながら赤い光は宇宙を漂い、

標的を見つけては喰らっていく。

 

――ダーカー。

  全てを喰らう人類の敵。

 

アークスシップの甲板。

ダーカーを迎え撃とうとしている

一人のアークスがいた。

少し雑に切り揃えた短い黒髪で、

前髪は右目を隠している。

まだ16歳には満たない少年、

幼い顔立ちでありどこか頼りげない雰囲気だ。

けれど前髪の合間から覗く瞳は

鋭く細められている。

まるで威嚇をしている小さな猫のようだった。

クリス=トーラム。

それが少年の名前だった。

オフィサーコートという

ぴっちりとしたスーツに身を包んでいる。

本来は落ちついた男性のための衣装なのだが、

クリスが着ると少し背伸びをした子供にも見える。

 

背に背負っているのは1対のブレード。

飾り気のないシンプルなデザインで、

特殊な鉱石で打たれた2枚の刃から

それぞれフォトンの刃を発生させる武器、

デュアルブレードと呼ばれるカテゴリー種だ。

彼の飛翔剣はグレスミカという名前を持ち、

オーソドックスな性能を持つ使いやすいものである。

 

「……」

 

彼の眼前には赤い光の群れ。

迫りくるダーカーは数えきれないほどであり、

彼には荷が重すぎるのは明らか。

けれど退くことはできない。

もう自分が立つ場所はアークスシップ、

これより後ろなんてものはありはしないのだから。

 

「……来い!」

 

クリスは男にしては少し高い声音、

それを精一杯低くして叫ぶ。

応えるようにダーカーたちは甲高い声をあげた。

 

ぶぉんっと風斬り音と共に突進してきた2匹は

蜂のようなフォルムではあるが、

両手には鋭い鎌を持つエル・アーダ。

直撃すれば軽い体のクリスは

ひとたまりもなく吹き飛ばされるだろう。

だが冷静にグレスミカを振りかざし

 

「イモータルダーヴ!」

 

剣から発生させたフォトンの刃、

それを振り下ろして叩き斬る。

あまり上位の個体ではなかったらしく、

一撃で体を縦に分断されダーカー因子となり霧散する。

 

仲間がやられたことなどまるで気にせず

残りの一匹は猛然と突っ込んできた。

肉薄するほどの距離、

けれどデュアルブレードにとっては

その距離はむしろ好都合。

 

「ヘブンリーカイト!」

 

下からすくい上げるように切り上げ、

両手に持った剣を回転させながら上昇する。

何度も斬りつけられたエル・アーダは

これも呆気なくずたずたに切り裂かれて霧散した。

 

「そこっ!」

 

その後ろから迫ってきていたのは

巨大な尻を持つ蠅のようなダーカー、ブリアーダ。

周囲に自分の尖兵を生み出し襲い掛かるのが脅威だが

 

シュンッシュンッ!

 

空中に対空していたクリスは

剣をブンッと振り回す。

するとデュアルブレードから放たれたフォトンの刃……

それが周囲に飛んでいた卵を見事に撃ち落としていく。

フォトンブレードと呼ばれる飛翔剣の由来となる攻撃だ。

威力こそ高くはないが、

近距離だけでなく遠距離が攻撃できるというメリットがある。

近接武器でありながらオールラウンドに戦えるのがウリだ。

 

「ジャスティスクロウ!」

 

そしてそのまま剣で複雑に文様を描き、

フォトンの衝撃波を放ちブリアーダを吹き飛ばす。

爆散したフォトンがブリアーダを四散させた。

 

「よしっ!」

 

クリスは小さくガッツポーズをとる。

ダーカーも個体差でかなり能力が違うが

今襲い掛かってきているのは低位の個体、

これならばクリスでも十分に迎撃できる。

他のアークスの手を借りなくても

持ち場を守りきることができれば

少しはみんなも自分のことを見直してくれるだろう。

 

――その気の緩みが、命取りとなった。

 

着地したクリスを待ち構えていたのは

どこかダンゴ虫を思わせるフォルムのダーカー。

 

「……ギギギギギキギ」

 

鋭い角のような顔を持つそれはヴィドルーダという種で

大した攻撃能力はない存在。

だが生み出す衝撃波を浴びると、

フォトンに干渉されてアークスは一時的に激しい眩暈に襲われる。

 

「うわっ!」

 

無防備な着地の瞬間を狙われて

たまらずに転倒するクリス。

すぐに起き上がろうとするが、

ふらっとよろめいてしまい膝をついてしまう。

 

「……でもこいつには危険な攻撃はないはず」

 

ヴィドルーダ自身に攻撃能力はほとんどない。

対象の足を止めて、

他のダーカーに仕留めさせるのが基本パターンだ。

まだそんな傍には危険なダーカーはいない……

 

だが

 

ブヴヴヴヴヴウ……

 

周囲に突然響き渡る不快な羽音。

いつの間にかそこには大量の

小バエのようなダーカーたちが飛んでいた。

尻にはまるで爆薬のように真っ赤なダーカーコア。

 

「なっ……!」

 

ダモスと呼ばれる自爆特攻型ダーカー。

攻撃能力はないが、

拠点などに対して絶大な破壊力を持つ。

それが一斉に、

アークスシップへ目がけて突っ込もうとしていた。

初めからダーカーはこれを狙っていたのだ。

 

「やめろーーーーーー!」

 

フォトンブレードを手に駆けだそうとするが

よろめく体では間に合わない。

 

目の前で隔壁が破壊される……

その絶望感に吐きだしそうになったが

 

「伏せろ!」

 

背後から凄まじいフォトンをまといながら

飛翔してきたのは巨大なビームのような矢。

 

「ペネレイトアロウ!」

 

一応は矢ではあるはずだが、

どちらかというと粒子砲のような光と威力……

強烈な光を持ってダモスたちを飲みこむ。

 

「マスターシュート!」

 

更に次は拡散した矢。

それぞれがまるで意思を持っているかのように

ダモスたちを精確に撃ち抜いて行く。

 

「大丈夫か」

 

駆け寄ってきたのは、

黒いスラリとしたスーツに身にをまとった女性。

青い髪に少し大人びた表情。

左右のオッドアイと角があることから

種族はデューマンであった。

 

「だ、大丈夫です……!」

 

それはアークスであるならば誰もが知っている人だ。

クリスも当然ながら知っている。

ブレイバー最強のアークスであり、

かつ、オラクルに10人しかない守護輝士の一人。

 

「イオさん、すいません……」

 

イオ。

それがこの女性の名前だ。

彼女はクリスを安心させるように

肩をポンポンと叩く。

 

「気にするな。

 それより、よく耐えてくれたよ。

 お蔭でオレも間に合った」

 

彼女が手に持つのは巨大な弓。

元々彼女が使っていたエーデルイーオーⅡに

数年前に開発されたフォトンリング機構を合体させた

「エーデルオービット」という名前の星をも貫くされる強弓。

彼女の持つ強いフォトンに感応して

輝く光が暗闇の世界で眩く照らしていた。

 

「立てるか。

 まだダーカーの襲撃は終わっていない」

 

彼女の視界の先。

それはこちらの隙を窺うダーカーの群れだった。

 

「い、いけます!

 まだダメージを負ったわけではありませんから……。

 でも敵の数が多くて……」

 

いくらイオが強いとはいえ、

この数を相手には無傷では済まない……

 

「オレは一人じゃない。

 あいつも来てくれているからな」

 

「え……もしかして師匠が?」

 

まるでその言葉に応えるかのように、

突然響き渡るダーカーたちの悲鳴。

 

「……」

 

戦闘機に乗って戦場に駆けつけたのは、

一人のキャストの女性だった。

彼女を含めても

クリスとイオの3人。

対するダーカーは100匹はくだらないだろう。

戦力差で見れば絶望的……

けれど、

 

「大丈夫」

 

駆けつけた女性の声に、

クリスはもう諦める気持ちなど全くなかった。

 

 




※EP2の話とあらすじに書いてますが、
このシーンはEP2の時間軸の出来事ではありません

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