スノーフレークⅡ   作:テオ_ドラ

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スノーフレークⅠことEP1.5に新表紙がつきました!

【挿絵表示】

ゲストで登場したタキオンさんが描いてくれました。
EP1.5の表紙となり、あちらでちゃんと紹介します。
https://novel.syosetu.org/61702/


004.「直接、聞けば良いのですわ」

深い深いため息をついて、

クリスはショップエリアの片隅のベンチに座り込む。

力なく項垂れて自己嫌悪に陥る。

今回の出撃でもまたダメだった。

師匠であるアンジュの役に立ちたいのに、

いつまで経っても足手まとい。

 

真っ直ぐと目標へ突き進む強い背中。

追いかけても追いかけても、

手が届きそうな気配が全くない日々……

自分の無力さが嫌になってくる。

 

「はあ……どうしたら強くなれるんだろう」

 

やるせない呟きが

閑散として静かなショップエリア虚しく消える。

かつてはいつもアークスたちで賑わいでいたショップエリア、

それも今では見る影もなくガランとしており、

今もクリス以外には誰もいない。

唯一開いているのはベテラン技師である

ドゥドゥの武器強化のアトリエだけだ。

強化に必要な資材であるグラインダーやシンセサイザーの

深刻な不足により毎日暇そうにしている。

 

まだ【深遠なる闇】はおろか、

ダークファルスとの戦いも激化していない頃は

アイドルのライブやダンスイベントが行われ、

季節よって色取り取りな姿を見せたロビーの装飾。

何もない時でもギガドロ・ヒルドなどの

アークスの有志によるイベントで

クエストの合間にも盛り上がりを見せていたという。

 

けれどクリスがアークスになった時には

もうそんな雰囲気は微塵もなかった。

節電の為に照明も暗く

施設のほとんどが放置されて埃を被っている。

ステージもよくわからないガラクタが

大量に積まれて見る影もない。

 

詳しくは知らないが、

アークス同士が戦うという事件もあったらしく、

そのせいで多くのアークスが死に、

結果としてお互いが疑心暗鬼に陥った。

あわせて激化するダーカーとの戦いで

アークスたちには心に余裕なんてあるはずがない。

そう、守護輝士が誕生するまでは、

アークスたちは致命的までに絆を欠いていた。

 

ただ生き残るために戦う。

理想も夢もなく、ただ辛い現実を消化するだけ。

 

けれどクリスには戦う理由がある。

自分を救ってくれたアンジュのためという、

たった一つだけれども、大きな目標が。

 

「あら、随分と落ち込んでますのね」

 

気が付けば隣に誰かがやってきていた。

 

「隣、よろしいかしら?」

 

「あ……はい」

 

ベンチの隣に静かに座ったのは、

綺麗に編み込んだ黒い髪の女性だった。

ニューマンらしい少し華奢ではあるけれど

バランスのとれたスタイル。

色の白い肌に端正な顔立ち、

そして浮かべている穏やかな笑みは

傍にいるだけで安心感を与える。

ピンク色の落ちついた戦闘装束、

オウカテンコウは美しくも凛々しい。

「ヤマトナデシコ」という言葉は

きっと彼女の為にあるのだろう。

 

座り方一つをとっても御淑やかで、

男性アークスたちにとっては憧れの存在だった。

クリスにとっては憧れであると同時に恩人で、

デュアルブレードの使い方を教えてくれた人でもある。

 

「カトリさん……僕、また師匠の足を引っ張って」

 

クリスにとっては姉のような存在、

それがカトリというアークス。

バウンサークラスの発案者の一人であり、

そして今は守護輝士でもある女性だ。

 

「大丈夫、貴方は強くなっていますわ」

 

まるで包み込むように優しい口調。

カトリはクリスを無条件で肯定してくれる。

勿論、注意や指摘もするけれど、

いつでも味方であってくれる人。

古株のアークスはよくよくカトリのことを

「随分と雰囲気が変わった」と口を揃えて言う。

曰く昔は随分とおっちょこちょいで

色々とお騒がせのトラブルメーカーだったとか。

だけれどクリスにとっては

この穏やかな物腰の彼女の姿しか知らないので

そんな姦しいイメージをまるで持てないのであった。

 

「どうしたら、僕も師匠やカトリさんのように

 強くなれるんですか?

 僕にはやはりアークスの才能がないんでしょうか」

 

弱気になってそう尋ねると

彼女は首を振り

 

「そんなことないですわ。

 貴方は日々進歩をしているですから」

 

そして腕まくりをする仕草をしながら笑った。

 

「ですから、日々特訓を怠らないことですわ!」

 

彼女はきっと、アークスで一番の努力家である。

日々の鍛練を怠らず、いつも前を見つめて走っていた。

まさにアークスの模範となるべき姿、

その姿勢にはクラリスクレイスも含めて

誰もが彼女に対して敬意を払っている。

そんな彼女が守護輝士に選ばれたのは

必然だったといえよう。

 

「そして、特訓をしながら、

 貴方が護りたいモノを常に意識すること。

 それが、一番に貴方を強くするのですわ」

 

「護りたいモノ……?

 そんなの僕にはいつだってある――」

 

「いいえ」

 

自分のアンジュに対する想いが足りない、

そう言われたのかと反論しようとした

クリスの言葉を彼女は遮った。

 

「貴方は『認められたい』、

 そう思っていつも戦っていません?

 自分を見て欲しい……

 勿論、その気持ちも大切ですけれど、

 それはあくまで貴方側だけの気持ち。

 そう、貴方は……

 彼女の気持ちを考えようとしていますの?」

 

「師匠の……気持ち?」

 

「ええ、そうですわ」

 

彼女は頷く。

 

「大切な人を想うということは、

 その人の望みを知ること。

 そうでなければただの独りよがり、

 気持ちは一方通行になってしまうのですから」

 

そういえば彼女はいつだって一人でいる。

誰かと一緒に過ごしている姿を

思い返してもクリスは覚えがない。

とても実感のある言葉……

彼女にも背中を預け、

心を許せる大切な人が、かつてはいたのだろうか。

彼女の浮かべるどこか寂しげな微笑みに、

クリスはふとそんなことを思った。

 

「さて、私はクラリスクレイスに呼ばれているから、

 そろそろ行きますわね」

 

彼女は立ち上がる。

先ほどもアンジュとイオに何か話が合ったようだし、

もしかしたら守護輝士たち

全員に召集がかかってるのかもしれない。

それだけ何か、重要な作戦があるのだろうか。

 

「カトリさん」

 

そんな彼女の背中に問いかける。

 

「大切な人の望みを、

 どうしたら知ることができるんですか?」

 

カトリは背を向けたまま、

何かを思い出すかのように頭上を見上げた。

 

「直接、聞けば良いのですわ」

 

それはクリスに、というよりは

自分に言い聞かせているかのような口調。

悲しみ、後悔、やるせなさ……

複雑な感情の色を持ち、

そしてまるで泣いているかのような声。

 

 

「もしあの時、聞いていれば

 あの方は私に『望み』を教えてくれたのでしょうか?」

 




【未来編TIPS】
[【深遠なる闇】]
ダーカーと戦うために生み出された悲しい少女の成れの果て。
強大な力だけでなく
【巨躯】【若人】【双子】【敗者】の力を行使する。
唯一【若人】の力だけは完全なものではないのは
リリーパに封印されていた本体を
アークスたちが惑星ごと破壊して消滅させたからである。
人々の負の感情によってダーカーの力は増大し、
もはや宇宙で彼女止めることのできるモノは存在しない。
しかしコアとなった少女の不安定な精神のためか、
散発的に破壊活動を行ったり突然休止したりする。
復活から5年、
まだ宇宙が破壊され尽くしていないのはそれが理由である。
とはいえ唯一対抗できるオラクルも疲弊し、
多くの惑星も飲み込まれた今、
世界の終焉は時間の問題といえる。

この未来のアークスたちは【深遠なる闇】は、
4体のダークファルスを取り込んだと考えているが
あと一人、悲しい末路を辿った
ダークファルスも取り込まれているらしい……

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