もうしばらく紙の束は、見たくない…。
これでやっとダクソ3ができるというもんです。
そんな事は横に置いておいて。
ようやく四話となりました。少し急ぎめにやったので変な所が、あるかも知れないのでその時は、教えてくださるとありがたいです。
ショウキョウ要塞。
北方における帝国最大の軍事拠点であり北方における帝国最後の砦であった。
「…最後の砦や北方の最大軍事拠点などと謳ってもその実態は、実に脆い物だがな」
と言ったのは、黒地に金糸の刺繍が施された軍服に身を包んだ美丈夫――ヴィルフレドだった。
ヴィルフレドの言ったようにショウキョウ要塞の守りは、貧弱そのものであった。
城壁は低く、厚みもなく、砲の手入れも碌に成されておらず兵の練度も志気も最低そのもの。更に城兵の大半が、薬に溺れていると来た物だ。
頼りにすべき城も砲も役に立たず。指揮下に入る城兵は、西の異民族の錬金術師達が作る肉人形以下の存在。そんな現状の報告を受けて青筋を浮かべたヴィルフレドの怒りは、如何程か。
整列しにこやかにヴィルフレドを迎え豪勢な食事を用意していたでっぷりと肥えた将校達に対してヴィルフレドが、即座に剣を抜き放ち命じたのは死であった事からもその怒りの程が、伺い知れる。
ヴィルフレド直属の軍団による北方での最初の仕事が、敵との戦いでなく粛清であったのは、まさに皮肉であろう。
使い物にならない将校という名の豚達を処刑し薬に溺れている兵士達を最前線での肉壁として使い潰し周辺の村々からの徴兵と下級の官吏や指揮官でそこそこ有能であった者を昇進させ自身の直属の軍団を分け各所に配しようやく防衛線の構築が完了した。
その防衛線の構築でヴィルフレドの副官を始めとした直属の官吏達が、書類の地獄に忙殺されたのは、言うまでも無い。
「最悪の状況で戦闘開始というのは、全く嫌気がさすが………敵に歯ごたえのありそうな者が居るというのは、僥倖だな。暇でないのだから」
と言って補強された城壁からヴィルフレドが、見た先には地平線を埋め尽くさんかと思われる程の黒い人の波が、自分達目掛けて進軍して来る光景だった。
「規律も何も無い盗賊のような軍と聞いていたが、中々どうして様になっているでは無いか」
と呟き笑みを浮かべるヴィルフレドは、この上無く嬉しげであった。
黒い人の波――――あれらは、今や英雄と謳われるあのヌマ・セイカ率いる北の異民族の軍勢であった。
重装の歩兵に守られながら進む鉄の装甲に覆われた破城槌を前面に押し出して行進する彼等は、少しばかり粗が目立つがそれでも規律正しく見事と言えた。
「規律無き軍をここまで仕上げるとは、ヌマ・セイカ………噂どおりの英傑か」
と呟きヌマ・セイカの軍勢を観察するヴィルフレドの背後に一人の人物が、現れ跪く。
「………ご苦労だった。ルームオン」
と言って振り返ったヴィルフレドの目線の先に居たのは、一人の隻眼の老人であった。
「…敵を防ぎ切れなかったわが身に労わりの言葉など必要ありますまい」
と言った老人の声は、年老いているものの年齢を感じさせ無い程力強く覇気がある。
顎や頬に生える分厚い髭は、たくし上げた髪と同じく白い。その肉体は、もう六十を越えているというのに衰えは、見えず。戦によって鍛え上げられている。
この老人の名は、ルームオン。十六歳の時に軍に入隊して以来六十歳になるまで軍に在籍し続けた歴戦の兵であった。
そんな軍を辞め北方での隠居生活を始めたルームオンを勧誘したのが、このヴィルフレドであった。
ヴィルフレドが、北方へ行く際に見せられた北方地図。驚く程に事詳細なその地図は、ヴィルフレドが、地図の製作者に対して興味を抱くのは、当然であった。
そしてその地図の製作者が、既に軍を辞めたルームオンだと知るやいなやルームオンを勧誘した。北方の地理を事細かに知り戦闘経験の豊富なルームオンは、喉から手が出る程欲しかったのだ。
最初は、渋ったルームオンも何度も訪れるしつこさと最後の勧誘でそんなにこの庵を出ないと言うのなら出して見せようと言って帝具を取り出し火を放ち本気でルームオンの庵を燃やそうとするヴィルフレドの強引さに負け配下となった。
その老人は、今身に纏う真紅の具足を汚してその場に跪いていた。
エイショウ要塞から少し離れた距離にある砦の守備についていたルームオンは、敵の大軍勢の猛攻を食らい砦を陥落させてしまった。それ故に責任を感じ自身を労わる必要など無いと言ったのだろう。この老人は、全く生真面目だなと思いヴィルフレドは、苦笑いを浮かべ。
「九日だ」
「七日もあの大軍勢を防ぎ。更に砦が陥落した後も数十騎で岩や木を使い敵の進軍を二日妨害した。そんな事を成した将を賞賛し労わらないでどうする」
ヴィルフレドの言葉にルームオンは、首を振り。
「我々は、盾です。このエイショウ要塞は、防衛線の要であり弱点である。その弱点を守る盾たる者が、敵を防げず突破を許してしまった。だと言うのにどうして賞賛されるというのか、このままでは――――」
――――たった五千の兵しかいないエイショウ要塞は、陥落し防衛線は崩壊する。
そう言ったルームオンを見てヴィルフレドは、嗤う。
「この私を誰だと思っている」
ヴィルフレドのその問いにルームオンは、咄嗟に答える事が出来なかった。
しかしそんなルームオンなど気にせずヴィルフレドは、周囲に問う。
「お前達。この私は、誰だ」
ヴィルフレドの問いに打てば響く様にすぐさま答えが返って来る。
「冷酷無比な将軍閣下っ」
「鬼畜外道!!」
「死者を弄ぶ者!」
「常勝将軍!」
「飛将軍リゴウの再来ッッ」
その答えは、全て巷で囁かれるヴィルフレドの評価であった。
その噂は、当然良い物もあれば悪い物もある。良い噂は、答えて良いが悪評など大抵は、そんな事など直属で古参とはいえ部下が、言わない。否言えない。
だと言うのに彼らは、何の躊躇も無く悪評すら口にしたのだ。
それを許し答えさせるヴィルフレドとは、一体――
「ルームオン」
「…はっ」
彼は何かそう考え思考の海に沈みかけたルームオンをヴィルフレドの声が、浮き上がらせる。
「死者を弄び嗤う外道の常勝将軍が率いるのだ。負けるはずが無い」
と言うヴィルフレドは、自信に満ちていた。
「勝算は?」
「それは、ルームオンお前が作り出した。お掛けで中々こすい物を仕掛けられたぞ?」
「本当にたった五千で勝つと?」
ルームオンの長年の経験でそんな奇跡など一度も起きは、しなかった。
いつでも戦は、数が多く装備の良い連中が、勝つ。そう考えていた。
なのにこの将軍は、勝てると言ったのだ。
とてもルームオンには、信じられなかった。
信じられなかった筈だしかし――
「私が居て歴戦のお前が居る。そして忠勇なる五千の兵が居る。負ける筈がない…いや絶対に負けん」
どうしてか、この将軍なら勝てる………そう思えてくる。
「それにな。お前の九日間の時間稼ぎあの一日一日が、千金に値する。褒美は期待しておけ」
人に勝利を信じさせる。それは、英雄でなければ成しえない事だろう。
ならば、信じてみようではないか。この英雄を。
「さぁ。始めようでは無いか、ヌマ・セイカ。引き返す事はできんぞ?既に賽は投げられたのだから」
帝国軍五千。
北の異民族二十万。
今、まさに両軍が激突せんとしていた――――。