河童妖怪河城にとり、少女は海を見たい願望があった。勿論そんなこと実現する筈もなく、そもそも幻想郷に海は存在しない。というか存在してるのは逆に恐ろしい。
幻想郷は日本の山奥に存在する結界で隔離された土地。当然、外の世界とも行き来は出来ず、山奥に位置する為か海は存在しない。そんな叶うはずの無い夢を追うにとりの姿に〇〇は呆れていた。
「にとり、いい加減に諦めろ。幻想郷に海は存在しないんだって…」
「うるさい、絶対に見つけ出してやるんだから!」
それに、今の会話の通り話を聞こうともしない。事の発端としては、〇〇が人間であり外の世界から幻想入りした事だった。まあ、勿論人間では無くなり妖怪として生まれ変わった様なものなわけで。〇〇が何の妖怪かはさておき、にとりが〇〇に外の世界の話を持ち掛けた事が始まりで、海が存在する事を話せばもう、夢中になり数時間は海の話で正直ネタも無かった。だって海の事なんて話すことないし。
幻想郷には陸地が占めているから海は生成されないと言っても聞かず、お得意の発明で幻想郷そこらを飛び回るも見つからず。まあ、存在している方がおかしいが。
今では話すんじゃなかったと後悔してる。
「だったら塩水作っとけよ、それで海の完成だ」
「嫌だ、私は本物の海が見たい!」
「わがまま言うなよ、陸地しか存在しない幻想郷の何処に海があるってんだ。諦めろよ…」
「だったらついてこなくても結構、お前はどっか行ってろ!」
いや、怒られてもね。ついて行けと周りがうるさいんだよ……
こりゃ、やり出したら止まらないタイプだな。普通に外の世界に出られたら簡単な話なんだが、まあそんな事は許される訳もなく、話から数週間は経とうとしているが未だに探しているレベル。そろそろ諦めていただきたいものだ。
「じゃあにとり、こっそり
「はあ?抜け出せるわけないでしょ。馬鹿なの?」
「正面突破で!」
「ははっ……そうね」
いや待ってその呆れた顔はかなり傷つくんだが。確かに馬鹿な考え方なのかもしれんが、一番されたくない顔をされたんだが。
「まあ、その馬鹿っぷりもいいんだけどねぇ…」
「いや、それ貶してるのか褒めてるのかはっきりしていただきたい」
「貶してるに決まってるでしょ」
知ってた。どうせそう返ってくると思った。
まあ、どんな理由でさえ外の世界には出してもらえないだろうが……正直言って、あれほど目を輝かせたにとりは初めて見た。
少しでも喜ばせてやろうと霊夢に実は話をした翌日から頼んでいたのだが、まあ無理なわけで。毎日訪れても無理だそうで、おかげで霊夢には変態呼ばわりされるハメになり、テンションが落ちてるわけでして。個人的にもにとりには見せてやりたいと思ってる。
翌日、もう一度博麗神社に伺うことに。鳥居の下で掃除をする霊夢の姿が見えた。相変わらず変態を見るような目で見られてるわけだが。
「また来たの、変態男」
「霊夢さん?それ言い過ぎなのでは…」
「はいはい、どうせまた外の世界に出せでしょ?」
「やっぱり駄目っすか」
「当たり前でしょうが、外の世界に出すって事は他の悪妖怪もそれに連られて出ていくって事も有り得るんだから」
やっぱり駄目でした。
仕方ない、にとりには意地でも諦めてもらうしかない。少し悔しい気もするが、外の世界に影響が出ては面倒だ。ここはきっぱり諦めよう。
妖怪の山の川辺にはにとりが待っていたかのように釣りをしていた。
「おーす、隣来いよー〇〇!」
「ん、ああ…」
言われるがままににとりの隣の岩に腰を掛ける。
「その顔、やっぱり駄目だったみたいだな?」
むむ、顔に出やすいタイプだったか、悟られないようにしなければ。
「今更真顔になるなよ、良いよもう諦めたから」
「え、なんだよ急に。にとりが諦めるなんて」
「なーんか、もういい気がしたんだよ。〇〇が頑張ってくれたのはわかったからさ、私の為にありがとな」
あれ、にとりってこんな笑顔が出来たのか。というか、初めから早くに諦めて欲しかったのだが……え、なにこれ頑張った意味無いじゃん。〇〇はため息をついた。
「おいおい、ため息つくなよー。〇〇の頑張りは充分伝わったからさ」
「へいへい。んで、なんか釣れたか?」
「なーんにも、収穫0だ」
こっちの収穫も0だったがね。
〇〇が立ち上がろうとした時、背後から巫女服の少女が現れた。
出たな、巫女服モンスター。
「聞こえてんのよ変態男。んなことより、外の世界の外出許可が下りたわ。少しだけ時間をあげる」
「外出許可って…大丈夫なのかよ?」
「結界を強めで張りながらだから長くは出られないわよ。早くしなさい」
まさか本当に許可が出るとは……にとりも嬉しそうで何よりだ。博麗神社に赴くと、八雲 紫の姿もあった。結界を張りながらだから当たり前か。
「時間もあるからね、そのままあんたらの見たかった海まで繋がってるから、とっとと行ってきて」
「霊夢…お前って奴は……」
「はいはい」
結界を潜ると、そこには果まで続く青の海。あれ、海ってこんなのだったかな。長らく来てない外の世界。両親は今頃探してるんだろうか。
にとりは目を輝かせ、砂浜を駆けた。
「見ろよ〇〇。海だ、海が見える!」
「あんまりはしゃぎすぎるなよー」
妙に人気が無いと思えば、なるほど無人島か。
よく考えてあるな。
タイムリミットは過ぎ、また幻想郷に戻るのか…このままいてもいいが、何をされるかわからん。にとり、〇〇は再度結界を潜る。先にはいつもの光景が広がる。
「おかえり、楽しかったかしら?」
「ああ、ありがとう霊夢」
「そっ…二度とこんな事ないんだから、二度目は無いわよ」
「ああ…」
霊夢、紫と別れ妖怪の山に戻る。
なんというか、にとりと過ごすのも悪くないと思えた。
「今日はありがとう、〇〇。お前はやってくれると信じていたよ!」
「いや、開けてくれたの霊夢だけどな」
「〇〇の交渉があってこそだ、私は〇〇のそういう所は嫌いじゃないがな」
「所は…ですかい。褒め言葉として預かっておく事にするよ」
「またいつか……連れて行ってくれよ、盟友!」
まあ、その後は言うまでもなく外の世界に出してもらえるわけがなく。おまけに勝手に抜け出そうとして紫の説教を長々と聞かされた。