お嬢様とは何か。
世間一般的に言えばなんかお金持ちの家のご息女で「あら、ごきげんよう(熊野)」「おっ↓紅↑茶→がこぼれてしまいますわ!(薔薇尻姉貴)」「鯛が曲がっていてよ(尾頭付き)」といった話し方をするというフワッとしたイメージがあるだろう。
ではそんなイメージを持ったくっそ汚そうな男が女装をして演じたとしたら?
そう、身の毛もよだつ様なそびえたつ糞の出来上がりである。
ここは野獣邸からほど近い商店街。こんなご時世な割に妙に賑わっている客の中に、なんかバランスの悪そうな長身の美女が嫌そうな顔をして、女装した男と歩いていた。
もはやおなじみと化した山城と浩二だった。浩二は金髪縦ロールのウィッグを被り、胸には詰め物をし、服はラフなドレスという気合の入りっぷりである。なおコーデ担当は扶桑の模様。
どうして浩二が女装をして山城と歩いているか。それには浅い事情があった。
「ツモよ。国士無双十三面待ち。浩二さんと山城は…トビね」
「ファッ!?ウーン…辞めたくなりますよ~三麻~」
「うっ…そういえばハコには罰ゲームがありましたよね…?」
「お金だけは勘弁してください!何でもしますから!」
「ん?浩二さん今何でもするって言いましたね?」
その後「山城と女装して…デートしなさい(命令)」「ヘェェッ!?で、デートですかぁ!?(半笑い)」「女装はいいのか…(困惑)」といったやり取りがあってなんやかんやあり、今に至ったのだ。
ああ…視線が痛い…。山城はただひたすらに今の時間が過ぎ去る事を願った。せめて、せめて何事もなく無事に終わってくれと。
だがそうは問屋が卸さない。山城の運の悪さはお墨と折り紙と太鼓判付きなのだ。なぜかこんな日に限って別行動していた萃香が人ごみの向こうから現れた。
「あ!山城だー!なにやって…あっ…(察し)」
「違うのよ萃香。これは、その、なんというか」
「随分倒錯的な趣味だね…うん。私は応援してるね。じゃあ私(悪魔城ドラキュラ)ギャラ(リーオブラビリンス)買って帰るから…」
「ああっ!逃れられない!(風評被害)」
廃盤買って帰るとかこのお方すごい変態ですわよとかのたまう浩二を蹴飛ばした後山城は再び商店街を歩き始める。
今度こそ何も起きるなよと歩き始めるも当然次のイベントから逃れられるわけがない。
「よおそこのお嬢さん方!これ見ていかない?」
「いえ、私は…」
「おや、そっちのお嬢さんはいい体してんねぇ、道理でねぇ!いまならワンダー♂コアが三十個で…五万!(投げ売り)」
「ワンダーコ……いりますわいりますわ!」
「要らないわよこの猿ゥ!」
金髪のにいちゃんに絡まれた山城は浩二を腹パンして黙らせた後に浩二を引き摺ってその場から抜け出した。しかし前方不注意からか山城は不幸にも黒塗りの高級車に激突してしまう。
「おいゴラァ!免許もってんのか!」
「徒歩の相手にお免許の提示を求めるとかおハーブ栽培不可避ですわ」
「黙れやダブル猿ゥ!」
山城は暴力団っぽい男と浩二の脳天に一撃ずつ踵落としを決めて二人を沈黙させた。扶桑に提示された罰ゲームの条件とは浩二と共に商店街一周である。まだまだ道のりは長いとため息を吐いて浩二を引き摺りながら歩いた。
二時間後。身も心もヘトヘトになった山城は全身ボコボコになった浩二の襟首を引き摺りながら家路についていた。商店街は普通三十分もあれば回れる程度の大きさしかないのだが山城の不幸体質によって絡まれまくった結果である。
疲れた山城は近くの公園のベンチに座り、だらりと体を預けた。ちなみに浩二は地面に捨て置かれている。
「あぁ~~~……つっかれたぁぁ~~~…」
まるで泥に浸かっているような倦怠感を感じていた山城は目を瞑って体を撫でる風に身を委ねた。「合体してるから安心!」やら「俺チンカスに…俺チンカスだった」といった意味不明な子供の会話が聞こえてくるのもまた風情だ。
日差しはじりじりと地面を焼いているが日陰の為か風は冷たい。気疲れしていた山城はいつしか微睡んでいった。
「んえ?」
じゅるっと音を立てて垂れそうになっていたよだれを吸った際に目を覚ました山城。そこは公園のベンチではなく野獣邸のくそでかソファーの上だった。
なんかチャラそうな歌声が聞こえたのでソファー越しに見てみると、化け物…化粧を中途半端に落とした浩二がいた。そして不幸なことにバッチリと目が合ってしまう。
「あ、やっと起きたんすねぇ~」
そう言って近づいてくる浩二。山城は得も知れぬ恐怖を感じた。
「あ、そうだ(唐突)おい山城ァ、このドレスのヒモ全然解けないゾ。解いてくれよな~頼むよ~」
そして背を向けて尻から接近してくる浩二。山城は恐怖にと不快感に顔を引きつらせた。
「ホラホラホラホラ」
「私のそばに近寄るなァーーーーッ!!(DIABR)」
山城は絶叫と共に浩二の腕を抱えて綺麗なドラゴンスープレックスを極めた。もちろんソファなどという緩衝剤の上ではなくフローリングに直撃という形で。
しかし不幸の影にやっぱり山城。ドゴンという音と被るように部屋のドアが開けられたのだ。
「ねーにぃに!一緒にギャビリンス……ごゆるりと」
そして直ぐに閉じられた。ああ逃れられない!(風評被害)
「ところでアンタ、どうやって私を連れ帰ってきたのかしら?」
「そうですねぇ…やっぱり僕は、王道を往く…横抱きですか」
「横抱き?何よソレ」
「横抱きってのは姫抱きの事だゾ。感謝しろよな~」
「死ね(直球)」
「おヌッ!」
ちなみにこの日は商店街近辺で長身長髪の美人がフラフラしながらビデオカメラを持って何かを撮影している姿が散見されていた模様。