山城に体押し付けられてぇなー俺もなー
秋の天気はとても変わりやすい。朝が快晴で夜に雨が降る事もあるしグズグズとした天気かと思いきやいきなりお天道様が顔を出すこともあるほどフワフワしている。
しかし浩二というクッソ汚そうな男の周りではいつごろ雨が降るのか解りやすい指標が存在した。
「ゲッ…降ってきた」
それは不幸姉妹と名高い扶桑と山城がお出かけする際に傘を持っているか否かである。
その指標にされているとも知らない山城は天を仰ぎながら眉をひそめていた。
「やっぱり僕は王道を往く…折り畳み傘ですか」
そして浩二はその指標を参考に自分の分だけの折り畳み傘を用意していた。生粋の屑である。
自分の傘を広げて鼻歌を歌う浩二を見た山城はぐいと体を寄せて無理やり傘の下に体を滑り込ませる。
「ちょっと浩二、アンタは私だけ雨に晒して何にも思わないの?」
もっと寄りなさいよと体を押し付ける山城に浩二は「んにゃぴ…やっぱり、自分…が一番大事ですよね」と安定の屑発言。
そんな事をのたまう浩二の脇腹に手加減したブローを突っ込みふと視線を感じ前を向く山城。そこには濡れたアスファルトの先に赤い唐傘を差した一人の和装の女性がこちらをじっと見ていた。
艶のあるみどりの黒髪を流した芋っぽい美貌を持つ女。それは山城のかつての戦友、赤城だった。その赤城は赤くした頬に右手を当てて「あら^~」と声を漏らしている。
ふと山城は自分の姿を振り返ってみた。
やや濡れた体。萃香に頼まれて買ったビールの入った袋。お姉さまに勧められて着たかわいい服。ひとつの傘にふたり。浩二に押し付けた躰。傍から見ればまごうことなきバカップルであった。
「うわあああああああああーーーーッ!!?(関東クレーマー)」
「おっぶえ!?」
現状を理解した山城が浩二を突き飛ばそうとするもその両手の間をするりと抜けてしまった。結果的に飛びつく形になった山城は顔を真っ赤にしてジタバタしている。
「お熱いですねぇ…(ネットリ)」
カラコロと下駄を鳴らしながら遠ざかる赤城。その手に握られたスマホにはツブヤイターが表示されていた。
■■■
「ああ逃れられないっ!!」
浩二にビールを押し付けて急いで帰宅した山城が絶望したように机に頭を叩きつける。山城の右手に握られたスマホは先ほどからメール着信音が鳴りやまず、ウィンウィンと震えながら机の上を縦横無尽に動き回っていた。
しばらく不思議な踊りを踊った後にスマホをチラと見る。『何だこの人!?』『あ…やっと、山城にも春がきたんやなって…』『ちょっと熱いのではなくて~?こんな所で~』『夜戦しよ!』等々、ひっきりなしにメールが入ってくる。
変わらない川内にちょっぴり癒された山城は肩を落としたままキッチンまで歩いていき、冷蔵庫から瓶入りの牛乳を取り出した。冷蔵庫の中になぜかボウルに入れられたナマコがあったがとりあえずは無視。
ぐいと牛乳を呷ると少しだけ気分が良くなり、一息ついてから川内にぽちぽちとメールの返信を送り、牛乳を口に含む。直ぐにスマホがメールを受信した。
『ところで山城は浩二って人と夜戦した!?』
画面を見た山城は牛乳を勢いよく噴いた。
■■■
夜戦。
夜間戦闘ともいう。意味は夜間におこなわれる戦闘。俗な意味合いとしては
当然というか、山城と浩二はそんな関係にない。川内は恋愛ポンコツなのでそういった意味合いではないのだろうが、そうでなくても意識はしてしまうものだ。
「すぅ~~~っ、はぁぁ~~~~~(クソデカ溜め息)」
「人の顔見ながらため息とか失礼すぎんよ~?」
夕方の田所邸の食卓。近頃は毎日となりつつある食事会で向かいに座る浩二の顔を見た山城が大きなため息を吐いた。それを聞いた浩二は注意をするものの気にした様子はなく納豆をかきまぜ続けている。
「いやね…最近アンタとの関係が噂されてて気が重いのよ」
「へー、そうなんだ(無関心)」
聞き流しながら納豆に卵を入れる浩二。その無関心さに眉をひくつかせる山城。
「何他人事みたいに構えてんのよ。アンタも誰かに噂されて迷惑じゃないの?」
「えーっとそうですね…伸縮性のない交友関係のっていうんですかね、ちょっと無敵に近い感じ…」
「えっ…何それは…」
浩二の交友関係は扶桑姉妹と自分の妹だけの準ボッチだった。故に誰に噂されても効かないのである(無敵)
「えっとね、山城。にぃにはボッチってわけじゃなくて友達が居ないだけだから…(震え声)」
「萃香さん、それを世間一般でボッチって言うのよ?」
兄と同じく納豆をかきまぜていた萃香の援護ともいえない言葉は隣でナマコのポン酢漬けを食べていた扶桑に叩き落とされた。
山城の目が仇を見るそれから可哀そうな奴を見るそれに変わる。
「まあ、お世辞にも友達が多そうには見えないとは思ってたけど、そこまではちょっと…」
「んまぁ、そう、友達の作り方がよくわかんなかったですね」
「これ本当?普段の行動力に比べてコミュ力が貧弱過ぎるわ…」
あまりの酷さに扶桑も頬に手を当てて困り顔。そして一瞬後にぱあっと花の咲いたような笑顔になった。その笑顔に山城は一抹の不安を感じる。
「そうだわ、浩二さん!私にいい考えがあるの」
「何すかぁ~?」
「私たちと一緒に友達を作りましょう!」
山城は扶桑の頭の中身をちょっぴり疑った。扶桑姉さまと一緒に浩二が友達を作ろうとしようものなら、男なら浩二に嫉妬に狂うか扶桑姉さま目当ての打算男しか引っかからず、女ならよほどの変人でないと先ず浩二に近づかない。
そしてちょっと考える。そういえば扶桑姉さまの友人はよほどの変人ばかりであったなと。それは山城にも当てはまることだったが努めて気にしないようにした。
「そうねえ…まずは赤城さんなんてどうかしら?」
「誰だよ(ピネガキ)」
「私と山城の共通の友達よ。彼女はとても心が広いからきっと仲良くなれるわ」
「テンション上がっちゃう→…テンション上がっちゃう↓」
「にぃにのテンション下がっちゃってるんだけどそれは…」
意外にもコミュ障の浩二がぐんにゃりと肩を落とす。それを見た山城は余りの哀れさに同情を禁じ得なかった。
いつの間にかナマコを全て平らげていた扶桑がスマホを弄って赤城にメールを送り始める。そういえばこのナマコは地味に時期から外れてるけど何処産なんだろうと思いながら返信を待つこと一分。
扶桑のスマホには赤城から返信が帰ってきた。
『あっ、いいですよ(快諾)加賀さんも誘っておきますね(突然のバックスタブ)』
「ヌッ!(コミュ障特有のストレス性胃炎)」
メールを見た瞬間倒れた浩二に「ええ…(困惑)」と声を漏らす山城と萃香。お友達を作ろう計画は既に暗礁に乗り上げまくっていた。
なお扶桑はいつも通りだった。
ちなみに。
途中から浩二のコミュ力が気になりすぎてスルーしていたが何故か浩二の友達作りに巻き込まれていた山城はその晩頭を抱えて「どうしてこうなった…」と何度もつぶやいていた。
(ナマコに意味は)ないです