『――――君は園子様に対して口が過ぎる。かのお方は最早君とは一線を画する存在となられたのだ。昔のように気安い関係ではいられぬことを常々忘れてはならない』
「……分かってるんですよ、そんなこと」
過去、老神官に言われたことを思い返した彼は、自嘲の笑みを零した。園子の付き人を自称する彼は、その実園子自身に護られているからこそ彼女の付き人であることを許されている。
他の神官のように大赦の仮面を付けないこと、神に身を捧げ祀られる少女に対してのある程度の崩れた敬語、無垢な少女であることを宿命づけられた彼女の肌に異性である彼が触れる禁忌。その全てを犯す彼は大赦の中でも疎まれ蔑まれている。
齢にして14歳。若輩者にも程がある彼がここまで勝手なことをしでかしても許されているのは、園子が彼の行動の全てを望み、許しているからだ。一度彼が付き人としての立場を追われかけたその時の彼女は、誰が見ても分かる程度には激怒していた。それ以来、彼が付き人としての立場を追われたことは無い。
(くだらない私情を、大切な仕事に持ち出す僕はきっと最低で最悪な存在なのだろう。それでも、君が笑顔でいてくれるなら、僕はどんなことだって成し遂げよう。……なんて言ったら、君は怒るんだろうな)
彼は苦笑した。園子の優しさは、傍らにいる時間が長い分よく理解していた。そもそも、神樹館にいた時でも暇さえあれば園子を目で追っていたのだ。分かっていて当然とまでいえる。彼は園子の良いところを幾つでも言えると確信していた。
(思えば僕は、彼女を一目見た時から君に惹かれていたんだろう。まさかこんな形で、一緒に過ごすことになるなんて考えもしていなかったけれど)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
初めて彼女を見た時、僕は彼女のことを不思議な妖精だと思った。口をポカーンと開きながらぼーっとする彼女は、遊びたい盛りの幼少期の僕から見れば異質だった。でも、絹のような美しい髪と不思議と気品のある雰囲気は僕の心を鷲掴みにした。……その後彼女がよだれを垂らすのを見て、驚きもしたけれど。
その時の僕は意を決して話しかけることに決めたけど、胸に抱く枕と楽しそうに遊ぶ彼女はちょっと話しかけづらかったことを覚えている。
「あの……その……こちゃん! いっしょに、あそばない?」
割と人見知りの激しい方だった僕は、遊びへの誘い方がよくわからなかった。それに年齢の割にマセていて、女の子に対して妙な恥ずかしさがあった。そのことでタジタジになっていたせいか、言葉が途切れ途切れになっていたんだ。
そんな遊びへの誘いに、彼女はみるみるうちに表情を明るくさせて、満面の笑みという言葉が足りないと思うほどに楽しそうに何度も僕の言葉に首を縦に振った。
「いいよ〜〜〜〜っ♪ なにしてあそぶ〜?」
声音を思い切り弾ませながら、彼女は僕に聞いてきた。了承をもらえたことに安心した僕は、ぎこちなく笑顔を浮かべながら返事の言葉を考えた。誘っておきながら、特に考えもなかった僕は彼女に任せることに決めた。
「そのこちゃんの、すきにしていいよ」
「え〜〜、とってもまようんよ〜。えっと、あれ? いつもなにしようっておもってたのに、わかんない。んん〜〜っ!!」
彼女が何故かいつも一人だったことは、いつも見ていたから知っていた。この時の彼女の言動から察するに、いつ誘われてもいいように何をして遊ぶかを考えていたんだろう。子供ながらに、彼女の嬉しそうな悲鳴を聞いてちょっと引いていた自分が恥ずかしくなった。
むんむん悩む彼女を見て、ぎこちなかった笑顔は段々崩れていった。自然とほころんでいく僕の笑顔をその丸くてくりくりとした瞳で見つめる彼女は、途端に目を輝かせて猛烈な笑顔と勢いで僕に詰め寄ってきて、僕に向かって頼みごとをしてきた。
「ねえねえっ! わたしのぎそのこっていうの〜! このこはさんちょっ! ね、わたしのこと、そのちゃんってよんでみて〜♪」
「え、え? あ、えっと、その……ちゃん?」
「〜〜〜〜っ! いいよ、すごいいいよ! ね、もっとよんで! ね?」
「そ、そのちゃん。そのちゃんっ!」
名前を呼んでいるだけ。ただそれだけなのに、彼女は笑顔を見せる。幾度も呼ばれた末に満足したのか、彼女は僕の瞳をしっかりとみて、問いを投げかける。
「あなたのなまえは?」
「……ぼくのなまえは――――」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
思い返す間になかなかの距離を歩いていたのか、目的の場所へと到着する。扉を抜ける前に彼は礼儀として言葉を投げた。
「……園子様、入ってもよろしいでしょうか?」
「いいよ〜」
扉の向こうからの了承を得て、彼はゆっくりと扉を開く。園子は瞳だけを彼へと向け、嬉しそうに目を細める。
――――今日もまた、彼の付き人としての1日が始まる。
息抜きです。短いし内容薄すぎるけど許してください(´・ω・`)
付き人くんは簡単に言えば園子様可愛いをこじらせた忍者です。特に裏設定とかはありません。
ただほのぼのしてるだけのこちらの小説。楽しめたなら幸いです。