――――仕方のないこと。いつだって、そう思って生きている。
彼が私の所に来るのは、決まって朝の9時頃。一度だけその理由について聞いたこともあるけれど、その時は苦笑いしながらこう言っていた。
「まあ、ただの嫌がらせですよ。こんなもの屁でもないですけど、園子様にお付きする時間が短くなるのは少々困りますね」
と、こんなことを言っていた。きっといつもの前置きが長い老神官や他の神官から嫌味や説教をされたり、無駄に仕事を回されたりしているのだろう。仕事をしている姿が見たいと言った時は、少し迷った末に許可をもらえた。ただ書類仕事をしているだけだったけど、当たり前のように分身していて流石にびっくりした。とんだ人間ビックリ箱だよ〜。
これが私と彼の主従関係。私が聞いて、彼が答える。一見他の神官と同じようだけど、これに限っては全然違う。セバスチャンと普通のカラスくらい違う。確かに私の言葉を一言一句聞き逃さず、私の思い通りの行動をしてくれる神官もいる。私の願いは一部を除いて何でも聞き入れてくれる神官もいる。
そんな中で彼だけを選ぶ理由。それは、彼が私という一人の人間を見てくれるから。彼は他の神官たちから何度言われても、何度非難されても、何度睨まれてもそれだけは変えようとしない。ただ一点の曇りもなく、祀られている
言っては何だけど、彼はそこまで神樹様を深く信仰していない。日常生活が一定の範囲なら一切の問題なく送れるのは神樹様のおかげっていう程度にしか考えていない。彼自身が言った訳じゃないけど、何となくそんなふうに思った。
彼のおかげで私は何度も救われている。こんな身体になる前も、なった後も。
…………けど、それは今の日々が色褪せない理由にはならない。
勇者だった頃の、魂が繋がっているような友達と、約束をして、普通に遊んで、
もういつも通りじゃない。それがたまらなく悔しくて、憎らしい。仕方のないことだと何度言い聞かせただろう。仕方のないことだと、何度口にしただろう。
――――そんな言葉で片付けられるはずがないのに……!!
嗚咽を漏らして、本音を吐き出して、全てを誰かに、――――彼に預けてしまいたい。彼が欲しい。彼の全てを手に入れたい。言葉も、熱も、その髪の先すらも、何もかもを手中に収めて私だけのものにしてしまいたい。
でも、それだけはしたくなかった。それは違うから、恋でも愛でも何でもなくて、ただ誰かに依存したいだけだと分かってしまうから。縋る相手が貴方じゃなくても良かった……、そんな風にはなりたくない。
「こんなこと考えてるってわっしーやミノさんに知られたら、怒られちゃうだろうなあ」
現実から目を背けるなんてことはしない。それはミノさんに対する裏切りに等しいし、わっしーだって死んでしまった訳じゃない。両親に心配をかけたくないし、大赦の人たちも心の底から憎んではいない。
いつかきっと、事態は動く。勇者の戦いはまだ終わっていないから。わっしーや、他の候補者、ミノさんの端末を受け継ぐ人、みんなが戦うその時に、伝えなきゃいけない真実を。バーテックスを倒すなら、生半可な力じゃ太刀打ちできない。きっとあの力を、満開を使うときだってくる。私の役割は、きっと暴走した勇者を止めることだろう。心の底から憎んでいる訳じゃないけど、やっぱり大赦の人たちは勝手だ。全てがそうじゃないと分かってはいても文句の一つや二つも言いたくなる。
必ずその時は来る。だからそれまではもう少しだけ……。
この優しい微睡みの中で、彼と一緒に過ごしていたい――――。
これは彼が来る少し前、付き人の主になる前のほんの僅かな間だけ。ただの少女としての、彼女の独白。
なんか連続投稿してしまった。そして園子様がちょっとヤンデレ風味。短いですが、楽しんでいただけると嬉しいです。