魔法使いと黒猫のウィズ×白猫プロジェクト スィー島アフターデイズ 作:烏丸
「へぇー。お二人もこっちに来てから知り合ったんですか」
ジュースの湖に向かい、シャルたちは歩いていた。四人は自分の元いた世界のことを話しあっている
「まぁねー。つか私はあんたが神様だってことのほうが驚きだわ」
「私、そんなに神様らしくないかなぁ……」
すっかり打ち解けた様子で、四人は話している。やがてジュースの湖が見えると、アリエッタがいの一番に動く。
「あ、あれかなー?……ぐえ」
その襟を、シャルが掴んで止めた
「またあんた一人突っ走ったら私らの分がなくなるでしょーが!じゃ、いこっか」
あばばと声を上げるアリエッタを引きずるシャル。それを後ろから、ミコトは困ったように、ツキミは笑みを崩さずについていった
ジュースの湖、と聞いてある程度の予想はしていたものの、それはシャルの予想を上回る広さと豪華さだった。湖、と聞いたもののそれは一つの大きなものではなく、ところどころに多くの湖があり、しかも中身が違う
「うわぁ……これだけあると、どれから飲むべきか、迷っちゃいますね?」
「そうだね~。……あれ?何か聞こえませんか?」
ツキミが気づき、耳を澄ませる一同。確かに、何か音楽のようなものが聞こえる。音のなる方へと、シャルたちは歩いて行った
――――アリエッタを、除いて
音のなる方へと歩いていくと、なにやらコンサートを行っているようだった。長い髪を後ろで一本に束ねた女性と、銀髪の女の子が二人でピアノを弾いている。それはとても綺麗で、しかしシャルはどこかで聞いたことがある音だった。ちょうど演奏が終わったようで、大きな拍手に包まれる。聞いていたのは、ほとんどが兵隊の格好をしている子供だ。
「いやー、さすがテレーゼだね」
「初めて聞いたけど、ほんとに上手なんだねー」
その中で、最前列に浮いている二組がいた。両方とも兵士の格好をしておらず、巫女のような服装となにやらドレスのようなものを着ている。何より目立つのは二人とも動物の耳のようなものが頭から生えていることだ。
「あいつは……」
シャルが走り出し、ツキミとミコトもついていく。三人は、ケモ耳の少女たちへ近づく。それに気が付いた巫女の服を着た方が、振り向いた
「ん?あれー。シャルじゃん。偶然だねー」
「やっぱり……コリン、あんたも来てたの!?」
「なにー?知り合いー?」
もう一人の少女も振り向く。コリンと呼ばれた少女が、軽く紹介する
「あー、紹介するよ。こっちはアルティミシア。こっちで知り合ったんだ」
「へー……あっ、こっちも紹介しておくか。こっちがツキミ、んでミコト……あれ?」
辺りを見回すシャル。さっきまで連れてきたはずのアリエッタがいない
「あら、あなたも来てたのね」
簡素なステージから、先ほどの演者二人が下りてくる。ポニーテールの女の子は、シャルと知り合いのようだ
「テレーゼ!あんた、私らと一緒にいたちっちゃい女の子見てない!?」
「え?見てないけど……ねえ、アイ?」
アイと呼ばれた少女が、首を横に振る
「演奏に夢中だったから……わからない。少し、探してみる」
言うや否や、アイがステージに上り周りを見渡し始めた。辺りをぐるりと見まわし、シャルたちのところへ降りてくる。シャル達が来た方向を指差し、アイは話す
「向こうの方に、女の子がいた……見たことがないし、このあたりの人でもないから、多分あの子かな」
「サンキュー!ちょっととっちめてくる!」
走りだすシャルと、それを追うツキミとミコト。その後ろ姿を見て、アイが呟く
「あの人……テレーゼの、友達?」
「ええ、そうね」
テレーゼは即答する。後ろでカフェオレを飲んでいたコリンとアルティミシアが立ち上がった
「ねえねえ、面白そうだし、ついててってみない?」
アルティミシアが提案する。よっしゃいこうかーと、コリンが乗った。テレーゼがアイの方を見る
「どうしようか?アイ?」
「……行って、みようかな」
アイも答える。四人は、ゆっくりとシャルたちを追った
「わははー!のみほうだいだ!」
アリエッタは一人、湖にいた。うまくうるさいシャルから離れ、自由を満喫し様々な湖で時に魔法で実験のようなものをしながら楽しんでいる
「すごいすごい!全部味が違うよ!」
はしゃぎまわるアリエッタ。そこに、子供の兵士が小さな剣を持ち走ってくる
「お前がこのあたりの湖をおかしくしてる犯人だなー!」
杖を上げ、軽く振る。湖の水が少し浮かんで、子供の兵士の顔に弾丸となって飛んだ。見事に命中し、子供の兵士は気絶する
「さ~て、次はどれを……」
「リッタコラぁ!見つけたぞ!」
「げっ、シャル」
バツが悪そうにシャルの方を見るアリエッタ。シャルは怒りを隠さず剣を抜き、怒気を込めアリエッタに叫ぶ
「いつもいつも勝手に……今ここで、はっきりと立場をおしえてやろうじゃないのよ!」
「ちょ、ちょっとシャルさん!?」
突然の宣言に、ミコトが仲裁に入る。しかし、シャルはミコトを押しのけアリエッタへ近づいてゆく
「ふ、二人とも……」
「まぁまぁミコトちゃん。とりあえず、カフェオレでも飲んで見守ろうじゃないの」
と、カフェオレを全員に配るコリンとアルティミシア。テレーゼも心配そうにアリエッタを見る
「心配ね……止めた方がいいんじゃなのかしら」
「大丈夫じゃ、ないかな」
と、アイ
「あの子、多分かなり強いよ」
「へー、そうは見えないけどなぁ」
六人が見守る中、二人の戦いは始まろうとしていた
「おー、やるかー?シャル!」
杖を構えるアリエッタ。大きく振り上げ、シャルへと杖の先を向ける。すると、湖のジュースが浮かび、弾となってシャルへと放たれた。シャルは、それをうまくかわし、あるいは剣で受け流す
「いきなり飛ばしてんじゃないわよ!リッタ!」
上手くジュースの弾丸を避けながら、アリエッタへ近づいていく。アリエッタが、新たな魔法を繰り出そうと杖を再び振り上げ――――
「遅い!」
その隙に大きく踏み出すシャル。もう剣が届く距離まで近づいている
「繚焔斬!」
剣を振りぬく。切った場所に炎が走り、辺りを一瞬で焼いた。見ていた六人からどよめく声が聞こえたが、シャルは全く安心していない
何故なら――――剣が、何かとても堅いものに阻まれ、止められているからだ。アリエッタがふっふっふと笑っている。その小さな体の前に、大きな本が浮かんでいた
「守りの型!……おかえしだー!」
アリエッタの周りに魔力が集まるのを感じたシャルは、急いで後ろへ飛んだ。シャルが先ほどでいたところに、大きな火柱が上がる。その威力は飛んだシャルも少し吹き飛ばされたほどだ
「っ……あんた手加減くらいしなさいよ!」
「えー?弱めに打ったんだけどなぁ」
さらりと言うアリエッタ。汗をぬぐい、剣を構え直すシャル
「ただ、シャルとはこうやって手合わせしてみたかったからね!」
再び杖を構える。水と、火が、球状になりアリエッタの周囲を回る。隙を伺うシャルは、攻め手が見えずただ剣を構える
「いっくよー!それー!」
周りを回る火と水が、交互に放たれる。一つ前の水の弾とは違い、順番に、正確に、強力に狙いをつけて襲ってくる。それを見たシャルは、よけもせず、防御もしなかった
「……はあっ!」
一つ一つ、魔法を切り前進する。アリエッタが強力な遠距離魔法を連発できるとわかった以上、耐えることも、逃げ続けることも難しいと思ったからだ。魔法を一つ一つ弾きながら、少しずつ進んでいく
10発目の水球を切ったところで、弾が飛んでこなくなった。アリエッタの方を見ると、杖を掲げ宙に浮いている
「やるねー!シャル!これはどうかなー!」
アリエッタが掲げる杖の先、そこには信じがたい光景が広がっていた
雲の合間から、大きな石……隕石が降ってきているのが見える。そしてそれは、シャル目がけて降ってきていた
「ちょ、ま、あんた――――」
狼狽えるシャルをよそに楽しそうに笑うアリエッタ。シャルの言葉は届かない
「いっくよー!破壊の型!どっかーーーーん!」
隕石の速度が上昇する。もう止められない。シャルは剣を構え、力を込める
「あんのやろー……後で覚えとけよー!」
隕石が迫る。その瞬間、シャルは飛び、剣を振りぬいた
「光覇……滅陣剣!」
シャルが放った凄まじい一撃は、隕石を正面から捉える。隕石に徐々に亀裂が走っていく
「こんの……おおおおおおお!」
叫びながら、さらに力を込める。すると隕石全体にひびが入り、砕け散った。砕けた欠片が、泉やそこら中に散らばってく
「おー……さっすがシャル!」
遠くから感心したようにうなるアリエッタ。その頭に、砕けた隕石の破片が飛んでいく
「へ?」
完全に油断していたアリエッタに、破片がぶつかる。バランスを崩したアリエッタは、後ろにあるジュースの湖へ落ちてしまった
大変だ、と見ていた六人が動いたアリエッタを助けにミコトとツキミ、それにけも耳の二人が、シャルを助けにテレーゼとアイが駆け寄る。シャルは、全力を出し切ったため立つことすらままならなかった
「まったく……大人げないわね、シャル」
「……うっせーし……ちくしょー……」
今回の勝負、シャルは負けていた。ごろんと大の字になり、ため息をつく
「……大丈夫、ですか?」
「あー。大丈夫。心配ねーよ」
声をかけてくるアイに、軽く答える。もう喋るのすら煩わしく感じていた。もうこのまま寝てしまいたいと、目を閉じようとしたその時
「大変だ!これ!」
コリンの声が響く。何事かと、テレーゼとアイはシャルを担いでコリンの方へと向かった
「どうしたの!?コリン!」
テレーゼが叫ぶ。アルティミシアが、震えた声でつぶやく
「アリエッタちゃんが……アリエッタちゃんが……」
ただならぬ雰囲気に、三人は急ぐ。たどり着いた先に待っていたのは―――――
「わはは!これすっごいおいしいよ!」
「凄いねぇ……まさか隕石がアーモンドだったとは」
「しかも、ちょこれいとに付けるとさらにおいしくなるんですね……勉強になります」
「ほんとにおいしいね~。はっ、おだんごにつけてもおいしいかも」
アリエッタが落とした隕石……アーモンドを、たまたま近くにあったチョコレートに付けて食べていた五人の姿だった
「しかも、温められてちょうどいい温度になってるねー。あ、きみたちもたべなよー」
アルティミシアに渡され、シャルとテレーゼが食べる。確かにおいしい、おいしいのだが……
「……なんか、納得いかねぇ……」
そう言い残し、シャルは寝てしまう。どうしようか、と残りの七人は顔を見合わせる
「……ラブリちゃんを見つけて、元の世界に返してもらうよう頼もうと思ったんですが、今日の内にはむりみたいですね」とミコト
「そうね……せっかくこうして他の冒険家たちと会えたんだし、いろいろ話してみたいかな」とテレーゼ
「じゃあ、今日はとりあえず近くで休める場所を探して泊まるー?」
コリンの提案にみんなは頷いた。全員で、どこか泊まれそうな場所を探して歩き出す
その前に、アリエッタはアイがアーモンドを持ったまま食べていないことに気づいた
「あれー?食べないの?」
「うん……いる?」
「うん!食べる食べるー!」
アイから渡されたアーモンドを一口で食べるアリエッタ。その顔はとてもうれしそうだ
「……あれ?やっぱり食べたかった?」
アイがまじまじと顔を見ていたことに気づき、アリエッタが問う。そんなことないよ、とアイは手を振った
「ふーん、ならいいけど……ごちそうさま!ありがとね!」
「私は……なにも、してないよ」
「ううん、私にアーモンドくれたじゃない!こういうのも、幸せおひとつどうぞ、ってことだと思うよ!」
「そう……なのかな」
「そうだよー!」
アリエッタが満面の笑みを浮かべる、つられて、アイも笑った
「どうしたの?はやくいこうよー」
「はいはーい!いまいくー!ほら!」
アルティミシアに呼ばれ、アイに手を伸ばすシャル。その手をアイは取った
走り出すシャル。引っ張られ、アイもまたみんなの輪の中へと入って言った