魔法使いと黒猫のウィズ×白猫プロジェクト スィー島アフターデイズ 作:烏丸
「あー、いいお湯だったわー」
「流石に温泉までジュースなんてことは無かったねー」
女子の面々が、風呂場から出てくる。この島を救った恩人として、また先ほどのテレーゼ達のライブにの例として、広い旅館をほぼ貸し切りで使っていた。料理も豪華で、食後にお菓子こそ出てきたものの普通の料理も出された
「あれ?そういえばアイは?」
アリエッタが呟く。女子の面々の中に、アイだけがいなかった
「アイは……後で入るんじゃないかしら?」
テレーゼが言いよどみながら答える。アリエッタはふーんと言うと売店のフルーツ牛乳に興味を奪われ、アルティミシアと共に走っていった。部屋に戻ると、アイは窓際で立っていた
「おかえりなさい、みんな」
「いーい風呂だったわー。部屋も広いし料理もうまいし、サイコーねぇ……」
入ると同時に布団に大の字になるシャル。彼女らが泊まる部屋は、全員が入ってもまだ余るような広い部屋だった。以前温泉に行ったことがあるというマールも、この広さには驚いていた
「あー今日は疲れたわ~。もう寝よう……」
「まって!シャル!」
「んー、なによ……」
そのまま眠りに落ちようとするシャルをアリエッタが止める。顔を上げたシャルに……
「……へぶっ!?」
枕が投げつけられ、正面から受けたシャルはそのまま少し後ろへ飛んだ
「ア、アリエッタさん!?な、なにを……」
突然の出来事に驚くミコト達、しかし、アリエッタは不敵に笑い、
「こうやって大人数で泊まった時にやることがあるでしょー?」
その言葉を受け、吹き飛ばされたシャルが枕を持ち立ち上がった
「上等だコラぁ……そこ動くなよリッタ……」
枕を構え、アリエッタに狙いを定める。それを見たアリエッタは枕を再び手に取り、叫んだ
「枕投げ大会だー!」
火蓋を切るように、アリエッタとシャルが同時に枕を投げる。その流れ弾が、次々周りに飛んでいく
「あぶないユッカちゃん!ラッキー……」
「よいしょー!」
マールが助けようとするより早く、ユッカが飛んできた枕を何処からか取り出したハンマーで打ち返した。まっすぐにアリエッタへ飛び、アリエッタごと壁まで吹き飛ばす
「――――あまーっい!」
吹き飛ばした勢いを利用して回転するアリエッタ、そのまま魔法の力を込めて、さらに力を増した枕を投げ返す。枕は、まっすぐにユッカへと飛ぶ
「負ける……かぁー!」
再びハンマーを振るユッカ。ハンマーは枕の中心を捉えるが、先ほどより威力を増した枕は止まらない。それどころか、少しづつ押されているようにさえ見える。マールや周りのみんなも応援するが、枕は全く止まらない
「うおおおおおおおおー!」
ユッカとアリエッタが叫び、ユッカがハンマーを振りぬいた。枕は……ユッカの目の前ではじけ飛び、跡形もなくなっていた。
静かになった部屋で、互いに顔を見合わせる。何分かそうした後、二人は歩み寄り、熱い握手を交わした
「アリエッタちゃんってすごいんだね!もう一回やろうよ!」
「ユッカこそ!こんどは勝つぞー!」
そういって、枕を持ちまた離れる二人。がんばれーと残りのメンバーはテーブルを囲みお茶をすする。ふと、ミコトが疑問を投げた
「あの……枕投げって、こんな遊びでしたっけ?」
「さぁ~?」
答えて茶をすするツキミ。部屋の隅では、最初に枕を投げられ瀕死となっていたシャルが布団にくるまり寝息をたてていた
「向こうはずいぶんと騒がしいにゃ」
近くの部屋、こちらは人数が少ないからか少し狭い部屋だが、そこに黒猫の魔導士、ウィズ、キワムの二人と一匹がテーブルを囲んでいた」
「ああ、ずいぶんと賑やかで楽しそうだ」
楽しそうかな?と魔導士とウィズが顔を見合わせる。キワムは、どこかそわそわした様子で外を見ている
どうしたの?と魔導士が問うと、キワムは神妙な顔もちで魔導士たちに向き合った
「……なあ、今から、俺が元いた世界に帰ることはできるのか?」
「ずいぶん突然だにゃ。」
急にどうしたの?と魔導士が問いかける。キワムは申し訳なさそうに目を伏せたまま、話を続けた
「……やっぱり、心配なんだよ。ヤチヨたちのことがさ。コヨミはもうこっちで知り合いを見つけたんだろ?……なら、俺がこっちに残る理由も無いからな」
ヤチヨとは、キワムが元いた世界の仲間のことだ。彼らは、向こうの世界で追われる身だった。そのことを知っているウィズと魔導士は、彼を引き留めることはできなかった。せめてコヨミに別れの挨拶でもしたら?と問う、しかし、キワムは首を横に振る
「決心が鈍りそうなんだ。一回帰ろうとした時も泣きそうな目で見られたしな。……どうしても、気になっちまう」
キワムの心配性は相変わらずだね、と魔導士。キワムの残してきたもの、仲間たちのことが気にかかるのは魔法使いたちにもわかっていた
「今じゃだいぶ落ちついているのはわかってるんだ。だけど、こっちの世界の問題が解決して平和になるとさ、向こうのみんなのことを考えちまう。……俺一人が、こんな思いをしていいのかって。アッカだって、まだ助けだせてないんだ。早く向こうに帰って、月に向かわなくちゃいけない」
「……決意は固いようだにゃ」
そうだね、と頷く魔導士。ラヴリを探そうと、部屋を出るため扉を開ける
「――――あ」
扉の外に、浴衣に着替えたコヨミが立っていた。今までの話を聞いていたのか、走ってキワムのもとへ寄り、そのまま抱き着く
「コヨミ……ごめんな」
「大丈夫だよ。キワムにーに」
うずめた顔を上げ、キワムを見る。泣きそうにはなっているが、何とかこらえているようだ
「コヨミは一人でも大丈夫だよ、キワムにーにはキワムにーにの仲間を助けてあげて?」
「……ああ、ありがとう」
小さなコヨミの頭を、優しくなでるキワム。クロもキワムのフードから降りて、コヨミの頬を舐めている
「こんな風にほかの世界に飛ばされるんなら、次はコヨミのいる世界に行きたいな」
「うん。コヨミもキワムにーにの仲間たちと会ってみたい!」
二人に笑顔が戻る。その後、ラヴリを連れてきた魔導士の助けもあり、キワムは元の世界へと帰っていった
「コヨミはどうするにゃ?」
キワムがいなくなった後をみつめるコヨミにウィズが問う。振り向いたコヨミは、涙を拭きながら答える
「まだコリンねーねがいるから、一緒に帰ることにする」
「わかったにゃ。今日はゆっくり休むといいにゃ」
コヨミが女子の集まる部屋へと帰っていく。魔導士は、ふとローブからあるものを取り出した
「また、キワムたちと戦う時は来るのかにゃ?」
わからない、と答える魔導士。その手の中にある箱のような道具は、まだ何も答えることは無かった
「……ム?おーい、キワムー!」
誰かに呼ばれ、キワムは目を覚ます。先ほどまでいた旅館とは違い、近未来的な街の中にキワムはいた
「やっと目を覚ましたわね」
横になっていた体を起こし、重い瞼をこする。どうやら眠っていたらしい。さっきまでの出来事も、夢の様に思えた
「なあ、ヤチヨ、俺どのくらい寝てた?」
「どのくらいって……いつもより少し長いくらいよ」
キワムがあの世界で体感していた時間は、少なくとも一日以上はあった。しかし、こっちでは一夜しかたっていないという
「そうか……変な夢でも見たのかな」
「どうしたの、キワム?大丈夫?」
心配そうに声をかけてくるヤチヨ。なんでもないと立ち上がろうとしたところで、クロがキワムの手をつついてくる。どうしたのかとクロを見ると、何かをくわえていた。それを受け取ったキワムは、少し微笑んだ
「……キワム、本当に大丈夫?」
「大丈夫だって。なあ、今日はみんなでお菓子でも食べないか?」
「いいけど、どうしたの?」
「ああ、みんなに話したいことがあってな……」
立ち上がり、仲間のもとに戻るキワム。その手には、あの世界でコヨミと食べたアイスのお菓子が握られていた