ま、いいか(適当)
翌日。同じく第3アリーナ。
「一夏!調子はどうじゃ?」
ワシは一夏の控え室で一夏の専用機【白式】のフィッティングを手伝っていた。と言っても、殆ど山田先生に任せっきりじゃったが。
「おう!バッチリだぜ!それより、セシリアの方へ行かなくて良かったのか?」
白式を装備した一夏が尋ねる。
「うむ。ワシもそうしようと思ったんじゃが、セシリアに止められての。ISの起動時間が皆無な一夏に、何かアドバイスしてやれとのことじゃ」
「そっか……。セシリアも思ったより悪い奴じゃないんだな」
「プライドの高いのは変わらんがの。しかしアドバイスか……。特に思いつかんが、強いて言うなら『出し惜しみはナシ』じゃな。相手の出方を伺う暇があったらとっとと勝負を決めることじゃ。セシリアの戦法は昨日の試合で分かっとるじゃろうしの」
「ああ。最初からとばしていくぜ!」
白式が一瞬輝き、その姿を変える。白式の一次移行形態。それは、名前に違わぬ見事な純白であった。
「織斑君!準備はいいですか?」
「はい!いつでも行けます!」
ワシと似たようなセリフを聞き、思わず失笑する。
「行ってこいの、一夏!」
「おう!」
白き騎士が、アリーナの光へと溶けていった。
☆
同刻。セシリアの控え室。
「……これで良かったのですわ」
ブルー・ティアーズをその身に纏ったセシリアは、少しだけ後悔していたのを振り払った。
刃に側にいて欲しい。それが本心だったが、元はと言えば刃と一夏が自分の言に異を唱えたことから始まった決闘。ケジメはつけなければならない。
「既に刃さんに一敗……。負けられませんわね」
息を深く吸い、吐く。
セシリアの碧い眼は、深く、鋭く、その光を増していった。
☆
「……いよいよだな」
控え室。モニターを睨むように見ていた篠ノ之が呟いた。
「…………」
セシリアを見る。強い。昨日よりもずっと強い目をしておった。それはきっと、プライドのため、初心者に連敗するものかという、誇り高き強さの表れであろう。今のセシリアに、勝てるかどうか……。
「篠ノ之……。悪いがこの勝負、賭けるならばワシはセシリアに賭けるぞ」
こめかみから汗が滲むのを感じた。
「……一夏を侮ってもらっては困るぞ」
篠ノ之がモニターから目を離さずに言う。
「そうじゃな……。どっちもええ顔しとるのう」
☆
「織斑 一夏さん、でしたわね?」
セシリアが一夏にオープンチャネルで話しかける。
「先日の日本を侮辱する発言は撤回いたしますわ。ごめんなさい」
「な、なんだよ突然?」
「しかし、それはそれ、これはこれ。一度対峙したからには、言い訳はなしですわ。代表候補生の実力、思い知らせてあげましてよ!」
「……俺だってこの一ヶ月、やれることはやった。それを全部ぶつけるさ!」
「始め!」
審判の合図で、試合が始まる。
「行くぜ、白式!」
「さあ、踊りなさい。私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲で!」
☆
結果は、セシリアの辛勝だった。
果敢に攻め、距離を詰め続ける一夏だったが、セシリアとの戦闘経験の差が決定的だったと言えよう。あと、武器の燃費の悪さ。
「残念じゃったのう、一夏」
控え室に戻ってくる一夏の顔は、悔しさと、晴れ晴れとした感情が混ざり合う、一言で言うなら『良い顔』じゃった。
「……次は負けねーよ。セシリアにも、刃、お前にもな」
そう言って一夏は微笑んだ。
「うむ。ワシも絶対に負けん!明日の試合、楽しみにしておるぞ!」
2人でニヤリと笑い合い、握手をした。
☆
「お帰りなさいませ」
部屋に戻ると、セシリアが先に帰っていた。
「おう、ただいま。今日は凄かったのう」
「少し大人気なかったかしら?初心者相手に手加減無しでしたし」
「お主が手加減無しであそこまで迫られたか。やはり織斑 一夏、侮れん奴じゃのう」
ワシがそう言うと、セシリアが少し落ち込んだような顔をする。
「……なんだか自信が無くなってしまいますわ。ISに乗り始めたばかりのお二人にああも苦戦させられるなんて」
「一夏はともかく、ワシには最強の師匠がおったからの。負ける訳にはいかなかったんじゃ」
「それでも、私は何年も前からISについて研鑽を積んできたんですのよ?努力家とは言え、一ヶ月で実力差を詰められたとなれば……」
ああもう。傲慢なんだか繊細なんだか分からんのう。
「安心せい」
両肩にポンと手を乗せ、セシリアの目を見る。
「な、な、なんですの!?」
セシリアは突然目の前に顔が現れ、動揺する。
「お主は強い。そして、これからまだまだ強くなれるはずじゃ。その可能性を信じてやれば、きっと、もっと、ずっと強くなる」
そう確信したワシの目はしっかりとセシリアを見つめていた。
「……はい!刃さんがそう言って下さるなら、私は刃さんを信じますわ!」
肩に乗せられた手を取り、セシリアは力強く頷いた。
「「………………」」
しばし沈黙が流れる。
よくよく考えてみると、狭い部屋で男女が2人きり、手を取り合って見つめ合う。はい、誰がどう見ても恋人です。
「そ、そろそろ飯の時間じゃの」
「あ……そうですわね……」
お互い状況に気づいて思わず明後日の方向を向く。イカン。絶対ワシの顔真っ赤になっとるぞ。
「……い、行くとしようかの」
「……は、はい」
あまり顔を合わせないように意識しながら、2人で部屋を出る。
「やあ♪」
……村を出て1歩で魔王にエンカウントした気分じゃわい。
「どうも師匠。何か用でしたかいの?」
「明日のミーティングをしようと思ってね♪せっかくだから一緒にご飯でも食べながら、と思って♪」
いつも以上にご機嫌な師匠。しかしその背中からドス黒いオーラが漏れ出しているのが分かる。
「わ、私、他の皆さんと夕食の約束がありましたの。すっかり忘れていましたわ!おほほほほ!で、では刃さん。また後で!」
「待ちなさい。貴女がセシリア・オルコットちゃんね?貴女にも話があるわ。ご友人との食事は、また後で、ゆっくりと、ね?♪」
「…………はい」
「死なば諸共、という奴かの」
女の嫉妬には気をつけんといかんな。
☆
「……へえー。初日に裸を見られたの」
「いや、裸ではなく……」
ギロッ
「なんでもありません!」
食堂。毎日楽しみな夕食の時間が、今日はなんとも憂食になってしまった。
4人掛けのテーブルにワシ、セシリア、師匠、あと何故か簪が座って食事をしていた。
「……刃さん、最低」
ええー。冤罪じゃろう。
「じ、刃さんは悪くありませんわ!元はと言えば私が確認を怠ったのが原因で……」
「……まあ、そのことについてはいいわ。それで?刃君?試合後にセシリアちゃんとどんな話をしていたのかしら?」
「えっと……」
嘘はつかん方がええの。
「デートの約束です」
「ぶっ!」
「!」
「刃さん!?」
「え?クラス代表決定戦が終わったら買い物に付き合ってほしい、と言っとったが。あれはデートの取り決めではなかったのか?」
「いや、その。そんな大層なものでは決して……。でも、刃さんがどうしてもデートしたいと仰るのなら……」
イラッ
イライラッ
ん?何かイヤな波動を感じた。
「へえー。随分と仲がいいみたいね♪」
「師匠?フォークは逆手に握るものではないし、人に向けるものでもないですぞ?」
「刃さんの女たらし」
「簪よ。歯に絹着せぬもの言いは良いが、時として人の心を深く傷付けることを学べ」
「……ごめんなさい、女たらしさん」
ええ……。冤罪……じゃろ?
「まあいいわ。その買い物には私たちもついて行くとして」
「ちょっと!?」
「明日の一夏君との試合。プランはできてるの?」
師匠が真剣な眼差しに戻る。
「……うーん。そうですな。一応作戦は決まっておりますが」
「どんなものか聞かせてちょうだいな」
「はい。その作戦は…………」
作戦の概要を話す。
「……呆れた。それ作戦って呼べるのかしら?」
「文字通り無謀な作戦だよ」
「今からでも考え直しませんこと?なんなら私の高貴で知略に溢れた至高の策を……」
「本気も本気、超本気じゃ。一夏に勝つにはこれしかないですからの。だはははは!」
そう言って笑うワシを、3人は心配そうに見ていた。
☆
翌日。
「……明日になるのがこんなに待ち遠しかったことはないぞ、一夏」
控え室でプライベートチャネルを一夏と繋ぐ。
「俺もだ、刃。今日は全力で行くぜ!」
通信の先から一夏の力強い声が聞こえる。武者震いに全身が打ち震える。
「〜〜〜〜ッ!早う!早う闘いたい!まだかのう!?山田先生!」
「は、はい!?もうすぐ時間です!」
ワシの大声にビックリして、山田先生がアリーナを開ける。
「では、行ってくる!」
「お気をつけて」
「頑張りなさい」
「……頑張ってね」
3人の声を背中に受け、アリーナに繰り出した。
セシリアの『私』の読みは『わたくし』です。脳内補完よろしく。
さて、次回がようやくvs一夏となります。茶番挟んだら長くなってしまった……。
もしセシリアvs一夏を見たい、という方がいらっしゃれば、感想などでその意をお伝え下されば頑張って書きます(感想乞食)
という訳で次回【戦闘衝動】の後編です!