「し、死ぬ……」
翌週の土曜日。織斑先生の地獄レッスンに耐え抜き、ワシは寮の廊下をゾンビのように歩いていた。
「あ、あら。刃さん。大丈夫ですの?」
セシリアがワシを見つけるなり心配そうな顔で話しかけてきた。
「おお。セシリアか。うむ。人間とは大した生き物でな。6日もこんなことが続けば慣れてしまうのじゃよ。とりあえず明日までには万全にしとく」
明日はセシリアと買い物デートじゃからの。荷物持ちをさせられる未来がありありと目に浮かぶ。
「そ、そうですわね!私とデートできる男なんて世界中探しても片手の指で足りてしまう程しかいらっしゃいませんわ!全身全霊のエスコート、期待しておりますわよ!」
セシリアはそう言ってビシッと指をさす。えらく期待されとるらしい。これは命を懸けねばならぬやも知れんな。
「おう!期待して待っとれよ!では、明日の10時半にエントランスでの」
「ええ!10時半に!」
ワシも力強くガッツポーズで応える。その後セシリアはどこぞに用があると言ってそそくさと去って行った。明日の準備であろうか。ワシは自室に戻り、シャワーを浴びて軽くストレッチをした。
☆
「ふ、ふふふふふ……」
生徒寮:廊下の一角。
不気味な笑い声が辺りに響く。セシリアだ。膝の上には小包のダンボール箱が乗っている。
「明日、刃さんと……ふふふふふ……」
セシリアは明日の刃とのデートに期待と興奮を抑えきれなかった。普段の上品な振る舞いはどこへやら、悪だくみをする魔女の如く下品な笑みを浮かべている。
(聞くところによると、布仏さんはデート後のテンションがMAXを突き抜けていたそうではありませんか。試しに問いかけても『秘密〜♪』と言って取り合ってくれませんでしたが、アレは絶対に何かありましたわ!そう!ナニか……)
そこまで思考を進め、不意にセシリアは自分の顔が熱くなる程赤くなるのを感じた。
「い、いやですわ!私ったらはしたない!コレはそんな目的のために本国から取り寄せた訳ではございませんのに!ございませんのに!」
セシリアは誰にともなく言い訳っぽく説明し、大事なこと?を二回言った。
「明日、明日ですわね……」
(まさか、IS学園に来て殿方に惚れてしまうなんて……。不思議な感覚ですわね)
セシリアは刃のことを考えていた。
『ほれ。飯がまだなら一緒に食べながら話そうぞ』
『これから高め合っていこうぞ』
『安心せい。お主は強い』
「…………本当、不思議な人」
彼が差し伸べる手を思わず取ってしまう。
彼の笑顔に、とても安堵してしまう。
彼の幸せが、自分の幸せのように感じる。
「……好き、なのですわね」
彼のことが。間違いなく。
想いを再認識すると、鼓動が一際強く脈打つ。セシリアはそんなときめきにしばらく身を委ねていた。
☆
「……うむ。疲れや凝りは一切ない。完璧じゃな」
翌朝。肩を回したり脚を回したりして異常がないか確認する。
整地用のトンボをロープで腰にくくりつけて全アリーナを地ならししながらウサギ跳びをさせられた割には快復したと言えよう。……アレ?ワシまだ人間?人間でいられてる?
「っと。下らんこと考えとらんで準備せんとな。セシリアは……朝飯にでも行ったのか。時間は……」
AM 08:30
「まだまだあるな。よし!抜かりのないようしっかり準備しよう!」
セシリアとのデートじゃし、財布の中身は特に気を遣わんとな……。ええと、確かタンス預金がいくらか……。
☆
AM08:30
「流石に早過ぎましたわね……」
セシリアは腕時計で時間を確認し、自嘲気味にため息を吐いた。
「でも、遅れるよりはずっといいはずですわ!ああでもでも!初デートで重い女だと思われてしまうかも……?うぅ……刃さんはそんなことを思う人ではないはずですわ!」
セシリアは寸劇のように心の内を声に出し、百面相する。周りの女子生徒がそれを聞きつけてざわつく。
「えぇ!?柳君セシリアとくっついちゃったの!?」
「ショック……。織斑君もいいけど、柳君のがしっかりしてて頼れる感じがして良かったのにー」
「代表候補生相手じゃ勝ち目ないよー。儚い恋だった……」
「でもちょっと待って!先週一組ののほほんちゃんが柳君と二人で出かけてたという目撃情報が!」
「じゃあ、まだ私たちにもチャンスがあるってこと!?」
女子生徒達が一斉に色めき立つ。
「そこの外野!うるさ過ぎですわよ!」
セシリアは堪らず憤慨した。そんなセシリアの怒りも、恋する乙女のラブパワーにはどこ吹く風だった。
「はぁ……。このままですと刃さんにも迷惑がかかってしまいますわね。集合場所を変更するように連絡しましょう」
セシリアは一段と大きなため息を吐き、携帯を取り出した。
☆
〜♪ 〜♪
「むぉ?」
朝食の山かけ鉄火丼を頬張っていると、突如携帯が鳴りだした。タイミング的にセシリアじゃろうか?
『他の生徒達に集合場所を嗅ぎつけられてしまいました。つきましては集合場所を変更したいと思うのですが、いかがでしょうか?変更内容は私に一任していただいて結構ですので』
あー……うん。そういう時の嗅覚と結束力は半端ないからの、ここの生徒達は。
「えーと……『構わん。任せたぞ』と。これじゃまるで主君と従者じゃな。セシリアが従者……ナイナイ」
苦笑しながら送信を確認し、再び箸を取る。朝から豪勢な食事なのは、セシリアのセンスに少しでも自分を補正するためでもある。ただ食べたかっただけとも言う。
☆
AM10:15
「ここか?右回りの3つ目の駅」
メールで指定された場所に着き、キョロキョロと辺りを見回す。埠頭が近いのもあって、見晴らしが良く、潮風が心地よい。
「柳 刃様ですね?」
背後から声が聞こえ、振り返る。そこにはメイド服姿の女性がこちらを見ていた。
「確かにワシは柳 刃じゃが……貴女はもしやセシリアの?」
「はい。オルコット家、もといセシリア様の専属メイドのチェルシーと申します。以後お見知り置きを」
チェルシーさんはそう言ってお辞儀をする。ワシもつられてお辞儀を返す。
「それで、あの、セシリアは?」
「こちらに。私についてきて下さい」
チェルシーさんの後に着いて歩くと、一台の車があった。セシリアが待っているからてっきりどうやって公道を曲がるのか分からない長いリムジンとか高級な外車かと思っていたが、CMなんかでよく見る一般車だった。
「今回の目的は人目を避けることですので、高級車やリムジンのご用意は控えさせていただきました」
うぐ。心を読まれとる。というより、一般人から見た金持ち像を良く理解しているといった風か。
「まあ少しだけ期待しました。が、事情が事情故致し方ありますまい」
「ご理解いただけて何よりです。さ、中へ」
……しかしチェルシーさん。貴女の格好、めちゃくちゃ目立ちますが。
☆
「お待ちしておりましたわ」
車に入るとセシリアがいた。後部座席の奥側に佇むその姿は国産普通車の内装をリムジンレベルにまで昇華できそうな華やかさだ。
「うむ。波乱のスタートじゃが、これから挽回していこう」
「ええ!それにしても、日本車というのも悪くはありませんわね。コンパクトでありながら中は広々としておりますもの」
おお!セシリアにも庶民センスが!
「隣、座るぞ」
とりあえずワシが乗り込まんことには車を出せない。
「は、はい!どうぞ!」
「そんなに緊張するな……む?」
セシリアの隣に座ると、何やら甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「これは……カミツレ、か?」
「流石刃さんですわ!その通り!これは私がイメージキャラクターを務めている本国の香水メーカーの最新作!日本で最初にこの香りを楽しめるのは私と刃さんだけですわ!」
セシリアは気付いてくれたのがよほど嬉しかったのか、鼻息を荒くして熱弁する。
「なるほどの。香水、か……」
セシリアへのプレゼントリストから香水は消しておこう。どうしても見劣りするじゃろうしな。
椿屋百貨店。日本では百貨店と言えばほとんどの人がここを想像する国内最大規模の百貨店。正直庶民にはニュースで紹介されるのをボケーっと見るか実際に行って人の波に弄ばれるくらいしか縁がない場所だが。
「久しぶりじゃな、ここも」
「あら?以前に来たことが?」
車を降り、チェルシーさんにお礼を言って店に入る。
「……まあの。ここの社長が」
「刃!刃じゃねえか!?全然顔も見せずに連絡もしやがらねえでこの野郎!元気そうじゃねえか!」
「……ワシの叔父なんじゃよ」
何故ワシの居場所がバレた?あ、監視カメラか……。
「ハッハッハ!また綺麗な彼女を連れて!フン、デートかよ?」
「こ、この方が刃さんの叔父様……」
「ああ。ワシの叔父の
相変わらずだの。もみあげと繋がったシャープな顎髭。乱暴なオールバックはどこぞのヤンキーかと思わせる。その癖スーツだけはビシッと着こなしてるせいでついたあだ名が「雑コラ社長」とは、我が叔父ながらなんと言ったものか……。
「よろしくな嬢ちゃん!しかし刃もちゃっかりしてんな!女の子だらけのIS学園に行かせただけはある」
「黙れスケベオヤジ。デートの邪魔じゃからあっちへ行け」
しっしっと手を振って追い払う。
「ちぇっ。付き合い悪い奴。と言いたいとこだが、叔父としてここは遠くから見守っていてやろう!じゃあ、当店でのお買い物をお楽しみ下さーい!」
叔父はそう言うと店の奥へと消えていった。遠くからって、監視カメラで見てるということかの。趣味の悪い……。
「さて、邪魔が入ったが気を取り直して行くぞ、セシリア」
「え、ええ。せっかくの刃さんとのデートですもの!この程度の障害、物の数に入りませんわ!」
「うむ、よう言うた!行くぞ!」
波乱続きのスタートであったが、とりあえずデートを始めることができそうじゃ。
デート……。今更じゃが、緊張してきた。しっかりエスコートできるんじゃろうか……?
「刃さん!次行きますわよ次!」
「うーい……」
はい。予想通りでした。イキイキするセシリアとは対照的にワシのテンションは右肩下がり。手には山のような紙袋と箱が。どこの昭和夫婦じゃ。ちなみにチェルシーさんは気を利かせて車で待っていてくれるそうな。わざわざイギリス本国から来てくれたのに、申し訳ないのう。
「しかし、店の気に入ったものを棚単位で買っていくとは……改めてセシリアの金銭感覚は半端ではないな」
「まあ!素敵なサマーセーター!ここからここまで全部いただきますわ!」
おお。本当に言う奴初めて見た。
「あ、ありがとうございます!」
店員のお姉さんも驚き半分嬉しさ半分でラッピングを開始する。今日何回目の光景じゃろうか?
「セシリア。とりあえず一通り見回ったし、そろそろ昼食にしよう」
時計を見ると13時を過ぎている。
「そうですわね。では、ランチに致しましょう。どこかご予約なさっていますの?」
「安心せい、抜かりはないわ。ここの最上階のレストランを予約してある」
今思えばその時点で叔父にはバレててもおかしくはなかったか。ワシも迂闊じゃったな。
「まあ素敵!では早速向かいましょう」
セシリアは意気揚々とエレベーターに向かう。……少しは荷物持ってくれんかの?男の仕事?トホホ……。
「良い眺めですわ」
「うむ。やはり30階ともなると見晴らしが違うの」
料亭 一髪菖蒲(いっぱつしょうぶ)
余りの美味さに髪の毛一本一本から菖蒲の花が咲く程美味い、というコンセプトらしい。なんじゃそら。
「いらっしゃいませ」
店に入ると、落ち着いた様子の若い女性店員が声をかけてきた。
「予約していた柳ですが」
「柳様。お待ち申し上げておりました。こちらへどうぞ。お荷物はお預かりしますね」
おお。ありがたい。流石に店内であの量を持ち歩くのは忍びないと思っていたところ。
「ありがとうございます。さ、セシリア。予約席は一番窓際じゃ」
「ええ。エスコートしてくださる?」
セシリアはそんなことを言いながら澄ました笑顔で右手を差し出してきた。やりなれているのか、余裕がある。
「喜んで、お嬢さん」
たどたどしく手を取り、席へと連れる。無駄に注目を集めたが、頑張って無視する。
「及第点ですわね。次はもっと自然体でお願いしますわ」
「これは手厳しい。日本の高校生にあまりレベルの高い要求はせんでくれ」
「「……ふふっ」」
そんなやりとりがおかしくて、つい吹き出してしまった。セシリアも同時に笑う。
「さ、堅苦しいのはやめじゃ。今日はセシリアのために特別メニューにしたぞ」
「まあ!それは楽しみですわ」
こうしてセシリアと日本の割烹料理に舌鼓を打った。セシリアはこの日のために猛練習したらしく、たどたどしくも中々の箸捌きだった。楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした。和食というのも良いものですわね」
「そうじゃろ?特にここのは格別じゃからな」
そう言って食後のコーヒーを啜る。
「うむ。和食の後にコーヒー。ハイカラじゃな」
「そ、そう……なんですの?日本の文化は奥が深いんですのね」
セシリアはやや困惑気味にそう言いながら紅茶を飲む。セシリアに紅茶。うむ、しっくりくる。
「そう言えば」
しばらく二人で食後のひと時を過ごしていると、セシリアが不意に口を開いた。
「先程の刃さんの叔父様のことですが……」
「む?どうかしたか?」
「いえ。その、刃さんをIS学園に『入れた』ようなことを仰っていたのが気になって……」
「……なるほど。さて、何から話したものか……」
コーヒーカップを置き、しばし逡巡する。
「ワシが山奥の村から来たのは前に言ったな?周りがジジババばっかりでこんな喋り方が身に付いてしまった、と」
セシリアが頷く。
「両親の仕事の都合でな。ワシは母方の祖父母の家に厄介になっとったんじゃ。中学までは地元の分校で事足りたが、高校はどうしようかという話になったところで出てきたのが母の兄、つまりあの叔父じゃな」
「なるほど。高校進学の支度金を賄って下さったのですね」
「そうじゃ。昔からよく面倒見てくれての。その上武術マニア。ワシが嫌がってもありとあらゆる武術を叩き込んでくれたわ」
「なるほど。それで徒手空拳、短剣、槍術と卒なく熟せていたのですね」
セシリアが納得したように何度も頷く。
「色々あったが、しっかり高校に通えるのは叔父のおかげじゃな。ワシがISを使えるのは流石に予想外だったみたいじゃが」
「そうですわね。一夏さんといい刃さんといい、男性の身でありながらISを操縦できるのは貴重な才能ですわ。是非これからもその技量を高めていきましょう。お互いに」
そういってニッコリと微笑むセシリア。ワシが以前に言ったことを改めて言われ、思わず苦笑した。一本取られたの。
「うむ。こうしてセシリアと共にかけがえのない時を過ごせているのも、ISのおかげじゃ。これからもよろしく頼む」
「まあ!かけがえのないだなんて……私も、同じ気持ちですわ」
セシリアが上気した顔で答える。
互いに言葉が切れ、視線だけが結ばれる。
ゆっくりと、昼下がりの時が過ぎていった。
昼食を終え、店を回るだけ回ったワシらは次の予定を企てていた。
「チェルシーさんを待たせるのも悪いし、少しドライブでもしてもらうか?」
「あ!そ、そうですわね。チェルシーに待たせるだけというのも悪いですものね」
……忘れておったなコイツ?ジトっと視線を飛ばすと「おほほほ」と笑って誤魔化した。恋は盲目という奴か。
「とりあえず車に戻るとするか。バカ叔父に見られてるのも気に食わんしな」
しかしこの荷物があの車に乗る……訳ないしの。
「ああ。荷物のことでしたらお構いなく。別の車に運ばせるよう手配してありますわ」
流石に周到じゃったか。お言葉に甘え、オルコット家のメイド群に荷物を任せる。
「よくお楽しみになられましたか?」
車に乗るとチェルシーさんが尋ねてくる。
「はい。わざわざ気を遣っていただいてどうも」
「いえいえ。セシリア様と交際するということはアレが日常となるということを知っていただきたかったので」
ああ。なるほどそういう。いい性格しとるわ。
ややあって、軽くドライブを楽しませてもらうことに。食後の昼下がりということで睡魔が襲ってきたが、会話を繋いで耐えた。
「ふぁ……っと!失礼いたしましたわ」
セシリアも眠気に必死に耐えていたようじゃ。2人して顔を見合わせて苦笑する。
「良い天気じゃ。眠気覚ましに散歩するのも悪くないかも知れん」
「そうですわね。チェルシー」
「は。近くに一帯を見渡せる丘があります。高台までは歩道ですので、お歩きになられてはどうでしょうか?」
ワシもセシリアも賛成し、丘へ向かった。チェルシーさんは例によって車で休憩。
少し歩いて、すっかり眠気も覚めた頃、丘の高台に着いた。町の様子を一望できる光景。
「……って、さっき似たようなの見たの」
「ですわね。うふふ。ですが、ここから見えて先程見えなかったものが」
セシリアが指差す先には椿百貨店があった。料亭がある30階はここからでもやや見上げるほどかも知れんな。
「ただ高みにいるだけでは見えないものがある。そう教えてくれたのは刃さんでした」
セシリアが不意に話題を振る。この数ヶ月でセシリアも大分丸くなった。きっとそのことを言っとるんじゃろう。
「それが自分の立っていた所というのもミソじゃな」
「違いありませんわね。私、1人でオルコット家を背負っていたつもりでした。しかし刃さんと出会い、一夏さんとも闘い、色々と経験する内に男性というものの見方が大きく変わりましたわ。お抱えの召使いの中にも男性は多くいて、その方々への感謝を忘れていたことを思い出しました。私は独りじゃない。支えてくれる方がいて初めて私はセシリア・オルコットなのだと、そう思えるようになりました」
「むう。そこまで深く考えておったとは……じゃが、その智慧はやはりセシリアの今までの努力が掴み取ったものじゃ。お主は今まで通りのお主でええ。今まで通りのお主がいい」
ゆっくりと。しかし確実に。セシリア・オルコットという器が大きく深く成っていくのを肌で感じる。将来どれ程の大物になるか、楽しみじゃのう。
「刃さん……」
「セシリア……」
青く、蒼く、碧く輝く瞳に吸い込まれるように魅入った。その光が愛おしくて、思わず肩を抱き寄せた。
☆
しばらく2人で過ごし、チェルシーさんを待たせていたのを思い出して急いで車に戻ってきた。
「すみません。待たせてしまいましたの」
「いえ。高台の景色はどうでしたか?」
チェルシーさんがいたずらっぽい笑みを浮かべながら尋ねる。恐らく他のナニかを訊いておるのじゃろうが……。
「それはそれは、絶景でしたぞ」
「それは何よりです。では、IS学園へ戻りましょうか」
「?チェルシー、やけに嬉しそうですわね。何かあったんですの?」
2人の会話はセシリアにギリ伝わらなかったようじゃ。セーフセーフ。
こうして楽しいひと時はあっという間に過ぎた。IS学園には堂々と2人で帰った。当然来るであろうパパラッチには織斑先生バリアで対応して貰う。特訓10倍の対価は決して安くなかったが。
「刃さん。本日は楽しいひと時をありがとうございました」
就寝間際、真っ暗になった寝室でセシリアが語りかけてくる。
「うむ。ワシも良い時を過ごさせてもらった。また機会があったら行きたいの」
「光栄ですわ。えっと……その、また明日から訓練の日々が始まります。お互いに頑張りましょう」
ん?セシリアが何か言いたそうにしておる。
「どうした?何か言いたいことがあるのではないか?」
「いえ!その……うぅ……」
「遠慮せず言ってみい」
今更何を遠慮することがあるのか。そう言ってしばらくすると、意を決したようにセシリアの布団がガバッと舞い上がった。ずんずんとセシリアがこちらに歩み寄ってくる気配がする。
「きょ、きょきょきょ今日は一緒のベッドで寝ても構いませんでしょうか!?」
「構います!超構います!」
意外な核弾頭が落ちてきた。いくらなんでもデート当日の夜に同衾というのは……。
「構ってくれるんですのね!では、遠慮なく」
あ、コイツ日本語を都合よく解釈しくさって……。
ファサ
背後から聞こえる衣摺れ。掛け布団が押し上げられる感覚。そして、セシリアの温もりが背中のすぐ近くに感じられた。マジかよ。
「べ、別にえっちなことをするつもりではなく……その、眠ってしまうまでに、今日が終わるその時まで、刃さんを感じていたくて」
……それはあまり意味が変わらん気がするが。しかし疚しい気持ちがないなら別にいいか。
「では、手を繋いで寝るとするか」
アカン。見えてないとは言え顔が真っ赤になっとる。セシリアも多分……。
「は、はい!よろしくお願いいたしますわ!」
セシリアが握手を求めるように手を伸ばす、気配がする。手探りでセシリアの手を見つけ、握る。
「っあ……」
セシリアの甘い吐息が耳に溶け込む。安眠とは程遠い心持ちで、やがて眠りに就いた。空が微妙に白かったのは覚えている。
砂糖吐きそうなラブラブ展開になりました。
次回は……みんな大好きな【彼】の登場です