「転校生?」
セシリアとのデートから数日。クラス全体が妙に色めき立っているのを感じ、本音に理由を訊いてみる。何でも、転校生が来るそうな。
「りんりんに続いて、この時期に珍しいよね〜。よっぽどIS適性の高い人なのかな〜?」
「だとしても4月に学園に来ていれば良いのに。……波乱の臭いがするのぉ」
鈴のように自分から入りたいと思って転校してくるのなら良いが、他者に何らかの謀があって入れられたのならば……。邪推は止そう。
「席に着け。ホームルームを始める」
時間になると織斑先生が教室に入って来るなり一喝する。心なしかいつもより緊張しているような。
「耳の早い諸君のことだ。既に聞いているだろうが、今日からこのクラスに転校生が来ることになった」
噂が真実になったとあって、クラス内が沸く。
「静まれ莫迦共!さ、入れ」
教室のドアが開き、2人の生徒が入ってくる。
2人もか……。
先に一歩前へ出たのは金髪の……?
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。よろしくお願いします」
「キャー!また男子ー!」
「しかも織斑君や柳君とは違うタイプ!守ってあげたくなる小動物タイプ!」
「三つ巴……否!三角関係!面白くなってきたわ!すぐに各所に連絡を!」
「…………」
男、ねえ。まあワシが疑う立場ではないが。
「もう満足したか?では2人目だ。ラウラ、自己紹介しろ」
織斑先生のひと睨みで教室に静寂が戻る。続いて眼帯を付けた銀髪の少女が前に出た。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
……それだけか?
「ええっと……それだけですか?」
居た堪れない沈黙に山田先生が思わず突っ込む。
「以上だ」
ラウラはそれだけ言うと元の位置に戻り、腕組みをして黙り込んだ。教室内をキョロキョロと見回している。
「!貴様が……」
ラウラは一夏を視界に捉えるとズカズカと目の前まで歩み寄る。
「?」
バシーン
間抜け面の一夏の頰にラウラの平手打ちがクリーンヒットした。アイツ何人の女に引っ叩かれれば気が済むのかの。
「私は貴様を認めない……!」
ラウラは一夏に全霊の怨嗟を込めた眼差しをぶつける。一夏よ、本当にこの子に何をしたんじゃ。
「よせラウラ!……戻れ」
織斑先生がラウラを制する。なるほど、緊張はこのためか。
こうして新たな男子生徒の登場に喜ぶこともままならない空気で朝のHRは過ぎていった。
「織斑、柳。デュノアの面倒を見てやれ」
織斑先生はそれだけ言うと半ばラウラを遠ざけるように足早に去って行った。
「珍しいの。織斑先生があそこまで取り乱すとは」
「そうだな。千冬姉らしくない感じだ。あのラウラって子と何かあったのかな?」
「さあな。にしても……ぷぷっ」
一夏の頰を改めてみる。最近見慣れた紅葉マークがくっきりと浮かんでいた。
「だーはははは!お主、ここに来て何回張り手されればええんじゃ?いっそ学園の生徒全員に引っ叩いてもらったらどうじゃ?」
「野郎……他人事だと思って」
一夏は恨めしそうにワシをジッと見つめる。
「あ、あの……織斑 一夏君に柳 刃君だよね?改めてよろしく」
会話に入り込むようにシャルルが自己紹介を挟む。そう言えば面倒を見てやれと言われとったか。
「おう。っと、次は実習か。急がないとな。新入りも入ったことじゃし、恒例のアレやるかの?」
「ああ。今日から3人だしな」
「アレ?」
教室を出て、廊下に横一列で並ぶ。シャルルも何となく倣う。
「ビリになった奴が……」
「全員にジュース……」
「「奢り!」」
そのセリフを合図に、同時にスタートを切った。
これは実習前のワシと一夏の間で自然と出来た競走。そこそこ遠い男子用の更衣室として用意されたアリーナ控え室。そこまでダッシュしていたらいつの間にやら競走になっていた。
ちなみに12戦12勝。ジュース美味しいです。
「始まったぁ!」
「私、柳君!」
「織斑君今日こそ頼むよ!今月のお小遣い全ぶっぱだ!」
「私はダークホースデュノア君!頑張ってー!」
賭けるな賭けるな。ワシらは駆けとるだけじゃ。賭けとるけど。
「え?え?」
シャルルは完全に置いてけぼりとなりぽかんと口を開けて立ち尽くす。
「早うせい!見失ったら場所も分からなくなるぞ!」
スタートしてしばらくは真っ直ぐだが、途中何度か角を曲がる。最短ルートは2種類あり、スタート位置によってどちらがどのルートに行くかは自然と決まっていた。
「そ、そんなあ!待ってよ〜!」
シャルルはやや遅れつつも駆け出した。中々のスピードじゃな。
「一夏!2秒ハンデをやろう!ワシはシャルルを連れてく!」
「余裕かましやがって!負けても文句なしな!じゃあシャルル!悪いけど先行くぜ!ちゃんと刃についてこいよ!」
一夏はそう言ってシャルルをチラッと見ると再び走り出した。お人好しめ。
「ほい、追いついたの」
シャルルが追いつくと、そのままの勢いでシャルルの膝の裏と背中に手を回す。観戦していた女子から歓声と喝采が沸く。
「きゃ、わあっ!な、何するんだよ!?」
「はっはっは!鍛錬鍛錬!それに、お主の泣き出しそうな顔が見えたしの」
「な、泣いてなんか!ただちょっと置いてけぼりでびっくりしただけだよ!」
シャルルは頰を膨らませてそっぽを向く。可愛い奴め。このまま一夏を追い抜くとしようか。
☆
(お、お姫様抱っこ……)
シャルル・デュノアは刃の腕の中で気が気ではなかった。
突如始まった徒競走。何やらジュースを賭けているらしい。自分はついていかないといけない。
様々な事態が同時かつ高速で発生し、シャルルの思考は一瞬真っ白になった。そして反射的に走り出すと、待っていてくれた刃に突然お姫様抱っこをされた。
(うん、見事に訳がわからないや)
シャルルは処理を停止させ、がっくりと刃の腕に体を預けた。
(刃君の……男の人の腕)
意識すると、顔の発熱を止められなかった。その様子を見ていた一部の女子が卒倒したというのはどこ吹く風であった。
☆
「これで13戦13勝じゃの」
「なんで人抱えてて俺より速いんだよ!」
アリーナ控え室。ISの実習訓練でISスーツを着替える為の男子更衣室として非常的に用意されたその部屋で、男3人が暑苦しく着替えていた。
「アホウ。鍛え方が違うわ」
いやマジで。まさか勝てるとは思わなんだ。織斑先生の特訓の成果か……。大丈夫、まだ人間まだ人間。
「いやあ、アレは乗り物の感じだったよ。車とかそういう」
「そんな馬力は……出てないよな?」
「知らん!俺は拗ねてやる!」
あらら。これが圧倒的な脚力の差というものか。
「くすくす……一夏君ったら子どもみたい」
シャルルがそんなやり取りを見て無邪気に笑う。それだけでその場の空気が柔らかくなるのを感じた。
「君なんて付けなくても、一夏でいいぜ」
「ワシも君付けはこそばゆい感じがするの。刃で良いぞ」
「うん!一夏に刃!改めてよろしくね!」
「「おう!」」
キーンコーンカーンコーン
「「「あ」」」
この後3人の脳天に拳骨が君臨したことは言うまでもない。