まま、ええわええわ
実習では転校生2人の専用機のお披露目会となった。題目上は実戦訓練前のエキシビションらしいが。
「これがラファール・リヴァイヴとシュバルツェア・レーゲンか……」
ズキン
「ッ!?」
突然の頭痛に頭を押さえて蹲る。
「大丈夫ですか?」
セシリアが真っ先に駆け寄って心配してくれる。頭痛はすぐに治まった。
「ああ。心配かけたの。さっきの拳骨が思ったより深く効いたようじゃな!はっはっは!」
適当に誤魔化して笑い飛ばす。周りもそれとなく納得してくれたようだった。
「さて。2人には1分ほど戦闘実演をしてもらう。各員安全な場所に退避。ラウラ、デュノア。準備をしろ」
「はい!織斑先生!」
「……はい!教官!」
銀髪の……ええと、ラウラじゃったか?は渋々といった様子で頷き、シャルルと戦闘開始位置に立った。
「ラウラ、ラウラ……」
「?どうかしたか柳?」
名前を覚えようと繰り返し復唱していると箒が声をかけてきた。
「いや、なんとなくラウラの名前を覚えられなくての。別段長い方ではないというのに」
「そう、か。織斑先生の拳骨とはそこまで恐ろしいものなのだな」
箒は適当に解釈して独り合点していた。
「始めろ」
織斑先生の合図で模擬戦がスタートした。ラウラ……は最初にレールカノン砲を撃ち、シャルルに対して威力のある長距離砲を意識させる。シャルルもそれを理解しながら武装を取っ替え引っ替えして応戦する。てか換装スピードが尋常じゃないの。
「オルコット。2人の機体について説明しろ」
しばらく眺めていたら不意に織斑先生がセシリアに話しかけた。ラウラはレールカノンと徒手格闘に加えて鏃の付いたワイヤーのような武器でシャルルの攻め手を妨げる。終始一夏の方を意識しているようだった。
「はい。デュノアさんのISは第二世代型のラファール・リヴァイヴ。デュノア社製の第二世代最後発の機体で、ご覧いただいている通り豊富な装備で遠近を問わず柔軟に闘えます。デュノアさんが独自のカスタマイズを施しているように、ISが本来持つ『操縦者にフィットした性能になる』という特徴をより分かりやすく表現した機体だと思います。続いてボーデヴィッヒさんの機体、シュヴァルツェア・レーゲン。アレはドイツで開発中の第三世代型で、特殊兵装を複数搭載しています。私の入手したデータでは大型レールカノン砲、ワイヤーブレード、手刀タイプのプラズマ収束刀。そしてAICと呼ばれる慣性制御兵器。別名『停止結界』と呼ばれています」
停止結界?また大層な名じゃな。
「ふむ。百聞は一見にしかず。ラウラ、AICを使ってみろ」
「!……は!」
ラウラは不服と言った様子で一夏を一瞥し、掌をシャルルに向けて翳す。
なるほど。敵対する者にあまり手の内は見せたくないということか。なんというか、軍人じゃな。ドイツ軍人……。
ズキズキ
イカンな。頭痛の波が引かん。保健室に行くか?しかしこのまま見ていたい気もする。
ラウラの掌から特殊な空間が発生し、シャルルの放った銃弾を受け止めた。というより、銃弾が勝手に停止したように見える。なるほど、確かに停止結界という言葉がしっくりくる。
「刃、大丈夫かよ?すごい汗だぜ?」
一夏が見兼ねて声をかける。そんなにか。これは当然拳骨なんかじゃ説明はつかんわな。一夏はピンピンしとるし、シャルルに関しては元気に戦闘しとる。
「心配はいらん。2人の戦闘が終わったら保健室へ行く」
手短に伝え、観戦に集中する。と思ったところで1分経ったらしい。織斑先生が戦闘終了を命じた。
「柳。保健室へ行け。保健委員、付き添いを」
織斑先生の声を聞いて気が抜けたのか、その場に膝を折った。ワシもまだまだ脆いのう。
「柳君大丈夫?肩貸そうか?」
鷹月さんがしゃがんで覗き込んでくる。至近距離だとISスーツのせいでボディラインがモロに……なんて考える余裕はないか。
「すまん、頼む」
「私もお手伝いしますわ」
セシリアがずんずんと駆け寄ってきた。今の視線を読まれたか?
「ダメだ。専用機持ちはこれからIS搭乗訓練をやってもらう。専用機持ち以外でIS搭乗時間が長いのは……篠ノ之か布仏か。布仏」
「はいは〜い!さ、行こうかぎんぎん」
こうして鷹月さんと本音の手を借りて保健室へ向かった。身長差があってアンバランスな体勢になったが。
☆
(織斑一夏……)
ラウラは模擬戦の後、ずっと一夏を睨みつけていた。そのナイフのような佇まいに周りは近付けないでいる。たった今戦闘したシャルルに関しては『小賢しい』程度の評価しか下していなかった。
(貴様がいなければ教官の最強の称号は揺るがなかった)
モンド・グロッソと呼ばれるISの国際大会で、千冬は一度優勝している。しかし連覇のかかった第2回大会の決勝戦。千冬は不戦敗となった。
公式には棄権とされているが、真実は一夏が誘拐された為救出に行ったからである。
しかしラウラの言う『揺らぎ』とはこのことだけではない。加えて、姉としての織斑千冬を見てしまったことであった。弟の話をしている千冬は慈愛に満ちており、それはラウラが向けられたことのない表情だった。
嫉妬した。そして、憎悪した。自分から最強の教官を容易に取り上げる男。
(許すものか……!)
ラウラは静かに怒りの炎を逆巻かせていた。
☆
「ふざけるな!そんなことさせると思うか!?」
怒号。どこからか聞こえてくる。女性の声。
聞き覚えはある。最近聞いてないが、忘れる筈のない声。それ以外は何も見えない。感じない。真っ暗な空間で音声だけが再生されている。
「君に選択権はないのだよ、柳 京香博士。彼には利用価値がある。彼の武芸の才能。もしかしたら優秀な遺伝子情報を引き継いでいるのではないかね?加えて未成熟で発展途上。とても貴重なデータなのだよ。それに……」
チャキ
金属音。拳銃、だろうか?向けられている。誰に?
「……お姉、ちゃん」
「刃ちゃん!大丈夫!刃ちゃんは私が守るから……」
「駄目。お姉ちゃんを傷付けないで」
「……どうやら、弟さんのようが賢明なようですな?」
「くっ……畜生!畜生が!うわああああ!」
吼える声。喉を潰す勢いで絞り出される慟哭。
大丈夫。大丈夫だから。お姉ちゃんは俺が……
「ワシが護る」
☆
「ハッ!」
目を覚ます。一面の白。保健室か。どうやら寝とったらしい。
「目を覚ましたかしら?すごくうなされていたようだけど?」
保険医の先生がタオルを手渡す。顔や胸に溜まった汗を拭き取る。
「……なんだか、嫌な夢を見ていたような気がしたのですが」
思い出せない。思い出さないといけない気がするのに。
「そう。疲れが溜まっていたんじゃないかしら?修行もいいけど、根を詰め過ぎても体に毒よ」
先生はそう言って微笑む。ああ。確かに修行の内容は苛烈そのもの。疲れから変な妄想をしていたのじゃろうか?それにしては……。
「ほら、お昼休み始まっちゃうわよ。皆に元気な顔、見せてあげなさい」
先生はそう言って退室を促す。先程のような頭痛はもうない。確かに元気そのものじゃ。そして授業が終わると保健室に雪崩れ込んでくる生徒の心当たりが複数。先生にこれ以上迷惑をかける道理もないな。
「そうしますかの。どうも、お世話になりました」
「ええ。お大事に」
先生に挨拶し、保健室を出た。食堂と教室どちらに向かおうか迷っているとチャイムが鳴り、数秒しないうちに凄まじい足音がこちらに響いてきた。
「刃さん!?もうお体はよろしいのですか!?」
セシリアよ。いつもの優雅さが消え、まるで猪のような猛ダッシュだったのう。
「ああ。心配かけたがもう大丈夫じゃ。心配してくれてありがとうの」
「でしたら宜しいのですが……っと、では今日のお昼ご飯は屋上へ行きませんこと?私、手料理を用意しましたのよ」
よく見るとセシリアの手には確かに大きなバスケットがあった。セシリアの手料理か。
ぐぅ〜
おお腹の虫よ。興味を示したか。では、腹の鳴るまま気の向くまま。
「よし。ではいただくとしようかの」
こうしてセシリアと共に屋上へ向かった。
これが断頭台の罠とも知らずに……。