保健の先生かわいい(嘘)
「すっげぇ」
一夏は刃とシャルルの激闘に目を見張っていた。スペースが限られていたので一夏、箒、セシリア、鈴は観客席で待機している。
ここにきてかなりISの操縦に関しては上手くなったと自負していた一夏は、刃の上達ぶりに嫉妬していた。
「俺だって、あれくらいできるようにならなくちゃ……!」
膝に乗せていた拳に自然と力が入る。
「すご……。刃ってもしかして一年生で最強なんじゃない?ISのスペックも本人のバトルスタイルも文句なしの一級品よね」
「流石は刃さんですわ!暫定とはいえ私にダブルスコアで勝ち越しているだけのことはありますわね!」
鈴とセシリアが各々感想を漏らす中、箒は沈黙していた。一夏が見ると、刃の顔をカッと見開いた目で見ていた。武人として思うところがあるのだろうと思い、そっとしておくことにする。一夏は今の戦闘を脳内で反芻し始めた。
☆
(最強……ッ!)
箒は刃の見事な戦いぶりにその二文字を見出していた。純粋な技量ならば刃の上を行く者もこのIS学園には少なくはないだろう。しかし刃の戦法はどこか余裕があり、且つ隙がない。真剣・実銃での戦闘だというのに囲碁やチェスを楽しむかのように闘っているように見える。
なんというか、最強『風』なのだ、と箒は肌で感じ取っていた。
自分がシャルルと闘うならどうする?武器の間合いに差がある故、刃と同じく初手にて接近し間合いを開けさせないことが最善。しかしシャルルは遠距離武器で牽制し、簡単には間合いを詰めさせてくれない。対銃火器の体捌きなど、人に胸を張れる程修めてはいない。
自分では、シャルル攻略の糸口を見つけることしかできない。
ISの性能頼り?そうかも知れないが、分からない。少なくとも柳 刃という男はそういう戦い方を好まない人種だろう。普段はおちゃらけているが、こと戦闘となると非常に好戦的になる男だ。自身の腕前で勝負したがるだろう。
同じ1年生でほぼ同じ時期にISを操縦しだした者であるのに、ここまで差があるのか。箒の胸中には驚嘆、嫉妬、憧憬と様々な感情が入り混じっていた。
(何かあるはずだ!何か……私と柳で決定的に違う『何か』が!そして、きっとそれが最強というものへの道標……)
箒は刃を睨めつけるように凝視し、ギュッと唇を噛み締めた。
(私も、もっと力が欲しい……ッ!)
☆
シャルルとの模擬戦に触発されたのか、その後の4人の動きはいつも以上に凄まじかった。一夏は普段の模擬戦で苦戦を強いられるセシリアや鈴に対して互角以上に渡り合っていたし、2人もそんな一夏に負けるものかと必死で喰らいつく。
中でも最も動きを見違えたのは箒じゃった。
「ふぅ…………はっ!」
下段に構え、精神を統一させる。一歩の踏み込みで一夏の懐に潜り込んだ。一夏も応戦するが、終始防戦一方。剣圧そのものがいつもより高まっているように見える。なんとそのまま一夏に勝ってしまった。
「痛つつ。すげぇな箒!俺もいつも以上に気合い入れてたけど、敵わなかったぜ!」
「いや、最後は少しムキになってしまったな。怪我はないか一夏?」
箒は心配そうに一夏を見る。一夏はぴんぴんした様子で立ち上がる。
「ああ平気。こうして打ち合ってると小さい頃を思い出すな。千冬姉と一緒に毎日箒の道場に通ってたっけ」
「べ、別に私の道場というわけではない。……そう言えば、実家にはあまり顔を出せていないな。G.Wも色々と忙しかったし」
箒が申し訳なさそうに目を伏せる。
「それもそうだな。んじゃ、今度の休み一緒に行ってみるか?俺も偶には部屋の掃除しないといけないしな」
「ほ、本当か!?確かに、いつまでもISの勉強を言い訳にするのも良くないしな!うむ!それじゃあそうしよう!それがいい!」
おお。箒が武人モードから乙女モードに。アレを無意識にやるとは流石一夏。鈴のオーラが発熱しだしていたのは見なかったことにしよう。
「ねぇ、アレって……」
「ドイツの第三世代型よね?」
女生徒の声に振り向くと、ラウラがいた。漆黒のISに身を包み、一夏を見下ろしている。
「なんじゃアイツ?訓練もせんとボーッと一夏の方を見て……」
「ラウラさん、そう言えば初日に一夏のこと叩いてたよね?一夏、何か恨まれることしたのかな?」
シャルルが心配そうに一夏とラウラを交互に見る。
一夏の話を聞く限りは一方的な逆恨みじゃが。
「当人同士で解決してくれればええがな。もしこちらに火の粉が降りかかるなら払わねばならん」
ラウラの機体を見る。
レールカノン砲にワイヤーブレード、プラズマ手刀に停止結界か。どの距離でも有効な装備に加えて万能な切り札まであるときた。
学年別トーナメントでぶつかることがあれば是非とも手合わせ願いたいの。そういう意味では因縁のある一夏と組めば良かったか?
「ふん……くだらん。量産機相手にその無様な体たらくか。やはり貴様は教官に相応しくない」
「なんだよ?随分と言いたい放題だな。まあ、負けたのは事実だけど」
一夏は怒気の込もった静かな声で応える。その場の全員が固唾を呑んで2人を見守る。
「ここで勝負しろ!……と言いたいところだったが、勝負にすらならんだろうな」
「何!?」
「私は貴様を決して認めん。そんな弱い貴様が、あの人の弟であるなどとな!……興が削がれた。弱者に用はない」
ラウラは憮然とした視線を一夏に飛ばし、静かにアリーナを去った。何しにきたんじゃ。
「へぇ。ラウラさんって案外強い人と闘いたがるタイプなんだね。まるで刃みたい」
「そうじゃな。ワシの遺伝子が少しは反映されとるということじゃな」
「え?」
「あ」
しまった。つい口が滑った。これ、結構言っちゃマズい類の秘密だの。
「遺伝子って……どういうこと?」
「それはその……実はワシの曾祖父がドイツ人でな!その時の姓がボーデヴィッヒじゃからまさかと思って調べたら、なんとラウラはワシの遠い親戚じゃったんじゃよ!これ、秘密な。ラウラも鬱陶しがっておったし」
なんとか誤魔化し、シャルルを納得させる。危ないところでござった……。
「アイツ、いけ好かないわね。一夏が負けたのはともかく、あの言い草じゃ頑張った箒がバカにされてるみたいじゃない!」
鈴が怒りを露わにする。この一月の間に皆仲良くなったのう。鈴はすぐ友達できるタイプだし。
「学年別トーナメントはタッグとのことじゃったが……アレと組まされる生徒には同情するわな。最悪1vs3とかになりそうじゃ」
ワシの呟きに一同が頷く。ラウラともちゃんと闘ってみたくはあるが……一夏に固執しとる内はまだまだじゃな。その一夏はというと、ラウラの去った後をジッと見つめながら、悔しそうに拳を握っていた。その後も一夏は全員に模擬戦を申し込んだ。ラウラに刺激されたせいか、その動きはどんどんと鋭くなっていく。
☆
IS学園校庭。日が傾き始め、人通りもほとんどなくなったその道を、ラウラ・ボーデヴィッヒは闊歩していた。
「気は済んだか?」
背後からの声に振り向く。自分のよく知る声。
「教官。お言葉ですが、貴女の弟、織斑 一夏には心底失望しました。打鉄なぞに遅れを取っているようでは教官の弟を名乗る資格はありません!」
ラウラは怒りを隠すことなく千冬にぶつけた。
「フ……ハハハハハ!資格ときたか!ラウラ、貴様いつの間にそんな面白い冗談を言えるようになったんだ?」
千冬は破顔し、ラウラは不機嫌に眉根を寄せる。自分は冗談を言ったつもりではない、と言いたげな顔だ。
「弟であることに資格などいらん。それに……貴様には分からんだろうがアレはアレで充分に私の弟たり得る奴だ」
「そうは見えませんが……」
「直に分かる。焦らないことだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ。私の生徒である資格が欲しければ、な」
千冬は皮肉を込めてそう言い、すたすたと歩き去った。ラウラはそんな千冬の背中を見る。
凛とした、真っ直ぐな背中。軸の据わった、強い背中。
嗚呼、これが織斑千冬だ。これこそが我が最強の教官だ、と。ラウラは誇らしく思った。だからこそ、一夏への怒りが一層燃え上がった。
☆
「さて、そこの男子生徒2人」
うげ。バレた。織斑先生はこちらの気配を察知して立ち止まり、こちらを見ることもせずに声をかけて来た。
「あらら、見つかったの」
「あ、あはは……えっと……」
茂みから一夏と同時に立ち上がる。
「盗み聞きとは感心しないな。いつからそんな趣味を持つようになったんだ?」
「千冬姉!ラウラが俺を恨んでるのって、やっぱりあの時の……」
「織斑先生、だ。それを気にしてどうなる?今更起きたことをいつまでもうじうじ悩むような腰抜けに育てた覚えはないんだがな」
「うぐ……」
バッサリと切り捨てられ、一夏は閉口する。
「ラウラの件は放っておけ。ただの逆恨みだ。それが出来ないなら……勝て。ラウラを実力で捩じ伏せてみろ。奴は強い者に興味を示す。真っ向勝負で叩きのめせば少しは認識を改めるだろう」
勝て。その一言で一夏の目の色が変わった。
黙って頷き、ニヤリと笑って見せた。あの相手に勝てと言われて奮い立つか。
「フ……。柳。私は学年別トーナメントの開催に向けて忙しくなる。しばらく特訓は無しだ。だからとて無様な戦闘は見せるなよ?」
「ええ、師匠」
それだけ言葉を交わすと織斑先生は踵を返して職員室へと歩いて行った。ワシもうかうかしてはおれんようじゃな。また明日から皆と特訓じゃな。その前に……。
「そろそろ白黒はっきりさせんとの」
「?」
次回、やっと物語に進展が……