インフィニット・ストラトス〜最強への道〜   作:まどるちぇ

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第27話

 

「鈴!」

 

 ラウラとの戦闘中、個人通信で一夏の声が鈴の耳に届いた。

 

「一夏!?なんで来たのよバカ!」

 

「幼馴染を心配すんのは当たり前だろうが!大丈夫か?」

 

「余裕よ。同じ代表候補生が2vs1で苦戦して堪るもんかって話よ!言いたいことはそれだけね?それじゃあ切るから!」

 

 鈴は半ば無理矢理通信を切る。そしてその心中には焦燥が顔を覗かせ始めた。

 大好きな一夏の前で無様を晒す訳にはいかない。ましてや2vs1というハンデを背負った相手に対して。

 そうした焦りが徐々に鈴の判断を鈍らせ、そして致命的な隙を生む。

 

「ヤバいぞ!鈴!」

 

 一夏の声に鈴は改めて周囲360°に意識を向ける。鈴の死角からラウラのワイヤーブレードが飛び出してきた。ハイパークリアセンサーに死角はない。あるとすれば、操縦者本人が無意識の内に知覚を鈍らせている心理的な隙。特に前方の広範囲からの猛攻を捌いていた最中の出来事だ。どうしたって後方の警戒は手薄になる。

 ISが普及する以前から白兵戦に長けていたラウラはそうした人間の癖を読むのが上手い。

 

「きゃあっ!」

 

 ラウラの思惑通り鈴に致命的な一撃を叩きこんだ。セシリアのサポートでなんとか体勢を立て直すが、数本のワイヤーブレードに牽制され、今度はラウラにセシリアへの接近を許してしまう。

 

(強い……)

 

 鈴の心に絶望感が蔓延する。

 自分だって中国の代表候補生として毎日死に物狂いで訓練してきた。戦闘技術だって大方身についた。ISだって存分に扱える。

 なのに、勝てない。ラウラに勝つビジョンが見出せない。このままでは、一夏に醜態を晒して負けてしまう。それだけは絶対に嫌だ。鈴は必死にラウラの隙を伺った。セシリアに停止結界を使い、ワイヤーブレードの攻めが緩まる。

 

(今!)

 

「まだ私が……いるでしょうが!」

 

 ヤケクソ気味に放った龍砲はラウラをセシリアから分断することに成功した。

 

「やった……」

 

「チィッ!」

 

 初めての有効打に綻んだ顔をラウラは見逃さなかった。セシリアを完全無視し、都合16本全てのワイヤーブレードで全方位から鈴に攻撃する。鈴は悲鳴を上げる間もなく甲龍のシールドエネルギーを削り取られ、黒煙に視界が包まれる中意識を失った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「行くぞ」

 

 短く伝え、釣魚を構える。怒りに沸騰しそうな頭に対し、挙動のなんと流麗なことよ。

 

「来い、柳 刃!」

 

 ラウラの口角が上がっているのを見て、共感と同時に苛立ちが増す。

 強者と闘いたいという気持ちはよく分かる。

 が、だからとて敗者を痛めつけようとする行為は決して許せん。しかもワシの大事な友人を。

 

「太公……」

 

「貴様ら!何をしとるか!」

 

 しかし頂点に達した怒りはアリーナに響く厳しい声にかき消された。織斑先生の声。しかも拡声器無しですかい。なんという肺活量。あとその手に持ってるのは……打鉄のブレード?いやはや規格外もいいとこじゃの。

 

「教官……」

 

「貴様らがどんな理由で小競り合いをしようが勝手だがな、アリーナのバリアまで破壊されるような事態になっては教師として介入せざるを得ない」

 

 織斑先生はそういってワシを睨む。一夏は鈴を保健室に搬送していていない。半分は彼奴のせいなのに。

 

「すみません。緊急事態故少しばかり強硬手段を採らせてもらいました」

 

「ハァ……もういい。事情は後で聞く。覚悟しておけよ、柳。総員、学年別トーナメントまでの間一切の私闘を禁じる。これ以上先生方に迷惑をかけるな。以上!解散」

 

 織斑先生はそれだけ言って気怠そうにアリーナを後にした。

 

「……という訳らしいの。決着は当日。ワシに当たる前に負けるなぞというくだらんオチは勘弁してくれよ?」

 

「私は貴様こそ心配だがな。そこらの馬の骨に遅れを取るようでは私に挑む資格すらないと思え」

 

 ラウラはそれだけ言うと残念そうに一度振り返り、アリーナを出て行った。騒動は収まり、観客席にいた野次馬女子も疎らに散っていった。

 

「さて……セシリア。保健室へ急ぐぞ」

 

「は、はい!」

 

 一部始終を傍観していたセシリアは突然の終幕に呆然としていたがワシに声をかけられてすぐに我に返る。今は鈴の容態が心配じゃ。着替えを早々に済ませ、保健室へ向かった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 IS学園生徒寮。

 コツコツという軍靴が床を叩く音が廊下に響き渡る。その足音は速く、大きい。音の主の苛立ちを如実に表していた。

 

「クソッ……!」

 

 足音の主、ラウラは怒りの余り壁を殴りつけた。

 ラウラの怒り。それは待ち望んだ相手との戦闘に水を差されたことに対してではない。

 

(私が、恐れたというのか……!?)

 

 ラウラの怒りの矛先は自身だった。

 あの時、刃が見せた怒りの表情。確かに激しいものだったが、そんな顔は戦場でもそれなりに見慣れている。ラウラにとってあまり珍しいものでもない。なのに、身が竦んだ。

 

(まるで教官の眼光に射竦められた時のような強烈なプレッシャー……奴は一体……?)

 

 ラウラは未だ全容を計り知れないでいる刃に対して暫く思考を巡らせた。気を取り直したラウラは再び歩き始める。落ち着いた軍靴の規則正しいリズムが廊下を撫でていった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「鈴……!鈴!鈴!」

 

 保健室に鈴を運んだ一夏は気絶している鈴の手を握って何度も呼びかける。保険医は墜落時の衝撃による打撲はあるものの、それ以外は何も問題ないと言った。しかし目の前でラウラの猛攻を受ける鈴を見た一夏は鈴がこのまま目を覚まさないのではないかと思ってしまった。

 

「い、一夏!あまり揺すっては怪我に響く。気持ちは分かるが少し落ち着け」

 

 箒が一夏を鈴から引き離す。本人は気付いていなかったが一夏は鈴の手を万力の如く強く握り締め、叩き起こすかという勢いで揺さぶっていた。

 

「あ、ああ。悪い。サンキュー箒」

 

 一夏は深呼吸を一つして落ち着いた。改めてベッドに横たわる鈴を見る。外傷はほとんどない。ISの絶対防御があるので当然だ。そう考えて熱された頭を少しずつ冷やしていく。

 

「全く……お人好しも時として相手を苦しめる。気を付けるがいい。こ、これからも私が側にいて注意してやろう」

 

 箒が咳払いをして呟くように言う。やはりというか、一夏には後半部分が聞き取れなかった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒか……一体なんだってんだよ。どんな理由があって鈴とセシリアと闘ってたんだ?」

 

「さあな。さしずめ安い挑発に乗せられたんだろう。2人とも頭に血が昇りやすい性格だからな」

 

 どの口が言うか。とは口が裂けても言えない一夏であった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 途中はぐれて迷子になりかけていたシャルルを拾い、保健室に着く。中には一夏と箒が鈴の側にいた。保健室の先生は普段通りの様子で手を振ってくる。鈴はまだ気が付いていないようじゃな。

 

「お、来たか。さっきはサンキューな刃。お前がいなかったら鈴もセシリアも大怪我してたかも」

 

「礼には及ばん。2人を助けたいと思ったのはワシも同じじゃし、おあいこじゃろ」

 

「それでも結構な無茶だよ2人とも。トーナメント出場停止とかにならなくてよかったよ」

 

 シャルルの言葉に、一夏と2人して『言われてみれば』といった顔をしてしまった。確かにあんな騒ぎを起こしておいて即刻処罰を受けなかったのは不幸中の幸いというより不気味。もしかして後々……身震いが。

 

「考えてなかったんだね……2人らしいや」

 

「全くだ」

 

 シャルルはやれやれと澄まし顔で肩を竦める。箒も同意するように苦笑した。

 

「刃……ラウラ、どうだった?」

 

 会話がひと段落すると、一夏が切り出して来た。

 

「どう、とは?」

 

「いやその……勝てそうかなって」

 

「ふむ。勝機はあるが、勝ち筋は狭いかも知れんな」

 

 固有武器の性能が高過ぎる。あんなんチートじゃ。チーターじゃ。

 

「そっか。刃でも厳しいか……」

 

 一夏の表情が引き締まる。

 

「……まあ、1vs1なら、じゃがな」

 

 そう言ってシャルルを見遣ると、シャルルは何も言わず笑顔で頷く。

 

「停止結界の弱点を知れたのも大きい。シャルルと一緒ならやれる」

 

 連携も整いつつあるしの。不安材料があるとすればラウラのパートナーか。本当に見当がつかん。案外本音とか……嫌じゃなぁ。

 

「ま、まあ?私とのタッグであれば更に確実な勝利をお届けできましたのに、勿体ないですわね!」

 

 セシリアが悔し紛れに強がりを言う。

 まあ、タイプ的に相性がいいのは認めるが。

 

「それは箒に言ってやれ。成り行きとはいえ実戦で先に鈴とのコンビネーションを見せつけられたんじゃからな」

 

「む。私は別に気にしていないぞ。むしろセシリアと共闘する時にどう立ち回れば良いか参考になったからな」

 

 逞しいことじゃ。箒もラウラの強さを見せつけられて思うところがあったのじゃろうな。

 

「そうですわね。ラウラさんは謂わば万能タイプ。それぞれの距離でどうすべきかを検討しなくては。鈴さんの死は無駄にはしませんわよ」

 

 勝手に殺すな。

 

「……人のこと勝手に殺さないでくれる?」

 

 か細い声と共に鈴が目を覚ました。

 

「鈴!気が付いたか!良かった……」

 

 一夏が鈴の側に駆け寄り、ホッと肩を下ろす。

 

「心配かけてゴメン。ちょっち油断したわ」

 

 鈴はいつもの軽い調子で謝る。多少の怪我はあるが大丈夫なようじゃ。

 

「不覚を取ったな鈴。一夏に恥を晒すまいと焦ったか?」

 

「いたた……刃にはバレちゃってたか」

 

「?そういや、何で2人はラウラと闘うことになってたんだ?」

 

 一夏がそれとなく疑問を投げる。言われてみれば、何故2vs1などという戦闘をしていたのか。普通に挑まれれば2人ならどちらか1人が名乗り出ようとして……喧嘩になってラウラに2人で来いとでも挑発されてそれに乗って……容易に予想がつく。

 

「それはその……」

 

「乙女のプライドを傷付けられたと言いますか……」

 

 妙に歯切れが悪いの。何か言いたくない理由でもあるのか?

 

「あ、分かった!2人とも刃と一夏の悪口を言われて……」

 

「ちょ、デュノアさん!?」

 

「ああもう!アンタは一言多いわねえ!」

 

 セシリアがすかさずシャルルの口を塞ぐ。

 なるほど。そういう挑発か。確かにこの2人を怒らすにはうってつけじゃな。

 

「?何て言ったんだ今?」

 

 一夏(コイツ)は相変わらず、と。

 

「大体事情は分かった。お主らなら乗らざるを得ない挑発だったわけか。ならば特に何も言うまい。じゃが、鈴よ。その腕ではトーナメント出場は難しいんじゃないか?」

 

 ワシの一言に、全員の視線が鈴の腕へ向く。軽く包帯を巻かれているだけで外傷は無いが、先程から意識して動かさないでいる。おそらく筋を痛めたか。

 

「な、何言ってんのよ!こんなのかすり傷だってば」

 

「……櫻井(さくらい)先生」

 

 保健室の先生に答えを訊く。先生は軽く頷くとカルテを持って立ち上がった。

 

「凰ちゃんの右腕は強い打撲と靱帯損傷が見られるわ。ISの操縦なんて以ての外。あと2週間は安静にしていなさい」

 

「そ、それじゃトーナメントに間に合わないじゃない!痛み止めとかなんか無いの!?」

 

「駄目ですよ」

 

 タイミングを計ったように山田先生が保健室に入ってくる。

 

「凰さんの場合、甲龍のダメージレベルもCにまで到達しています。その状態のISと怪我をした鈴さん。無理を続ければどうなるかは代表候補生の凰さんなら分かりますね?」

 

「う〜〜〜〜……」

 

 鈴は反論もなく唸るしかなかった。ちゃんと分かっている証拠ということじゃな。流石は代表候補生。

 

「鈴。お前の仇はワシが討つ。一夏が先かも知れんが」

 

「ああ。勿論、刃達と先に当たっても恨みっこ無しだぜ?」

 

「望むところ。勝つのはワシらじゃからな。というわけじゃ。今は大人しくしとれ」

 

 一夏と軽く火花を散らして鈴に向き直る。

 

「はぁ……そうするしかないみたいね。んじゃ頼んだわよ。負けたらゼロ距離龍砲かますからね」

 

 なんと恐ろしいことを。まあ、負けなければいい話か。

 なんとか鈴を納得させ、治療に専念させることに成功した。鈴との実戦も楽しみの一つじゃったのに、全くラウラめ。この埋め合わせはきっちりさせてもらうぞ。

 

「さて、話は落ち着いたか愚か者ども」

 

 いつの間にか山田先生の後ろに織斑先生が。気配断ちが尋常じゃないレベルだの。

 

「織斑、柳。貴様らはこれから事情聴取と罰則だ。安心しろ。トーナメント当日には動ける程度にしてやろう。全く不出来な生徒を持つと教師は苦労する」

 

 毒づく織斑先生じゃが心なしか嬉しそうな気が。

 この後2人でバリア復旧作業の教員に給仕サービスを行った。復旧は深夜までかかった。確かにこんなことを何度もされては堪らんな。今後は気を付けるとしよう。

 え?罰則?ああ。その教員がやる予定だった事務作業を全て押しつけられたわ。IS学園の縁の下の闇を垣間見た。




地味に保険の先生の名前初出しです
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