インフィニット・ストラトス〜最強への道〜   作:まどるちぇ

31 / 35
なんやかんや30話も書いていましたか
原作でいう2巻相当まで終わりましたね
これからもちまちま頑張っていきます


第30話

 

「うおおおおおお!」

 

 刃が落下を始めた瞬間、俺の理性のリミットが振り切れた。

 白式を展開し、零落白夜の一閃で怒りに任せてアリーナのバリアを切り裂く。刃の尋常ではない事態に悲鳴を上げていた女子生徒達が重なるように金切り声を上げた。

 

「待て!一夏!」

 

「刃、さん……?」

 

 慌てて止めようとする箒に対し、セシリアは刃の突然の吐血に事態が飲み込めずにいた。呆然と立ち尽くし、頭から落ちていく刃をただただ目で追っていた。

 

「刃!」

 

「僕に任せて!一夏はあっちを!」

 

 瞬間加速で刃を救出しようとしたがシャルルに止められた。シャルルは偽の暮桜を指差す。

 

「シャルル。お前……」

 

「観客席で大暴れしてるのが見えたからね。何か因縁があると思って」

 

 刃を空中で優しくキャッチしたシャルルは俺に向き直ってそう言った。

 

「……サンキューシャルル。後は任せろ」

 

 シャルルは結構他人の感情の機微に敏い奴なんだな。そんなことを思いながら刃の保護をシャルルに任せ、黒い暮桜へと接近する。

 

「お前が千冬姉に入れ込む気持ちは分かるよ。千冬姉は自慢の姉だからな。けど」

 

 雪片の刀身が左右に分かれ、中からビーム状の(やいば)が顔を出した。

 白式の単一仕様(ワンオフ・アビリティー)にして俺の唯一の必殺技・零落白夜。

 

「偽りの強さなんかに、俺は負けない」

 

 これしかない。

 これしか知らない。

 これだけでいい。

 一つ深呼吸をして、目の前の偽物に鋒を突きつける。相手も真似をして構える。

 気に入らない。実に気に入らない。

 その刀を振るっていいのは世界で1人だけだ。

 そのISを纏っていいのは世界で1人だけだ。

 その構えを取っていいのは、世界で2人だけだ。

 

「ふぅー…………」

 

 肩の力を抜き、零落白夜の出力を調整する。

 波打つような激しい感情を一度(ゼロ)にし、抜き身の刀のように細く鋭く精神を研ぎ澄ませると、零落白夜の刀身もまた原寸大の日本刀のようにその姿を変えた。

 

「行くぜ」

 

 短く伝え、集中する。

 思い出せ。刃と始めて闘ったあの時を。みんなとの練習の日々を。

 そして、千冬姉に教わった構えを。

 

「はぁっ!」

 

 瞬間加速で一気に距離を詰める。敵も迎撃するように剣を振り下ろした。

 弾き、ガラ空きの体を思い切り袈裟斬りにする。

 斬り裂かれたISのボディからラウラが顔を出した。気絶しているのか、そのままずるりと頭から落下しそうになる。

 

「おっと」

 

 ラウラを抱き抱え、スパークしだした黒いISから離れる。黒いISはやがて制御を失い、墜落した。千冬姉の合図で教師陣が一斉に確保に当たる。

 これで本当に終わりだ。

 

「刃……」

 

 俺はそっと遠い空を見上げ、刃の身を案じた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ……私は、負けたのか?

 

 さあな。俺がぶつかったのは本当のお前じゃないし。もう一回やったら分からないかもな。

 

 ……お前は、何故そんな風にしていられる?弱いことを、敗けることを是とし、何故それを受け入れられる?

 

 ?おかしなことを言うな。だって、敗けってのは俺が行動した結果だぜ?そりゃ悔しいしすんなり受け入れたくないけど、だからって拒絶したままじゃ強くなれないしな。

 

 そうか。だからお前は強いのか。だからあんなに……教官に……

 

 強くないよ。

 

 …………

 

 俺は全然強くない。俺より強い奴は俺の周りにたくさんいるしな。千冬姉とか、刃とか。

 

 刃……そうだな。奴は強い。

 

 勿論、お前もその1人だぜ?ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 ……!フフ……お前は、斬り伏せた相手に何食わぬ顔でそんなことを言ってのけるのだな。まるで……まるで教官のようだ。

 教官の弟か。今なら認めよう。織斑 一夏。貴様は紛れもなく教官の弟だ。

 

 何言ってんだ?そんなの最初から当たり前じゃないか。

 

 そうか。そうだな。その通りだ。

 私がずっと、認めたくなかっただけだったんだ。

 織斑 一夏………………

 

 

 

 ☆

 

 

 

 都内某病院:ICU(集中治療室)前

 

「刃を、彼をお願いします!」

 

 シャルルはせかせかとICUに入って行く医師団に深々と頭を下げる。医師もまた力強く頷き返す。

 シャルルは刃が倒れてから病院に搬送されるまでの間つきっきりで刃に声をかけていたが、反応は全く無かった。

 

「刃……死なないで。お願いだよ。せっかく、せっかく僕の居場所をくれた人に恩返しできると思ったのに。このまま刃が死んじゃったら、僕は……ッ」

 

 シャルルは言葉に詰まり、目頭が熱くなるのを感じた。視界が次第に滲み、歪んでいく。

 

「刃さん!」

 

 涙が零れ落ちそうになったところでセシリアが駆けつけてきた。余程急いで来たのか、肩で息をしてICUの扉を一点に見つめている。

 

「セシリアさん……どうしよう……もし刃がこのまま……」

 

「!…………大丈夫です」

 

 シャルルが次の言葉を紡ごうとすると、セシリアは首を横に振って制した。深呼吸をして息を整え、覚悟を決めたかのようにカッと目を見開く。

 

「刃さんなら、きっと大丈夫ですわ!もう少ししたらいつもの剽軽な笑顔で教室に戻ってきて下さいます。きっと、いつも通りに、きっと…………」

 

 セシリアは唇を真一文字に結んで毅然とした態度でそう言うと、踵を返してICUに背を向ける。

 

「何処に行くの?」

 

「IS学園です。あそこが刃さんの帰る場所ですので。今の私に出来ることは、刃さんが帰ってきた時に腑抜けた顔を見せぬよう気を引き締めることですわ!」

 

 シャルルは真っ直ぐに背筋を伸ばして歩くセシリアの後ろ姿に憧れ、思わず嫉妬してしまった。

 きっと、誰よりもここで待っていたいはずなのに。

 きっと、今にも膝から崩れ落ちて泣きじゃくりたいはずなのに。

 それでも、セシリアは刃を信じ、彼が帰る場所で待つと言った。

 

「……すごいなぁ。刃、どれだけ愛されてるんだろ?僕にはあんな真似できないや」

 

 まだね、と心の中で付け足す。シャルルはセシリアの刃に対する想いの強さを痛感しながら、同時にその気丈な振る舞いに勇気付けられた。廊下に設けられた椅子に深く座り、壁に背を預けて天井を見上げる。

 

「みんな待ってるよ。早く帰って来てね」

 

 真っ白で清潔な病院の廊下に、シャルルの呟きがそっと溶けていった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「む?ここは……」

 

 気が付くと、いつか来たことのある山脈の嶺にいた。目下では大河が音を立てて流れている。

 釣竿は……見渡したがなかった。激流に飲まれて何処かへ流されたか。

 

「ンなヤワじゃねえよ」

 

 背後から男の声。振り向くと、見慣れぬ男が釣竿を担いで立っておった。ワシはその見慣れぬはずの男のことが手に取るように分かった。

 

「……釣魚か」

 

「ハッ!察しのいいご主人で助かるぜ。その通り、俺が大槍・釣魚だ」

 

 釣魚を名乗る男はそう言うとワシの前にどっかりと胡座をかいて座る。

 

「……日輪と月夜は?」

 

「ああ……その辺も含めて説明しねえとな。まず、今回ご主人がぶっ倒れたのは日輪の……ああと、厳密には日輪のお陰で最後まで闘えてたっつーか……言葉が見つかんねーな」

 

 釣魚はガシガシと頭を掻いて言葉を探す。

 なんとなく経験則じゃが、こういう輩は大雑把な性格が多い。釣魚もその例に漏れないんじゃろう。

 

「?日輪が何かしてくれておったのかの?」

 

「ああ。まずそっから話すか。日輪はご主人の身体(バイタル)を管理してんだ。月夜は精神(メンタル)。こないだの暴走も月夜が精神管理の域を外れて精神支配レベルでご主人の闘争心を煽ったから起きたことだ」

 

 なるほど。というか、ワシの身体なのに外部に管理されとるのか。いや、作ったのが姉ちゃんなら納得の行く話ではあるが。

 

「それで、お前さんは何か管理してるのかの?」

 

「いや別に。そういうの性に合わねえからな」

 

 やはりというか、釣魚は管理やちまちまとした仕事は嫌いなようじゃな。分かりやすい。

 

「それで、日輪がワシの身体能力を管理してくれとるなら何故ワシがぶっ倒れたんじゃ?」

 

「本来ならご主人はあの黒いISとあれだけ長期間戦闘を継続できる状態じゃなかった。日輪が無理してご主人の身体にかかるストレスを軽減してやってたんだが、戦闘終了と共にその反動が一気にダメージとしてフィードバックしたのさ。日輪も予想外の事だったらしくてな。合わせる顔がねえってんで代わりに俺が説明役をやらされてるって訳だ」

 

 日輪にそんな便利機能が。もしかして織斑先生の地獄のような特訓に身体がついていけたのも日輪のお陰じゃったのか。

 

「そうか。それはご苦労じゃったな。して、日輪と月夜はどこに?」

 

「……一応訊いとくぜ。どうする気だい?」

 

「分からんお主じゃなかろう。会って礼が言いたいだけじゃ。あれほど良き時を過ごせたのは日輪のお陰なんじゃからな」

 

「…………ヘッ!だから言ったじゃねえか!俺らのご主人が後悔なんかする訳ねえってよ!」

 

 釣魚が明後日の方向に声をかけると、いつの間にやら日輪と月夜がそこに立っていた。月夜はいつも通り日輪の側で佇み、日輪はバツの悪そうな顔で俯いている。

 

「後悔?そんなモンあるわけなかろう。日輪よ。怒っとらんからもっとこっちへ来い」

 

 チョイチョイと手招きするが、日輪は動こうとしない。

 

「……ごめんなさい。私のせいでご主人様が大変な目に」

 

「もう気にしとらん」

 

「今でも病院の集中治療室で予断を許さない状況なんだよ?」

 

「なぬ?そ、そうか……。じゃがもう過ぎたこと。後は医者の腕に任せれば良い」

 

「でも、もしかしたら後遺症とかでISを操縦できなくなっちゃうかも!もう二度と会えないかも知れないんだよ……」

 

 日輪は堪えていた涙を溢れさせた。透き通った大粒の涙がぽたりぽたりと地に落ち、染み込んでいく。

 その度にワシの心に日輪の罪悪感や恐れがまるで自分のことのように伝わってくる。それほどまでに自分を責めていたのか。

 

「日輪」

 

 立ち上がり、歩み寄る。日輪は退くこともせずじっとその場に踏み止まった。

 

「お主がしたこと。確かにワシの身に危険を及ぼす結果となった」

 

「…………」

 

 日輪は黙って頷く。

 

「失敗、したの」

 

「ッ!」

 

 日輪がびくりと体を強張らせる。小さかった嗚咽が次第に大きくなっていく。

 

「ご、ご主人様!」

 

 その時、月夜が日輪の前で両手を広げて立ち塞がった。

 

「お姉ちゃんは悪くないの!本来なら、疲労や筋肉痛みたいな軽度な症状で少しずつ解消していくはずだったんだよ!でも、だから、お姉ちゃんはご主人様を傷付けるつもりなんて……」

 

「阿呆。それくらい分かっとる。ワシが言いたいのは、この失敗を価値あるものにしていって欲しいということじゃ」

 

「!価値……ある……?」

 

 日輪が涙でぐしょぐしょになった顔を上げる。月夜を脇に退かせ、日輪の頭にぽんと手を置いた。

 

「ああ。今回の敵はワシだけの力では到底敵わん相手じゃった。それをあそこまで長く闘えたのは他でもないお主のお陰じゃ。そのことを忘れず、今後どうすれば二度とこんなことが起きないかを考えて欲しい。大丈夫。必ず出来る。こんなに姉想いの弟もおることだしの」

 

 月夜を指すと、自信満々とは程遠いがおずおずと頷いた。

 

「うっ……ぐすっ……うわあああん!」

 

 緊張の糸が切れたのか、堰を切ったように大声で泣きだした。胸を貸してやり、涙が枯れるまでしばらく背を撫でてやった。

 

「私……もっと頑張る!ご主人の夢を一日でも早く叶えられるように努力するよ!」

 

「その意気じゃ。さて、そろそろワシも行かんとの」

 

 いつまでも待たせておけん奴らがたくさんおる。

 

「!で、でもご主人の身体はまだ完全には回復してないから……」

 

「それまで待てと言うのか?首から上が動かせればよい。日輪、ワシの生命力を回復力に転じることは可能か?」

 

 日輪は元々シールドエネルギーを攻撃力に変換する武器じゃし、なんとなく提案してみる。

 

「そ、それは……」

 

「出来るぜ。むしろ今までやってたことだ」

 

 釣魚が狼狽する日輪に痺れを切らし、はっきりと断言した。

 

「うん。けど、今回の闘いでその生命力を結構使い切ってるから……賭けになるよ?」

 

「構わん。お主の頑張りを見せてくれ」

 

 そう言って微笑むと、日輪も眉をピンと吊り上げて元気よく頷いた。

 

「分かった!任せといてよ!」

 

 頷き、3人に背を向ける。景色が柔らかな光に包まれ、次第に全てが白く染まっていく。

 次にここに来る時は夢を叶えた時がいいの。

 最強のIS使いという夢を。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。