インフィニット・ストラトス〜最強への道〜   作:まどるちぇ

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おひさ!


第32話

 

 

 VTシステムの騒動から3日。IS学園は落ち着きを取り戻しつつあった。

 1年1組を除いては。

 

「柳君、まだ帰ってこれないのかなー?」

 

「織斑先生はお見舞い禁止って言ってたけど、そんなにヤバい感じなのかなあ?」

 

「口からいっぱい血が出てたし、もしかしたら会えないくらいの……」

 

 生徒達の様々な憶測が飛び交う中、バンという大きな音がざわめきを遮った。一同が音のした方を見ると、セシリアが両手を机に乗せて立ち上がっていた。

 

「刃さんは絶対に帰ってきます。不用意な発言であらぬ噂の火種になることは、このクラス代表代理のセシリア・オルコットが許しませんわ!」

 

 セシリアの力強い声と目の光に、生徒達はばつが悪そうに視線を逸らした。刃が不在の間、クラス代表の仕事を引き受けたのはセシリアだった。異を唱えた者は誰もいない。

 

「うんうん!せっしーの言う通りだよー!」

 

 本音が立ち上がり、袖に隠れた手をぶんぶんと振った。

 

「ぎんぎんは必ず帰ってくるよ!ワシを信じろーだはははー!って感じで!」

 

 本音の発言に場の空気が緩む。

 

「プッ!のほほんさん今のって柳君の真似?」

 

「全然似てなーい」

 

 一転して笑い声に包まれる教室。

 そんな中、千冬と真耶が入ってくる。生徒たちは慣れた動きで各々の席に着き、静粛にする。

 

「おはよう諸君。まずは良いニュースからだ。柳の容態は完全に安定した。数日の検査入院の後に退院が認められた」

 

 千冬の言葉に、教室が歓喜の声に震えた。それでも千冬が静かに、と呟くと静寂が戻る。

 

「それまでは面会謝絶だ。忘れているかも知れないが奴は先日のタッグトーナメント事件における重要参考人だからな。無闇に接触すればその者に監視が付き、万が一この事件が元でトラブルが発生した場合に容疑がかかる。私も教え子が犯罪者扱いされるのは我慢ならん。くれぐれも軽率な行動は控えるように。以上」

 

 千冬が言葉を切ると同時にHR終了のチャイムが鳴る。教室2人が出て行くと、教室内は再び騒々しくなった。

 

「やったーっ!柳君帰ってくるんだー!」

 

「こりゃお祝いだね!パーッと盛大にやらなきゃ!」

 

「お菓子買いに行こ〜!ぎんぎんにはいっぱい食べて早く元気になってもらわなきゃ!」

 

「お、お待ちなさいな本音さん!当然クラス代表代理の私も同行し、刃さんに相応しいお菓子を見繕いませんと!」

 

 色めき立つクラスの様子を、一夏、箒、シャルルが遠巻きに見ていた。

 

「やれやれ、すっかり人気者だな刃のやつ」

 

「ああ。セシリアにも活力が戻ったようで安心だ。明日から再開されるトーナメントで腑抜けたままでいられては困るからな」

 

「とか言って、一夏が狙われなくなったからホッとしてるんじゃないの?」

 

「な!ひ、一言多いぞデュノア!」

 

「?何の話してるんだ?」

 

「なんでもない!お前は黙っていろ!」

 

「ええ……」

 

 刃の復帰を知り、IS学園は本当の意味で日常を取り戻していった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 翌日。アリーナは再び超満員となっていた。

 VTシステムの事件で中止を余儀なくされた学年別トーナメントだが、政府要人や各企業に生徒たちの実力を把握してもらう目的も兼ね、一回戦だけは全組行うことに決まった。

 度重なるバリア破壊工作に慣れ、悟りを開いた教師陣の健闘もあり、四日後には問題なくアリーナを使用できるようになる。

 

「セシリア。準備は万端か?」

 

「ええ。本国から選りすぐりのパティシエールを取り寄せました。刃さんには最高級のスコーンを味わってもらいましょう」

 

「いや、これからやる試合のことだが……」

 

 箒はやれやれと苦笑する。

 

「あ、も、申し訳ありません!今は目の前の戦闘に集中しなければいけませんのに」

 

「ぷっ。いや、いい。調子は戻っているようだしな。頼りにしているぞ、セシリア」

 

(頼りにしている、か……)

 

 箒は握る拳に力が湧いてくるのを感じる。あの日病室で刃に言われた言葉を反芻し、深呼吸をひとつ。

 

「もちろんです!私を誰だと思っていますの?……前衛は任せましたよ」

 

 セシリアの言葉と同時に、アリーナへのゲートが開いた。2人は各々の想いを胸に、アリーナへと飛び出していった。

 

「おー!しののんとせっしーコンビきたー」

 

「………………」

 

 アリーナでは本音と簪が待ち受けていた。簪は本人が改造した日本の汎用機・打鉄の後継機とも言える『打鉄・改』と呼称している機体に乗っていた。

 本音はというと。

 

「本音さんのソレは……狐、ですの?」

 

 セシリアは未知の機体に眉根を寄せる。本音が身に纏っていたのは、恐らくラファール・リヴァイヴを基に大幅な改造を施した機体だった。

 明るいオレンジ色のような配色に、末端は黒く染まっている。そして背面装甲からは鞭状の蛇腹剣が尻尾のように伸びている。

 

「ほんぽーはつこーかーい!かんちゃんと技術開発部のみんなで共同開発した最高傑作!名付けて鞍馬(くらま)!ちゅどーん!」

 

 本音は腰に手を当てて胸を張った。蛇腹剣がフリフリと振れている。

 

「どちらも一筋縄では行かなそうだな。気を引き締めて行こう」

 

「あのようなイロモノ紛いのISに遅れを取るつもりはありませんわ!何より、本国からの査察団がブルー・ティアーズが負けることを許しません!」

 

 会話が途切れると同時に試合開始のブザーが鳴り響いた。セシリアと簪が退き、箒と本音が前に出た。

 

「やあああ!……何ッ!?」

 

 ブレードを振り下ろした箒は、奇妙な感触に囚われた。

 剣を振って、止められたり空を切ることは日常茶飯事であったが、加勢される経験は皆無。

 箒は何事かと刀身に目を遣ると、本音の蛇腹剣が巻き付いていた。

 

「ゴメンねしののん〜。私よく考えたら前衛向きの機体じゃなかったんだ〜」

 

 本音はチロリと舌を出すと、体を回転させて蛇腹剣に繋がった箒を投げ下ろした。

 

「そしてそして新兵器〜!きゃっ!」

 

 新たな装備を展開しようとした本音は、突然の衝撃に身を縮めた。

 

「これはタッグマッチでしてよ?目の前の敵にだけ集中していてはいけませんわ!」

 

「そっちもね!」

 

 すかさず簪が大口径の二丁拳銃からカノン砲に近い銃弾を叩き込む。が、セシリアはそれを難なくかわした。

 

「打鉄に遠距離武装が……中々思い切った改造ですわね」

 

「筒井筒……斬モード(スラッシュ)

 

 両手の拳銃の砲身が回転すると、小太刀程度のブレードに変形する。

 接近する簪に対しセシリアは銃撃で遠ざけようとするが、打鉄・改は抜群の機動力を見せ、銃弾の雨を掻い潜る。

 

「速い!」

 

「やあっ!」

 

 間合いまで入った簪は二本の小太刀で間隙なく攻める。セシリアが回避一辺倒になり、箒への援護が遮断された。

 

「クッ!ちゃんと闘え本音!」

 

 箒は逆に、本音に接近を試みるもぬらりくらりと突き放されてしまう。本音は姿勢や隙といったものを度外視したような動きで箒の剣を回避する。その度に隙ありと打ち込まれる箒の剣は、それでも尚本音の実体を斬ることはできないでいた。

 

「鬼さんこちら〜!手のなる方へ〜!」

 

 本音は天地がひっくり返ったような体勢のままスラスターを吹かして遠ざかっていく。訓練された宇宙飛行士のような、重力下の慣れた動きに左右されない自由な機動力で箒を翻弄した。

 

「ならば!」

 

 箒は反撃が来ないことを悟り、セシリアの加勢に向かうことにした。

 

「あ!ずる〜い!待って〜!」

 

 本音も簪のフォローへ回るべく近付いた。

 

「セシリア!本音を任せる!うおおおお!」

 

 箒はセシリアの前に割って入り、簪の剣を受け止めた。

 

「打鉄……ちょうどいい。改造の成果を見せるにはうってつけ。筒井筒、弾モード(トリガー)!」

 

 簪は二丁拳銃に持ち替え、箒から距離を取った。

 

「相手によって戦法を変えるか……だが!」

 

 箒は簪への最短距離を臆さずに直進する。

 

「!」

 

(すごい圧力……!)

 

 簪は箒の食らいつかんばかりの突進に気圧されそうになる。

 

「負け、ない」

 

 簪も負けじと後退し、引き撃ちでハンドカノンを放つ。

 

「見える!」

 

 箒は渾身の一振りで二発の銃弾を斬り裂いた。

 

「嘘ッ!?」

 

「追いついたぞ!」

 

 箒は返す刀で簪に袈裟斬りをお見舞いする。

 

「きゃああああっ!」

 

「かんちゃん!」

 

「余所見はご法度ですわ!」

 

 落下していく簪に気を取られた一瞬、セシリアはミサイルビットを射出した。反応が遅れた本音は直撃を受け、シールドエネルギーを大きく削り取られた。

 

「本音……私は平気。まだやれる」

 

「良かった〜。それじゃ、反撃開始だよ!」

 

 爆煙を吹き飛ばすように、簪と本音が再び浮上した。機体に大きなダメージはあるものの、2人の目からは漲る闘志が伺えた。

 

「勝ったと思ったがな」

 

「ええ。勝負はこれからみたいですわね」

 

 箒とセシリアは、目の前の好敵手に心底戦慄しつつ、続行を喜んでいた。




字下げずっと忘れてましたね(銀河級今更)
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