同刻。第2アリーナ。
「え?欠場って……」
「不戦勝ってこと?そんなの納得できないわよ!」
アリーナ控え室。一夏と鈴は突然知らされた事実に戸惑っていた。
学年別トーナメントの一回戦の対戦相手が急病により欠場してしまったのだ。
2人の心に不完全燃焼感が積もる。
「ほ、本当にごめんなさいね!鈴さんも治療頑張ってくれたのに……」
真耶が合掌して謝り込む。そんな態度にこれ以上強く当たれるはずもなく、鈴は一夏と顔を見合わせて肩を竦めた。
「山田先生」
声に振り向くと、シャルルが立っていた。隣にはシャルルと刃が戦った相手、ラウラのパートナーだった虹村スピカの姿が。
「一夏と鈴さんの対戦相手が棄権したって聞いて。僕と虹村さんで代わりになれませんか?」
シャルルの言葉に、真耶はたちまち元気を取り戻す。
「い、いいんですか?ぜ、是非お願いします!お2人ともありがとうございます!お陰で報告書地獄から抜け……ゴホン!とにかく、そうと決まれば早速準備を!」
真耶は2人を急かし、大会運営に急いで報告した。当の一夏と鈴はすっかり置いてけぼりである。
「まあ、相手にとって不足はねーよな。頑張ろうぜ!」
「そうね。私達が最強タッグだってことを見せつけてやりましょ!」
一夏と鈴はそういって頷き合い、シャルル達の準備を待ってからアリーナへと繰り出した。
☆
時は戻って第1アリーナ。箒・セシリアvs本音・簪の闘いは最終局面を迎えていた。
「爆雷符〜!」
本音は手元に召喚した紙のお札のようなものを投擲する。
「こんなもの!」
箒がブレードで札を斬り払おうとする。
が、札はブレードに貼り付き、取れなくなった。
「よ〜し!点火!どっか〜ん!」
本音の合図で札が一斉に起爆する。爆風と衝撃波で箒は大きく後退する。
「うわああああっ!」
「箒さん!粘着性のある
「余所見?」
息つく間もなく簪が懐に潜り込む。容赦なく叩き込まれるはずだった双剣は、しかしレーザーの弾幕に阻まれた。
「高機動ビット……」
「さあ、レッスンのお時間ですわよ!踊りなさいな!」
セシリアは4基のビットを巧みに操り、簪を翻弄した。四方八方から降り注ぐレーザーの雨に、簪は回避に専念せざるを得なかった。
「巧い……」
簪はセシリアのビット操縦技術に素直に感心した。4基のビットを操縦者本人の主観からハイパークリアセンサーを通しているとは言え敵の周りに意味のある配置を意識している。簪の武装や体勢に応じて間合いや攻撃タイミングを変えている。
(刃なら、確か……)
簪は整備課で刃と会った時にセシリアとの対戦の話を聞いていた。
ビットの動きのクセ。操作中はセシリア本人が無防備になること。
「ここ!」
簪は今の体勢から最も反応が遅くなるであろう角度に向かってハンドカノンを撃った。
銃弾を迎えに行くようにビットのひとつが直撃し、爆散する。
更に簪は射撃の反動を活かしてビットの包囲網を抜け、セシリアに迫る。
「やりますわね!ですが!」
セシリアは3基となったビットを総動員させて簪を追った。
(銃ならかわせる。剣ならまだ間合いの外。ビットも充分間に合うはず)
そんなセシリアの目論見を、簪は見切っていた。
「
簪が両手の小太刀と砲身を合致させると、それは一本の薙刀へと変化した。簪が思い描く、
「ト、
「やあああっ!」
全速力でセシリアに突っ込む。間合いの計算が狂ったセシリアは避けきれず直撃を受ける。
「甘いですわ」
はずだった。胸の中心目がかけて放った渾身の突きは、幽かな残像を貫くのみ。
「!?」
「チェックメイト、ですわ」
セシリアはゆっくりとスターライトMkⅢの銃口を打鉄・改に向け、引き金を引いた。なけなしのシールドエネルギーが0まで刈り取られる。
「箒さん!そちらは……」
「ああ。今終わったところだ」
箒はブレードに巻き付いた状態で千切れた蛇腹剣を振り解き、セシリアに向き直る。
戦闘終了のブザーと共に歓声が上がった。
「勝者、篠ノ之・オルコットペア!」
箒とセシリアは熱い握手を交わし、笑顔で頷き合った。
「うえ〜ん。負けちゃったよ〜」
「換装時のガタつきはテストでは発生しなかった。戦闘時のダメージによる形状変化も視野に入れないと……」
本音は分かりやすく悔しがり、簪はぶつぶつと反省会をしていた。
「一瞬の気も抜けない、いい勝負だった。腕を上げたな、本音」
「流石は日本の国家代表候補生ですわ簪さん。打鉄のイメージを塗り替えるような機動力と武装の独創性。刃さんとの戦闘経験が無ければ最後の一撃は避けられませんでした」
箒は本音と、セシリアは簪と握手を交わした。
爽やかなシーンに歓声は喝采へと変わる。セシリアは視界の隅でイギリスの査察団が何度も頷いているのを捉えて人知れず胸を撫で下ろした。
(刃さん。私少しは貴方に近付けたでしょうか……?)
(皆強くなっている。ウカウカしていると置いて行かれるぞ、一夏)
2人は遠い空を見上げる。青い空はどこまでも、無限に広がっていた。
☆
第2アリーナ
一夏・鈴vsシャルル・スピカ
開始から10分。観客席の人口密度とは裏腹に、剣戟の甲高い音だけが響いていた。
「おおおおおお!」
「………………」
一夏はスピカに対し猛攻を仕掛けていた。
零落白夜のコストにより7割ほど減ったシールドエネルギーを見て、焦り出していたのだ。
スピカはやや押されつつも、持久戦に持ち込めば有利であることを理解し、防御と回避に専念する。受ける毎に腕が重くなる一撃を、もう数十回もいなし続けていた。
「やるね、鈴!」
「嫌味のつもり?王子様!」
シャルルと鈴もまた、中距離と近距離での鍔迫り合いを繰り返す。鈴は双天牙月と龍砲を上手く使い分け、シャルルは鈴の攻撃に有効な射程の武器へと即座に換装して対処していた。
予断を許さない状況だが、シャルルはハッタリの為に笑みを崩さない。それが鈴の敵愾心を煽っていた。
目まぐるしい戦闘スピードに、観客はただただ固唾を呑んで目で追うしかできなかった。
「一夏ァ!アレやるわよ!」
「アレか!よっしゃ!」
一夏は殺陣を中止し、鈴の前に出た。
「!何を……?」
「
龍砲の撃ち出す空気の塊を、瞬間加速の要領でスラスター内部に取り込み、爆発的な推進力とする。瞬きをする間もなく一夏はシャルルの懐に潜り込んだ。
「しまっ」
「おりゃああああ!」
超スピードの一閃はラファール・リヴァイヴのシールドエネルギーを喰らい尽くした。
「うわああああっ!」
「デュノア!このッ!」
スピカは双眸をカッと見開き、攻撃直後の一夏に剣を振り下ろした。消え入りそうな白式のシールドエネルギーは完全に霧散した。
「さあ、一騎討ちね!」
「甲龍……凰 鈴音……強敵」
スピカは剣を握った両手をダラリと下げ、蛇行するように左右に振れながら接近する。
「古典的な手を!」
鈴は龍砲がまともに命中しないのを見切り、双天牙月による接近戦に応じた。
(甘いわね。メイン武装がブレードのみの打鉄がまともにやりあうにはこうするしかなかったんでしょうけど、甲龍の近接戦闘力ナメないでよね!)
鈴はスピカの斬り上げを難なく受け止める。互いに食らいつくような打ち合いの中で、鈴は違和感を感じた。
(何か狙ってる……?)
鈴が違和感の正体を思案し始めた瞬間、スピカのニヤリという笑みが目に飛び込んできた。
「これで、決める」
打ち合いの最中、剣が交わる瞬間にスピカの腰から何かが射出された。それは2人の剣に挟み斬られ、大量の白煙を吐き出した。
「スモーク・グレネード!?」
鈴が驚くのと同時、スピカは後退して煙の中に姿を消した。
「くっ!ちょこざいなぁ!」
鈴は龍砲を四方八方に乱射する。空気砲が煙のカーテンを押し退けていく。
「隙あり」
スピカの声が背後からしたかと思うと、全力の大上段斬りを鈴はまともに食らってしまう。
「くぅぅぅ!やるじゃないの!」
鈴は龍砲の射程面積を最大まで広げ、スピカを逃すまいと空気砲を放った。
「……ッ!」
蔓延した煙幕ごとスピカが吹き飛ばされる。よく見ると、スピカは目にゴーグルのようなものを装着していた。
「なるほど。スモークで視界を奪って
そこからは一方的だった。闘争心に火が点いてからの鈴の動きは圧巻の一言である。
龍砲でけん制しつつ、距離が詰まったと感じたら即座に双天牙月で押せ押せの攻勢。
引いては寄せる波のような攻撃に、スピカの機動力は精彩を欠き始め、やがて致命的な隙を見せた。
「終わりよ!」
広域モードを切り替え、一点集中となった不可視の疾風がスピカと打鉄を貫いた。
試合終了のブザーに、鈴は拳と共に勝鬨を上げた。
万雷の拍手喝采が飛ぶ。一夏が浮上し、鈴と拳をぶつけ合った。
「やったな鈴!」
「当然でしょ!この私との最強タッグなんだから!」
「負けちゃったけど、いい試合だったね」
「…………2敗」
しょぼくれるスピカの頭をシャルルが優しく撫でると、悲鳴にも似た歓声が一部の観客席から上がる。
「2人ともありがとな。すっげー熱かった!」
「そうね。特にスピカ、だっけ?アンタかなり筋いいわよ。もう少し頑張れば代表候補生狙えるんじゃない?」
4人は千冬に退場を指示されるまで談笑していた。観客に笑われながらすごすごと退場し、着替えて再合流することになった。
(一瞬気を抜いたとこをやられた。俺もまだまだだな)
男子更衣室として設けられた控え室で、一夏は試合内容を振り返っていた。シャルルは早々に着替えるとまた後でね、と口添えしてそそくさと出て行く。
(こんなんじゃダメだ。もっと強くならないと。例え誰が相手でも、大切な人を守れるように)
一夏は胸を拳で叩き、より一層強くなる決意を固めた。
入り口にもたれかかっていた千冬は、小さく笑うと力強い足取りで何処かへと去って行った。
☆
その日の夜。
箒はとある人物へと電話をかけていた。
「もすもすひねもす〜?待ってたよ箒ちゃ〜ん」
「待ってた?」
「またまたぁ〜とぼけなくってもいいよ。お姉ちゃん箒ちゃんのことはなんでもお見通しだからね〜……欲しいんでしょ?更なる力が」
「!」
「白と並び立つ紅。箒ちゃんの専用機。その名も……」
電話先の声の主、篠ノ之 束はチラリと隣の機体に目を落とす。
「紅椿」
束の言葉に、箒は思いがけず高揚を覚えた。
(私の、専用機。これで私はもっと強く……)
握る手に力が入る。そんな箒の様子を、束は無言の電話口から見通していた。優しく、どこか仄暗い笑みを浮かべながら。