インフィニット・ストラトス〜最強への道〜   作:まどるちぇ

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第34話

 

 

 退院は週末となった。その間誰も見舞いに来なかったのは、恐らく生徒を保護する為に織斑先生が禁止しておるのじゃろう。

 悲しくなんかない。悲しくないもん。

 

「全く、君には驚かされたよ」

 

 院長先生が苦笑を浮かべながら最後の検診を終える。勿論異常はなし。晴れて退院の身じゃ。

 

「長いことお世話になりました。もうすっかり健康ですわい」

 

「ISが持ち主の健康状態に左右されるとは聞いていたけど、その逆もあるとはね。何にせよ元気になったなら何よりだ。櫻井君と龍之介にもよろしく伝えておいてくれ」

 

 院長先生はそう言って立ち上がり、病室を出て行った。そうか。櫻井先生の知り合いの医者ってこの人じゃったか。しかも椿叔父とも接点がありそうな……世間は狭いのう。

 そんなことを思いながら院長先生の背中を見送り、退去の準備を進めた。着替えを鞄に詰め、病室を後にする。

 

「みんな、待っていてくれ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 IS学園1年1組

 女子校特有の姦しさを誇るIS学園だが、今日はまた一段と色めき立っていた。ある一大ニュースが学園中に広まっていたからだ。

 柳 刃が帰ってくる。

 教室内はその話題で持ちきりだった。

 

「柳君、今日だってね〜」

 

「何時になるのかな?楽しみだねー」

 

「お菓子、よし!クラッカー、よし!王様ゲームのくじ、よし!」

 

「ちょっ!アンタ最後なんかスゴいこと言わなかった!?」

 

「はいはい皆さん!本日の刃さんのご帰還パーティーのプログラムを配ります!必ず目を通しておいて下さいね!」

 

 セシリアは上機嫌で小冊子並の厚さの書類を配っている。一夏と箒はそんなセシリアをにこやかに眺めながらプログラムに目を落とした。

 刃が帰ってきた時間帯に応じて様々なパターンの催し物が分単位でびっしり書かれている。

 

「こ、これはまた……」

 

「しゅ、周到なのは良いことだ……」

 

 そう言う箒の笑顔は引きつっていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 昼休み。学園全体が震えんばかりに生徒たちのソワソワが最高潮になる。

 そして、その時は訪れた。

 

 柳 刃が帰ってきたぞ────!

 

 この女子生徒の一言で食堂は蜘蛛の子を散らしたように伽藍堂と化し、エントランスは逆に超満員となった。蜃気楼が揺らす小さな影を今か今かと待ち受ける。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「うお!?なんじゃ!?」

 

 IS学園に着いてすぐ、地響きのような重低音が校舎から響いた。見ると、エントランスに全生徒かき集めたかのような大軍勢が待ち構えている。なんなのじゃこれは。どうすればいいのじゃ。

 狼狽して足が止まったが、聞こえてくる声に足は自然と動き出した。

 

 おかえりなさ──────い!

 

 まだ豆粒程度にしか見えないみんなに手を振る。歩みが駆け足へと変わった。

 ワシの居場所は、ここにある。

 

「帰ったか問題児」

 

 感動の再会直前、時が止まった。

 織斑先生の氷柱の如き言葉がその場の空気を凍らせる。

 

「さて、復帰一番お祝いパーティー、などと浮かれきった妄想はしていないだろうな?」

 

「ハイ」

 

「着いてこい」

 

「ハイ」

 

 織斑先生は出待ちの生徒たちに向き直る。どんな顔をしていたのか、生徒たちのリアクションを見れば目に浮かぶ。

 

「何をしている?最初に言ったはずだ。食事は迅速且つ効率的に摂れと。昼休みはあと10分だぞ?」

 

 その一言で、エントランスに押し寄せた波は引いていった。ワシは鎖で繋がれたように織斑先生の後ろについて歩く。

 地獄の悪魔が開けた大口に自ら入っていくような面持ちで第二会議室に入り、数時間に渡り聴取を受けた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「せ、セシリア〜。こういう場合はどうするのよ?」

 

「柳君、夜まで解放されないかもよ?」

 

「どころか、今日中に解放されるかどうか……」

 

「う、狼狽えてはいけませんわ!それだけ時間があるということは策を練り直す時間もあるということ。それに織斑先生が刃さんの聴取に当たるなら、LHRは山田先生。先生を懐柔してその時間を利用し緊急作戦会議を開きます!」

 

 こうして知らぬ間に学級運営の主導権を握られていく山田先生なのであった。

 頑張れ副担任。負けるな副担任。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 IS学園第二会議室

 普段は職員会議に使われる部屋で、ワシは複数人の学園職員と対面して座らされた。背後には2人の黒服の女性が陣取っている。織斑先生を前にして逃げやせんというのに。

 

「一先ずは快復おめでとうと言っておこう。そして紛い物とは言え暮桜と17分38秒もの戦闘と呼べる時間を繰り広げた。貴様の腕は多少マシになったと言える。教師としては喜ぶべきことだ」

 

「それはどうも」

 

 織斑先生のお褒めの言葉を素直に受け取っておく。

 

「だが、それによって解決せねばならない問題が2つ生じた。まず一つ。何故私の制止に応じなかった?紛い物とはいえスペック上は当時の暮桜に限りなく近いものだった。貴様のIS操縦技術に関して、密度に文句はないが、期間はせいぜい2ヶ月弱。アレに応戦するにはあまりに経験が浅いと言わざるを得ない」

 

「それに関しましては衝動的に行ったとしか。元々最強のIS使いになることを目標にこの学園に来たので、目の前に転がり込んできた目標に近い相手と対戦する機会を失いたくはなかった、というだけです」

 

「ったく、どこまで戦闘狂だ貴様。ともかく自分の意思で行動したことには変わりないと」

 

「はい」

 

 織斑先生の後ろで控えていた黒服の女性が筆を走らせる。しばらくして音が止み、次の質問が始まった。

 

「次、これが最も不明かつ大きなリスクを孕んでいる要素だ。貴様の持つ八極(パージ)、現行ISのどのスペックをも上回る可能性を秘めているな。ドイツ第三世代のシュヴァルツェア・レーゲン。イギリス同世代のブルー・ティアーズ。そして中国の甲龍。どれも時代の最先端を行く超高性能の機体だ。操縦者の技術はともかく、機体スペック上でも八極はそれらと互角以上のデータが出ている。これはどういうことだ?」

 

「ワシに言われましても……まあ確かによく考えるとオーバースペックな気はしますが。これをワシにくれた人のことを考えれば納得はしていただけるかと」

 

「……悔しいが正論だな。(あのバカ)が何の脈絡もなく持ってきたのだ。突飛なものでない方がおかしいか」

 

 織斑先生は舌打ち混じりに納得してくれたようじゃ。

 

「さて。今度はこちらが説明する番だな。貴様が闘ったものの正体について」

 

「…………」

 

 織斑先生の話を聞いた。VTシステムの話。ラウラの与り知らぬところで組み込まれていたこと。ラウラの今後の処遇。

 

「本人に使用する意図はなかったこと。ドイツ本国が故意にVTシステムを機体に組み込んだ証拠はないことから、暫定的に第三者による混入と判断された。幾らかのペナルティはあるが、ラウラ本人への処罰は極めて軽い」

 

「それは良かった。てっきりドイツに強制送還でもされるのかと」

 

「IS学園特記事項第21項。本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。つまり3年間は逆治外法権だ。何処の誰であろうと、我が校の生徒である内は我が校が保護し、我が校が裁く。故に学園が判断した結果には必ず従ってもらう」

 

「なるほど。それはいいことを聞きました」

 

 シャルルも卒業までは大丈夫そうだの。

 

「さて。理解してもらえたところで、今後の貴様への処遇を言い渡そう。重ねて言うが、学園の判断は絶対だ」

 

「む。そう言われると緊張しますな」

 

 退学……はどこにもメリットが生まれんからまずないじゃろう。

 一体何をさせられることやら。

 

「柳 刃。貴様を三ヶ月間IS学園生徒会庶務に任命する。行事を立て続けに騒がせたんだ。その尻拭いの一端を担うくらいは当然の罰だろう?」

 

「なるほど。確かにその通りですな。で、他には?」

 

「ない」

 

 は?

 

「は?」

 

「今回の件に対するペナルティは以上だ。ああ、言うまでもないと思うがこの一時的な生徒会活動への参加は成績に一切反映されんからな」

 

「いや、それにしたって罰が軽過ぎでは……?」

 

「ほう?そう思うか」

 

 織斑先生はそう言ってニヤリと笑う。あ、これ絶対何かある奴だ。

 

「とにかく、これが学園の下した判決だ。せいぜい普段迷惑をかけている連中に奉仕してやれ。分かったな」

 

「はい」

 

「話は以上だ。そろそろ夕飯時か。いい加減浮ついたあのバカ共を鎮めて来い」

 

 そう言う織斑先生の表情は柔らかかった。色々と言いたいことはあったが、その優しさを素直に受け取っておく。

 

「では、失礼します」

 

 そう言って会議室を後にした。一呼吸置き、食堂に向けて走り出す。

 待っていてくれ、みんな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 刃の去った会議室は、即座に緊急会議の場として設けられた。

 

「宜しかったのですか織斑先生?」

 

「良いも悪いも無いです。奴にも言いましたが、学園長の判断が全て。柳に重いペナルティを課したところで見せしめの効果も薄いでしょう。それに……」

 

「それに?」

 

「……いえ。あまり明言するのは控えておきましょう。鬼は、名を口にすれば現れると言いますし」

 

「?」

 

(束……貴様とんでもない爆弾を置いていってくれたな。ただでさえ問題児だらけだと言うのに)

 

 千冬はしばらくの間険しい表情で考え込んでいた。

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