蒼の彼方のフォーリズムー朱い空ー   作:科戸@ただいま

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遅くなってしまい本当に申し訳ありません


[Flight:06] 合宿裏での再会と

 FCの世界において最強。燕のように空を駆り、蝶のように空間を舞う。その姿はまさに妖精。人は彼をそう讃え、空を飛ぶ姫ーーーー飛翔姫と呼んだ。他の追随を許さない成長は、小学生にして大人を相手取るほどの実力だった。その能力は同世代の選手たちにとっては別次元の人物に映ったらしい。

 でも、僕から見た彼は他の子供と同じ、一人の選手に見えた。

 

『ちくしょう……』

 

『ほら、泣くな晶也。勝った奴が泣いてどうする?』

 

『でも、葵さん! 俺はドックファイトで勝ちたかったんだっ』

 

『誰だって得意分野はあるさ。ファイター相手にオールラウンダーのお前はかなり良い線まで戦ってたぞ』

 

『う、ぐ……うわぁぁぁぁん!』

 

 

 当時の彼は負けなしだった。だけど、自分の思い通りにならなかった試合では泣き顔を見せていた。一番じゃないと気が済まないという、どこにでもいるやんちゃな男の子の顔。そんな姿を見ていたから僕も負けないと躍起になったのだ。

 だから、自分の得意分野であるドックファイトだけは譲らなかった。そう頑張ってこられたのかもしれない。あらゆる分野をそつなくこなす彼はそのプライドのせいか度々ドックファイトを挑んできた。その都度、ドックファイトで僕は勝利に近い引き分けにまで持ち込んだ。試合こそ負けたが、得意分野で互角の戦いができる。天井に手が届く。それがたまらなく嬉しかった。

 

(思えば、体の末端まで本気になる試合をしてくれたのは彼だけだったな)

 

 時間が経つにつれて、体つきも考え方も変わった。プレイスタイルもだ。

 だけど、目の前に降りた男は僕とは違い、根っこの部分は全く変わっていないように思えた。

 例えるなら翼が折れてしまった鳥。心は空にあるのに、飛び方を忘れてしまって飛ぶのを恐れているように映った。

 

「それでは、更衣室にお連れしますわ。みなさんどうぞこちらへ」

 

 麗子院さんが先導して久奈浜の女子部員を更衣室へ誘導する。その際、耳打ちをされた。

 

「あなたは紫苑さんを男子更衣室にお連れして」

 

「はい」

 

 って、先ほどまでいた空間には日向晶也しかいない。唯一の男子選手である青柳紫苑はどこだ。

 

「兄ちゃんはこっちじゃないでしょ。もしかして、女子と一緒に着替える気じゃないでしょうね?」

 

「はっ!?」

 

 更衣室へと誘導されている中で一人だけ頭が飛び出ている人がいた。あれが青柳紫苑だろう。単純なのだろうか。他の部員と一緒に移動する気満々だったようだ。マネージャーの注意を受けてショックを受けている。似てない兄妹だなあの二人。

 

「男子更衣室に案内します。どうぞこちらへ」

 

 事前情報と、男子部員という情報から大柄な細目男が青柳紫苑だと予想して案内を申し出る。

 

「おう! よろしく頼む!」

 

「ふつつかな部長ですが、よろしくお願いします」

 

 暴走気味の兄のブレーキ的な役割なのだろう。礼儀正しい人だ。

 

「じゃあ、私は先に設備とか、他の部員の人と話してくるから」

 

「わかった! マッハで練習場にいくから衝撃波に備えておけよ!」

 

「マッハ……スピーダーらしいな」

 

「おう! そういうお前もスピーダーか!?」

 

 一言一言に気合いを込める人だ。熱い。その熱意少し分けてほしいくらいだ。

 

「いえ、自分はオールラウンダーです」

 

「そうか。オールラウンダーということは新入部員の倉科と同じだな! 今日は胸を貸してやってくれ!」

 

「ええ。お互いにいい方向に伸びるといいですね」

 

 社交辞令のような会話だが、片方がハイテンションのためそこまで気にならない。ムードメーカーとはこのことを言うのだろうか。

 

「そうだ。名前を教えてくれないか?」

 

「秋月朱です。ウチは部員が多いので覚えるの大変ですけど」

 

「いいや、この筋肉があればそのくらい造作ない」

 

 筋肉があれば? そういえば昔の忍者は傷と一緒に記憶を刻んでいたと聞いた。まさか筋肉に名前を付けて覚える気なのか。アンディとかフランクみたいに。

 

「筋肉は万能だ! 筋肉にできないことはない!!」

 

 どうやら違うらしかった。

 

 

 

 

 更衣室で着替えの順番待ちをしていた時のことだ。

 

 草むらで三角座りをしている市ノ瀬さんを見つけた。

 

 何故そんな場所にいた彼女を見つけられたのかというとーーーー

 

「うう、お気に入りのハンカチが……。やっぱりこれは天罰なのでしょうか。私が先走ってしまったばっかりに、日向さんの気を悪くしてしまいましたし、真藤部長の気持ちも知らずに、失礼なことをしてしまった……報いなのでは」

 

 この懺悔のような呟きが聞こえてきたからである。

 何この自己嫌悪の塊。人のこと言えないけど。

 

「何してるのさ」

 

「きゃぁああ!」

 

 突然の不意打ちに驚いた市ノ瀬さんが、驚きの声を上げた。

 

「な、なななもしかして……秋月先輩今の、聞いてました?」

 

「今の、って?」

 

「いえ、その、特にいいことではないのですが……」

 

「内容までは分からなかったけど、最近の市ノ瀬さんの行動から察するに、勘違いで相手のコーチに暴言を吐きに言って、相手を泣かせてハンカチが台無しになった……みたいな?」

 

「暴言までは言っていませんし、泣かせてもいません! そもそも、聞いているじゃないですか!?」

 

「ごめんごめん、とにかく聞いちゃったんだね、この合宿の真相」

 

 以前、帰り道で話した反応を思い出したのだろう。市ノ瀬さんがまた目を伏せる。僕があの時気を悪くしていたと感じたのだろうか。

 

「は、はい……すみませんでした」

 

「まぁ、部長も気にしてないと思うけど、でも」

 

 そこで一旦区切って相手の目をじっと見る。沈黙って言うのは相手を落ち着かせる効果もあれば、焦らせる事にも使える。市ノ瀬さんには悪いけど今の罪悪感、利用させて貰う。

 

「久奈浜の人たちに肩身の狭い思いをさせたくないし。市ノ瀬さんさ、久奈浜の人たち学校の事案内してくれない?」

 

 反合同合宿の空気を一番身近で感じていた彼女が、久奈浜を歓迎すれば両校にとって良好な関係を築くきっかけになるはずだ。礼儀正しく、慎ましい彼女は適任だった。

 

「案内役、ですか?」

 

「うん、案内役。向こうも女子が多いからさ」

 

 麗子院さんだとテンションが高すぎて相手が疲れすぎるからね。一応、僕が案内するという意見も出たのだが、諸事情により見送らせて貰った。ちなみに男子の担当は部長だ。部長自らかって出たのだが、その理由は聞かない方がいいだろう。

 

「わ、分かりました」

 

「ありがと、じゃあ早速……」

 

 案内係の紹介に連れて行こうとしたそのときだった。

 

「あっ、朱だー。おーい」

 

「うっ、家でさえみさき先輩と一緒なのに、こんなところにまでこの人が……」

 

 向こうから来てくれた。みさきさんと真白ちゃんだ。フライングスーツに着替えて仲良く並んで歩いていた。その隣には少し前に見た女の子もいる。僕が案内役を降りた原因の一つだ。顔見知りの間柄だとどうもやりづらい。

 

「朱って……? えっ?」

 

「ああ、知り合いなんだ。この3人」

 

「3人?」

 

 真白ちゃんが首を傾げる。

 

「ええと……。秋月さん、ですよね。この前グラシュを買いに行った……」

 

「明日香先輩もこの人知っているんですか!?」

 

「はい。島に来たばっかりの時グラシュの事教えてくれたんです」

 

 倉科明日香。名前はさっきの自己紹介で思い出した。この子と真白ちゃんが初心者ということだろう。落ち着いた雰囲気と明るい一面を併せ持った優しい子だった気がする。知り合い率の高さに、何かの因果を感じてしまうのは思いこみによるものだろうか。

 

 

「ナンパだー。朱が明日香をナンパしたんだー」

 

「あながち間違いじゃない」

 

 ナンパと表現するしかない形で出会ったのだ。認めてしまおう。

 

「え!? 私口説かれてたんですかっ」

 

「わー。エッチだー。朱は明日香に気があるんだー」

 

「そうですそうです!」

 

 みさき先輩から離れろと言わんばかりに真白ちゃんがヤジを飛ばす。

 

「「そうなんですか!?」」

 

 倉科さんと市ノ瀬さんが同時に叫んだ。冗談を真に受けたらしい。この二人初対面なのに妙に波長が合ってる。キャラが被っているように感じるが気にしないでおこう。このままだと収拾がつかなくなる。さて、どう返したものか。

 

「おーい。練習前にミーティングするぞー。集合!」

 

 救いの手は差し伸べられた。練習場の方から日向晶也の声が届く。タイミングの良さは相変わらずだ。突然の横槍にみさきさんが頬を膨らませる。

 

「ちぇー。これからが面白いところなのに」

 

 その標的である僕からしたら酷い迷惑だ。

 

「ああ、ちょっと待って。みんなに紹介したい子がいるんだ。ほら」

 

 市ノ瀬さんの背中を押して、僕と久奈浜組の間に入れる。彼女は背筋をピンと立てて3人に向かった。

 

「いっ、市ノ瀬莉佳一年生です」

 

「僕の後輩。高藤は広いからね。分からないことがあったらこの子に聞いて。あっ、この子今日の合宿を楽しみにしててさー」

 

「せっ、先輩!?」

 

「だよね、市ノ瀬サン?」

 

 人間ハードルは高い方が頑張れる。市ノ瀬さんもそのタイプだからハードルをあげておこう。ほら頑張れ。

 

「は、はいっ!」

 

「よろしくお願いします。市ノ瀬さん」

 

 と倉科さん。

 

「よろしくねー」

 

「よろしくお願いします」

 

 続けてみさきさんと、真白ちゃんが応える。

 後は市ノ瀬さんに任せておけば大丈夫だろう。

 

「じゃあ、そろそろ行くねー。早くしないとウチの鬼コーチがうるさいからさ」

 

「ああ、いってらっしゃい」

 

 みさきさんを筆頭に久奈浜女子達が練習場へと消えていく。残された僕は市ノ瀬さんにジロリと視線を向けられた。

 

「先輩意地悪です」

 

「安心なさい。意地悪なのは市ノ瀬さんに対してだけだから」

 

 その後、着替えの順番がくるまでポカポカと背中を叩かれた。

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

 

 

 初日の練習は両校の実力を把握するための軽いゲームを意識したモノがメインとなるらしい。両校の親睦を深めるという意味合いもあるのだろう。

 

「それでは柔軟を始めておきましょう」

 

 言わずもがな麗子院さんが中心となって柔軟体操を始める。ダーツの的の様に中心点に麗子院さん。五重円となる部分に久奈浜の生徒が各一人配置されて並ぶ。

市ノ瀬さんが倉科さんの隣で楽しそうに会話している。気が合うのだろう。みさきさんの隣は五十嵐さんか。こっちの方は五十嵐さんから積極的に話しかけている。少し離れた真白ちゃんは誰とも話していない。パーソナルスペースが広い子だからまぁ目を瞑ろう。そして僕の隣はーーーー

 

「佐藤院っ! 以前は苦汁を飲まされたが今回は進化した俺の筋肉でお前の顔を恐怖で埋め尽くしてやる!」

 

「それは構いませんが、どんないい肉もほぐしておかないとおいしい結果は得られませんことよ紫苑さん? しっかり柔軟に集中する!」

 

「うすっ!」

 

 言われて青柳紫苑さんが柔軟に集中する。凄く素直だな。遠くの方で『お肉ですか!?』という声が聞こえたが流しておこう。掘り返したらまた背中を叩かれる。

 

「そういえば青柳紫苑さん、倉科さんがウチの副部長から久奈浜学院の院の文字を奪い返したって聞いたんですけど」

 

 先ほど部員の間で話題になっていた。先日麗子院さんが久奈浜に目を見張る子がいると聞いていた。グラシュ初心者でありながら、実力者の彼女から1点をもぎ取ったというエピソード付きで。

 青柳紫苑さんが含みのある笑みを浮かべた。

 

「ふふ、そうだ。ウチの倉科は初めての試合にも関わらず高等テクであるエアキックターンを決めた」

 

「おお」

 

 自分のことのように得意げに語る。よほど逸材を部に引き込めたのが嬉しかったのか。それにしても初心者でエアキックターンか。侮れないな。小刻みな体の動きが上手いタイプというよりメンブレンの操作が上手いタイプなのか。初心者なので確証は持てないが。

 

「あと俺のことは紫苑でいい。妹の窓果と被るからな」

 

「では、紫苑さん。今日からよろしくお願いします」

 

「おう!」

 

 

 準備体操が終わって、一同が集められる。部長と日向晶也が前に立つ。

 

「じゃあ、練習内容を発表するよ。今日は初日だしフィールドフライで体を慣らした後、いつものメニューを行う。その後両校でタッグを組み『フラッグコントレイル』を始めよう」

 

「フラッグコントレイル?」

 

 聞き慣れない単語に倉科さんがきょとんとして口を開く。

 なるほど、フラッグコントレイルなら両校の実力を見た上で親睦を深められる。

 

「君は初心者の子だったね。フラッグコントレイルって言うのはFCのフィールド全体を使ったゲームのことだよ。それぞれ3人チームを作ってチームの1人をフラッグプレイヤーと決める。フラッグプレイヤーへの背中にタッチで得点。他のプレイヤーやブイへのタッチでは得点されない。そうだね今回は先に5点獲得した方の勝ちにしよう。大まかなルールはこうかな」

 

「へぇー。面白そうですね」

 

 ライン上を飛ぶFCと違ってフィールド全体を使うため、まっすぐ飛べない初心者でも思いきり飛ぶことができる。フラッグプレイヤーはスピーダーならそのスピードを活かして逃げ回れるし、ファイターなら小回りの良さでドッグファイトを有利に進められる。他のプレイヤーはフォローに回ったり、相手のフラッグプレイヤーを攻める。

 

 ただ、欠点は相応の人数がいることだ。選手6人+セコンド役2人以上+主審と線審5人の最低13人。だが、高藤学園で人数不足はまず起こらない。むしろ、大人数で行う練習を複数のフィールドに分けないと動けない部員もいるくらいだ。

 

「それじゃあ、練習を始めるよ」

 

 部員たちが次々とフィールドに向かって飛び始める。僕は飛ぶ前にちらりと、久奈浜の人たちを見た。

 

「あー、始まっちゃうのか。全国一の練習メニューが……」

 

「私まだちゃんとまっすぐ飛べないんですよね……置いて行かれたらどうしよう」

 

「大丈夫だ。鳶沢、有坂! 筋肉と気合いがあれば何でもできる!」

 

「「えー、それは部長だけですよー」」

 

 練習前の不安と緊張を共有するかのような話を広げている。そんな中で1人だけまっすぐ空を見上げる少女が僕の目に入る。

 

「……これからこの空を飛べるんですね」

 

 透き通った瞳。その視線の先には同じくらい澄み渡った蒼が広がっている。その雰囲気は昔の彼によく似ている。どこまでも続く空の彼方まで駆けようとしていた日向晶也の姿に。

 

(もしかして、日向晶也がコーチになったのは……)

 

 よぎった考えは信じがたいほど運命的なモノだった。考えても信じられないとどこか疑ってしまうくらいの推測。でも。もし考えた通りの出来事があったならそれは素敵なモノに思えた。

 




裏話および補足

今回は合宿の裏事情回。

日向と主人公の優劣について…原作の日向の回想にて当時の日向は思い通りにできない試合は勝っても泣くような子でした。現時点での優劣は答えられませんが日向現役時代はスピードと総合力で日向の方が圧倒的に上です。

みんな大好き日向くん…例によって日向くん揚げなのは主人公含めみんな日向くん大好きだからです。でも主人公は日向くんに気づかれませんでした。まぁ100人も部員いりゃあ分かんないよね


フラッグコントレイル…原作にてゲーム感覚で実力さもある程度分かる練習をしようとあったので作りました。モデルは某戦車アニメです。さらにいうと更新が遅れたのは新生活とこいつのせいです(責任転嫁)

※明日香が莉佳の事を一ノ瀬さんと言っているのは誤植ではありません。ただの伏線です。


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